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前立腺がん(ぜんりつせんがん)

  • 富山大学 小宮顕
  • 金沢大学 溝上敦
  • 福井大学 大山伸幸
  • 金沢医科大学 近沢逸平

<前立腺がんの特徴>

  • 高齢男性に多い病気
  • 今でも増加しており、今後も増える
  • 初期には無症状のことが多い
  • 診断・治療にはPSA(前立腺特異抗原)が非常に有効
  • 様々な治療選択肢がある

前立腺がんとは

1) 前立腺の構造と働き

前立腺は、男性の膀胱の下にある臓器で尿道の周りを取り囲むように存在する。大きさは、クルミ程度である。体表からは触知できないが、直腸と接しており、肛門から指をいれると直腸の腹側に触れることができる。前立腺は、男性生殖器の機能として精液に精子を保護する作用のある前立腺液を分泌し射精を調節する働きと、排尿に関する機能として膀胱の出口で尿を出す、我慢するといった調節をする。主に精巣より分泌される男性ホルモンにより調節されて分化成長をする。

前立腺と多臓器との関係

2) 前立腺がんの発生

前立腺がんは前立腺の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生する。最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでいるが、細胞がなぜがん化する(無秩序に増える悪性の細胞にかわる)のかまだ十分解明されていない。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に広がり、多くの場合、腫瘤(しゅりゅう)を形成し、他の臓器にがんが広がることを転移とよぶ。前立腺はその構造から解剖学的に3つの部位に分けられるが、部位別にがんの頻度が異なり、辺縁域に70%、中心域に5%、移行域に25%のがんが発生する。

前立腺の領域とがん発生率

3) 前立腺がんの統計

わが国においてがんで亡くなる人の数は年々増加しているが、2012年のがんでの死亡者数を男性での部位別にみてみると、肺(51372名)、胃(32206名)、肝(20060名)、結腸(16006名)、膵(15517名)についで前立腺がん(11143名)は6位であり、食道(9724名)、直腸(9523名)と続く。2010年の男性のがんの部位別罹患者数では胃(86728名)、肺(73727名)についで、前立腺(64934名)が3位となっており、結腸(42108名)、肝(31244名)、直腸(25947名)と続く。前立腺がんについては今後も増加することが危惧されており、2000年に比較して2020年では前立腺がんによる死亡者数は2.8倍になると予想されている。これはすべてのがんの中でもっとも高い。前立腺がんの罹患(りかん)率、死亡率を年齢別にみてみると、50歳代後半から増加し始め、高齢になるほど高くなる。

部位別がん死亡者数(2012年男性、人)

部位別がん罹患者数(2010年男性、人)

4) 前立腺がんの原因と予防

前立腺がん発生に危険因子は、高齢、遺伝(人種差)、性活動、男性ホルモン、カドミウム暴露、紫外線暴露の低さ、動物性脂肪や乳製品摂取などの生活習慣、肥満などがあげられている。リスクを下げる食事としては、みそや納豆豆腐などの大豆、緑黄色野菜、トマト料理、緑茶などがあげられている。

人種と前立腺癌の発生頻度の違い

加齢と前立腺がんの頻度の関係

症状

前立腺がんの症状としては、特有なものはない。初期には無症状であることが多く、随伴する前立腺肥大症による下部尿路症状(尿の回数が多い、尿が出にくい、尿が残っている感じがするなど)が出る場合もある。進行してくると、血尿や排尿時の痛み、さらに腰痛などの転移部位の痛み、両下肢の麻痺を起こす。がんのできる部位や大きさにより症状が出にくい場合もあり、症状がないからといって安心はできない。

前立腺がんの組織分類

前立腺がんの大部分は腺がんである。他に頻度は少ないが、移行上皮がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、神経内分泌がん、肉腫などが見られる。がんの悪性度は重要な予後因子(治療成績や生存率を予測するためのもの)であるがさまざまな分類の方法がある。我が国の前立腺がん取り扱い規約では、従来腺がんを組織分化度により3段階に分類していた。正常の前立腺の構造に近いものから、高分化がん、中分化がん、低分化がんと分類し、低分化がんがもっとも悪性度が高く予後が悪くなる。世界的にもっとも多く用いられている分類方法にGleason分類がある。これはがん組織を構造と増殖のパターンに応じて5段階に評価したものである。前立腺がんでは複数の病変が混在していることが多いため、優勢病変 (Primary grade) と随伴病変 (Secondary grade) を判定し、その数値の和により2-10の9段階に分類する。5+5=10が最も悪性度が高いことになる。

