多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)
目次
1.骨髄とは
骨髄は全身の骨の内部にあるゼリー状の組織で、そこでは血液細胞(白血球・赤血球・血小板)が作られています。白血球は顆粒球(骨髄球)とリンパ球からなり、リンパ球はB細胞、T細胞、NK細胞、等に分類されます。B細胞の一部は成熟して形質細胞に分化し、免疫グロブリンという抗体蛋白を作り、細菌などの外敵の増殖を防ぐなどの免疫能に関与しています。
2.骨髄腫とは
骨髄腫とはこの形質細胞ががん化して異常に増殖し、骨や腎臓などの臓器や、免疫系や血液系細胞の機能を障害することによって様々な症状を引き起こす病気です。
通常は全身の複数の骨が侵されるために多発性骨髄腫と呼ばれますが、まれに骨髄外に腫瘤を作る「髄外性形質細胞腫」も含まれる場合があります。特殊な型として「孤立性形質細胞腫」などがありますが、これらの病気をまとめて「形質細胞腫瘍」と呼びます。
3. 骨髄腫の疫学(発症頻度・年齢・性別)
発生率:わが国の骨髄腫の発症率は人口10万人あたり2人程度と考えられています。これは悪性腫瘍の1%、造血器腫瘍の10%を占めると言われています。[1]。 1970年には骨髄腫による死亡率は人口10万人当たり0.5人であったのが、2002年には2.76人に増加し、特に75歳以上の死亡率が増加しています [2]。
年齢:発症年齢は60歳代がピークであり、診断時の年齢の中央値は男性65歳、女性67歳で、高齢者になるにつれて多くなります[3]。40歳未満の発症は極めてまれで1%程度です[3,4]。 (図1)
骨髄腫が発生する原因は不明ですが、骨髄腫細胞にはさまざまな遺伝子異常が生じていることが知られています。多くは、免疫グロブリン遺伝子の存在する14番染色体や、その他の染色体の数の異常が見られることから、遺伝子の異常によってがん化が起こると考えられています。
4.免疫グロブリンの種類
正常の形質細胞が産生する免疫グロブリン(Ig) は2本の重鎖と2本の軽鎖からなる大きなタンパク質で、重鎖の種類により、IgG型、IgA型、IgD型、IgM型、IgE型に分類されます。(表1)
(表1)
| 重鎖 | α(アルファ)鎖 | IgAを作る |
| γ(ガンマ)鎖 | IgGを作る | |
| δ(デルタ)鎖 | IgDを作る | |
| μ(ミュー)鎖 | IgMを作る | |
| 軽鎖 | κ(カッパ)鎖/λ(ラムダ)鎖 | ベンス・ジョーンズ蛋白を作る。 |
骨髄腫ではこのうち単一の免疫グロブリン(M蛋白)のみが異常に増加し、他のクラスの免疫グロブリンは減少しています。たとえば、最も多いタイプのIgG型骨髄腫では、血液中のIgGが著明に増加し、他のIgA、IgMなどは減少しています。免疫グロブリンの軽鎖のみを産生するベンスジョーンズ(BJP)型では血液中の全ての免疫グロブリンが減少していることが多く、免疫能も低下しています。
日本ではIgG 型が59.1%、IgA型が 21.8%、IgM型が 0.2%、IgD型は3.5%、ベンスジョーンズ(BJP)型は13.1 % とされています [3]。
そのほか、まれに免疫グロブリンを産生しない非分泌型の骨髄腫もあります。
5.骨髄腫の症状
多発性骨髄腫では様々な症状が現れますが、これらは骨髄腫細胞の破壊的増殖や産生する蛋白により引き起こされると考えられます。
骨痛:
最も多い症状は骨痛で、腰・背中・胸・手足などの骨の痛みを生じます。X線で骨の打ち抜き像を認めたり、骨粗しょう症・骨折などの骨病変は骨髄腫患者の77%に認められます[3]。
高カルシウム血症:
骨髄腫細胞によって骨の破壊が進むと、骨からカルシウムが溶け出すことによって血液中のカルシウムが増え(高カルシウム血症)、多飲、多尿、口の渇き、便秘、悪心、嘔吐・意識障害などが現れることがあります。
貧血:
