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皮膚がん

1.皮膚がんとは

1)皮膚がんの統計

近年の平均寿命の伸びにより、皮膚がんの発生件数も増加傾向にあります。全皮膚がんは1987年と比較すると2001年では1.5倍以上の増加となっています。皮膚悪性黒色腫研究班ならびに日本皮膚悪性腫瘍学会・皮膚がん予後統計委員会では皮膚がんの統計調査をおこなっており、皮膚がんのうち基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫について全国100施設で調査を行っています。最も多い皮膚がんは基底細胞癌でした。次いで、有棘細胞癌、悪性黒色腫の順で発生数が多いという結果でした。ただし、有棘細胞癌の前駆状態とされる日光角化症を含めると有棘細胞癌が最も多くなります1)

2)皮膚がんの組織分類

皮膚がんは皮膚を構成する様々な細胞から発生することが知られており、多くの種類の皮膚がんが存在します。そのうち代表的な皮膚がんとしては、以下があげられます。

  • ・悪性黒色腫
  • ・有棘細胞癌
  • ・基底細胞癌
  • ・乳房外パジェット病
  • ・血管肉腫
  • ・隆起性線維肉腫などが代表的な皮膚がんとして知られています。

これらの皮膚がんのうち、悪性黒色腫、有棘細胞癌、基底細胞癌、乳房外パジェット病について以下に解説します。尚、これら4疾患については日本皮膚悪性腫瘍学会により皮膚悪性腫瘍ガイドラインが作成されています。
http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/

2.悪性黒色腫

1.定義と疫学

悪性黒色腫(malignant melanoma:MM)はメラノサイトもしくは母斑細胞が悪性化したと考えられています。メラノサイトは皮膚以外にも眼の脈絡膜や脳軟膜、口腔や外陰部の粘膜にも生じるため、これらの部位からの発生例もあります。それ以外にも直腸や食道の粘膜に発生した報告もあります。

発生頻度は人口10万人あたりの年間患者発生数として2人程度と推測されます。皮膚のメラニン色素の量の多寡によって発生頻度は異なり、フェオメラニン(pheomolanin)が優位である白人では、日光紫外線に対する防御能が弱く、人口10万人あたりの年間患者発生数として15人程度の発生数です。一方、黒人ではユーメラニン(eumelanin)が優位であり、紫外線に対する防御能が白人より強く、発生頻度は同0.5人程度になります。

本邦でのMM患者は、年々増加しており、年齢のピークは60-70歳代ですが、60歳未満での発症も多数存在し、同じ皮膚がんでも高齢者によりおおくみられる基底細胞癌や有棘細胞癌とは趣が異なります2)

2.部位と臨床

日本人のMMは末梢に好発することが知られており、足底や手指・爪部の発生例が全体の約半分を占めます。これらの部位は日光紫外線の照射を受けにくい部位であり、白人に多くみられる露光部のMMと性質が異なります。発生部位や臨床的特徴から以下のように分類されています(Clark分類)。

・ 末端黒子型(ALM;acral lentiginous melanoma):

日本で最も多い病型で足底や手掌および爪に生じるタイプです。足底や手掌では、はじめ黒褐色斑から始まり、年月をかけて徐々に拡大し、次第に腫瘤を形成していきます。爪の場合には黒褐色の爪甲色素線条からはじまり、徐々に爪全体に幅が広がっていき爪の破壊を生じるようになります。尚、小児の爪甲色素線条は自然消退することもあり、悪性か否かの診断は慎重に行う必要があります。組織学的には肥厚した表皮下層部を中心に紡錘形の異形メラノサイトが増殖しています。

・ 表在拡大型(SSM;psuerficial spreading melanoma):

白人で最も多い型です。腫瘍細胞の表皮への進展が表皮突起4個以上遠方に拡大しているのが特徴です。軽度の表皮肥厚を伴い、異型類上皮細胞が増殖しています。母斑細胞から生じたとされる悪性黒色腫の多くはこの型とされています。