前立腺がんの悪性度

前立腺がんの悪性度と予後

前立腺がんの病期(ステージ)

がんの広がり具合を病期(ステージ)という。前立腺がんの病期分類には、Jewett Staging Systemをもとにした臨床病期分類(ABCD分類)とUICC(国際対がん連合)により提唱されているTNM分類が用いられる。どうして病期分類がおこなわれるかというと、がんの広がり具合によって適応となる治療方法がかわってくるからである。また、再発リスクを考慮したリスク分類もある。

ABCD分類

  • 病期A
    • 臨床的に前立腺がんと診断されず、たまたま前立腺肥大症や膀胱がんなどの他の病期に対する手術試料の病理組織学的検索でがんが見出された前立腺に限局するがん(incidental carcinoma 偶発がん)
      • A1 : 限局性の高分化がん。
      • A2 : 瀰漫性病変、または中~低分化腺がん
  • 病期B
    • 前立腺内に限局している腺がん
      • B0 : 触診では触れず、PSA高値にて精査され組織学的に診断されたもの
      • B1 : 片葉内の単発腫瘍。
      • B2 : 片葉全体あるいは両葉に存在。
  • 病期C
    • 転移はないが、がんが前立腺被膜を越えているか、精嚢に浸潤するもの。
      • C1 : 臨床的に被膜外浸潤が診断されたもの。
      • C2 : 膀胱頸部あるいは尿管の閉塞を来したもの。転移はない。
  • 病期D
    • 転移を有するもの
      • D1 : 所属リンパ節に転移が認められる
      • D2 : 所属リンパ節以外のリンパ節転移、膀胱頚部以外の膀胱、直腸などの隣接臓器への浸潤、骨、肺、肝などの臓器に転移が認められる。
      • D3 : D2 に対する適切な内分泌療法後の再燃。

前立腺がんの臨床病期

前立腺がんの臨床病期別の予後

TNM分類

【原発腫瘍 (T) 】
  • TX : 原発腫瘍の評価が不可能
  • T0 : 原発腫瘍を認めない
  • T1 : 臨床的に不顕性であり、かつ触診によっても画像によっても腫瘍が認められない
    • T1a : 偶然に検出された腫瘍で切除組織の5%以下
    • T1b : 偶然に検出された腫瘍で切除組織の5%を超える
    • T1c : 針生検で腫瘍が同定される(例えば、PSA値の上昇により)
  • T2 : 腫瘍が前立腺内に限局している*
    • T2a : 腫瘍の浸潤が1葉の50%以下
    • T2b : 腫瘍が1葉の50%を超えて拡がるが、両葉には及んでいない
    • T2c : 腫瘍が両葉に及んでいる
  • T3 : 腫瘍が前立腺被膜の外に進展している**
    • T3a : 被膜の外へ拡大(片側であるか両側であるかを問わない)
    • T3b : 腫瘍が精嚢(左右またはそのいずれか)へ浸潤
  • T4 : 腫瘍が固着しているか、精嚢以外の隣接臓器への浸潤 : 膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、および/または骨盤壁
【所属リンパ節 (N) 】

所属リンパ節は小骨盤リンパ節であり、本質的には総腸骨動脈分岐部以下の骨盤リンパ節である。この所属リンパ節には以下のグループがある(N分類では左右の別を問わない):

  • NX : 所属リンパ節が評価されなかった
  • N0 : 所属リンパ節に転移を認めない
  • N1 : 所属リンパ節に転移を認める

【遠隔転移 (M) 】*

  • MX : 遠隔転移の評価が不可能(いかなる手法によっても評価できない)
  • M0 : 遠隔転移を認めない
  • M1 : 遠隔転移あり
    • M1a : 所属リンパ節以外
    • M1b : 骨
    • M1c : 骨転移を伴う、または伴わないその他の部位
【病理組織学的分化度 (G) 】
  • GX : 分化の程度の評価が不可能
  • G1 : 高分化(軽度異型性)(Gleason 2-4)
  • G2 : 中分化(中等度異型性)(Gleason 5-6)
  • G3-4 : 低分化または未分化(高度異型性)(Gleason 7-10)
表1. TNM病期分類(2002年)
I T1a N0 M0 G1
II T1a N0 M0 G2, G3-4
T1b N0 M0 G に関係なく
T1c N0 M0 G に関係なく
T1 N0 M0 G に関係なく
T2 N0 M0 G に関係なく
III T3 N0 M0 G に関係なく
IV T4 N0 M0 G に関係なく
T に関係なく N1 M0 G に関係なく
T に関係なく N に関係なく M1 G に関係なく

