1.急性リンパ性白血病とは
1)白血病とは
白血病は骨髄で血液細胞ががん化した病気です。血液中には白血球(顆粒球とリンパ球に分かれます)、赤血球、血小板の3種類の血液細胞が存在します。白血球(顆粒球、リンパ球)は病原微生物による感染から体を守る細胞です。赤血球は酸素を体内に運搬する細胞で、これが減ることを貧血といいます。血小板は出血を止める作用をもっています。これらの血液細胞は骨の奥にある骨髄で造血幹細胞という血液細胞のもとになる細胞から作られています。造血幹細胞からリンパ球に成熟する段階の若い細胞ががん化した状態が急性リンパ性白血病です。病気の発症は比較的はっきりしていて、無症状であることはまれで、多くの場合、血液の異常に基づく症状や、白血病の全身への浸潤による症状が見られます。採血だけでなく骨髄検査、必要に応じてレントゲン検査を行い診断いたします。治療されない場合は急速に悪化して命にかかわりますので、診断がつけば早急に抗がん薬による治療を開始しなければなりません。
2)白血病の統計
急性リンパ性白血病の発症率はヨーロッパ、北アメリカで多く、アジア、アフリカでやや少ないとされています。わが国では白血病全体としての死亡率が年間人口10万人あたり4-5人とされています。急性リンパ性白血病は子供と60歳以降の高齢者に多く見られます。
3)白血病の分類
白血病は大きく急性型と慢性型、白血球の種類から骨髄性とリンパ性に分かれますので、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病の4つに大別されます。
4)白血病の原因と予防
急性リンパ性白血病の発症にかかわる原因として、被ばく者での発症率が高いこと、電離放射線やベンゼンの暴露が関連することが報告されています。ほかのがんで化学療法や放射線療法を受けた後に発症することもまれにあります。しかしほとんどの場合、明らかな原因は不明です。
2.症状
急性リンパ性白血病発症時の症状は様々ですが、無症状であることはほとんどなく、多くの場合診断がつくまでに症状が数週間持続しています。症状の大半は骨髄で正常の血液が作れないことによるものか、白血病そのものが体内でふえることによるものです。前者は、正常白血球が減少することによる感染症のため発熱や。貧血による全身倦怠感、ふらつき、動悸、労作時息切れなどとして認められます。また患者さんの3分の1では血小板減少による鼻血、歯肉出血、皮膚の紫斑や点状出血がみられます。さらに白血病の進展に伴いリンパ節、肝臓、脾臓が腫れることがあります。
3.診断
来院時の患者さんの状態を把握し、急性リンパ性白血病と診断し、予後を推定して、治療方針を決定するために、以下のような検査が必要になります。
1)採血検査
体内を循環している血液中の白血球、赤血球、血小板数を調べます。多くの場合白血病細胞が血液中に存在し白血球数は増加しています。赤血球、血小板は減少しています。白血病細胞が血液中にあれば採血検査である程度まで診断に必要な情報を得ることができます。また白血病に伴う体の異常の有無と体のさまざまな機能を調べます。前者では、尿酸が上昇したり、凝固検査(血液のかたまりやすさ、さらさらの度合い)が異常になったりします。後者では、抗がん薬を使用することになれば、薬を体内で処理する肝臓や腎臓の機能の確認が必要です。 また熱が出ていて感染症の合併が疑われる場合は病原微生物に関連した検査を行います。
2)画像検査
リンパ節が腫れたり、肝臓、脾臓が大きくなることがあるためコンピューターを使ったX線写真(CT)でその有無を確かめることがあります。
3)骨髄穿刺
