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慢性骨髄性白血病(まんせいこつずいせいはっけつびょう)

1.慢性骨髄性白血病とは

赤血球・白血球・血小板といった血液細胞は、骨の中にある「骨髄」でつくられます。骨髄中には、これらすべての血液細胞の基になる「造血幹細胞」があります。慢性骨髄性白血病は、この造血幹細胞自体が「がん」になってしまう病気です。

正常な造血幹細胞は、骨髄の中でそれぞれの血液細胞に成長(専門的には「分化」といいます)したあと、血液中に送り出されます。急性骨髄性白血病では、この分化が早い段階で止まってしまい、「芽球」とよばれる最も幼若な「赤ちゃん細胞」が増加します。一方、慢性骨髄性白血病では、正常な場合と同じように様々な段階まで分化した「おとなの細胞」が増加します。「白血病は白血球が増加する病気」とのイメージがあると思いますが、急性白血病と慢性白血病では、増加している白血球(白血病細胞)の成熟度が全く異なります。慢性骨髄性白血病は急性骨髄性白血病が慢性化したものではなく、全く別の疾患です。

我が国における年間の発症率は、人口10万人に対しおおよそ1人です。慢性骨髄性白血病は造血幹細胞に生ずる染色体異常(遺伝子異常)が原因で発症するとされていますが、その異常が起こる原因についてはわかっていません。広島や長崎といった被爆地で慢性骨髄性白血病の患者さんが増加した悲しい経験から、放射線被爆により慢性骨髄性白血病の発症率が高まることが知られていますが、その原因についても分かっていません。

2.慢性骨髄性白血病の発症機序

「がん」は一般的に、細胞の中の「遺伝子」に異常が生じたために、細胞が勝手に増殖する疾患と考えられています。しかし、ほとんどのがんでは、原因となる遺伝子異常は特定されていません。ところが、慢性骨髄性白血病では、95%以上の患者さんに「フィラデルフィア染色体」という特殊な染色体が見つかり、この染色体上にある異常な遺伝子(bcr/abl融合遺伝子)が、発症の原因であることがわかっています。

少し、専門的なお話をします。ヒトには46本の染色体があります。1番から22番まで番号が付された染色体がそれぞれ2本ずつと、男性ならX染色体とY染色体、女性ならX染色体が2本で計46本です。慢性骨髄性白血病では、このうちの9番目と22番目の染色体の一部がそれぞれ途中からちぎれ、その切れた部分が互いに入れ替わります。これを相互転座といいます。その結果、新たにできた22番染色体(正常の22番染色体より短くなっています)が「フィラデルフィア染色体」です。染色体は遺伝子の集合体です。2本の染色体の相互転座の結果、新たに生じたフィラデルフィア染色体上には、bcr/abl融合遺伝子という新しい遺伝子が出現します。この遺伝子によって作られる異常な蛋白が、白血病細胞を無秩序に作りだす原動力となっています。

なお、慢性骨髄性白血病は遺伝子の異常が原因で発症する病気ですが、遺伝病ではありません。したがって、ご両親から遺伝したものではなく、また、お子様に遺伝することもありません。

3.症状(受診のきっかけ)

ほとんどの患者さんは自覚症状が全くない時期に、たまたま見つかります。健康診断などの血液検査で白血球増多を指摘されたことが、診断のきっかけになっていることが多いようです。一方、白血球増多を指摘されていながら放置していると、脾腫(脾臓が腫れること)が出現し、腹部の膨満感や圧迫感を自覚することもあります。また、まれに慢性骨髄性白血病が原因で胃潰瘍を合併することがあります。

なお、発熱・高度の貧血・出血傾向などの症状が出現した時には病状(病期)が進行しているサインであり、早急な対応が必要となります。あとの章でも述べますが、慢性骨髄性白血病では移行期や急性転化に進行してしまうと、治療が大変難しくなってしまいます。慢性期のうちに治療を始め、病期の進行を抑えることが大切です。

4.診断に必要な検査

白血球は通常、肺炎などの感染症を発症した際に、病原菌を殺すために増加します。発熱などの感染症状を認めないにもかかわらず、血液検査で白血球数が増加している場合は白血病を疑う必要があります。

慢性骨髄性白血病の確定診断には、染色体異常(フィラデルフィア染色体)あるいは遺伝子異常(bcr/abl融合遺伝子)をみつけることが必要です。 しかし、通常の血液検査の中にも慢性骨髄性白血病を示唆する重要なヒントが隠れています。慢性骨髄性白血病の患者さんでは、白血球増多(1万~10万/μL)の他に貧血や血小板増多を伴っていることが多いようです。また、白血球分画(末梢血液像)では、成熟した好中球以外にも様々な分化段階の白血球(顆粒球)がみられます。更に、好塩基球(や好酸球)が増加していることも特徴です。