リスク分類
また限局性前立腺がんにおいては、がんと診断されたときの年齢、PSA、グリーソンスコア、ステージによって治療後どれくらい再発しやすいか(再発リスク)がある程度予測でき、再発リスクよって治療方針が異なってくる。

表2. 再発リスク分類(D'Amico の分類)
 

低リスク

中リスク

高リスク

PSA

10以下

10.1~20

20を超える

悪性度 (Gleason score)

6以下

7

8~10

ステージ

T2a以下

T2b 

T2c以上


「低リスク」は、すべての条件を満たしているもの。
「高リスク」は、ひとつでも悪い条件が含まれているもの。
「中リスク」は、低リスクと高リスクに含まれないもの。

前立腺全摘除術とリスク別の予後(米国)

診断

前立腺がんは、胃がんや大腸がんなどの管腔臓器のように内視鏡で直接見ることができないため、いろいろな検査を行って診断する必要がある。
1) スクリーニング : がんが疑わしいかどうかをふるい分ける検査を行う。これには、直腸診、血清前立腺特異抗原値 (PSA) の測定、経直腸的超音波断層法がある。
2) 前立腺生検 : スクリーニングでがんが疑われた場合、前立腺生検といって、前立腺に針をさして前立腺組織の一部を採取し、顕微鏡で見てがん細胞があるかないか、あった場合の悪性度などを診断する。
3) 病期診断 : 生検にてがんと診断された場合、CT、MRI、骨シンチグラフィー、骨単純X線検査をおこなって、病気の広がり具合を調べる。

1) スクリーニング

  • a) 前立腺特異抗原 (PSA, prostate specific antigen)

    血液検査で簡便に測定できる。前立腺上皮から分泌される蛋白分解酵素で精液中に高濃度に分泌されるが、がんでは正常に比べて血液中にもれてでてくる量が多いため前立腺がんの診断や経過観察に用いられている。前立腺特異的な物質であるが前立腺がん特異的ではない。つまり、PSAが高いほどがんの確率は高くなり、PSAが低いほどがんの確率は低くなる。血清PSA値によって前立腺生検の適応をきめることが多い。前立腺がん検診にもっとも多く利用されている

    <前立腺生検でのがん陽性率>

    • PSA
      4.1~10ng/mL 1/5-1/4程度 (グレイゾーン)  
      10.1ng/mL以上 1/2以上

  • b) 直腸診:

    肛門から医師が指を直腸に入れ、直腸の壁ごしに前立腺に触れて、その状態をチェックする検査である。前立腺がんでは、前立腺の大きさ、硬さ、表面の様子などをチェックする。直腸診の前にPSAの採血を行うことが多い。

    直腸診

  • c) 経直腸的超音波断層法 (TRUS) :

    TRUSは、通常横向きに寝た状態で、肛門から機械を入れて超音波を発生させ、輪切りにした画像を撮影する。前立腺の大きさや性状を観察する。写真では黒い部分が、がんを疑わせる所見である。

    経直腸的前立腺エコー

2) 前立腺生検

スクリーニング検査で前立腺がんが疑われた場合、診断確定には前立腺生検が必要である。通常超音波ガイド下に針を刺して前立腺組織を採取、がん細胞の有無を確認する。早期がんでは超音波で異常所見が明らかではない場合がほとんどであるので、前立腺前後左右にランダムにまんべんなく、針を刺して組織を採取する。基本的に6-10カ所以上から採取し、麻酔は主に、局所麻酔または腰椎麻酔で行うが無麻酔で行う施設もある。直腸側から針を刺す経直腸式と、肛門と陰嚢の間から針を刺す経会陰式がある。この検査でがん細胞が確認されれば、前立腺がんの診断が確定される。検査時間そのものは10分程度であるが、入院するかどうかまた入院日数は施行施設によってまちまちである。合併症に、血尿、血精液症、発熱、排尿障害などがあるが通常一過性のものである。

前立腺針生検

臨床病期診断

  • CT :

    コンピュータを使ったX線写真 (CT) で体の断層撮影を行う。リンパ節転移や、肺肝などの他臓器への転移の有無を確認する。

  • MRI :

