- 富山大学 小宮顕
- 金沢大学 溝上敦
- 福井大学 大山伸幸
- 金沢医科大学 近沢逸平
<前立腺がんの特徴>
- 高齢男性に多い病気
- 最近、増えている
- 初期には無症状のことが多い
- 診断・治療にはPSA(前立腺特異抗原)が非常に有効
- 様々な治療選択肢がある
前立腺がんとは
1)前立腺の構造と働き
前立腺は、男性の膀胱の下にある臓器で尿道の周りを取り囲むように存在する。大きさは、クルミ程度である。体表からは触知できないが、直腸と接しており、肛門から指をいれると直腸の腹側に触れることができる。前立腺は、男性生殖器の機能として精液に精子を保護する作用のある前立腺液を分泌し射精を調節する働きと、 排尿に関する機能として 膀胱の出口で尿を出す、我慢するといった調節をする。主に精巣より分泌される男性ホルモンにより調節されて分化成長をする。
2)前立腺がんの発生
前立腺がんは前立腺の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生する。最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでいるが、細胞がなぜがん化する(無秩序に増える悪性の細胞にかわる)のかまだ十分解明されていない。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に広がり、多くの場合、腫瘤(しゅりゅう)を形成し、他の臓器にがんが広がることを転移とよぶ。前立腺はその構造から解剖学的に3つの部位に分けられるが、部位別にがんの頻度がことなり、辺遠域に70%、中心域に5%、移行域に25%のがんが発生する。
3)前立腺がんの統計
わが国においてがんで亡くなる人の数は年々増加しているが、前立腺がんでの死亡者数は男性でのがんの部位別にみてみると肺、胃、肝、結腸、膵、食道、直腸についで8位であり、2005年に9264名の方が亡くなっている。発生頻度では肺、胃、結腸、肝、直腸についで前立腺が第6位になっており、2001年には23548名の方が前立腺がんと診断された。これらの数は今後も増加することが危惧されており、1990年に比較して2015年では前立腺がんによる死亡者数は3.9倍になると予想され、これはすべてのがんの中でもっとも高くなっている。前立腺がんの罹患(りかん)率、死亡率を年齢別にみてみると、50歳代後半から増加し始め、高齢になるほど高くなる。
4)前立腺がんの原因と予防
前立腺がん発生に危険因子は、高齢、遺伝(人種差)、性活動、男性ホルモン、カドミウム暴露、紫外線暴露の低さ、動物性脂肪や乳製品摂取などの生活習慣、肥満などがあげられている。リスクを下げる食事としては、みそや納豆豆腐などの大豆、緑黄色野菜、トマト料理、緑茶などがあげられている。
症状
前立腺がんの症状としては、特有なものはない。初期には無症状であることが多く、随伴する前立腺肥大症による下部尿路症状がある場合もある。進行してくると、血尿や排尿痛、さらに腰痛などの転移部位の痛み、両下肢の麻痺を起こす。がんのできる部位や大きさにより症状が出にくい場合もあり、症状がないからといって安心はできない。
前立腺がんの組織分類
前立腺がんの大部分は腺癌である。他に頻度は少ないが、移行上皮癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、神経内分泌癌、肉腫などが見られる。癌の悪性度は重要な予後因子(治療成績や生存率を予測するためのもの)であるがさまざまな分類の方法がある。我が国の前立腺癌取り扱い規約では、腺癌を組織分化度により3段階に分類している。正常の前立腺の構造に近いものから、高分化癌、中分化癌、低分化癌と分類し、低分化癌がもっとも悪性度が高く予後が悪くなる。世界的にもっとも多く用いられている分類方法にGleason分類がある。これは癌組織を構造と増殖のパターンに応じて5段階に評価したものである。前立腺がんでは複数の病変が混在していることが多いため、優勢病変(Primary grade)と随伴病変(Secondary grade)を判定し、その数値の和により2-10の9段階に分類する。5+5=10が最も悪性度が高いことになる。
