軟部腫瘍(なんぶしゅよう)
1.軟部腫瘍とは?
1)軟部組織とは?
線維組織、脂肪組織、筋組織、血管組織、滑膜など、骨や歯以外でさらに内臓などの組織を除いたものを意味します。
2)軟部腫瘍の発生
軟部腫瘍は、全身のあらゆる軟部組織に発生します。痛みを伴わないしこりとして自覚されることが多く、そのためにある程度の大きさになるまで病院を受診されないこともあります。大別すると良性腫瘍と悪性腫瘍に分類され、良性腫瘍は手術が治療の中心となりますが、悪性腫瘍(軟部肉腫といいます)は、局所だけではなく肺などへ転移することがあり、悪性腫瘍でも悪性度が高いものは化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療、手術を組み合わせた治療が必要となることがあります。5cm以上の大きさの場合には、悪性の可能性が高くなると言われています。また、軟部肉腫の発生部位は、大腿部が最も多く、次いで前腕、上腕、背部に多いとされています。また、軟部組織の腫脹で、腫瘍と鑑別がいるものに、ガングリオン、血腫、膿瘍、炎症性肉芽などがあります。
3)軟部腫瘍の統計
わが国においてがんで亡くなる人の数は年々増加していますが、がんの発生部位別にみてみると1998年以降肺がんが第1位になっています。それに対して、軟部肉腫は胃がんの1/60、肺がんの1/90の発生率とされています。早期に発見して治療を行うのが理想的ですが、発生頻度が少なく自覚症状も乏しいため、病院に受診するのが遅れる場合があり、しこりが5cm以上の大きさとなれば、病院を受診されるのがよいと思われます。
4)軟部腫瘍の組織分類
軟部腫瘍は、組織学的に多様でその種類は良性と悪性をあわせると100以上あります。主には、発生起源をもとにした分類で脂肪性腫瘍、線維性腫瘍、神経性腫瘍、平滑筋性腫瘍、血管・リンパ管腫瘍などに分けられさらに、良性腫瘍では、脂肪性腫瘍として脂肪腫、線維性腫瘍として線維腫、神経性腫瘍として神経鞘腫、平滑筋性腫瘍として平滑筋腫、血管・リンパ管腫瘍として血管腫などがあります。悪性腫瘍では、それらの分類に基づいて、平滑筋肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫などが頻度の高い腫瘍です。さらに、悪性腫瘍は、顕微鏡の所見で悪性度が低悪性度、中等度、高悪性度に分類されます。
5)軟部腫瘍の原因
現在のところ、軟部腫瘍の明らかな原因はわかっておりませんが、最近の研究によりある種の腫瘍に特異的な遺伝子の変異が指摘されており、腫瘍の種類によっては何らかの原因による遺伝子の変異が原因ではないかと推測されています。また、他の疾患に対して行われた放射線治療の後に、照射された部位に発生する二次性の悪性軟部腫瘍もあり、放射線障害が原因になっていると推測されています。
2.症状
軟部腫瘍の症状としては、しこりがもっともよくみられる症状です。しかし、小さいうちははっきりしないため、ある程度の大きさになってはじめて自覚され、さらに痛みを伴わないことが多いため、比較的大きくなってから初めて病院を受診されることが多いようです。5cm以上の大きさ、急速に増大するなどの場合は、悪性の可能性もあり早期に病院を受診することが重要です。
3.診断
軟部腫瘍が疑われる場合、いくつかの画像検査を行います。単純レントゲン写真、CT、MRI、核医学検査(タリウムシンチ、骨シンチなど)。これらで、腫瘍の性質をみて、良性か悪性の鑑別をし、生検(組織を採取して顕微鏡で診断する)が必要かどうかを判断します。生検は、外来で検査が可能な針生検と、入院して手術室で行う切開生検があります。腫瘍の部位(浅いか深いか)や、重要な神経、血管に接しているかどうかなどによってどちらの検査が良いかを判断します。
4.病期(ステージ)
悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)と診断されると、腫瘍が他の臓器に広がっていないかどうか、さらに詳しい検査が必要になります。
通常行われる検査としては、肺のCT、タリウムシンチ、骨シンチを行います。また、他のがんでは血液検査で特異的な腫瘍マーカ-と呼ばれるがん細胞によって産生される物質の検査を行う場合がありますが、軟部腫瘍では有用な腫瘍マーカーはなく、血液検査は有用とされていません。