    磁石の力を使って、体の断層撮影を行う。主に、前立腺がんの局在や浸潤度、限定された部位の骨転移の状態を確認する。

  • 骨シンチ :

    全身の骨転移の有無の確認を行う。

  • 骨単純X線撮影 :

    通常のレントゲン検査で骨転移の確認を行う。

治療

がんの広がり具合、がんの組織型(悪性度)、PSA値、年齢、今までにかかった病気や現在かかっている病気、心臓、肺、腎臓や肝臓などの臓器の機能や、一般的な健康状態に基づいて治療の方法を選択する。前立腺がんの治療法として主に4種類のものがある。根治的な治療として前立腺全摘除術(外科療法)と放射線療法、また姑息的治療(がんを抑える治療)として内分泌療法、抗がん剤治療がある。根治療法としての外科手術と放射線療法は現在のところあきらかな治療成績の差が証明されていないのが現状である。これらの中にもいろいろな種類があるが、実際に選択できるのは一つであるので判断に難渋する。一般的に根治術は期待余命が10年以上ある症例(日本人男性75歳程度まで)が最もよい適応となるが決まりはない。主治医との相談のもとに治療方法は決定される。また、ひとつの施設ですべての治療方法が行われている訳ではないので、希望する治療をもとめて複数の病院に受診する場合もある。開腹手術は体への負担が大きいため、より体にやさしい内視鏡を用いた手術や放射線療法がひろく行われるようになっており、種類も多岐にわたる。外照射は数週間の治療期間を必要とするが、組織内照射は1日—数日で終了するものもあり負担が少ない。ただし、放射線療法でも膀胱直腸障害といった合併症も起こりうる。図は、がんの広がり具合と各種治療の関係の目安を示したものであるが、明確な判断基準はない。早期でみつかるほど、治療選択枝は多い。

がんの広がり具合と各種治療の関係の目安

千葉県がんセンター医療局長 植田健先生ご提供

1) 外科療法 : 前立腺全摘除術

がんを摘除できる唯一の方法である。現在日本でもっとも広く一般的に行われている治療方法といえる。ほかに合併症がなく、より若年で元気な場合つまり原則75歳以下の患者さんに対してよい適応である。日本での統計ではこの治療により約7割の症例で根治を得られているが残りの3割で再発を来している。アプローチの仕方によって、従来からの開腹術と、より体の負担を軽くする目的で小切開手術や腹腔鏡下手術、ロボット支援手術があるが、前立腺を摘除するという目的は同じである。

  • a) 開腹の前立腺全摘除術

    麻酔の形式は、全身麻酔+硬膜外麻酔を用いる。

    • 前立腺がんの根治を目指した治療で、約3時間の手術時間。下腹部正中切開(臍下から恥骨にかけての皮膚切開)にて骨盤腔に入り、まず、骨盤内リンパ節郭清を行う(施設によっては閉鎖リンパ節を術中迅速病理診断に提出)。その後、前立腺・精嚢を摘出し尿道膀胱吻合を行う。勃起神経は温存する場合と切除する場合がある。下腹部に廃液のためのドレーンチューブを挿入し閉創する。
    • 手術にまつわる危険性、偶発症、合併症:
      • 出血 : 輸血が必要となる可能性があるが、まずは術前に自分の血液をためておいたもの(自己血)を用い、不足の場合は同種血(他人の献血の血液)を使用する。(出血量は1L前後)
      • 他臓器損傷 : 腸管損傷(直腸、結腸など)。状況により人工肛門を造設することがある。
      • 血管損傷。尿管損傷。尿道損傷。血栓・塞栓症(肺梗塞、脳梗塞、心筋梗塞など)。
      • 摘出不能(癒着、リンパ節転移、偶発症による手術の継続が困難など)と判断した場合、前立腺を摘出せずに終了することがある。また予期せぬ合併症もあり、命に関わる合併症もおき得る。
      • 麻酔による影響もあり得る(通常麻酔医から説明がある)
    • 予想される術後合併症:
      • 術後不穏状態。発熱。疼痛。術後肺炎。創感染。創離開。術後膿瘍。腹膜炎。腸閉塞。敗血症。後出血。血尿。血栓・塞栓症。リンパ漏。リンパ嚢腫。ヘルニア。浮腫。
      • 偶発症(出血など)を治療するための再手術。
      • 排尿症状 : 尿失禁、頻尿、排尿困難、血尿など。
      • 尿道狭窄 : 内視鏡的切開を行うこともある。
      • 勃起障害。射精不能。
      • 再発、転移。
    • その他の注意点