前立腺がんの病期(ステージ)
がんの広がり具合を病期(ステージ)という。前立腺がんの病期分類には、Jewett Staging Systemをもとにした臨床病期分類(ABCD分類)とUICCにより提唱されているTNM分類が用いられる。どうして病期分類がおこなわれるかというと、がんの広がり具合によって適応となる治療方法がかわってくるからである。また、再発リスクを考慮したリスク分類もある。
ABCD分類
病期A 臨床的に前立腺癌と診断されず、たまたま前立腺肥大症や膀胱癌などの手術試料の病理組織学的検索で癌が見出された前立腺に限局する癌(inncidental carcinoma 偶発癌) A1:限局性の高分化癌。 A2:瀰漫性病変、または中~低分化腺癌
病期B 前立腺内に限局している腺癌 B0:触診では触れず、PSA高値にて精査され組織学的に診断されたもの B1:片葉内の単発腫瘍。 B2:片葉全体あるいは両葉に存在。
病期C 前立腺集にとどまっているが、前立腺被膜は越えているか、精嚢に浸潤するもの。 C1: 臨床的に被膜外浸潤が診断されたもの。 C2: 膀胱頸部あるいは尿管の閉塞を来したもの。
病期D 転移を有するもの D1:所属リンパ節に転移が認められる D2:所属リンパ節以外のリンパ節転移、膀胱頚部以外の膀胱、直腸などの隣接臓器への浸潤、骨、肺、肝などの臓器に転移が認められる。 D3:D2に対する適切な内分泌療法後の再燃。
TNM分類
【原発腫瘍(T)】
- TX:原発腫瘍の評価が不可能
- T0:原発腫瘍を認めない
- T1:臨床的に不顕性であり、かつ触診によっても画像によっても腫瘍が認められない
- T1a:偶然に検出された腫瘍で切除組織の5%以下
- T1b:偶然に検出された腫瘍で切除組織の5%を超える
- T1c:針生検で腫瘍が同定される(例えば、PSA値の上昇により)
- T2:腫瘍が前立腺内に限局している*
- T2a:腫瘍の浸潤が1葉の50%以下
- T2b:腫瘍が1葉の50%を超えて拡がるが、両葉には及んでいない
- T2c:腫瘍が両葉に及んでいる
- T3:腫瘍が前立腺被膜の外に進展している**
- T3a:被膜の外へ拡大(片側であるか両側であるかを問わない)
- T3b:腫瘍が精嚢(左右またはそのいずれか)へ浸潤
- T4:腫瘍が固着しているか、精嚢以外の隣接臓器への浸潤:膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、および/または骨盤壁
【所属リンパ節(N)】
所属リンパ節は小骨盤リンパ節であり、本質的には総腸骨動脈分岐部以下の骨盤リンパ節である。この所属リンパ節には以下のグループがある(N分類では左右の別を問わない):
- NX:所属リンパ節が評価されなかった
- N0:所属リンパ節に転移を認めない
- N1:所属リンパ節に転移を認める
【遠隔転移 (M)】*
- MX:遠隔転移の評価が不可能(いかなる手法によっても評価できない)
- M0:遠隔転移を認めない
- M1:遠隔転移あり
- M1a:所属リンパ節以外
- M1b:骨
- M1c:骨転移を伴う、または伴わないその他の部位
【病理組織学的分化度 (G)】
- GX:分化の程度の評価が不可能
- G1:高分化 (軽度異型性)(Gleason 2-4)
- G2:中分化 (中等度異型性)(Gleason 5-6)
- G3-4:低分化または未分化 (高度異型性)(Gleason 7-10)
| I | T1a | N0 | M0 | G1 |
| II | T1a | N0 | M0 | G2,G3-4 |
| T1b | N0 | M0 | Gに関係なく | |
| T1c | N0 | M0 | Gに関係なく | |
| T1 | N0 | M0 | Gに関係なく | |
| T2 | N0 | M0 | Gに関係なく | |
| III | T3 | N0 | M0 | Gに関係なく |
| IV | T4 | N0 | M0 | Gに関係なく |