腫瘍の悪性度や病気の進行具合を評価するために下記のような病期分類を行います。
T-原発腫瘍
- TX:原発腫瘍の評価が不可能
- T0:原発腫瘍を認めない
-
T1:最大径が5cm以下の腫瘍
- T1a:表在性腫瘍
- T1b:深在性腫瘍
-
T2:最大径が5cmを超える腫瘍
- T2a:表在性腫瘍
- T2b:深在性腫瘍
G-病理学的悪性度
- GX:分化度の評価が不可能
- G1:高分化
- G2:中等度分化
- G3:低分化
N-所属リンパ節
- NX:所属リンパ節の評価が不可能
- N0:所属リンパ節転移なし
- N1:所属リンパ節転移あり
M-遠隔転移
- MX:遠隔転移の評価が不可能
- M0:遠隔転移なし
- M1a:肺転移あり
- M1b:肺以外その他転移
病期分類
- Ⅰ期:T1a,b、T2a,bでN0、M0でG1
- Ⅱ期:T1a,b、T2aでN0、M0でG2,3
- Ⅲ期:T2bでN0、M0でG2,3
- Ⅳ期:T,Gに関係なくN1あるいはM1
5.治療
腫瘍のある場所、腫瘍の組織型、病期、今までにかかった病気や現在かかっている病気、心臓、肺、腎臓や肝臓などの臓器の機能や、一般的な健康状態に基づいて治療の方法を選択します。軟部腫瘍の治療法として主に3種類(外科療法、抗がん剤治療、放射線療法)があり、それらを組み合わせた治療を行います。
1)良性腫瘍
良性腫瘍は、小さければ経過観察する場合もありますが、治療は基本的には手術で切除します。再発する場合もありますので、組織型に応じて術後の方針が決まります。
2)悪性腫瘍
悪性軟部腫瘍のうち、低悪性度のものは手術で切除しますが、良性腫瘍よりもやや大きく周囲の筋肉などの正常組織も一緒に腫瘍とともに切除します。これは、再発を防ぐためですが、神経や血管などが腫瘍に接している場合は、術後に放射線療法を併用する場合があります。 高悪性度の場合は、術前に化学療法を3~5コース行い、手術を施行した後に術後の化学療法を4~6コース行います。使用する薬剤は、アドリアマイシンとイホマイドを組み合わせた治療の報告が散見されますが、その有効率は10~50%程度で、悪性骨腫瘍に対する化学療法の有効率よりも劣っているのが現状です。当科では、カフェインというコーヒーに含まれる成分でも知られている物質に抗がん剤の作用を増強する働きがあることに着目し、1989年より臨床応用しています。また、症例によっては、薬剤を動脈内投与(カテーテルという細い管を腫瘍の近くの動脈に留置して、持続的に抗がん剤を投与すること)します。カテーテルの先端は腫瘍の栄養血管に選択して留置されており動脈内から点滴された抗癌剤はその後、静脈を通過して全身に循環します.そのため画像にはうつらない肺や他の骨の微小転移巣に対しても抗癌剤が効果的に作用することが期待できます。また、腫瘍の栄養血管からすぐに高濃度の抗癌剤が到達するため、腫瘍の縮小効果が期待でき、腫瘍を取り残さずに正常な機能を損なうことを最小限とした手術を行える可能性があります。
【治療の流れ】
これまでに、100例以上の悪性軟部腫瘍に対してカフェイン併用化学療法を施行し、局所有効率(MRIなどの画像検査や手術で切除した腫瘍の顕微鏡検査で有効と判断されたもの)は64%と、他の報告よりも良好な成績が得られています。
6.治療の副作用と対策
がんに対する治療は、がん細胞のみならず、同時に正常な細胞も障害を受けることは避けられませんので、副作用・後遺症を伴います。医師はできるだけ副作用を軽減すべく努力していますが、治療に伴い種々の副作用があらわれることがあります。
1)外科療法
腫瘍とともに周囲の筋肉や神経を切除した場合、それに伴う機能障害を生じることがあります。例えば、手足の筋力低下や運動障害があり、場合によっては装具の装着を要することもあります。また、術後に創部感染を生じた場合は、創の洗浄などにより、治療期間が長くなることもあります。
2)抗がん剤による化学療法
