1.上顎がんとは
鼻腔の周囲には副鼻腔と呼ばれる空洞が左右4つずつ存在します。各副鼻腔は鼻腔とつながり、内部は薄い粘膜で内張りされており、空気が入っています。副鼻腔は、鼻から吸い込んだ空気の加湿や温度の調節、のどで発せられた声の共鳴、などを行っています。副鼻腔のうち頬にあるものを上顎洞といいます。上顎洞は最も大きな副鼻腔で、鼻腔の外側に位置します。この上顎洞から発生したがんのことを上顎がんといいます。がんを顕微鏡で観察すると様々な型に分けられます(病理型)。上顎がんは、他の頭頸部がん(咽頭がん、喉頭がん、口腔がんなど)と同様に大部分が扁平上皮がんと呼ばれるがんです。
2.症状
上顎洞は周囲を骨に囲まれているため、がんが上顎洞内にとどまっている状態では無症状のことが多いのですが、がんが大きくなると以下のような症状があらわれます。
- 鼻閉
- 鼻血、血性の鼻漏
- 鼻や頬の痛み、頭痛
- 上顎歯の痛み、入れ歯の不適合、開口障害
- 眼球の突出、視力障害、複視
3.診断
上記のような症状がある場合、まず通常の耳鼻咽喉科診察(前鼻鏡検査:鼻腔に光をいれて観察する)と顔面のレントゲン検査を行います。次にがんかどうか調べるため、さらに以下の検査を行います。
1)鼻腔ファイバースコープ
細径のファイバースコープを用いて鼻の中を観察します。副鼻腔の内部までは観察できません。がんが鼻腔にまで広がるとファイバースコープでがんを確認することができます。
2)生検
異常な組織を採取して、顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を調べます。前鼻鏡検査や鼻腔ファイバースコープで組織が採取できない場合は、歯茎の切開手術や鼻内視鏡手術で組織を採取します。
3)CT
鼻副鼻腔周囲の骨の破壊や、頸部リンパ節転移、肺など他部位への転移の診断に用いられます。
4)MRI
鼻副鼻腔にあるがん組織と炎症(がんが大きくなると副鼻腔炎なども発症する)を区別したり、眼や脳など周囲組織への浸潤の有無の診断に用いられます。
5)核医学検査
PET検査などの核医学検査で遠隔転移の有無を調べます。
4.病期(ステージ)
上記の検査で上顎がんと診断され、がんの広がりや転移の有無を調べたら、それらをもとに進行度(病期)を決定します。病期は0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、ⅣA、ⅣB、ⅣCに分類されます。
0期
がんが、上顎洞粘膜のもっとも浅い部分にのみみられる場合。
Ⅰ期
がんが、上顎洞粘膜内にとどまっている場合。
Ⅱ期
がんが、上顎洞周囲の骨に達しているが、上顎洞後壁や頭蓋底(頭蓋骨の底部)には達していない。
Ⅲ期
がんが、上顎洞後壁の骨、皮下組織、眼窩(上顎洞の上方にあり、眼球や視神経が存在する場所)、頭蓋底、篩骨洞(眼の内側に広がる副鼻腔)のいずれかに達している。
もしくは
上顎がんと同側の頸部にリンパ節転移(大きさが3センチ以下)を1つ認め、さらにがんが、上顎洞、上顎洞周囲の骨、皮下組織、眼窩、頭蓋底、篩骨洞のいずれかに存在する場合。
ⅣA期
上顎がんと同側の頸部にリンパ節転移(3センチをこえるが6センチ以下)を1つ認める、もしくは対側を含めた頸部にリンパ節転移(6センチ以下)を複数認め、さらにがんが、上顎洞、上顎洞周囲の骨、皮下組織、眼窩、頭蓋底、篩骨洞のいずれかに存在する場合。
もしくは
複数の頸部リンパ節転移(6センチ以下)を認め、さらにがんが、眼の前部、頬の皮膚、前方の頭蓋底、下顎の奥、蝶形骨洞(鼻腔の最後部にある副鼻腔)、前頭洞(額にある副鼻腔)のいずれかに広がっている場合。
ⅣB期