| Tに関係なく | N1 | M0 | Gに関係なく | |
| Tに関係なく | Nに関係なく | M1 | Gに関係なく |
リスク分類
また限局性前立腺癌においては、癌と診断されたときの年齢、PSA、グリーソンスコア、ステージによって治療後どれくらい再発しやすいか(再発リスク)がある程度予測でき、再発リスクよって治療方針が異なってくる。
表2。再発リスク分類
|
低リスク |
中リスク |
高リスク |
|
|
PSA |
10以下 |
10〜20 |
20を超える |
|
悪性度(Gleason score) |
6以下 |
7 |
8以上 |
|
ステージ |
T2a以下 |
T2b |
T2c以上 |
「低リスク」は、すべての条件を満たしているもの。
「高リスク」は、ひとつでも悪い条件が含まれているもの。
「中リスク」は、低リスクと高リスクに含まれないもの。
診断
前立腺がんは、胃がんや大腸がんなどの管腔臓器のように内視鏡で直接見ることができないため、いろいろな検査を行って診断する必要がある。
1)スクリーニング:がんが疑わしいかどうかをふるい分ける検査を行う。これには、直腸診、血清前立腺特異抗原値(PSA)の測定、経直腸的超音波断層法がある。
2)前立腺生検:スクリーニングで癌が疑われた場合、前立腺生検といって、前立腺に針とさして前立腺組織の一部を採取して、顕微鏡で見て癌細胞があるかないか、有った場合の悪性度などを診断する。
3)病期診断:生検にてがんと診断された場合、CT、MRI、骨シンチグラフィー、骨単純X線検査をおこなって、病気の広がり具合を調べる。
1) スクリーニング
- a) 前立腺特異抗原(PSA、prostate specific antigen)
血液検査で簡便に測定できる。前立腺上皮から分泌される蛋白分解酵素で精液中に高濃度に分泌されるが、がんでは正常に比べて血液中にもれてでてくる量が多いため前立腺がんの診断や経過観察に用いられている。前立腺特異的な物質であるが前立腺癌特異的ではない。つまり、PSAが高いほどがんの確率は高くなり、PSAが低いほどがんの確率は低くなる。血清PSA値によって前立腺生検の適応をきめることが多い。前立腺がん検診にもっとも多く利用されている。
<前立腺生検での癌陽性率>
PSA 4.1~10ng/mL 1/5-1/4程度
(グレイゾーン)
10.1ng/mL以上 1/2以上
- b)直腸診:肛門から医師が指を直腸に入れ、直腸の壁ごしに前立腺に触れて、その状態をチェックする検査である。前立腺がんでは、前立腺の大きさ、硬さ、表面の様子などをチェックする。直腸診の前にPSAの採血を行うことが多い。
- c)経直腸的超音波断層法(TRUS):TRUSは、横向きに寝た状態で、肛門から機械を入れて超音波を発生させ、輪切りにした画像を撮影する。前立腺の大きさや性状を観察する。写真では黒い部分が、がんを疑わせる所見である。
2) 前立腺生検
スクリーニング検査で前立腺がんが疑われた場合は、確定診断には前立腺生検が必要である。通常エコーガイド下に前立腺組織を採取、がん細胞の有無を確認する。早期がんではエコーで異常所見が明らかではない場合がほとんどであるので、前立腺前後左右にランダムにまんべんなく、針を刺して組織を採取する。基本的に6カ所以上から採取し、麻酔は主に、局所麻酔または腰椎麻酔で行うが無麻酔のところもある。直腸側から針を刺す経直腸式と、肛門と陰嚢の間から針を刺す経会陰式がある。この検査でがん細胞が確認されれば、前立腺がんの診断が確定される。検査時間そのものは10分程度であるが、入院するかどうかまた入院日数は施行施設によってまちまちである。合併症に、血尿、血精液症、発熱、排尿障害などがあるが通常一過性のものである。
臨床病期診断
CT:コンピューターを使ったX線写真(CT)で体の断層撮影を行う。リンパ節転移や、肺肝などの他臓器への転移の有無を確認する。
MRI:磁石の力を使って、体の断層撮影を行う。主に、前立腺がんの局在や浸潤度、限定された部位の骨転移の状態を確認する。
骨シンチ:全身の骨転移の有無の確認を行う。
骨単純X線撮影:通常のレントゲン検査で骨転移の確認を行う。
