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卵巣がん(らんそうがん)

1.卵巣癌とは

1)卵巣について

卵巣は女性の生殖臓器であり、骨盤の中央にある子宮の両側にひとつずつある親指大、楕円形の臓器です。生殖細胞である卵子がそこで成熟し、放出されます。それとともに周期的に女性ホルモンを分泌しています。その女性ホルモン分泌がなくなると生理がなくなり閉経となります。

2)卵巣癌の発生

卵巣癌の組織型は多様であり、その発生も単一の機序では説明できません。卵巣癌の発生と、強い関連性を示す単一の要因はありません。卵巣癌の発生には、複数の要因が関与していると考えられています。卵巣癌の確立したリスク要因は、卵巣癌の家族歴のみとされています。大部分は散発性ですが、家族性腫瘍として、乳癌と同じく、BRCA1、BRCA2遺伝子の変異が知られています。他に、リスク要因として出産歴がないことが指摘されています。また、経口避妊薬の使用は、卵巣がんのリスクを低下させます。婦人科疾患では骨盤内炎症性疾患、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症がリスク要因として指摘されています。その他、可能性のあるリスク要因として、肥満、食事、排卵誘発剤の使用、ホルモン補充療法が挙げられます。

3)卵巣癌の統計

本邦の卵巣癌の罹患(りかん)率は1999年で7,314人と推計され、年齢別にみた卵巣がんの罹患(りかん)率は40歳代から増加し、50歳代前半でピークを迎えてほぼ横ばいになり、80歳以上でまた増加します。罹患率の年次推移は、1975年以降緩やかな増加傾向にあります。卵巣癌による死亡数は、1970年には1,129人であったものが、2005年には4,467人となっており、35年で約4倍に増加しています。アメリカは日本の約3倍、スウェーデンは約7倍となっており、日本でも将来欧米並みになるものと予想されます。

4)卵巣癌の組織分類

卵巣は表層上皮や性索間質、胚細胞といった組織で構成され、それぞれに腫瘍が発生します。卵巣に発生する腫瘍には良性腫瘍(85%)と、悪性腫瘍(=癌)の他に良性、悪性の中間的な性質をもつ腫瘍(中間群)というものもあります。卵巣癌は表層上皮に発生する上皮性癌が9割を占めており、これらはさらに4つの細胞型(奨液型・明細胞型・粘液型・類内膜型)に分かれ、それぞれ異なった性格をもっています。

5)卵巣癌の予防

卵巣癌も他のがんと同様、初期のものほど治る率も高くなるので早期発見・早期治療が大切になります。しかし、現在のところ、無症状の人に対する通常の検診では、卵巣癌の早期発見は難しいと報告されています。卵巣癌は症状に乏しいので、下腹部膨満感や痛みなどの異常を感じたらすぐに婦人科を受診することが必要です。

2.症状

初期にはほとんど症状はありません。そのため卵巣癌は早期発見が難しく「お腹が張る」、「下腹部にしこりや圧迫感を感じる」、「膀胱が圧迫されて尿が近くなる」などの症状がでてから気が付くことが多くなります。これらの症状は癌が大きくなったり、あるいは腹膜播種といって腹腔内に種をまいたように癌が拡がって炎症により腹水が溜まったときなどに見られる症状になります。さらに卵巣がんが進行すると胸腔内にまで拡がり、胸水が起こることがあります。胸水が溜まると息切れや呼吸困難、食事がのどを通りにくいなどの症状が出るようになります。また、卵巣がん(卵巣癌)ではリンパ節転移もよくおこります。腹部大動脈の周りや骨盤内のリンパ節がはれ、次第に胸部や首のリンパ節にも拡がっていきます。この場合シコリを感じることがあります。

3.診断

1)内診・直腸診

超音波検査と共に婦人科的診察(内診・直腸診)が行われます。それによって、卵巣の腫れが疑われた場合に以下の検査を行ないます。

2)画像検査

卵巣の腫れが疑われた場合、それが癌であるか否かを調べる場合や、癌が強く疑われる場合は、がんの大きさや拡がり具合、周辺臓器やリンパ節への転移の有無を調べるために画像検査が行われます。

  • ◆超音波検査

    体に超音波を発信し、組織に当たって反射してきた音波を捉えて画像を得る検査です。外来で婦人科的診察と共に行なわれることが多く、患者さんの負担も少なく、放射線を浴びる心配がないなどのメリットがあります。

  • ◆CT検査

    CT検査(CTスキャン)はいろいろな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影しコンピュータを使って 非常に鮮明な画像を得ることができます。周囲の臓器やリンパ節転移の有無を調べることができ癌の進行具合を調べるためには重要な検査になります。

  • ◆MRI検査

    MRI検査は磁場を使っていろいろな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影する検査です。 放射線の被曝がなく超音波検査では見分けの付きにくいがんもMRI検査で診断できる場合があります。がんの状況、近傍臓器との関係などをよく把握することができるため手術前の検査としては重要な検査です。