      術前に限局性と診断されて手術を行っても、病理組織診断にて被膜外浸潤、精嚢浸潤、切除断端陽性、リンパ節転移などが認められることがある。状況に合わせて追加補助療法(放射線療法、内分泌療法など)を行うことがある。術後に組織を顕微鏡で観察し、がんが前立腺の皮膜まで到達していない場合、前立腺がんが再発する可能性は低いが、がんが皮膜まで達している場合は、再発する可能性が高くなる。

  • b) ミニマム創(小切開)前立腺全摘除術

    平成20年4月から保険収載された手術。従来の開腹の全摘除術(切開は15cm前後)と比べて切開創を6-10cmと小切開にすることにより、術後の早期回復、疼痛軽減をはかったもの。これは前立腺と精嚢を切除し、膀胱と尿道を再びつなぎ直す手術であることは同じである。出血に備えて、術前に自己血の貯血を行う。

  • C) 腹腔鏡下前立腺全摘除術(富山大学にて施行中)

    基本的に行うことは同じであるが、腹腔鏡を用いて行う。皮膚切開は1-2cmのものが数カ所となる。もっとも大きなメリットのひとつは出血量が開腹術に比べて少ないことである。

  • D) ロボット支援前立腺全摘除術(金沢大学、福井大学にて施行中)

    平成24年4月から保険収載された手術。腹腔鏡下前立腺全摘除術のように内視鏡を用いて、皮膚切開も1-2cmのものが数カ所となる。Da Vinciという手術支援ロボットを用いて、3次元の画像を見ながら遠隔操作にて手術を行う。最新式の装置は日本では1セット3億円以上と非常に高価である。

前立腺全摘除術

前立腺全摘除術(ロボット支援手術)

2) 放射線療法

X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す治療である。前立腺がんでは病期Cまでが根治的な放射線療法の適応である。種類が多く選択に迷うが治療成績は前立腺全摘除術と同等とされている。低リスク群では放射線単独治療が推奨されているが、中から高リスク群では内分泌療法の併用が行われる。骨転移の疼痛緩和などの目的に行われることもある。手術を違って体への負担が少なく、性機能が温存しやすいという利点がある。

  • a) 外部放射線治療
    • リニアック治療(linear accelerator : 直線加速器)

      電子銃から発射された電子を直線軌道の加速管内で加速する装置がリニアックである。得られた加速電子線を平面状に拡散して照射する。放射線束の制御技術の進歩により極細ビームが得られるようになり、CT画像を利用したピンポイント照射の概念が生まれ、強度変調放射線治療 (IMRT) などを含めた3次元原体照射 (3DCRT) が可能になった。

      体深部臓器を治療対象とする外部照射では、複数の方向からビームを照射することにより線量を標的臓器に集中させ、それと同時に周囲健常組織の被爆の低減が可能である。対向2門照射、対向3門照射、対向4門照射が標的の位置や型状に応じて選択される。また、患者全周を回転しながら行う回転照射と、部分的な回転のみの振子照射がある。照射野の形状を標的の輪郭に合わせて変化させながら行う照射を原体照射と呼び、多門照射や回転・振子照射を組み合わせる。

    • IMRT(Intensity modulated radiation therapy, 強度変調放射線治療)

      複雑な形状の標的体積に一致させ意図するような最適な線量分布を得る照射方法である。治療装置はリニアックを用いる。使用するビームが不均一な強度を持つことが従来の放射線療法との大きな違いである。コンピュータ制御により多方向から強さや形の違う放射線を照射する。最適な線量分布をCTデータ上に3次元的に指示し、そこから照射方法を逆計算する。照射野の設定は煩雑で労力を要する。この技術により、より良い線量分布が得られ、腫瘍制御率を向上させつつ合併症の軽減ができる。前立腺への照射線量を高めながらこれと接する膀胱や直腸への線量を急激に減らすことが可能である。通常の3DCRTでは治療後2年間での直腸膀胱障害としておよそ10%に中等度から重度 (Grade2-3) の晩期有害事象があるが、IMRTでは約2%に低減するとされる。