治療
がんの広がり具合、がんの組織型(悪性度)、PSA値、年齢、今までにかかった病気や現在かかっている病気、心臓、肺、腎臓や肝臓などの臓器の機能や、一般的な健康状態に基づいて治療の方法を選択する。前立腺癌がんの治療法として主に4種類のものがある。根治的な治療として前立腺全摘除術(外科療法)と放射線療法、また姑息的治療(がんを抑える治療)として内分泌療法、抗がん剤治療がある。根治療法としての外科手術と放射線療法は現在のところあきらかな治療成績の差が証明されていないのが現状である。これらの中にもいろいろな種類があるが、実際に選択できるのは一つであるので判断に難渋する。一般的に根治術は期待余命が10年以上ある症例(日本人男性76歳)が最もよい適応となるが決まりはない。主治医との相談のもとに治療方法は決定される。また、ひとつの施設ですべての治療方法が行われている訳ではないので、希望する治療をもとめて複数の病院に受診する場合もある。手術は体への負担が大きいため、より体にやさしい放射線療法がひろく行われるようになっており、種類も多岐にわたる。外照射は数週間の治療期間を必要とするが、組織内照射は1日—数日で終了するものもありより体への負担が少ない。ただし、放射線療法でも膀胱直腸障害といった合併症も起こりうる。図16は、がんの広がり具合と各種治療の関係の目安を示したものであるが、明確な判断基準はない。
1)外科療法:前立腺全摘除術
がんを摘除できる唯一の方法である。現在日本でもっとも広く一般的に行われている治療方法といえる。ほかに合併症がなく、より若年で元気な場合つまり原則75歳以下の患者さんに対してよい適応である。日本での統計ではこの治療により約7割の症例で根治を得られているが残りの3割で再発を来している。アプローチの仕方によって、従来からの開腹術と、より体の負担を軽くする目的で小切開手術や腹腔鏡下手術があるが、前立腺を摘除するという目的は同じである。
-
a)開腹の前立腺全摘除術
麻酔の形式は、全身麻酔+硬膜外麻酔を用いる。
- 前立腺癌の根治を目指した治療で、約3時間の手術時間。下腹部正中切開(臍下から恥骨にかけての皮膚切開)にて骨盤腔に入り、まず、骨盤内リンパ節郭清を行う(施設によっては閉鎖リンパ節を術中迅速病理診断に提出)。その後、前立腺・精嚢を摘出し尿道膀胱吻合を行う。勃起神経は温存する場合と切除する場合がある。下腹部に廃液のためのドレーンチューブを挿入し閉創する。
- 手術にまつわる危険性,偶発症、合併症:
- 出血:輸血が必要となる可能性があるが、まずは術前に自分の血液をためておいたもの(自己血)を用い、不足の場合は同種血(他人の献血の血液)を使用する。
- 他臓器損傷:腸管損傷(直腸、結腸など)。状況により人工肛門を造設することがある。
- 血管損傷。尿管損傷。尿道損傷。血栓・塞栓症(肺梗塞、脳梗塞、心筋梗塞など)。
- 摘出不能(癒着、リンパ節転移、偶発症による手術の継続が困難など)と判断した場合、前立腺を摘出せずに終了することがある。また予期せぬ合併症もあり、命に関わる合併症もおき得る。
- 麻酔による影響もあり得る(通常麻酔医から説明がある)
- 予想される術後合併症:
- 術後不穏状態。発熱。疼痛。術後肺炎。創感染。創離開。術後膿瘍。腹膜炎。腸閉塞。敗血症。後出血。血尿。血栓・塞栓症。リンパ漏。リンパ嚢腫。ヘルニア。浮腫。
- 偶発症(出血など)を治療するための再手術。
- 排尿症状:尿失禁、頻尿、排尿困難、血尿など。
- 尿道狭窄:内視鏡的切開を行うこともある。
- 勃起障害。射精不能。
- 再発、転移。
- その他の注意点
術前に限局性と診断されて手術を行っても、病理組織診断にて被膜外浸潤、精嚢浸潤、切除断端陽性、リンパ節転移などが認められることがある。状況に合わせて追加補助療法(放射線療法、内分泌療法など)を行うことがある。術後に組織を顕微鏡で観察し、がんが前立腺の皮膜まで到達していない場合、前立腺がんが再発する可能性は低いが、がんが皮膜まで達している場合は、再発する可能性が高くなる。
- b) ミニマム創(小切開)前立腺全摘除術