抗がん剤治療の副作用には、薬剤の種類によらず、治療中の悪心(むかむかする)、嘔吐(吐いてしまう)、食欲不振(食欲がなくなる)、下痢、全身倦怠感(体のだるさ)、発熱の他、治療後の脱毛などがみられます。また、治療後1 週間から10 日後に、血液検査で白血球数、赤血球数、血小板数の減少が認められます。このほかにも肝臓の障害などが見られることがあります。これらの副作用の頻度やその程度には個人差がありますが、悪心、嘔吐に対しては吐き気止めを、白血球減少に対しては白血球を増やす薬(G-C S F)を、貧血や血小板減少に対しては輸血で対処することが可能です。また白血球が減少した際には細菌などの感染を受けやすくなりますが、適切に抗生剤を使用するなどの方法で治療することができます。用いる薬剤は、シスプラチン、アドリアシン、イホマイド、エトポシドという薬剤ですが、それぞれの副作用を下記に記します。
シスプラチンの副作用
シスプラチンで最も問題となる副作用は、腎臓の機能障害、および神経障害です。腎臓は体から不要になったものを尿中に排泄したり、体液(電解質)が一定の環境になるように調整している臓器ですが、この機能を落とすことがあり、体液(電解質)のバランスが保てなくなることがあります。これを防ぐために、治療中は大量の輸液(点滴)を行います。また、治療中には血液検査や尿検査を定期的に行うことにしており、検査で異常がみられた時点で投薬を休止するなどの対処が決められています。また、神経障害により、手足がしびれたり細かい作業が困難になることがあります。また聴覚障害を生じると、音が聴き難くなる(特に高音が聞こえなくなる)などの障害が出現することもあります。これらを防ぐために、薬を服用したり、定期的に耳鼻科による検査を行います。シスプラチンでは高頻度で、悪心・嘔吐が出現するため、治療中は吐気止めを定期的に投与し、治療後も摂食が困難であれば、高カロリーの点滴をしばらく行って対処します。
アドリアシンの副作用
アドリアシンで最も問題となる副作用は、心臓への障害です。投与する量が体表面積1m2あたり550mg を超えると心臓への障害は30%みられるという報告があります。この試験の治療では、最大量で体表面積1m2 あたり480mgを用いる可能性があります。治療前および治療中には心臓の機能評価試験を行い、注意深く治療に当たります。化学療法施行中にも心電図モニターなどを用いることで、もし障害が発生してもすぐに対応できるようになっています。
イホマイドの副作用
イホマイドで重要な副作用は、腎臓の障害と膀胱への障害です。腎臓は体から不要になったものを尿中に排泄したり、体液(電解質)が一定の環境になるように調整している臓器ですが、この機能を落とすことがあり、体液(電解質)のバランスが保てなくなることがあります。これを防ぐために、治療中は大量の輸液(点滴)を行います。また、治療中には血液検査や尿検査を定期的に行うことにしており、検査で異常がみられた時点で投薬を休止するなどの対処が決められています。膀胱での障害は、イホマイド(の代謝物)が尿の中に排泄されて、膀胱をとおる際に膀胱を傷つけるためであることがわかっています。傷つくことで出現する出血は時に大量になることがあります(出血性膀胱炎)。膀胱炎の予防として予防薬(イホマイドの代謝物に対しての中和剤:ウロミテキサン)を使います。
エトポシドの副作用
エトポシドで最も問題となる副作用は、他の抗がん剤の副作用でも見られる汎血球減少(骨髄で作られる白血球、赤血球、血小板が減少すること)です。白血球減少に対しては白血球を増やす薬(G-C S F)を、貧血や血小板減少に対しては輸血で対処することが可能です。また白血球が減少した際には細菌などの感染を受けやすくなりますが、適切に抗生剤を使用するなどの方法で治療することができます。
カフェインの副作用
カフェインで最も問題となる副作用は、頻脈(ドキドキ感)と不眠です。これらの症状が強く生じる場合には、鎮静剤の点滴などによって症状を和らげることが可能です。また、適宜心電図モニターなどを装着して心機能を監視し、もし何らかの問題が発生してもすぐに対応できるようになっています。
3)放射線療法
主な副作用は、放射線による照射部の皮膚障害(浮腫や皮下硬結)ですが、若年者への照射によってその部位の成長障害や、また二次発がんの可能性もあります。