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下咽頭がん(かいんとうがん)

1. 下咽頭がんとは

1) 下咽頭の構造と働き

鼻や口の奥にある部分を咽頭といいます。咽頭は全長約13センチの中空の管で、鼻の後方から始まって、気管、食道の入り口まで連続しています。咽頭は上・中・下に分類されていて、下咽頭は咽頭のなかで最も下の部位で、下方は食道と、前方は喉頭と繋がっています。食べ物が食道に送られる際には、この下咽頭の中を通過していきます。

2) 下咽頭がんの発生

下咽頭がんは粘膜の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生します。最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでいますが、細胞がなぜがん化する(無秩序に増える悪性の細胞にかわる)のかまだ十分わかっていません。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に広がり、多くの場合腫瘤(しゅりゅう)を形成します。他の臓器にがんが広がることを転移と呼びます。

3) 下咽頭がんの統計

頭頸部がんの発生頻度は少なくがん全体の約5%といわれています。下咽頭がんは、頭頸部がんの約10%にすぎません。男性は女性の4−5倍の頻度で発生し、全体の60%以上は50−60歳代で発症します。組織学的にほとんどの下咽頭がんは、扁平上皮細胞(中咽頭の表面を覆っている薄く扁平な形をした細胞)から発生するがんです。

4) 下咽頭がんの原因と予防

下咽頭がんの原因として最も因果関係がはっきりしているのは喫煙習慣と過度の飲酒です。従って、長期の飲酒歴・喫煙歴のある人は注意を要します。

2. 症状

下咽頭がん症状としては、食べ物を飲み込むときの違和感、しみる感じなどです。ときに耳の奥にひびく様な鋭い痛みを伴うことがあります。進行するにつれてのどの痛みや飲み込みにくさ、話しにくさ(声がれ)、といった症状が現れ、出血・呼吸困難・嚥下障害などの深刻な症状が出現してきます。しかし、がんのできる部位や大きさにより症状が出にくい場合もあり、症状がないからといって安心はできません。 下咽頭がんは頸部のリンパ節に転移しやすく、初診時に約60%の人が転移しています。頸部のリンパ節の腫脹が唯一の症状であることもあります。

3. 診断

1)視診

下咽頭は構造上直接の観察が難しい部位です。そのため間接喉頭鏡という鏡を用いたり、鼻から細い内視鏡を挿入して観察します。

2)触診

リンパ節転移の有無を調べ、また転移リンパ節の性状を調べるために頸部を触診します。

3)病理検査

がんが疑われる部分から小さな肉片を採取し、病理組織検査により診断を確定します。

4)上部消化管内視鏡検査

食道がんの合併が多いので、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を施行して重複がんがないか検査します。

4. 病期・ステージ

下咽頭がんと診断されると、がんが下咽頭から他の臓器に広がっていないかどうか、さらに詳しい検査が必要になります。

通常行われる検査としては、CT検査あるいはMRI検査(磁石の原理を応用した磁気共鳴装置と呼ばれる機械を使った検査)があります。臓器や組織を鮮明に映し出すために、静脈内に造影剤を注射することがあります。最近では感度と特異性の高いPET検査(放射性同位元素を用いた検査)を行うことがあります。また、一般の血液検査に加え、腫瘍マーカーと呼ばれるがん細胞によって産生される物質の検査も行います。一般的には、扁平上皮がんで上昇することの多いSCCやCYFRA(シフラ)を測定します。

I期

がんが下咽頭の一つの部位にとどまっている、大きさが2センチ以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない場合。

II期

がんが下咽頭の二つ以上の部位におよぶか、大きさが2センチを超えるが4センチ以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない場合。

III期

がんが下咽頭の一つあるいは二つ以上の部位におよび、同側の頸部に3センチ以下のリンパ節転移が1個のみ認められる場合。がんが喉頭の中に入り込んでいて、声帯(声を出す所)が動かない状態か、がんの大きさが4センチを超え、頸部リンパ節転移がないかあるいは同側の頸部に3センチ以下のリンパ節転移が1個のみ認められる場合。

IV期

がんが下咽頭を超えて周囲組織(骨、軟骨、筋肉など)に拡がっている場合。頸部リンパ節転移が2個以上認められる、あるいは6センチを超える大きさになる、あるいは反対側の頸部に出現した場合。遠隔転移(腫瘍が頸部以外の他の臓器に転移すること)が認められた場合。