金沢大学など(日本の病院の2割くらい)で先進医療として登録されて行われている手術(平成20年4月から保険収載された)。従来の開腹の全摘除術(切開は15cm前後)と比べて切開創を6-10 cmと小切開にすることにより、術後の早期回復、疼痛軽減をはかったもの。これは前立腺と精嚢を切除し、膀胱と尿道を再びつなぎ直す手術であることは同じである。手術時間は約4−5時間で、出血に備えて(出血量は1L前後)、術前に自己血の貯血を行う。
-
C)腹腔鏡下前立腺全摘除術
基本的に行うことは同じであるが、腹腔鏡を用いて行う。皮膚切開は1-2cmのものが数カ所となる。もっとも大きなメリットは出血量が開腹術に比べて少ないことである。日本ではごく一部の施設でのみ(日本の病院の1割以下)で行われている。
2)放射線療法
X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す治療である。前立腺がんでは病期Cまでが根治的な放射線療法の適応である。種類が多く選択に迷うが治療成績は前立腺全摘除術と同等である。低リスク群では放射線単独治療が推奨されているが、中から高リスク群では内分泌療法の併用が行われることもある。骨転移の疼痛緩和などの目的に行われることもある。手術を違って体への負担が少なく、性機能が温存しやすいという利点がある。
- a)外部放射線治療
- リニアック治療(linear accelerator:直線加速器)
電子銃から発射された電子を直線軌道の加速管内で加速する装置がリニアックである。得られた加速電子線を平面状に拡散して照射する。放射線束の制御技術の進歩により極細ビームが得られるようになり、CT画像を利用したピンポイント照射の概念が生まれ、強度変調放射線治療(IMRT)などを含めた3次元原体照射(3DCRT)が可能になった。
体深部臓器を治療対象とする外部照射では、複数の方向からビームを照射することにより線量を標的臓器に集中させ、それと同時に周囲健常組織の被爆の低減が可能である。対向2門照射、対向3門照射、対向4門照射が標的の位置や型状に応じて選択される。また、患者全周を回転しながら行う回転照射と、部分的な回転のみの振子照射がある。照射野の形状を標的の輪郭に合わせて変化させながら行う照射を原体照射と呼び、多門照射や回転・振子照射を組み合わせる。
- IMRT(Intensity modutated radiation therapy, 強度変調放射線治療)
複雑な形状の標的体積に一致させ意図するような最適な線量分布を得る照射方法である。治療装置はリニアックを用いる。使用するビームが不均一な強度を持つことが従来の放射線療法との大きな違いである。コンピュータ制御に多方向から強さや形の違う放射線を照射する。最適な線量分布をCTデータ上に3次元的に指示し、そこから照射方法を逆計算する。照射やの設定は煩雑で労力を要する。この技術により、より良い線量分布が得られ、腫瘍制御率を向上させつつ合併症の軽減ができる。前立腺への照射線量を高めながらこれと接する直腸への線量を急激に減らすことが可能である。通常の3DCRTではc治療後2年間での直腸膀胱障害としておよそ10%にGrade2-3の晩期有害事象があるがIMRTでは約2%に低減するとされる。
- 粒子線治療
X線やガンマ線、電子線のかわりに電子より重い粒子を用いて行う治療を粒子線治療という。X線・ガンマ線は、人体通過の際は入口(体表面)付近が最も線量が高く、深部になるほど減少する。一方、粒子線はすぐれた深部線量分布(ブラッグピーク)を持ち、体の深いところでエネルギーを放射し急激に減衰する。炭素やネオンなどの重粒子線では、原子番号の高い原子ほど組織に高率にイオン化を引き起こし細胞の破壊力や組織透過力が高い。深部線量分布にすぐれた粒子線では線量(焦点)を体の深部の臓器に集中させることができる。陽子線や炭素イオン線を用いた粒子線ですぐれた治療効果が認められ、一般診療に用いられている。粒子線治療法最大の欠点はサイクロトロンやシンクロトロンといった巨大かつ高価な加速装置を必要とすることである。
- 陽子線