フィラデルフィア染色体を見つける方法には、染色体検査とFISH検査の2種類があります。「染色体検査」は通常、骨髄の細胞を用いて行います。20個の骨髄細胞の中にフィラデルフィア染色体を持つ細胞が何個含まれているかで評価します。一方、FISH検査は通常、100個以上の細胞で評価可能なため、フィラデルフィア染色体の陽性率を更に詳しく評価できます。しかも、末梢血を用いても検査が可能なため、患者さんへの侵襲度が低いのが利点です。ただ、FISH法ではフィラデルフィア染色体の有無しか評価できませんが、骨髄細胞を用いた染色体検査では、フィラデルフィア染色体以外の付加的な染色体異常も検出できるメリットがあります。

なお、これらの検査法でフィラデルフィア染色体陽性細胞を確認できない場合は、遺伝子検査を用いて直接bcr/abl融合遺伝子の有無を調べる必要があります。

5.病期

慢性骨髄性白血病の経過(病期)は、慢性期・移行期・急性転化の3段階に大きく分けられます。各病期によって症状が異なります。

「慢性期」(約5~6年)は成熟した通常の白血球や血小板が徐々に増加していく時期です。自覚症状をほとんど認めず、安定した時期です。ほとんどの患者さんはこの時期に偶然みつかります。進行するにつれて、脾臓が徐々に大きくなり(脾腫の出現)、腹部の膨満感や圧迫感を自覚するようになることもあります。また、胃潰瘍を合併することもあります。

「急性転化」は血球の分化がストップし、幼若な芽球が急激に増加する時期です。病状は一変し、急性白血病でみられるような貧血・発熱・出血傾向などの重篤な症状が出現してきます。

なお、慢性期から急性転化に移行しつつある途中の段階を「移行期」(約6~9ヵ月)といいます。

6.治療

慢性骨髄性白血病(慢性期)に対する治療戦略は、イマチニブ(グリベック)という画期的な新薬が登場後、大きく変貌しました。慢性骨髄性白血病関連の情報を集める際、治療方針の中でイマチニブがどのように取り扱われているかに注目すると、その記載内容が新しいものか否かが判断できます。

慢性骨髄性白血病に対する主な治療法としては、現在、以下の4種類の治療法が考えられます。

①イマチ二ブ(グリベック)

現時点では、すべての患者さんに対して最初に試みられる治療法です。イマチニブはこの薬の一般名、グリベックは商品名で、どちらも同じ薬をさしています。ちなみに、グリベックは値段がとても高い薬ですが、本邦ではこの薬のジェネリック薬(後発品)は発売されていません。

イマチニブは、慢性骨髄性白血病の原因である「bcr/abl融合遺伝子」から作られる異常な蛋白に結合し、その働きを特異的に妨害することによって、白血病細胞の増殖を抑える新しい抗がん薬です。「分子標的薬」と呼ばれています。

イマチニブは通常1日1回400mg(グリベック 4錠)を連日服用します。朝・昼・晩のいつ飲んでもかまいませんが、1回にまとめて服用してください。イマチニブは錠剤であるため、通常は外来通院で服用します。したがって、あらかじめこの薬の副作用を充分理解しておくことが重要です。

イマチニブの服用で起こりやすい主な副作用には、吐き気・皮膚の発疹・むくみ・筋肉のツッパリ(けいれん)や痛み・発熱などがあります。これらの症状が出現した時には、必ず主治医の先生に相談してください。

②造血幹細胞移植

治療関連毒性は強いものの、現在でも慢性骨髄性白血病を根治させることができる唯一の治療法です。移植の詳細については別項を参照してください。

③インターフェロンα

イマチニブが登場する前は、インターフェロンαはフィラデルフィア染色体陽性細胞を減少させることができる唯一の薬でした。現在は、イマチニブに治療抵抗性あるいは不耐用で移植適応のない患者さんに用いられています。インターフェロンα療法は効果発現までに9~18ヶ月以上の投与が必要とされています。治療初期には発熱を伴うことが多いですが、徐々に消失します。また、うつ症状が出現する場合があり、周囲の方による見守りも必要です。

④ハイドロキシウレア(ハイドレア)