  • ◆PET検査

    現時点では限られた施設にしかありませんが、細胞分裂の盛んな細胞(癌)はエネルギー(ブドウ唐)を正常細胞よりも多く消費するという性質を利用した画像検査PET(ペット)が行われるようになってきました。 このPETとCTを組み合わせることで、画像診断の精度がさらに高くなります。

    検査ではまず、「フッ素18」という放射性物質を付けたブドウ糖(FDG)を静脈注射します。他の細胞と比較して異常な速さで増殖するがん細胞は多くのエネルギーを必要とし、ブドウ糖をより多く消費する性質があります。ブドウ糖はがんの部分に集まり、それだけ放射線を多く放出するので画像で濃く見えるのです。

    患者さんの苦痛がないことが大きなメリットです。

3)腹水細胞診

卵巣癌が腹腔内に拡がった患者さんの場合に、お腹の中に大量の腹水が溜まっていることがあります(それが産婦人科受診のきっかけになることもあります)。その場合は、お腹の上から細い針を刺し腹水を採取することで、腹水中に癌細胞がいるかを検査することができます。癌細胞を認めれば、癌によって腹水が溜まっていることが推定でき、進行がんであることが確認できます。

4)血液検査

卵巣癌では、血液中の腫瘍マーカー(CA125, CA19-9, CA72-4, CEAなど)が高値を示すことが多く認められます。

5)開腹所見

画像検査や内診だけで卵巣がんを確定することはよほど進行して転移が明らかな場合を除いてはありません。卵巣は身体の奥にあり、簡単に組織を採取することが不可能であるため、卵巣がんの確定診断には開腹手術が必要になります。最近では腹腔鏡を挿入して卵巣組織を採取する方法も行われるようになってきました。この方法では患者さんの負担が少ないというメリットがあります。

4.病期(ステージ)

卵巣がんと診断された場合、がんがどの程度拡がっているかの検査が行われます。病期に応じて治療方法が変わってきます。腹膜播種のような転移を術前に画像診断で見つけることは難しいので、病期は手術所見および手術後摘出物を検査した結果によって、決定されます。病期は次のように分類されています。

I期

がんが卵巣にだけにとどまっている状態。

II期

がんが卵巣の周囲、つまり卵管、子宮、直腸、膀胱などの骨盤内に拡がっている状態。

III期

がんが卵巣の周囲(骨盤内)の腹膜だけでなく上腹部にも拡がっているか、あるいは後腹膜リンパ節に転移している状態。後腹膜とは、腹腔の背側にある腹膜と背骨や背筋との間の領域で、大動脈、下大静脈、腎臓、尿管などのある場所です。後腹膜リンパ節を便宜上、大動脈周囲の傍大動脈リンパ節と骨盤内の骨盤リンパ節に分けます。

IV期

がんが腹腔外(肺など)に転移しているか、あるいは肝臓に転移している状態。

5.治療

【手術療法】

卵巣がんの手術でどの範囲まで切除するかはがんの拡がり具合や年齢などによって異なります。しかし、卵巣癌は腫瘍の残存が少ないほうが、その後の予後(生存率)がよいことが分かっています。

  • <卵巣切除術>

    I期のごく初期段階で、患者さんが妊娠を希望している場合には片側の卵巣だけを摘出しもう片方を残す場合があります。 しかし、卵巣がんは発見された時点で既に転移していることが少なくなく、がんが片側だけにしか確認できなくても転移の見落としを避けるために通常は両側の卵巣と卵管、そして子宮も含めて摘出します。

  • <大網切除術>

    大網とは胃から垂れ下がって、お腹の臓器を覆っている脂肪組織で、卵巣がんの転移が最も起こりやすい組織であるため卵巣がんの手術では、明らかな転移が認められなくても大網も卵巣や子宮などと一緒に切除することが一般的です。 手術後、切除した大網を顕微鏡で検査し転移が見つかればIII期以上の進行がんということになります。

  • <後腹膜リンパ節切除術>

    お腹の中は腹膜といわれる薄い膜で内張りされています。その背中側(腹膜と背骨の間)には大動脈や下大静脈、腎臓、尿管などが走っている部位があり、そこを後腹膜といいます。この後腹膜には多数のリンパ節があり、卵巣がんの転移が起こりやすい部位になるため、リンパ節への転移が疑われる場合は後腹膜リンパ節の一部あるいはほとんどを切除します。 卵巣癌では、リンパ節に転移が見つかった場合にはIII期以上の進行がんになります。

  • <他臓器合併切除術>

    卵巣がんが大腸や小腸などの腹腔内臓器に転移・浸潤している場合や肝臓に転移している場合にこれらの臓器を一緒に切除することもあります。 これは、卵巣癌は腫瘍の残存が少ないほうが、その後の予後(生存率)がよいことが分かっているためです。