      3DCRTとIMRTの比較
    • 粒子線治療

      X線やガンマ線、電子線のかわりに電子より重い粒子を用いて行う治療を粒子線治療という。X線・ガンマ線は、人体通過の際は入口(体表面)付近が最も線量が高く、深部になるほど減少する。一方、粒子線はすぐれた深部線量分布(ブラッグピーク)を持ち、体の深いところでエネルギーを放射し急激に減衰する。炭素やネオンなどの重粒子線では、原子番号の高い原子ほど組織に高率にイオン化を引き起こし細胞の破壊力や組織透過力が高い。深部線量分布にすぐれた粒子線では線量(焦点)を体の深部の臓器に集中させることができる。陽子線や炭素イオン線を用いた粒子線ですぐれた治療効果が認められ、一般診療に用いられている。粒子線治療法最大の欠点はサイクロトロンやシンクロトロンといった巨大かつ高価な加速装置を必要とすることである。

      • 陽子線

        陽子をサイクロトロンやシンクロトロンといった加速器で加速することにより陽子線を治療に用いる。深部標的臓器に限局した線量分布を得ることができる。陽子線は病巣周囲の健常組織の被曝線量を低減でき、相対的な病巣線量の増大とそれに伴う局所制御率の向上が可能である。

      • 重粒子線

        陽子線よりも分子量の大きな粒子を加速させるために陽子線治療装置よりも大型化したサイクロトロンが必要である。炭素イオンを加速する場合3倍の長さの加速器と3倍の電力のコストが必要である。しかしながら、重粒子線は破壊力が強いと同時に局所への線量の集中が可能であり、他の放射線では制御が難しいがんに対しても効果が期待できる。

        ブラッグピーク : 人体組織照射時に入射部では線量が低く、飛程の終端部でその線量がピークに達しエネルギーの大部分を放出、その後急激に弱まる性質。

        体内への線量分布と線種による違い

        重粒子線における線量分布

        Akakura K, et al. Ptostate 58:252-258 (2004)

  • b) 組織内照射
    • 密封小線源治療

      放射線同位元素を体内に挿入するなどして治療を行う方法である。泌尿器科領域 ではもっぱら前立腺がんに用いられる。局所に線量が集中し、周囲正常組織の線量が低減する。線量率によって、低線量率(low-dose-rate, LDR, 2Gy/hr以下)、中線量率 (medium-dose-rate, MDR, 2-12Gy/hr)、高線量率(high-dose-rate, HDR, 12Gy/hr以上)にわけられる。外照射との併用も行われる。

    • 低線量率組織内照射(小線源治療 : low-dose-rate brachy therapy, LDR; 金沢大学、福井大学、金沢医科大学、金沢医療センターで施行中)

      日本での前立腺がんに対する治療は、I-125(または海外では103Pdも使用可)を前立腺内に永久に刺入する方法である。経直腸エコーの画像および透視装置でリアルタイムに前立腺を描出しながら5mmのチタン加工された低エネルギー線源を挿入する。専用のアプリケータがあり、これをリアルタイムに会陰部から前立腺内に刺入し線源を留置する。2003年9月より一般診療が開始された。いわゆる低リスク群(PSA≦10ng/mL、Gleason score≦3+3、T1cN0M0あるいはT2aM0N0)が良い適応となるが、それ以外でも外照射との併用も行われる。

    • 高線量率組織内照射(小線源治療 : high-dose-rate brachy therapy, HDR : 金沢大学、富山大学で施行中)

      RLAS (remote after loading system) により、高線量率線源Ir-192を用いて短い照射時間で、術者被爆を完全にゼロにしながらの治療が可能になった。Ir-192線源の停留位置と停留時間を調節して任意の線量分布を調節することができる。可動式小線源の通り道となるアプリケータを前立腺内部・周囲に留置して治療が行えるので、外照射併用をすることによって中・高リスク群での良好な長期成績が報告されてきている。長所は、I-125永久刺入組織内照射より、さらなる治療効果が期待できる可能性があること、尿失禁や男性機能不全等の障害が少ないこと、リアルタイムで照射の調節ができることである。短所は、特別な放射線治療装置や、治療計画コンピュータ等が必要である現在の治療計画では、一度刺入した針を継続留置して使用するため、ベッド上に安静でいなければならないことである。

      外照射と組織内照射の比較(金沢大学泌尿器科提供)

       

      LDRブラキ(金沢大学泌尿器科提供)

      HDRブラキ(富山大学泌尿器科提供)

3) 去勢術(内分泌療法、抗アンドロゲン療法、アンドロゲン除去療法、ホルモン療法)