・ 悪性黒子型(LMM;lentigo maligna melanoma):

顔面・頸部や手背など露光部に発症しやすいタイプです。悪性黒子と呼ばれる前癌状態が長く続き、黒褐色斑が徐々に拡大しますが、やがて浸潤癌となります。やがて一部に結節を形成して浸潤癌となります。組織学的には萎縮した表皮の基底層を中心に短紡錘形の異型メラノサイトが増殖し、真皮には日光変性を伴います。

・ 結節型(NM;nodular melanoma):

斑状の黒褐色病変でなく、当初から腫瘤状に盛り上がった病変を形成するタイプです。全身どの部位にでも生じ、進行も比較的急速です。組織学的には周囲表皮への進展は表皮突起3個以内と定義されています。

また、黒色調を全く呈さないMMは無色素性悪性黒色腫(amelanotic malignant melanoma)とよばれています。

3.診断

 ・臨床所見:

MMはメラノサイトが癌化して生じるため、腫瘍細胞がメラニン産生能を有し、黒褐色調を呈することが多いです。その上で、臨床診断基準として米国癌学会のABCD基準3)とglasgow seven-point check list4)がよく参考にされています。

<米国癌学会のABCD基準>
  • ・Asymmetry:左右非対称
  • ・Border irregularity:境界不明瞭
  • ・Clor variegation:色調の多彩さ
  • ・Diameter enlargement:大きな径
<glasgow seven-point check list>
  • 大基準
    • ・大きさの変化
    • ・形の変化
    • ・色調の変化
  • 小基準
    • ・6mmを超える長径
    • ・炎症
    • ・出血
    • ・かゆみや違和感
・ダーモスコピー:

近年色素性病変の診断にダーモスコピー(dermoscopy)が着目されています。ダーモスコピーとは光の乱反射を防いだ上で病変部に光線をあて、観察部位を拡大して確認するための拡大鏡の一種です。表皮のみならず、真皮の変化を観察することができ、MMや基底細胞癌の診断の補助として有用です。特に日本人に多いALMの患者では、掌蹠の病変部においてダーモスコピー所見に特徴があり、早期診断に用いられています。これはparallel ridge patternと呼ばれる所見であり、皮膚紋理の皮丘に平行した帯状色素沈着をみとめるものです(感度86%特異度99%)5)

・皮膚生検:

臨床的に診断が困難な際には皮膚生検が検討されます。かつてMMでは部分生検を行うと、その手術操作により腫瘍細胞を深部に押し込め、リンパ節転移や血行性転移を助長するとされていました。従って、部分生検は禁忌とされ、全切除生検が基本とされていました。近年の報告では、両者間での生存率に有意差はなく6)、部分生検も場合によっては容認されますが、頭頸部原発では生存率の低下の可能性も指摘されています7)。したがって、可能な限りに全切除生検が望ましく、肉眼的境界から2mm程度離して皮下脂肪織まで切除することが推奨されています。

4.病期分類と治療方針

・病期分類

AJCC/UICC2002に準じた病期分類が用いられています8)

  • ※ Micrometastases are diagnosed after sentinel or elective lymphadenectomy.
  • ※ Macrometastases are defined as clinically detectable nodal metastases confirmed by therapeutic lymphadenoctomy or when nodal metastasis exhibits gross extracapsular extension.
  • ※ Clinical staging includes microstaging of the primary melanoma and clinical/radiologic evaluation for metastases. By convention, it should be used after complete excision of the primary melanoma with clinical assessment for regional and distant metastases.
  • ※ Pathologic staging includes microstaging of the primary melanoma and pathologic information about the regional lymph nodes after partial or complete lymphadenectomy. Pathologic stage 0 or IA patients are the exception; they do not require pathologic elvaluation of their lymph nodes.
  • ※ There are no stage III subgroups for clinical staging.
・治療方針

治療方針については皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにてアルゴリズムが示されています。
http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/mm/mm.html

化学療法についてはDAV-Feron療法、CDV療法、DACTam療法が主に行われています。

・DAV-Feron療法(DTIC,ACNU,VCR,IFN-β)9)