大きさが6センチをこえる頸部リンパ節転移をみとめる場合。
もしくは
眼窩の後部、脳、側方や中央の頭蓋底、咽頭上部のいずれかに広がっている場合。
5.治療
上顎がんの治療には、手術でがんを切除する方法、放射線を照射してがんを死滅させる方法、抗がん剤を投与してがんを死滅させる方法、があります。
①手術
手術は、上顎洞のがんに対して行われる手術と、頸部のリンパ節転移に対して行われる手術があります。
1)上顎洞に対する手術
がんの場所や広がりによって以下のような手術方法があります。
- 上顎部分切除術
上顎洞の骨の一部をがんとともに切除します。
- 上顎全摘術
上顎洞の周囲の骨すべてをがんとともに摘出するが、眼球は残します。
- 拡大上顎全摘術
上顎全摘術と同時に眼球も摘出します。
- その他
開頭手術を併用して、顔面と頭蓋内の両方からがんを摘出する方法もあります。
上顎洞に対する手術は、顔面の傷や変形、眼球の損失、上あごの欠損、などを伴う場合があります。それらを補うため、再建外科手術、特殊な入れ歯や義眼の作成、が行われます。
2)頸部リンパ節転移に対する手術
- 頸部郭清術
頸部リンパ節を周囲の脂肪組織をつけて摘出します。転移リンパ節の数や広がりによって手術範囲が異なります。
②放射線療法
高エネルギーのX線を照射してがん細胞を死滅させる治療法です。通常は1日1回の照射を30回から35回行います。前述した手術や、後述する抗がん剤を併用することもあります。
③化学療法
抗がん剤を用いてがん細胞を死滅させる治療法です。抗がん剤の投与方法には、口から飲む方法、静脈注射により投与する方法、がんの栄養動脈に投与する方法(超選択的動注化学療法)、があります。
1)内服投与
一部の抗がん剤は内服できるよう錠剤が開発されています。副作用が比較的軽く、通院で治療を受けることができます。通常は、手術や放射線化学療法などの一次治療が終了した後の二次的な治療として投与されます。
2)静脈投与
静脈から点滴投与する方法です。抗がん剤が全身を回るため副作用が現れやすく、通常、入院治療で行われます。上顎癌に対しては、2ないし3種類の抗がん剤を併用します。
3)(超選択的)動注化学療法
がんの栄養動脈から抗がん剤を投与する方法です。股の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を顔面の血管まで進め、造影剤で動脈を映しながらがんの栄養動脈を探します。栄養動脈が見つかったら、そこから抗がん剤を投与します。静脈投与に比べて多量の抗がん剤を直接投与することができるため高い抗がん効果が期待でき、同時に中和剤を点滴できるので抗がん剤の副作用を軽減することができます。
上顎がんは、原発部位の病期が進んでいるにもかかわらず所属リンパ節や遠隔転移の頻度が少ないために、従来から多くの施設で動注化学療法を行なっています。この治療法は一般には放射線治療と同時に行います。
6.病期別治療法
進行度により、治療法が異なります。一般的に、以下のような治療を行います。
Ⅰ期
放射線療法、あるいは手術
Ⅱ期
放射線療法、あるいは手術とその前後に放射線療法
Ⅲ期
手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて行う(3者併用療法)
Ⅳ期
3者併用療法
7.生存率・予後
上顎癌全体の5年生存率は、病期や治療法の選択により違いがありますが、約50〜70%です。1960年代は約30%、80年代では40〜50%程度でしたので、以前よりも治療成績の向上がみられます。
病期別の5年生率は、病期ⅠとⅡで70〜90%、病期Ⅲで60〜70%、病期Ⅳで30〜50%程度です。
