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喉頭がん(こうとうがん)

1.喉頭がんとは

喉頭の位置はいわゆる「のどぼとけ」(甲状軟骨先端)のある場所ですので、外部からも認識が可能です。喉頭は上述の甲状軟骨と輪状軟骨が支え骨となっている内面が粘膜でおおわれた箱のようなものです。喉頭の内腔は上前方は舌根(ぜっこん:舌のつけ根)につながり、上から喉頭蓋、仮声帯、室、声帯、声門下腔に分けられ、下方は気管から肺へ続いています。声帯は左右一対で「のどぼとけ」のやや下に位置しています。声帯のある部分は声門と呼ばれ、それより上を声門上、下を声門下と呼んでいます。喉頭の背側(後方)には下咽頭と呼ばれる部位があり、こちらは食道へ続いています。喉頭の役割は、1) 肺からの呼気により声帯を振動させる発声機能、2) 空気の通り道(気道)の確保、3) 食物が気管の内へ入ってむせることを防ぐ(誤嚥防止:ごえんぼうし、)です。喉頭がんが進行するとこれらの喉頭の機能障害を引きおこします。

喉頭がんのリスクファクターはお酒とタバコです。喫煙および飲酒によって、確実に喉頭がんのリスクが高くなります。喫煙と飲酒はそれぞれが別々に、または双方が相乗的に働いて、喉頭がん発生のリスクを確実に高くします。その他、アスベストなどの職業性の曝露(ばくろ)との関連が指摘されています。

年齢別にみた喉頭がんの罹患率は、男性では50歳代から80歳代まで急激に増加します。女性でも年齢別の罹患率は高齢ほど高くなりますが、年齢による罹患率の増加は男性ほど顕著ではありません。罹患率、死亡率は、ともに男性のほうが高く、女性の10倍以上です。

部位では、声門(声帯)に発生するがんが60〜65%を占め、声門上は30〜35%で、声門下は極めて少なく1〜2%です。喉頭がんはほとんど扁平上皮がんというタイプの病理組織型です。

喉頭がんも他のがんと同様に早期発見が非常に重要です。喉頭がん全体の治癒率は約70%と頭頸部がんの中でも高い治癒率ですが、早期に発見すれば音声を失うことなく治癒することが可能です。そのため最近では、喉頭がんの早期発見を目的とした音響分析による検診なども試みられています。

2.症状

がんの発生部位により最初の症状は異なります。最も多い声門がんでは、ほぼすべての方に声がれ(医学用語では嗄声「させい」といいます)がみられます。この声がれは雑音の入った、ざらざらした、かたい声です。しかし、一般の方には声がれの質的な診断は難しいので 2週間以上声の異常が持続する場合は、すぐに専門医を受診することが大切です。がんが進行すると 声がれはさらにひどくなります。さらに、声門が狭くなって息がしづらい、息苦しいなどの呼吸困難症状があらわれてきます。同時に痰に血液が混じることもあります。

声門上がんの最初の症状は、食物を飲み込んだ時の痛み、いがらっぽさ、異物感などです。また、次第に耳にツーンとくる痛み(「放散痛」といいます)が出現してきます。がんが進行して声帯に拡がると声門がんと同様に、声がれや呼吸困難などの症状が出てきます。声門下がんは、進行するまで無症状であるため、発見が遅れがちとなります。進行したときの症状はやはり、声がれ、血痰、呼吸困難です。

喉頭にがんなどの所見がなく声がれが持続する場合は、声帯を動かす神経の通り道にがんが存在することがあります。そのような場合、甲状腺、食道の精密検査を行うことが大切です。

声門がんは頸部のリンパ節転移が少ないのに対し、声門上がんではリンパ節転移を多く認めます。まれに頸部リンパ節のはれが初発症状で病院を受診し、声門上にがんが発見されることもあります。これは、声門がんでは自覚症状が早期より出現するため、早期に発見される場合が多いことの他に、喉頭の構造的特徴によると考えられます。