日本で最も長く,多くの施設で行われてきたレジメです。IFN-βは原発部の周囲に5日間連続局注をします。奏効率は30%程度、奏効部位は皮膚、リンパ節、肺です。薬物有害反応としては悪心、嘔吐、白血球減少、血小板減少、肝機能異常や末梢神経障害などが知られています。術後補助化学療法として広く用いられています。

・CDV療法(CDDP,DTIC,VDS)10)

奏効率は30%程度で進行期悪性黒色腫に用いられることが多いです。粘膜やリンパ節転移に有効であったとの報告がみられます。薬物有害反応としては悪心嘔吐、白血球減少が多く、腎機能異常や血色素低下の報告もあります。

・DAC-Tam(DTIC,ACNU,CDDP,TAM)11)

奏効率は30%〜50%程度の報告が多い、日本で試された多剤併用化学療法で最も有力とされるレジメです。皮膚、肺、リンパ節転移に有効です。薬物有害反応としては血小板減少、白血球減少、血色素低下、腎機能異常、悪心嘔吐などが知られています。

術後補助化学療法の指針としては病期Iについては行わず、病期IIについては

  • A.行わない 
  • B.IFN-β局注療法のみ2-3クール 
  • C.DAV-Feron療法2-3クール

のいずれかを患者の年齢や全身状態と相談して決定します。病期IIIではDAV-Feron5-6クール(高齢者の場合、減量やIFN-β局注療法も考慮)が推奨されています12)

5.予後

日本におけるMMのAJCC/UICC病期別生存率は、以下の通りです2)

(最新皮膚科学大系11より抜粋)

3.有棘細胞癌

1.定義と疫学

有棘細胞癌(Squamous cell carcinoma:SCC)は、表皮ケラチノサイトへの分化を示す悪性腫瘍です。皮膚の有棘細胞癌では表皮や附属器由来の角化傾向を示す腫瘍と考えられています。日光紫外線がその発症に関与していることが示唆されており、SCCとしては皮膚がんの中では基底細胞癌に次いで多く、その前段階とされる日光角化症を含めると皮膚がんの中では最も多いと推測されます。また、欧米白人では基底細胞癌と併せてnon-melanoma skin cancersとして知られ、それに準じたガイドラインも存在し、全悪性腫瘍の中で最も高頻度とされています。SCCの前駆症として3つのカテゴリーが提唱されており、発症母地となる基礎疾患や慢性炎症の刺激が存在することがあります。

皮膚有棘細胞癌の前駆症のカテゴリー13)
  • 第1群:SCCを生じやすい局所的な準備状態
  • 熱傷瘢痕、慢性放射線皮膚炎、骨髄炎瘻孔、褥瘡、尋常性狼瘡、慢性円板状エリテマトーデス、慢性膿皮症、扁平苔癬など

  • 第2群:SCC in situないしはその早期病変
  • Bowen病、日光角化症、放射線角化症、瘢痕角化症、砒素角化症、狭義の白板症、汗孔角化症、温熱性角化症など

  • 第3群:SCCを生じやすい全身的状態
  • 色素性乾皮症、疣贅状表皮発育異常症、慢性砒素中毒、臓器移植患者、AIDSなど

2.部位と臨床

前項で述べたようにSCCは発症に対する紫外線の関与が示唆されているため、露出部に生じやすいです。その以外にも発症母地が存在した部位や外陰部(ウイルス感染を伴う症例もある)や下肢などにも生じます。基本的に表面は多少なりとも角化を伴うことが特徴であり、時に暗紅色の結節としてみられることもあります。進行するとびらん・壊死や潰瘍をきたします。二次感染を伴って悪臭を発することもあります。

3.診断

臨床診断が決め手となることが多いが、脂漏性角化症やエックリン汗孔腫、無色素性黒色腫と鑑別が困難な場合があります。また、ケラトアカントーマは日光露出部に好発する半球状に隆起し、中央に角栓を伴う腫瘍であり、自然消退することが多く鑑別が必要です。