陽子をサイクロトロンやシンクロトロンといった加速器で加速することにより陽子線を治療に用いる。深部標的臓器に限局した線量分布を得ることができる。陽子線は病巣周囲の健常組織の被曝線量を低減でき、相対的な病巣線量の増大とそれに伴う局所制御率の向上が可能である。
- 重粒子線
陽子線よりも分子量の大きな粒子を加速させるために陽子線治療装置よりも大型化したサイクロトロンが必要である。炭素イオンを加速する場合3倍の長さの加速器と3倍の電力のコストが必要である。しかしながら、重粒子線は破壊力が強いと同時に局所への線量の集中が可能であり、他の放射線では制御が難しい癌に対しても効果が期待できる。
ブラッグピーク: 人体組織照射時に入射部では線量が低く、飛程の終端部でその線量がピークに達しエネルギーの大部分を放出、その後急激に弱まる性質。
Akakura K, et al. Ptostate 58:252-258 (2004)
- 陽子線
- リニアック治療(linear accelerator:直線加速器)
- b)組織内照射
- 密封小線源治療
放射線同位元素を体内に挿入するなどして治療を行う方法である。泌尿器科領域ではもっぱら前立腺癌に用いられる。局所に線量が集中し、周囲正常組織の線量が低減する。線量率によって、低線量率(low-dose-rate, LDR, 2Gy/hr以下)、中線量率(medium-dose-rate, MDR, 2-12Gy/hr)、高線量率(high-dose-rate, HDR, 12Gy/hr以上)にわけられる。
- 低線量率小線源治療(low-dose-rate brachy therapy, LDR;金沢大学、福井大学、金沢医科大学で施行中)
日本での前立腺癌に対する治療は、125I(または海外では103Pdも使用可)を前立腺内に永久に刺入する方法である。経直腸エコーの画像および透視装置でリアルタイムに前立腺を描出しながら5mmのチタン加工された低エネルギー線源を挿入する。専用のアプリケータがありこれをリアルタイムに会陰部から前立腺内に刺入し線源を留置する。2003年9月より一般診療が開始された。いわゆる低リスク群(PSA≦10ng/mL、Gleason score≦3+3、T1cN0M0あるいはT2aM0N0)が良い適応となるが、それ以外でも外照射との併用も行われる。
- 高線量率小線源治療(high-dose-rate brachy therapy, HDR:金沢大学、富山大学で施行中)
RLAS(remote afterloading system)により、高線量率線源Ir-192を用いて短い照射時間で、術者被爆を完全にゼロにしながらの治療が可能になった。Ir-192線源の停留位置と停留時間を調節して任意の線量分布を調節することができる。可動式小線源の通り道となるアプリケータを前立腺内部・周囲に留置して治療が行えるので、外照射併用をすることによって中・高リスク群での良好な長期成績が報告されてきている。 長所は、I-125永久刺入組織内照射より、さらなる治療効果が期待できる可能性があること、尿失禁や男性機能不全等の障害が少ないこと、リアルタイムで照射の調節ができることである。短所は、特別な放射線治療装置や、治療計画コンピューター等が必要である現在の治療計画では、一度刺入した針を継続留置して使用するため、ベッド上に3-4日間安静でいなければならないことである。
- 密封小線源治療
3)ホルモン療法(内分泌療法、抗アンドロゲン療法、アンドロゲン除去療法)
進行期の場合や、初期でも高齢あるいは重い合併症がある場合に施行される。ホルモン療法は、前立腺癌を進行させる男性ホルモンを抑える治療である。男性ホルモンは主に精巣から分泌されており、ごく一部は副腎で産生される。ホルモン療法はこれらの働きをおさえることにより、前立腺癌の進行を抑え、縮小させる。一生治療効果を発揮し続けることも少なくないが、基本的には根治的ではなく姑息的な治療である。
方法として大きくわけて2つで、①月1回(あるいは3ヶ月に1回)の皮下注射②両側精巣摘出術があり、これによって精巣からの男性ホルモンを抑制する。また、副腎からの男性ホルモンもあわせて抑える目的で抗アンドロゲン剤を併用して内服することも多い。