3.診断

喉頭がんの診断は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診した時に行われる視診と、生検と呼ばれる病変の一部を採取して行われる組織診断により確定されます。視診は、口腔内に喉頭鏡という小さな鏡を入れて、「えーっ」、「いーっ」などの発声をしながら喉頭内を観察し、腫瘍性病変の有無をみますが、咽頭反射が強い(舌をひっぱられるとゲェーッとなる)など所見のとりにくい方には、鼻から細いファイバースコープを挿入して観察します。組織診断は施設により多少方法が異なりますが、咽頭、喉頭を局所麻酔剤で麻酔して咽頭反射をおさえた後、先ほどよりやや太めのファイバースコープを用いて細かな部位まで観察し、次いで鉗子(かんし)により病変の一部を採取します。これを病理医が顕微鏡で見て、「がん」かどうかの診断を行います。生検は全身麻酔下で行われることもあり、その場合には入院が必要です。組織診断は、通常1週間前後で結果が出ます。

がんの進行範囲を把握するためには、視診による直接的な観察の他に画像診断が必要となります。この検査はがんが見えにくい部位、深部へどのくらい入り込んでいるかを判断する上で非常に有用です。頸部正面、側面撮影の他、頸部の断層撮影、CT、MRIなどの検査を行います。また、転移の広がりをみるためにFDG-PETなどの核医学的検査を行うこともあります。

また、声帯の振動様式により喉頭の病気を診断する喉頭ストロボスコピーと呼ばれる検査を行うこともあります。

4.病期(ステージ)

原発巣はがんの進展の程度により、1〜4の4段階に分類されます(T分類)。声門がんでは、T1はさらにaとbに分類されます。頸部リンパ節は大きさ、個数によって大きく0〜3の4段階に分類されています(N分類)。

通常は、T、Nと遠隔転移の有無(M分類)を総合判断して病期を決定します。この病期は4分類されています。

I期

がんが1亜部(喉頭とさらに小さい単位に分けたもの)にとどまっている状態。

II期

喉頭内の隣接亜部位まで進展しているが、喉頭内にとどまっていて、さらに、頸部リンパ節転移も遠隔転移もしていない状態。

III期

喉頭内にがんがひろがり声帯が全く動かなくなったり、3cmより小さい頸部リンパ節転移を1個認めるが、遠隔転移はしていない状態。

IV期

がんが喉頭を越えて咽頭や頸部に進展する、頸部リンパ節転移が多発する、あるいは転移リンパ節が6cm以上となる、またはがんと反対側の頸部リンパ節に転移する、遠隔転移を認めるといった状態。

I、II期は早期がん、III、IV期は進行がんです。1997年の全国集計では、I期:40%、II期:24%と早期がんが過半数を占めています。

5.治療

原発巣(喉頭にできたがんの部分)の治療は、 放射線療法 (体外から照射する)と外科療法が2本の柱となります。放射線療法や外科療法でも治癒する可能性がある場合の治療の選択は、年齢、全身状態、職業などを考慮した上で、それぞれの治療の長所、短所を十分説明して決定します。

外科療法:がんの原発部位の周辺だけを切除する喉頭部分切除術と、喉頭をすべて摘出する喉頭全摘出術に分けられます。喉頭部分切除術は早期がんに、喉頭全摘出術は進行がんに施行されます。多くの場合、 頸部リンパ節転移に対する治療は、一側または両側の耳後部から鎖骨までの範囲のリンパ組織を含んだ部分を切除する頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)ですが、切除不可能な場合は放射線療法を行うことがあります。

放射線治療:体外から放射線を一日1回、1週間に4〜5回の間隔で合計30〜35回照射する方法が一般的です。

化学療法:抗がん剤による化学療法単独で喉頭がんを治療することは難しいと考えられています。前世紀には喉頭を温存するために放射線療法や外科治療に先立って施行されるか、手術不可能な場合、再発で他に治療法のない場合などに行われてきました。しかし、最近は従来標準治療として喉頭全摘出が行われていた症例に対しても、放射線と強力な化学療法との同時併用治療を行い、喉頭の温存をはかる治療も行われています。一般に根治を目指した化学療法は静脈注射で投与されることが多いのですが、最近では、腫瘍にいく血管を選んで高濃度の抗がん剤を癌に到達させる方法や抗がん剤内服薬を併せた治療法オプションがあります。分子標的治療薬を併用した治療については実験的な段階です。