診断に苦慮した場合には皮膚生検が最も有用です。部分生検で診断は可能ですが、ケラトアカントーマを疑った場合には腫瘍の全長を含んだ生検を行い、組織の全体像を把握しなければなりません。また、ケラトアカントーマと一度診断しても、増大を続ける場合やなかなか自然消退しない症例ではその診断の見直しも必要です。

4.病期分類と治療方針

SCCでは組織学的に角化の程度によってその分化度を4段階に分けられています(Broders分類)。有棘細胞様のよく分化した細胞が75%以上を占めるものをI度、50〜75%のものをII度、25〜50%のものをIII度、25%未満のものをIV度と分類されています。特殊な組織型としてacantholytic SCCやspindle cell SCC、mucin producing SCCなども知られています。

病期分類としてはUICC2002分類が主に用いられており、以下の通りです14)

治療方針に付いては皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにアルゴリズムが示されています。
http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/scc/scc.html

特徴としては部位や大きさ、組織型や発症母地などによってhigh risk症例を定義して切除範囲を決定しています。

  • ※腫瘍のサイズには腫瘍周囲の紅斑も含める。
  • ※H領域:顔面正中、眼瞼、眼窩周囲、鼻、口唇、顎、耳前部、耳後部、会陰部、手、足背、足底部
  • M領域:頬、前額、頭部、頸部
  • L領域:体幹、四肢
  • ※特殊な組織型:Adenoid(acantholytic)またはadenosquamous(ムチン産生)、またはdesmoplastic type
  • ※腫瘍の厚さに不全角化、鱗屑痂皮は含めない。また、潰瘍がある場合は潰瘍底から測定する(修正Breslow法)。

また、悪性黒色腫で行われているセンチネルリンパ節生検についてはSCCが比較的予後の良い腫瘍であること、他国のガイドラインにてセンチネルリンパ節生検を採用していないことなどから、ハイリスクの頭頸部を中心にその可能性を残しつつも現時点では本邦のガイドラインでも採用はされていません。今後の症例の蓄積による検討が必要です。

化学療法としてはCA療法(CDDP、ADM)やPM療法(PEP、MMC)15)などの治療法が知られており、CDDPの腎障害、ADMの心毒性、PEPでの間質性肺炎などに注意が必要である。放射線療法と並び化学療法の感受性は比較的高いです。

5.予後

本邦のSCCの5年生存率についてはin situないしI期ではほぼ100%です。またII期で85%、III期でリンパ節転移を伴わない場合では65%、リンパ節転移を伴う場合には55%、IV期では4年生存率で38%とされています16)。リンパ節転移を生じた症例では遠隔転移を生じる可能性が高く、その予後は悪いです。その一方で、遠隔転移を起こさずに局所再発を繰り返し、深達性に拡大していく症例では患者のQOLが非常に損なわれる場合もあります。

4.基底細胞癌

1.定義と疫学

基底細胞癌(Basal cell carcinoma:BCC)は現在、毛包系由来の腫瘍として位置づけられています。高齢者に多く、顔面に好発しますが、時に若年者にも生じます。基底細胞母斑症候群や色素性乾皮症、免疫不全の背景から生じることもあります。局所的要因としては放射線治療部位や熱傷瘢痕なども発症母地となります。皮膚悪性腫瘍研究班ならびに日本皮膚悪性腫瘍学会・皮膚がん予後統計委員会の集計では5年間で63施設から1384例の報告がされています。

2.部位と臨床

先に述べたように顔面に発症する症例が全体の約80%を占めます。特に鼻の周囲に生じやすいことが知られています。臨床的には黒子様の灰黒色の結節で多くの症例では結節からの出血が問診で聴取可能です。日本人では黒色調を呈することがほとんどですが、白人や日本人でも稀に無色素性の基底細胞癌が存在し、それらの症例では診断が困難なこともあります。臨床型としては以下のように分けられています。