ハイドロキシウレアは白血球数のコントロールには有用ですが、細胞遺伝学効果が得られることはありません。

イマチニブは大変有用な薬剤ですが、完全な治癒が得られるかどうかは不明であり、現在でも、根治を期待できる治療法は造血幹細胞移植のみです。

なお、イマチニブ耐性の慢性骨髄白血病に対して、現在、ニロチニブ・ダサチニブ・ボスチニブといった新しい分子標的薬の治験が本邦でも進行中です。

移行期や急性転化ではイマチニブを600mg~800mgまで増量して投与しますが、その効果は一時的です。慢性期の状態に戻して造血幹細胞移植を実施することが重要ですが、慢性期に実施された場合に比べると成績は必ずしも芳しくありません。

7.治療効果の評価方法

イマチニブによる治療が始まると、定期的に血液検査や骨髄穿刺が実施され、その時点での治療効果が評価されます。

慢性骨髄性白血病では、以下のような3段階の効果判定が実施されます。

【血液学的効果】採血をして、白血球・血小板の数を測定します。白血球数や血小板数が正常値となり、脾腫などの症状が消失した場合を「血液学的完全寛解(CHR)」といいます。

【細胞遺伝学的効果】骨髄液を用いて染色体検査やFISH検査を行い、20~100個の骨髄細胞のうち、何個の細胞がフィラデルフィア染色体を持っているかを調べます。フィラデルフィア染色体を持つ白血病細胞が消失した場合を「細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)」といいます。

【分子遺伝学的効果】遺伝子検査(RQ-PCR法によるbcr/abl mRNAコピー数の定量)により、10万~100万個の細胞(通常は末梢血を用います)について、bcr/abl融合遺伝子を持つ白血病細胞がまだ残っているかどうかを調べます。bcr/abl融合遺伝子が検出されなくなった場合を「分子遺伝学的完全寛解(CMR)」、基準値の0.1%以下になった場合を「分子遺伝学的大反応(MMR)」といいます。

ただし、本邦の日常診療では上記の検査方法が保険適応になっていないため、Amp-CMLという別の遺伝子検査で代用されています。Amp-CMLで100コピー以下なら「分子遺伝学的大反応(MMR)」が得られていると考えられます。一方、Amp-CMLが50コピー未満(感度以下)であっても、必ずしも分子遺伝学的完全寛解が得られているわけではありません。分子遺伝学的完全寛解の証明にはAmp-CMLとは異なる更に感度が高い遺伝子検査が必要です。

8.生存率・予後

1)イマチニブ(グリベック)による治療成績

イマチニブによる治療成績は、IRIS試験という大規模な臨床試験の成績が大変参考になるので紹介します。

未治療の慢性骨髄性白血病慢性期の患者さんにイマチニブによる治療を行った場合の5年生存率は89%、慢性骨髄性白血病自体に関連する死亡率は5%以下でした。これらの患者さんの治療効果をもう少し詳しく紹介すると、イマチニブの治療開始後5年が経過した時点での血液学的完全寛解率は98%、細胞遺伝学的完全寛解(フィラデルフィア染色体消失)は87%でした。更に、93%の患者さんは移行期や急性転化に病期が進行せず、慢性期を維持していました。

2)造血幹細胞移植

慢性期にHLA適合同胞から移植を受けた場合の5年生存率は約80%ですが、骨髄バンクドナーから移植を受けた場合は約60%まで低下します。また、移植後再発例に対するドナーリンパ球輸注療法では、60~80%の患者さんで再寛解が得られます。

なお、これらのデータは、診断から1年以内の早期に移植することが勧められていた時代の治療成績に基づいているため、現在のようにイマチニブによる治療を先行することによって、診断から移植までの期間が長くなった場合には、そのままあてはまらない可能性があります。

3)インターフェロンαによる治療成績

インターフェロンαによる治療を続けた場合の5年生存率は約60%です。なお、インターフェロンαの治療により約10~20%の患者さんではフィラデルフィア染色体が消失します。ただし、中止すると再燃することが多いため、根治は難しいと考えられています。

4)ハイドロキシウレア(ハイドレア)

ハイドレアによる治療を続けた場合の5年生存率は約40%です。ハイドレアは血球数のコントロールには有用ですが、細胞遺伝学的効果は期待できないため、これのみで根治することはありません。

イマチニブは大変有用な薬剤ですが、現在のところ完全な治癒が得られるかどうかは不明であり、現在でも、根治が期待できる治療法は造血幹細胞移植のみです。

慢性骨髄性白血病に対する治療法はここ数年進歩が著しく、これからもどんどん新たな情報が入ってきそうです。このサイトの内容も折に触れて改定していきたいと思います。

金沢大学附属病院血液内科

山崎宏人