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悪性胸膜中皮腫(あくせいきょうまくちゅうひしゅ)

悪性胸膜中皮腫とは

肺は胸膜という膜に包まれています。この膜の表面を覆っているのが中皮であり、中皮細胞のがん化により生じるのが悪性胸膜中皮腫です。胸膜は二重の膜となっており、外側の胸壁を覆っている膜を壁側胸膜と呼び、内側の肺を覆っている膜を臓側胸膜と呼びます。壁側胸膜の中皮細胞から発生した悪性胸膜中皮腫は、臓側胸膜に進展し、さらに近傍の組織やリンパ節、他の臓器に進展、転移していきます。

悪性中皮腫は胸膜のほかに心膜、腹膜、精巣鞘膜にも発生することがありますが、胸膜から発生する悪性中皮腫が最も多くみられます。男女では男性に多く、石綿(アスベスト)が発症の原因として明らかになっています。アスベストに暴露してから悪性中皮腫の発症までには40年程度かかると言われており、比較的最近までアスベストを大量に消費してきた本邦では今後、ますます患者数が増加することが予想されています。

アスベストについて

アスベストは自然界に存在する鉱物の一つであり、石綿といわれるように綿状の形態をした物質です。加工が非常に容易で、安価であり、物理化学的性質から断熱材、耐火材、摩擦材などにひろく使用されてきました。アスベストにはいくつかの種類がありますが代表的なのがクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、クリソタイル(白石綿)です。1959年に南アフリカの青石綿鉱山労働者において悪性胸膜中皮腫の報告がされてからアスベスト暴露との関連が注目されるようになり、1970年代の初頭には悪性中皮腫との因果関係が確認されています。悪性中皮腫を起こす危険性は青石綿が500に対して茶石綿が100、白石綿が1の比率といわれています。

アスベストの暴露に関しては作業現場で暴露する職業性暴露が多いのですが、工場周辺や幹線道路周辺などの屋外環境、吹き付けられたアスベストによる室内汚染などの環境による暴露も考えられます。アスベスト工場従業員の作業服を洗濯した家族からの悪性中皮腫の発症も報告されています。

症状

最も多く見られる症状は胸痛・背部痛、呼吸困難であり、発熱や咳などの症状も認められます。また、まったく症状が認められない場合もあり、健康診断で胸に水が貯まっていることを指摘され始めて病気の存在に気がつくこともあります。

悪性胸膜中皮腫の検査と診断

・アスベスト暴露歴の聞き取り調査

悪性中皮腫とアスベストの因果関係が示されていることからアスベスト暴露歴の聞き取り調査が非常に重要となります。石綿を扱う工場で働いたことがないか、建築業、造船業、断熱工事、ボイラーを扱う仕事、自動車修理工場での仕事などの職業歴確認をおこないます。悪性中皮腫の発症は暴露から40年程度の長い時間を経て発症するため、仕事の具体的内容や取り扱っていた物質などをよく思い出すことが大切です。また、居住環境なども重要で工場周辺や廃棄物処理場周辺での居住歴も思い出してみてください。

・胸部画像検査

胸部X線写真や胸部CTの撮影をおこないます。胸部X線写真にて胸に水が貯まっている場合(胸水貯留)、胸膜の肥厚や腫瘤を認める場合は悪性中皮腫の可能性があります。胸部CTでは胸膜の状態や肺内の病変、周囲組織への進行具合などを詳しく見ることができます。

・胸水検査

悪性胸膜中皮腫では胸水貯留を認めることが多く、体の表面から針を刺し、胸水を抜いて、胸水に含まれる細胞を顕微鏡で調べる胸水細胞診が行われます。この胸水細胞診で腫瘍が検出される頻度は約30%と言われており、胸水で腫瘍細胞が検出されなかったからといって悪性中皮腫は否定できません。さらに腫瘍細胞が検出されても肺がんなど他のがんとの鑑別が困難である場合もあり、胸膜の組織を採取する胸膜生検を行い詳しく調べる必要があります。