  • ・潰瘍結節型:
  • 最も頻度が多い型です。中央部が陥凹し、その周囲を小結節がとりまいています。潰瘍からの出血で気付き来院することが多いようです。

  • ・表在型:
  • 扁平で比較的境界明瞭、中央部の紅斑の周囲を極小さな丘疹や灰黒色斑が取り囲んでいます。炎症性疾患と間違われて治療を受けていることもあります。

  • ・モルフィア型:
  • 光沢のある紅白色の局面を呈します。肉眼的境界を越えて浸潤を触れることも多く、初期の診断は困難です。

3.診断

診断にはダーモスコピーが有用です。特徴的なダーモスコピー所見としては以下のものがあげられます。

  • ・blue-gray groblues(ovoid nests):灰黒色の点状斑もしくはその集合である。
  • ・cart-wheel pattern,leaf –like area:表在型などでの特徴としてみられる。松葉状もしくは車軸状の灰黒~褐色斑が確認できる。
  • ・arborizing vessels:樹枝状の血管拡張。無色素性のBCCでは唯一の所見となりうる。
  • ・ulceration:中央部の潰瘍のあかみ

肉眼所見、ダーモスコピー所見でも診断のつかない場合には皮膚生検が考慮されます。ただし、臨床的鑑別疾患として悪性黒色腫を疑う場合にはその生検方法に注意が必要です。臨床的鑑別としては、悪性黒色腫の他、エックリン汗孔腫や色素性母斑、無色素性のものでは有棘細胞癌なども鑑別となります。

4.病期分類と治療方針

病期分類は有棘細胞癌と同様です。ただし、ほとんどの症例で転移を生じることはないため、一般に術前後の転移巣の検索が行われることはまずありません。むしろBCCが多発していないか、他の皮膚がんが合併していないかに注意し、全身の皮膚の診察を行うべきでしょう。BCCと有棘細胞癌の合併や多発のBCCは決して稀ではありません。

治療方針については皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにアルゴリズムが示されています。
http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/bcc/bcc.html

有棘細胞癌と同様に発症部位や大きさ、基礎疾患などからハイリスク病変が定義されており、3-10mmのマージンで切除されることが多いです。

深さは脂肪織を十分に含める必要がありますが、鼻の大きな結節やモルフィア型、fibrosingないしsmall nodular typeの組織を呈する症例などでは筋層への浸潤がみられることが多いため、十分な深さの切除が必要です。モルフィア型では側方の広がりも評価しにくいため術前の注意深い病変の評価を要します

5.予後

BCCは非常に予後の良い腫瘍であり、生命予後よりも局所再発の有無が問題となります。顔面に発症しやすいため、審美面からも過剰な切除は避けるべきですが、一方で境界不明瞭な病変や深達度が深そうな症例では、術前エコーによる深さや広がりの評価や生検による組織型の評価も考慮して十分な切除が必要です。

5.乳房外パジェット病

1.定義と疫学

乳房以外の皮膚(外陰や腋窩、肛囲、腹部など)において、パジェット細胞とよばれる胞体の明るい異型細胞が増殖する疾患です。アポクリン汗器官からの由来17)や表皮由来18)などの説、toker cellと呼ばれる前駆細胞の存在19)等が述べられていますが、まだ最終的な決着はみていないようです。乳房パジェット病は下床の乳癌の一特異型として知られていますが、乳房外パジェット病では表皮にのみ腫瘍細胞をみとめます。腫瘍が基底膜を破り、真皮内に浸潤した際には乳房外パジェット癌とよばれます。

本邦では高齢の男性に多く(女性の2倍)、全皮膚がんの約1割を占めます。乳房外パジェット癌ではリンパ節転移や他臓器転移をきたすこともあります。また、肛門周囲にパジェット細胞をみとめる際には、直腸肛門癌が連続的に肛門皮膚に進展した場合があり、パジェット現象とよばれます。