骨髄は白血病細胞が増える場所であり、骨髄の検査は必須です。腸骨の出っ張りの部分から骨髄を採取します。局所麻酔薬により皮膚、皮下、骨膜を麻酔します。歯医者さんで麻酔をされて気持ちが悪くなった人では麻酔薬に対するアレルギーをお持ちのこともあり注意が必要です。麻酔が効いて痛くなくなったら、ボールペンの芯くらいの太さの穿刺針を骨に刺します。骨髄に届いた時点でその針の内腔をとおして注射器で陰圧をかけて骨髄液を採取します。都合、20分くらいの検査で、検査後は30分安静にしていただきます。骨髄液は、骨髄の状態や白血病細胞の性質について調べるため、さまざまな検査に回します。すべての結果が出揃うには2週間くらいかかりますが、治療方針決定に必要な項目は数日以内に判明します。
4)フィラデルフィア染色体
白血病細胞はがん細胞なので遺伝情報の担いでである染色体に異常が生じていることがあります。特殊な染色体として、フィラデルフィア染色体があり、成人の急性リンパ性白血病の約3割に認められます。上記の骨髄検査でこの染色体の有無についても検査しますが、これが見つかった場合は後述するイマチニブという抗がん薬を併用することがあります。
5)その他
必要に応じて、白血病細胞が中枢神経に浸潤していないかをみるため脳脊髄液を採取します。また抗がん薬を投与する前には心臓や肺の機能も確認する必要があります。
6)診断
骨髄でリンパ性白血病細胞が20%以上あれば急性リンパ性白血病と診断します。ほとんどの場合診断に苦慮することはありませんが、まれに急性骨髄性白血病や慢性骨髄性白血病の急性白血病化(急性転化)との鑑別が難しいことがあります。
4.分類
白血球は大きく顆粒球とリンパ球に分かれ、リンパ球はBリンパ球とTリンパ球に分かれます。ですので、がん化した細胞により B細胞性白血病とT細胞性白血病に分かれます。
1)前駆B細胞性急性リンパ性白血病
もっとも頻度の高いタイプです。このなかには白血病細胞の染色体が正常なタイプと異常なタイプに分かれます。後者にはフィラデルフィア染色体を有するタイプが含まれます。
2)前駆T細胞性急性リンパ性白血病
前駆B細胞性よりも頻度が少ないです。
3)バーキット型急性リンパ性白血病
特殊な白血病です。本項目では扱いません。
5.治療
いったん診断がつけば速やかに治療を開始します。がんの治療は手術、放射線照射、化学療法(抗がん薬投与)に3大別されますが、白血病では白血病細胞(がん細胞)が血液の流れに乗り全身に存在していますので、内服、点滴により抗がん薬を全身投与する化学療法が第一選択になります。治療の流れは白血病のタイプに関わらずおおむね共通で、寛解導入療法という初回治療、それに引き続く地固め療法、その後さらに治療を継続する維持療法に分かれます。ただし、再発の危険性の高いタイプでは、状況に応じて骨髄移植療法を考慮します。
1)寛解導入療法
白血病が発症した際、骨髄は白血病細胞で占められ正常な造血ができません。寛解導入療法の目的は白血病細胞を十分減らすことと骨髄での正常造血を回復させることにあります。骨髄で白血病細胞の占める割合が5%未満で正常の白血球、赤血球、血小板の造血が回復し、体内を流れる血液中には白血病細胞が認められず白血球と血小板が回復する状態を完全寛解といい、この状態を目指します。急性リンパ性白血病に用いられる最も重要な抗がん薬は副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)、ビンクリスチンでこれにダウノルビシン、アスパラギナーゼ、シクロフォスファミドを追加します。
2)地固め療法
初回寛解導入療法に用いた抗がん薬とは異なる薬剤を中心に治療を継続します。寛解導入後にも未だ残存する白血病細胞をさらに減らし、再発しないようにします。通常3-4回行います。上述の抗がん薬の他、メトトレキサート、シタラビンなどが使用されます。
3)維持療法
寛解導入療法と地固め療法が終了した時点で完全寛解が持続していればその後1-2年のあいだ維持治療を行います。この維持療法がなされないと再発する率が上昇するとされています。通常、メルカプトプリンとメトトレキサートが用いられます。