免疫療法:身体の免疫機能を非特異的に高めたり、がん細胞を特異的に殺す免疫担当細胞を体外で増やして患者の体内に戻したりするなどの種々の免疫療法が試みられています。しかし、いずれも実験段階であり、現状では喉頭がんに有効な免疫療法はありません。

原発巣の治療法は以下のとおりです。

1)声門がん

(1) T1
  • 放射線療法
  • 喉頭部分切除術
  • レーザー治療

ほとんどの場合放射線療法が行われますが、がんの存在部位、腫瘍型によっては放射線療法の効果がない場合もあり、最初から喉頭部分切除術が選択されることもあります。また、がんが限局している場合、レーザーによる切除が行われることがあります。

(2) T2
  • 放射線療法
  • 喉頭部分切除術
  • 喉頭全摘出術
(3) T3
  • 喉頭全摘出術
  • 喉頭部分切除術
  • 放射線療法

基本的には、喉頭全摘出術が第一選択の治療法です。しかし、放射線療法でも制御されるものもあり、まず放射線療法を行い、再発した時に喉頭全摘出術を行う方法もあります。

(4) T4
  • 喉頭全摘出術

2)声門上がん

(1) T1
  • 放射線療法
  • 喉頭部分切除術

がんの発生部位により、放射線療法の効果が異なりますので、その点を考慮して放射線療法か喉頭部分切除術を選択します。

(2) T2
  • 放射線療法
  • 喉頭部分切除術
  • 喉頭全摘出術
(3) T3
  • 喉頭全摘出術
  • 喉頭部分切除術
  • 放射線療法

声門がんと同様に、まず放射線療法を行い、再発した時に喉頭全摘出術を行う方法もあります。

(4) T4
  • 喉頭全摘出術

3)声門下がん

(1) T1
  • 喉頭部分切除術
(2) T2
  • 喉頭部分切除術
  • 喉頭全摘出術
(3) T3、T4
  • 喉頭全摘出術

放射線療法が第一選択の治療となるものはありません。がんが前方に限局しているものでは、喉頭部分切除術で制御できることもあります。声門下がんは症状が出にくいため、病院を受診された時には進行しており、喉頭全摘出術を選択せざるを得ないことが多々あります。

放射線療法後の再発に対する治療は、喉頭全摘出術を施行することが最も安全な方法ですが、治療前と再発時の所見から喉頭部分切除術で制御できる場合もあります。

6.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。

ですから、ここにお示しする喉頭がんの生存率は、金沢大学病院を含めたいくつかの病院から報告されているおおまかな数字です。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。

がんの発生部位により治療成績は多少異なりますが、I期では放射線療法で90%以上治ります。I〜IV期全体では、65〜70%の5年生存率が得られます。

7.治療上の問題点(合併症)

放射線療法は、音声の面からもほぼもとの声に回復して、よい治療法といえますが、後年照射部位に放射線が誘因となって新しいがん(二次がん)が発生する場合もあります。また、がんが残ったり再発した場合には救済手術を計画しますが、その際、創部の治りが遅く、縫合不全を起こしやすくなると考えられています。

喉頭部分切除では、一般に会話は可能となりますが、切除範囲により声がれの程度はまちまちです。また、特に切除範囲が大きい時などに誤嚥(ごえん:誤って気道に飲食物が流れる)をおこし、むせて食事がしにくいことがあります。通常は一時的なもので、食事の訓練をしたり、食べ方を工夫することでよくなっていきます。どうしてもよくならない場合は喉頭全摘出術の適応となります。喉頭全摘出術では、もとの声が全く失われる(失声:しっせい)状態となります。しかし、食道発声や電気喉頭の使用により、新しい音声を獲得することができます(詳しくは「 発声障害(失声) 」を参照して下さい)。食事については、喉頭全摘出後でも治療前とほぼ同じようなものを食べることが可能です。