2.部位と臨床

発症部位は圧倒的に外陰部に多いです。腋窩や肛囲はその1/10程度です。ただし、同じ患者の複数の部位に病変をみとめることがあり(double or triple paget’s disease)、乳房も含めてその他のパジェット病好発部位の診察をおこなうべきです。また、好発部位以外の異所性の発症もあり、注意を要します。臨床的には主に紅斑を呈し、時にびらんを伴います。病変部には同時に白斑(脱色素斑)を伴うこともあり、それも腫瘍の一部です。また、外陰部での多中心性の発生なども多く、診察の際には剃毛などによって病変全体をしっかりと観察する必要があります。病変部に結節を伴う際には、浸潤癌であることが多く、リンパ節転移を高率に伴うため、リンパ節の触診も重要です。ただし、びらんを繰り返したり、二次的に感染を伴っている症例では所属リンパ節が腫大していることもあり、転移の評価は慎重に行うべきです。

3.診断

乳房外パジェット病では湿疹や白癬として治療されていた例や実際に腫瘍に2次的に湿疹や白癬を伴っていることがあります。難治性の湿疹や白癬では乳房外パジェット病の可能性を考えて生検を考慮すると良いでしょう。H-E標本では時にボーエン病との鑑別が困難なこともありますが、その際にはCEA染色やEMA染色が役立ちます。パジェット現象を疑う際にはCK20およびGCDFP-15染色が乳房外パジェット病と内臓癌のパジェット現象の鑑別に有用です。また、進行例では血中CEA値が上昇している場合もあります。

4.病期分類と治療方針

病期分類については近年、大原らのTNM分類20)が用いられることが多いです。

治療方針については皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにアルゴリズムが示されています。
http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/paget/paget.html

先にも述べたように病変部の評価は剃毛をおこなった上で行い、2次的な湿疹や白癬については外用療法にて軽快させた上で切除範囲の決定を行うことが望ましいです。以前は積極的にマッピングバイオプシー(切除範囲を決定するための病変周囲の生検)が行われていましたが、近年は境界の不明瞭な部位や粘膜にのみ術前ないし術中生検は適応されているようです。悪性黒色腫で適応となることが多い、センチネルリンパ節生検ですが、びらんや結節を伴う病変では時に適応が考慮されますが、びらんのない明らかな表皮内病変では適応はありません。また、外陰部パジェット癌での両側鼡径リンパ節転移を生じている症例でのリンパ節廓清は根治性が低く、その適応は慎重に行わなければなりません。センチネルリンパ節生検の適応や両側鼡径リンパ節廓清の適応については今後の症例の蓄積による検討が待たれます。

肛門粘膜へ浸潤している症例ではその多くが粘膜上皮内の病変です。歯状線を超えない範囲では根治切除が可能ですが、超える場合には人工肛門の適応も考慮されます(粘膜上皮のみの薄い切除であれば歯状線を数センチ超えた切除でも肛門機能を温存できることがあります)。ただし、病変が粘膜上皮内にとどまることや患者の年齢・QOLなども考慮してその適応は慎重に考慮すべきです。女性では尿道が短いため、尿路変更の適応についても同様に慎重に考慮すべきとだと考えます。

化学療法についてはlow dose FP(5-FU,CDDP)21)、FECOM(Epi-ADM,MMC,VCR,CBDCA,5-FU)22)などが知られていますが、満足いく奏効率は得られていません。放射線治療は手術不能例や術後補助療法として行われることがあり、皮膚転移や骨転移に対して有効です。近年、PDT(photodynamic therapy)の報告もありますが23)、表皮内病変への一定の効果は示唆されていますが、外科治療を上回る効果は未知であり、浸潤癌に対しての有効性もはっきりしていません。

5.予後

表皮内及び微小浸潤の症例(T1,2)では、切除により根治が得られることが多いです。その一方、リンパ節転移を生じた症例では早晩、遠隔転移を来たし、予後不良のことがあります。また、長期間表皮内にとどまる臨床経過を示す症例では予後は比較的良好であり、急速に結節をつくる急速進行型では予後不良な傾向があります。

参考文献
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