4)中枢神経の予防
白血病細胞は脳や脊髄(中枢神経といいます)にも浸潤することがあります。中枢神経は抗がん薬が届きにくい場所なので特殊な方法が必要です。具体的には腰椎から針をさして(腰椎穿刺)、脊髄腔内(脳や脊髄につながっています)に直接抗がん薬を注入します。また地固め療法でメトトレキサートを大量に使用して中枢神経内の薬剤濃度を上昇させる方法をとります。また必要に応じて頭に放射線を照射することがあります。
5)フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
フィラデルフィア染色体は慢性骨髄性白血病の発症原因となる異常染色体として見つかったもので、その特効薬であるイマチニブは現在慢性骨髄性白血病の第一選択薬剤として非常に効果的であることがわかっています。急性リンパ性白血病でフィラデルフィア染色体がみつかった患者さんではそうでない方に比べ治療が効きにくいことがわかっています。骨髄移植療法が考慮されるタイプです。わが国においてフィラデルフィア染色体を有する急性リンパ性白血病に対してイマチニブを従来の抗がん薬と併用し良好な成績が得られたと報告されています。
6)骨髄移植療法
急性リンパ性白血病のうち治療が効きにくく再発しやすい高危険度のタイプにおいて考慮される治療です。患者さんの組織適合性抗原(HLA)と一致した同胞の方がおられる場合に行われる治療法です。
7)支持療法
初回寛解導入療法時には体内に存在する大量の白血病細胞が抗がん薬により死滅するため細胞内から様々な物質が血液中に放出されます。そのため尿酸の値が急上昇したり、カリウムなど電解質のバランスが崩れることがあります。また腎臓に負担がかかり急性腎不全となり尿が出なくなることがあります。十分な水分補給により尿量をふやすことが重要です。また血液凝固のバランスがくずれ重大な出血が生じることがあります。凝固因子の補充などの対処が必要なことがあります。
急性リンパ性白血病では感染防御や免疫に関わるリンパ球ががん化していること、化学療法そのものの副作用から、病原微生物に対して非常に弱い状態にあります。そのため必要に応じて感染予防の抗生物質を用います。また抗がん薬は白血病細胞を障害するだけではなく正常の細胞、特に新陳代謝の盛んな細胞、を障害します。その代表が骨髄の造血細胞です。寛解導入療法中のみならず、完全寛解に到達してもそのあと繰り返される地固め療法中には、抗がん薬により骨髄での造血が障害され白血球減少、貧血、血小板減少が生じます。白血球減少に対しては造血因子(サイトカイン)を使用し白血球の回復を促します。感染症が併発した際は点滴で抗生物質の投与を開始します。また貧血と血小板減少に対しては適宜輸血を行います。
6.生存率・予後
初回寛解導入療法により70-80%の患者さんが完全寛解に到達し、20-40%が長期生存されます。しかし、年齢30歳以上、白血球3万以上、フィラデルフィア染色体がみつかった患者さんでは治療効果が落ちます。
7.抗がん薬の種類、副作用と対策
急性リンパ性白血病に用いられる抗がん薬は数多くあります。以下に代表的薬剤の作用と副作用について説明します。
1)副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドホルモンはリンパ球に対する直接障害作用を有し、急性リンパ性白血病において最も重要な薬剤です。他の血液細胞に対して直接的な障害作用はありません。本薬の重大な副作用は、血糖の上昇、血圧上昇、精神症状(不眠やいらいら)、感染症、胃・十二指腸潰瘍です。状況に応じて投与量を減量したり中止することを考慮しなければなりません。そのほか骨粗鬆症、便秘症などがあります。副作用対策として、胃酸分泌抑制薬を使用したり、必要に応じて血糖や血圧のチェックを行い血糖降下薬や降圧剤を考慮します。