5. 治療

がんの病期、今までにかかった病気や現在かかっている病気、心臓、肺、腎臓や肝臓などの臓器の機能や、一般的な健康状態に基づいて治療の方法を選択します。下咽頭がんの治療法は手術療法と放射線療法です。

1) 手術療法

下咽頭がんでは、全ての病期で手術が一般的な治療法となっています。がんとがん周辺の正常組織を切除します。がんの手術では周りに十分な正常組織を付けて切除するのが一般的です。小さながんの場合、切除後に直接創部を縫合閉鎖して閉じることができる場合はありますが、ある程度大きい場合食べ物を飲み込む機能が残らないため、腹部から腸を採取したり腕から皮膚を採取して、それで食道を再建する必要があります。一方、下咽頭がんは高率に頸部リンパ節の転移を来します。そのため、ある程度進行した下咽頭がんでは原発巣とともに頸部のリンパ節をともに切除する場合があります(頸部廓清術)。

2) 放射線療法

放射線療法は、X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺したりその増殖を阻止したりする、がんの治療法です。放射線療法の実施方法はがんの病期によって異なってきます。下咽頭がんの場合、照射範囲は頸部と下咽頭を含めた範囲になります。通常30回程度に分割して照射を行い、1回の照射に要する時間は数分です。通常、1日1回週5回照射を行いますから6−7週間程度の治療期間となります。また、術後がんが残っている可能性がある場合や再発を予防するために放射線療法を追加する場合があります。

3)抗がん剤による化学療法

下咽頭がんに対しては、化学療法のみ単独で行われることはほとんどありませんが、放射線療法と組み合わせることによって、治癒率の向上をめざしています。

6. 病期別治療

I期

次の治療が選択されます。

  • 放射線単独療法

II期

  • 手術療法と放射線療法の併用
  • 放射線療法と化学療法の同時併用

この病期の下咽頭がんでは、複数の治療法を併用して治療します。

III期

  • 手術療法と術後放射線療法の併用:下咽頭の腫瘍を切除します。切除後の欠損は腸あるいは腕から採取した皮膚による再建を必要とします。下咽頭がんは高い頻度で頸部リンパ節に転移するため、下咽頭がんとともに頸部リンパ節を切除します(頸部廓清術)。術後、放射線療法を追加します。
  • 放射線療法と化学療法の同時併用:放射線療法の効果を増強するため、あるいは抗がん剤との相乗効果を期待して、放射線療法と抗がん剤の同時併用療法を行います。抗がん剤の投与法には、静脈から投与する方法や、動脈から投与する方法があります。

この病期の下咽頭がんでは、手術療法と術後放射線療法の併用が標準的です。ただし、術後の機能的問題や審美的問題など様々な問題を考えた上で治療法を選択する必要があります。

IV期

手術療法が可能な場合:

  • 手術療法と術後放射線療法の併用:下咽頭の腫瘍を切除します。切除後の欠損は腸あるいは腕から採取した皮膚による再建手術を必要とします。下咽頭がんは高い頻度で頸部リンパ節に転移するため、下咽頭がんとともに頸部リンパ節を切除します(頸部廓清術)。術後、放射線療法を追加します。
  • 放射線療法と化学療法の同時併用:放射線療法と抗がん剤との相乗効果を期待して、放射線療法と抗がん剤の同時併用療法を行います。抗がん剤の投与法には、静脈から投与する方法や、動脈から投与する方法があります。

手術療法ができない程進行している場合:

  • 放射線療法と化学療法の同時併用:放射線療法と抗がん剤との相乗効果を期待して、放射線療法と抗がん剤の同時併用療法を行います。抗がん剤の投与法には、静脈から投与する方法や、動脈から投与する方法があります。

7. 生存率

1988-2000年の13年間に根治治療を行った下咽頭癌の治療成績を、下咽頭がん以外の原因で亡くなった方を除いた場合の5年生存率は以下の通りです。

病期I: 100%、病期II: 75%、病期III: 67%、病期IV: 32%

生存率は、通常がんの進行度別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病など)にも影響を受けます。用いるデータにより、他の要因の割合が異なるため、生存率が異なる場合があります。従って、生存率については一定の幅(±5−10%)を持たせて、一定の目安として参考にして下さい。