【化学療法(抗がん剤)】

手術後に行われる化学療法は手術で癌が完全に取りきれなかった場合や、I期やII期でがんが完全に取りきれた場合にも再発防止の意味で、補助化学療法を行なうことが推奨されています。(基本的にIc期以上では行なわれます。)また、卵巣癌は抗がん剤が比較的良く効く癌種であるため、手術前に腫瘍を取りきることが困難であることが予想される場合など、抗癌剤治療を先行し癌を小さくしてから手術が行われる術前化学療法が行われることも多くなってきました。

卵巣がんの治療で使用される抗がん剤は、組織型によって適切な物が選択されますが、プラチナ系薬剤といわれる「シスプラチン (商品名:ランダ)」、「カルボプラチン(商品名:パラプラチン、 カルボメルク)」とタキサン系薬剤である「ドセタキセル(商品名:タキソテール)」や「パクリタキセル(商品名:タキソール)」とが組み合わせて使われることが多いです。

【放射線療法】

放射線療法は高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す治療方法です。 卵巣がんではほとんど使われることはありませんが、一部脳に転移した場合などに使われることがあります。 放射線の照射量には決まりがあり、無理をして大量の放射線照射を行うと強い副作用が出る可能性が高いため注意が必要です。

6.病期(ステージ)別治療

I期

手術によってがんのある卵巣を切除します。片側の卵巣、卵管だけを切除する場合と、両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除する方法があります。大網は一見して転移がない場合でも切除します。切除した大網を手術後検査すると顕微鏡的な転移が見つかることがあります。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。後腹膜リンパ節は、一部あるいは全てを摘出し、病理検査をします。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。

手術後、摘出物の顕微鏡的検査の結果、卵巣以外にがんが転移していないことがわかって、はじめてI期であることが確定します。 このような手術によって、I期であることが確定した場合、組織型なども含めて、その後の化学療法が必要かを決定されます。

II期

手術は両側の卵巣、卵管、子宮を転移のある骨盤腹膜を含めて切除する方法で行われます。直腸にがんの浸潤がある場合には直腸を含めて切除することもあります。大網は一見して転移がない場合でも切除します。切除した大網を手術後検査すると、顕微鏡的な転移が見つかることがあります。転移があれば、II期ではなくIII期ということになります。後腹膜リンパ節は、一部あるいは全てを摘出し、病理検査をします。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。 手術後、大網とリンパ節の顕微鏡的検査の結果、転移していないことがわかれば、はじめてII期であることが確定します。

このような手術によってII期であることが確定した場合、手術後、化学療法が行われます。

III、IV期

III、IV期のがんは進行がんとして同じように治療が行われます。III、IV期のがんは転移が広範囲にあるため、手術によって完全に切除することはできません。しかし、一部のがんが残ってもできるだけ多くのがんをとり除いたほうが症状を改善できるため、全身状態が耐えられれば、できるだけ多くのがんを切除します。病状によっては手術で大部分のがんがとれる場合もありますが、開腹したけれどほとんど何もとれずに終わる場合もあります(試験開腹)。手術前の検査によって、開腹しても切除は難しいと予測される場合は、まず化学療法を行ってがんを縮小させてから手術する方法もあります。

手術は両側の卵巣、卵管、子宮を、転移のある骨盤腹膜を含めて切除する方法で行われます。直腸にがんの浸潤がある場合には、直腸を含めて切除することもあります。大網、後腹膜リンパ節、脾臓、大腸、小腸の一部を転移したがんと一緒に切除することもあります。

手術後、残された腫瘍に対する治療として化学療法が行われます。抗癌剤の投与は静脈内投与が一般的ですが、お腹の中に癌の残存がある場合などでは、腹腔内抗癌剤投与が行なわれます。また、初回手術で切除できずに残った癌が、化学療法によって縮小し切除可能となった場合、再手術が行われることもあります。

再発

再発は治療により一度消失したかにみえたがんが再び増殖して見つかるようになった状態です。再発に対して以下の治療法のひとつが行われます。

  1. (1)手術

    再発が一部に限局している場合は、その部分を切除するだけで、再びがんのない状態が長く続くことがあります。再発が広範囲でがんを切除することができない場合でも、症状を和らげるための手術(例えば、胃瘻造設のための手術)を行うこともあります。

  2. (2)化学療法

    最初の抗がん剤が非常に有効であった場合は、通常6ヶ月以上後での再発に対しては同一の抗がん剤を投与します。しかしながら、6ヶ月以内の早期再発例には、違うタイプの抗癌剤を投与することが一般的です。また、腹水を抑えるために、腹水をとった後、腹腔内に抗がん剤を注入することもあります。

  3. (3)放射線療法

    脳転移した腫瘍に対しては化学療法でなく放射線の照射も有効な場合があります。

7.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。ここにお示しする生存率は、全国1988年の治療例(139癌登録施設)でのデータを掲載します。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。

Ⅰ期:90%  Ⅱ期:70%  Ⅲ期:25%  IV期:10%