2)ビンクリスチン
ビンクリスチンは急性リンパ性白血病治療で副腎皮質ステロイドと並び最重要の抗がん薬で、白血病細胞が分裂するのを阻止します。骨髄抑制作用はほとんどありません。本薬の重篤な副作用は末梢神経障害です。これは蓄積性で総投与量や治療期間に関連します。神経障害は手足のしびれや感覚が鈍くなるなどから始まります。また便秘になりやすく、腸閉そくを起こすと時に重症化することがあります。はしが持てなくなるくらいひどくなったら本薬の使用を中止しなければなりません。また本薬投与中に血管の外へ漏れると皮膚を障害することがあります。
3)ダウノルビシン
ダウノルビシンも中心的薬剤のひとつです。白血病細胞の遺伝情報を担うデオキシリボ核酸(DNA)を傷害します。代表的な副作用は骨髄抑制と粘膜の障害です。ほかに脱毛や、本薬点滴中に血管の外へ漏れると皮膚を障害することがあります。加えて、本薬に特徴的な副作用として心臓に対する影響があります。この副作用は使用した薬の量に関連し、全量が体表面積あたり900-1000 mgを超えないようにしなければなりません。
4)アスパラギナーゼ
アスパラギナーゼも同様に中心的抗がん薬のひとつです。タンパク質合成に必要なアミノ酸の一つであるアスパラギンは正常細胞では自身で作り出すことが可能です。しかし、白血病細胞ではアスパラギンを自身で合成することができず細胞が生き延びるためにはアスパラギンを細胞外から取り入れる必要があります。アスパラギナーゼは血液中のアスパラギンを分解し欠乏状態にすることで白血病細胞が蛋白を作れなくします。本薬で急性アレルギー反応が生じることがまれにあります。また患者さんの体内のタンパク合成もある程度抑制されるので、血液を固める凝固因子が低下して出血しやすくなったり、インスリンの合成が低下して血糖が上昇したりします。また肝障害、急性膵炎、中性脂肪の上昇がまれに生じます。
5)シクロホスファミド
シクロホスファミドは白血病細胞のDNAを障害します。主な副作用は骨髄抑制です。また本薬に特徴的な副作用として出血性膀胱炎があり、なるべく水分摂取を多くし尿量をふやすようにします。本薬の大量使用時には必要に応じて出血性膀胱炎の予防薬であるメスナを使用します。なお本薬の使用後3-7年で2次的に別の白血病が発症することがまれにあります。また不妊症になる可能性があります。
6)メルカプトプリン
メルカプトプリンは白血病細胞のDNA合成を阻止します。本薬は尿酸降下薬のアロプリノールと相互作用があります。2剤を併用する際は本薬の投与量を2/3~1/2に減量しなければなりません。主な副作用は骨髄抑制です。
7)メトトレキサート
メトトレキサートは白血病細胞のDNA合成に必要な葉酸の合成を阻止します。本薬の副作用は主に骨髄抑制と粘膜の障害(口内炎など)、肝障害です。肝障害の発生は連日投与よりも週に1度まとめて服用したほうが少ないとされます。本薬を大量に使用するときは骨髄抑制や粘膜障害などの副作用がひどくなります。それを防ぐために、本薬投与後に葉酸を補給します。また本薬は腎臓から尿中にとけて体外に排泄されるので、たくさんの点滴と水分補給で尿量を増やすように努めます。なお、非ステロイド性消炎鎮痛薬は本薬の腎臓からの排泄を阻害するので本薬の大量使用時には併用してはいけません。また胸水や腹水があると本薬を使用してはいけません。本薬を大量投与する時は血液中の薬の濃度を測定しながら注意深く行います。
7)イマチニブ
イマチニブはフィラデルフィア染色体により生じた異常なリン酸化酵素(チロシンキナーゼ)を特異的に阻止する分子標的薬です。抗がん薬ではありませんので骨髄抑制のような従来型の副作用はありません。特徴的な副作用として、下痢、悪心嘔吐などの消化器症状、こむらがえり、浮腫などがあります。また最近、心臓にも影響があると報告されています。
福井大学 医学部 血液・腫瘍内科 山内高弘