- 副作用:
- ほてり、熱感、のぼせ、肩こり、頭痛、不眠、めまい、発汗などの症状(ホットフラッシュ)
- 性欲低下、勃起不全、女性化乳房、精巣萎縮
- 肝機能障害、胃部不快感、糖尿病、浮腫など。そのほかまれな副作用が生ずることがある。
- その他
- 定期的に採血をして、主にPSA(前立腺癌腫瘍マーカー)をみて、治療効果を判定。
- 初回のホルモン療法は、非常に効果が高く、ほとんどの場合PSAは低下する。
- そのままPSAが低い状態を維持できればよいが、個人差はありますが時間がたつとPSAが上昇してくる(上昇してこない場合もある)。
- PSAが上昇してきた場合(再燃という)は、内服薬を中止、変更したり、女性ホルモン剤、ステロイド剤を使用したり、下記の抗癌剤のによる治療を行う。
- 基本的には、ホルモン療法は中止せず、ずっと継続するが、間欠的に治療を行う試みをされている(間欠的内分泌療法)。
4)抗がん剤による化学療法
抗がん剤の種類はたくさんあり、点滴として使うものがほとんどであるが内服薬もある。抗がん剤は全身に行き渡り細胞分裂がさかんながん細胞に取り込まれることによってがん細胞を殺す作用がある。通常、内分泌療法を施行後治療抵抗性となり再燃した場合(再燃前立腺がん)に抗がん剤による治療が行われている。この段階では根治を望むことは難しい。決まった治療方法はないが,現在我が国で保険診療として認められている抗がん剤にドセタキセル(タキソテール)がある。欧米および本邦での検討では対照群に対して予後を延長する効果を認めている。
5)分子標的治療
がんの増殖や進展に関わる分子を標的に設計された薬剤を分子標的薬といい、分子標的薬を用いた治療を分子標的治療という。現在欧米も含めて前立腺癌に対して認可されたこの種の薬剤はないが、我が国でも臨床試験が行われている。
6)高エネルギー焦点式超音波療法(HIFU、ハイフ)
検査用超音波の数万倍という強力な超音波によって前立腺を100度近くに熱して、熱凝固させて癌を死滅させる新しい治療方法。身体への負担が少なく短期間の入院ですみ、重い合併症も少なく、前立腺全摘術に匹敵する効果が期待できる。前立腺の標準的治療法とされている全摘出手術でもPSA値が20以下の場合の5年有効率は平均80パーセントであり、HIFUの効果は開腹手術とほぼ同等。観察期間が平均2年、長くても7年なので結論的なことは言えないが、PSAが20以下ならばHIFU療法は開腹手術に匹敵する効果が期待できる。30mLくらいの前立腺で3時間くらいかけて照射する。再発した場合でも繰り返し治療可能である。また手術や放射線療法あとの再発した場合の治療も可能で、またこの治療のあとに手術や放射線療法を施行する事も可能である。合併症として、尿道狭窄や精巣上体炎、ごくまれに尿道直腸瘻がある。健康保険が利かないため80−100万円の自費負担となる。
7)待機療法(Watchful Waiting、Active Surveillance)
前立腺がんは比較的進行が遅く、高齢者にみられることが多いことから、最近は前立腺内に限局していれば無治療で経過を観察し、がんが進行した場合に治療を行えばよいとの意見もある。早期がんのうち、PSAが低く、悪性度も低く、がんのボリュームも小さいことが予想されるような場合、しばらく経過観察を行うことも主治医との相談の上行われている。PSA検査や直腸診、前立腺の再生検を行って進行をチェックする。この場合3/4くらいは進行してから治療しても前立腺にがんがとどまっていることが示されている。
6.北陸地区での前立腺がんの治療成績
各施設で患者背景がことなるため、単純に比較することはできないが、以下に北陸地区の転移のない前立腺がんに対する根治療法の治療成績を紹介する。
| (1998-2002、5年以上経過観察した症例) | ||
|---|---|---|
| 2年生存率 | 5年生存率 | |
| 病期 A(10例)&B(49例) | 100 | 100 |
| 病期 C(21) | 100 | 85.7 |
| 病期 D(58例) | 80.6 | 32.3 |