進行期の場合や、初期でも高齢あるいは重い合併症がある場合に施行される。去勢術は、前立腺がんを進行させる男性ホルモンを抑える治療である。男性ホルモンは主に精巣から分泌されており、ごく一部は副腎で産生される。ホルモン療法はこれらの働きをおさえることにより、前立腺がんの進行を抑え、縮小させる。一生治療効果を発揮し続けることも少なくないが、基本的には根治的ではなく姑息的な治療である。

方法として大きくわけて2つで、月1回(あるいは3ヶ月に1回)の皮下注射(ゴセレリン、リュープロレリン、デガレリクス)または両側精巣摘出術があり、これによって精巣からの男性ホルモンを抑制する。また、副腎からの男性ホルモンもあわせて抑える目的で抗アンドロゲン剤(フルタミド、ビカルタミド、酢酸クロールマジノン)を併用して内服することも多い。

  • 副作用:
    • ほてり、熱感、のぼせ、肩こり、頭痛、不眠、めまい、発汗などの症状(ホットフラッシュ)
    • 性欲低下、勃起不全、女性化乳房、精巣萎縮、骨粗鬆症
    • 肝機能障害、胃部不快感、糖尿病、浮腫、心血管系障害など。そのほかまれな副作用が生ずることがある。
  • その他
    • 定期的に採血をして、主にPSA(前立腺がん腫瘍マーカー)をみて、治療効果を判定。
    • 初回のホルモン療法は、非常に効果が高く、ほとんどの場合PSAは低下する。
    • そのままPSAが低い状態を維持できればよいが、個人差はあるが時間がたつとPSAが上昇してくる(上昇してこない場合もある)。
    • PSAが上昇してきた場合(再燃という)は、内服薬を中止、変更したり、女性ホルモン剤、ステロイド剤を使用したり、下記の抗がん剤による治療を行う。
    • 基本的には、ホルモン療法は中止せず、ずっと継続するが、間欠的に治療を行う試みをされている(間欠的内分泌療法)。

病期B前立腺がんに対する前立腺全摘除術とホルモン療法の成績(北陸地区)

4) 抗がん剤による化学療法

抗がん剤の種類はたくさんあり、点滴として使うものがほとんどであるが内服薬もある。抗がん剤は全身に行き渡り細胞分裂がさかんながん細胞に取り込まれることによってがん細胞を殺す作用がある。通常、内分泌療法を施行後治療抵抗性となり再燃した場合(去勢抵抗性前立腺がん)に抗がん剤による治療が行われている。この段階では根治を望むことは難しい。現在我が国で保険診療として認められている抗がん剤にドセタキセル(タキソテール®、ワンタキソテール®)がある。点滴にて投与される。欧米での検討では対照群に対して予後を延長する効果を認めている。また、平成26年9月に、カバジタキセル(ジェブタナ®)が使用可能になった。この薬剤はドセタキセル治療に抵抗性となった場合でも予後を延長する効果が認められている。また、最近では転移のある症例に対して初回の去勢術にドセタキセルを6コースのみ加えることにより生存期間延長効果があることが示されている。

5) 分子標的治療

がんの増殖や進展に関わる分子を標的に設計された薬剤を分子標的薬といい、分子標的薬を用いた治療を分子標的治療という。現在欧米も含めて前立腺がんに対して認可されたこの種の薬剤はない。

6) 高エネルギー焦点式超音波療法(HIFU, ハイフ)

検査用超音波の数万倍という強力な超音波によって前立腺を100度近くに熱して、熱凝固させてがんを死滅させる新しい治療方法。身体への負担が少なく短期間の入院ですみ、重い合併症も少なく、前立腺全摘術に匹敵する効果が期待できる。前立腺の標準的治療法とされている全摘出手術でもPSA値が20以下の場合の5年有効率は平均80%であり、HIFUの効果は開腹手術とほぼ同等といえる。30mLくらいの前立腺で3時間くらいかけて照射する。再発した場合でも繰り返し治療可能である。また手術や放射線療法あとの再発した場合の治療も可能で、またこの治療のあとに手術や放射線療法を施行する事も可能である。合併症として、尿道狭窄や精巣上体炎、ごくまれに尿道直腸瘻がある。健康保険が利かないため80-100万円の自費負担となる。

7) 待機療法 (Watchful Waiting, Active Surveillance)