また、胸水中のヒアルロン酸を測定し高値であるかどうかを調べます。

・病理組織検査

針をさして胸膜の組織を採取する針生検も施行されますが、回収される組織が少ないために胸水細胞診と同様に針生検でも確定診断に至らない場合があります。そこで胸腔鏡と呼ばれるカメラを使用して胸膜の組織をしっかりと採取してくる方法がとられます。胸腔鏡では肥厚した胸膜面に広がる大小不同の顆粒状腫瘤性病変をカメラで観察しながら組織を採取することが可能なため診断率も向上します。このように採取した胸膜組織を顕微鏡で調べたり、組織を特殊な方法で染色して最終的に確定診断を行います。

・悪性胸膜中皮腫の組織型

病理組織検査により悪性胸膜中皮腫は上皮型、肉腫型、二相型の3つの組織型にわけられます。

上皮型

悪性胸膜中皮腫のうち60%程度がこの型で、抗がん剤などの治療が比較的効くといわれ、この組織型が最も予後が良いといわれています。

肉腫型

骨や筋肉に発生する肉腫と同じような組織像を示す型です。悪性胸膜腫瘍のうち10%から20%がこの組織型です。

二相型

腫瘍組織内に上皮型と肉腫型とみなしうる組織型が混在する型です。

・バイオマーカー

ヒアルロン酸

胸水中で著明な上昇を認めた場合は診断的価値が高くなります。

可溶性メソテリン関連蛋白(SMRP)

中皮細胞に発現する糖蛋白の一つであるメソテリンの関連蛋白を測定する方法です。診断および病勢進行のマーカーとして注目されています。

オステオポンチン

がんの進展や転移に関する機能をもつオステオポンチンを測定することにより悪性胸膜中皮腫と良性の胸膜疾患を鑑別するマーカーとして注目されています。

病期(ステージ)

International Mesothelioma Interest Group(IMIG)の病期分類

Ⅰa期

壁側胸膜に限局しており、臓側胸膜には腫瘍を認めない。

Ⅰb期

壁側胸膜から臓側胸膜に腫瘍が散らばる

Ⅱ期

胸膜のほか肺へ腫瘍が広がる。または胸膜全体に広がる。

Ⅲ期

切除可能な範囲で胸壁や縦隔脂肪織などへ広がる。

Ⅳ期

横隔膜や縦隔臓器や反対側の胸膜などへ広がり、遠隔の臓器や組織に広がる。

治療方法

治療方針は病期分類によって決定されますが、標準的治療法が確立されているわけではありません。外科治療、抗がん剤治療(化学療法)、放射線療法およびこれらを併用した集学的治療が行われます。

・外科治療

外科治療は早期の限られた病期において考慮されます。胸膜、心膜、横隔膜と肺をひとまとめに全てを切除する胸膜外肺全摘術が行われます。非常に侵襲の大きい手術であるため比較的若く、日常生活に支障のない方(Performance Statusが良好な方)が適応となります。根治を目指すためには胸膜外肺全摘術に化学療法や放射線療法を併用した集学的治療が重要であり、現在も臨床試験が行われています。

・抗がん剤(化学療法)

化学療法は手術で切除できない進行した悪性胸膜中皮腫や再発した悪性胸膜中皮腫に対して施行されます。また、集学的治療の一環として外科治療と併用されることもあります。

・ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法

化学療法は葉酸代謝拮酵素を阻害するペメトレキセドと白金製剤のシスプラチンを併用した投与法が現在では第一選択とされています。ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法は3週間を1コースとして治療効果が認められる限り繰り返し治療を行います。また、副作用を抑えるために治療を受ける前から葉酸とビタミンB12の投与が必要であり、決められた量を決められた期間だけ投与します。また、発疹予防のために化学療法の前日、当日および翌日にステロイド剤の内服をしてもらいます。この治療法は生存期間の延長が臨床試験によって確認されている方法です。

・放射線療法

放射線を腫瘍が存在する範囲に照射して腫瘍を縮小させる方法で手術後の再発予防や痛みを緩和する目的で使用されます。集学的治療の一環として手術後に放射線療法が施行される場合があります。

補償・救済制度

悪性胸膜中皮腫などのアスベストによる健康被害を受けられた方及びそのご遺族には下記の2つの補償・救済制度があります。

① 労働者災害補償保険法による保険給付

② 石綿による健康被害の救済に関する法律による救済給付

詳しくは都道府県労働局、労働基準監督署に問い合わせてみられるとよいでしょう。