前立腺がんは比較的進行が遅く、高齢者にみられることが多いことから、最近は前立腺内に限局していれば無治療で経過を観察し、がんが進行した場合に治療を行えばよいとの意見もある。早期がんのうち、PSAが低く、悪性度も低く、がんのボリュームも小さいことが予想されるような場合、しばらく経過観察を行うことも主治医との相談の上行われている。PSA検査や直腸診、前立腺の再生検を行って進行をチェックする。この場合3/4くらいは進行してから治療しても前立腺にがんがとどまっていることが示されている。

8) 去勢抵抗性前立腺がんにおける治療

去勢術に抵抗性となった場合、去勢抵抗性前立腺がんとよぶ。通常、去勢術を行っていても腫瘍マーカーであるPSAが上昇してきたり、新たな病巣が出現してきたり、症状が悪化した場合をさす。このような状況では、従来生存率延長といった有効性が証明されている治療は、ドセタキセルのみであった。平成26年には、あらたに3つの薬が日本でも認可され、使用可能になった。

  • a.) 平成26年5月に発売され使用可能になったのは、内服薬であるエンザルタミド(イクスタンジ®)である。この薬剤は、第2世代の抗アンドロゲン剤といわれ、従来の薬剤に比較してアンドロゲンの作用をおさえる作用がずっと強力である。ドセタキセルを含んだ化学療法が無効になった症例でも生存期間延長効果が証明されており、去勢抵抗性前立腺がんの病名で保険収載されている。国際的な臨床試験では、化学療法施行前の去勢抵抗性前立腺がんでも生存期間延長効果が証明されており、日本でもこの設定での認可が待たれている。
  • b.) アビラテロン(ザイティガ®)は、去勢術では除去できなかった副腎性アンドロゲンなど、体内の残ったアンドロゲンの産生をさらに抑制することにより治療効果を発揮する。内服薬である。ドセタキセルを含んだ化学療法を施行後および施行前の両方の設定で生存期間延長効果が証明されている。平成26年7月に我が国でも、去勢抵抗性前立腺がんの病名で製造販売承認され、9月に発売となった。
  • c.) カバジタキセル(ジェブタナ®)は、 従来から行われてきたドセタキセルを含む化学療法に抵抗性となった去勢抵抗性前立腺がんに対して、生存期間延長効果が証明された抗がん剤である。点滴にて投与される。平成26年7月に我が国でも、前立腺がんの病名で製造販売承認され、9月に発売となった。

9) 骨転移に対する治療

  • a.) ストロンチウム−89(メタストロン®)

    がんの骨転移による疼痛の緩和を目的とした治療用の放射性医薬品で注射薬である。カルシウムの同族体のため、骨転移を起こしている部位に取り込まれてベータ線により効果を発揮する。

  • b.) ゾレドロン酸(ゾメタ®)

    点滴で投与される薬剤であり、骨に存在する破骨細胞の働きを抑えて骨吸収を抑制することにより効果を発揮する。病的骨折、脊髄圧迫症状、骨転移に対する外科治療、骨転移に対する放射線治療、高カルシウム血症といった骨関連事象を抑制する。

  • c.) デノスマブ(ランマーク®)

    皮下注射で投与される。ゾレドロン酸と同様の作用を有する薬剤であるが、骨関連事象をおさえる働きはゾレドロン酸より高い。同じ薬剤で用量の小さいものが骨粗鬆症治療剤のプラリアとして発売されている。

北陸地区での前立腺がんの治療成績

各施設で患者背景がことなるため、単純に比較することはできないが、以下に北陸地区の転移のない前立腺がんに対する根治療法の治療成績を紹介する。

前立腺全摘除術の治療成績1(富山大学)

前立腺全摘除術の治療成績2(富山大学)

前立腺がんに対する高線量率組織内照射施行列の予後(富山大学)

表3. 前立腺がんに対する高線量率前立腺組織内放射線療法(HDR-ブラキセラピー)施行例の治療成績

1年

3年

5年

7年

全体 (%)

98.8

92.0

87.2

83.4

低リスク (%)

100

89.1

89.1

 

中リスク (%)

96.8

92.9

83.1

83.1

高リスク (%)

100

95.2

90.2

 

PSA非再発率(富山大学)

前立腺全摘除術の治療成績(金沢大学)

 

HDRの治療成績(金沢大学)

表4. 福井大学での前立腺がん治療成績
(1998-2002、5年以上経過観察した症例)
  2年生存率 5年生存率
病期 A (10例) &B (49例) 100 100
病期 C (21) 100 85.7
病期 D (58例) 80.6 32.3

更新履歴

  • 2014年09月19日 改定