骨髄腫細胞が骨髄の中で増殖し、正常な血液細胞の産生を抑えるため、血液中の赤血球が減り、貧血をきたします。このため息切れや動悸(どうき)、などの症状が表れます。
易感染性:
骨髄腫では異常な免疫グロブリンが増えても、感染を予防する機能はなく、正常な抗体蛋白が減ることから、感染に対する防御能が低下し、感染症にかかりやすくなります。
腎障害:
骨髄腫細胞は異常なM蛋白をつくりますが、M蛋白が腎臓に沈着して腎障害を起こすことがあり、浮腫(むくみ)や蛋白尿などの症状が現れます。
神経症状:
椎骨圧迫骨折、腫瘤による脊髄圧迫症状として、手足のしびれや麻痺(まひ)、排尿や排便の障害等の非常に重篤な症状(脊髄圧迫症状)が起こります。
6.検査
多発性骨髄腫の診断と治療方針を決めるために通常行われる検査について説明します。
M蛋白:
骨髄腫ではM蛋白という異常な蛋白が生じます。血液の電気泳動による血清蛋白分画(けっせいたんぱくぶんかく)という検査でM蛋白の有無、およびその量についてしらべることができます。
M蛋白は骨髄腫以外にも、50歳以上の全人口の1%、70歳以上の人では3%に認められ[5]、このようにM蛋白があっても自覚症状がない人のうち、多くは長期間追跡しても変化がなく、生涯健康に影響しないことから、従来「良性M蛋白血症」と呼ばれていました。しかしこれらのM蛋白を有する人のうち、年間1%は骨髄腫などの病気に進行する事が観察されたため、「意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)」と呼ばれ、治療は要しなくても、経過観察が必要であると考えられます。
M蛋白が認められた場合は、さらに免疫電気泳動や免疫固定法により、M蛋白の型(どの型の免疫グロブリンが異常に増えているか)を確定します。
尿検査:
尿検査では、ベンスジョーンズ蛋白(BJP)の有無について調べます。BJPは免疫グロブリンの軽鎖から成り、分子構造が小さいため尿に出やすいという特徴があります。また尿蛋白の量を測定することで、腎臓の障害の有無を調べます。
血液検査:
血液の検査では、赤血球数、ヘモグロビン値、白血球数とその分類、血小板数を測定します。進行すると骨髄腫細胞が血液中に出ることもあるため、血液像検査で確認します。
血液生化学検査:
LDHやBUN、クレアチニン、カルシウム、アルブミンの値を測定し、骨髄腫の進行度や腎障害の有無を調べます。
β2ミクログロブリンは骨髄腫によって上昇し、今後の病気の進行の可能性(予後)を推定するために重要な指標となります。
CRPは感染症や、活動性の骨髄腫でも上昇します。
骨髄検査:
骨髄腫の診断を確定するために、骨髄穿刺(こつずいせんし)および骨髄生検(こつずいせいけん)という検査を行います。この検査で、骨髄細胞を顕微鏡で観察し、骨髄の造血の状態、骨髄腫細胞の数および特徴について調べます。また骨髄腫細胞のリンパ球マーカー検査や染色体検査によって、骨髄腫細胞の成熟度や悪性度について知ることができます。
画像診断:
全身骨レントゲン写真(X線写真)検査を行い、骨病変の有無と程度についても調べます。最近ではCT検査やMRI検査により更に、微少な骨病変や骨髄腫細胞の広がりについても詳しく診断することがあります。またPET検査も骨髄腫の活動性を調べるために有用であるという研究もあります。
7. 骨髄腫の診断基準
多発性骨髄腫あるいはその類縁疾患の分類について、従来は米国の研究グループであるSWOG(South West Oncology Group)の診断基準が広く用いられてきました。以下の大基準と小基準を組み合わせて診断します。
(表2)
| 大基準 | Ⅰ | 組織生検にて形質細胞腫を認める |
| Ⅱ | 骨髄中形質細胞の割合が>30%である | |
| Ⅲ | 血清の電気泳動で単クローン性のグロブリン・スパイクがIgGでは>3.5g/dl、IgAでは>2.0g/dlのピークを示すか、24時間尿に排泄されるL鎖(κまたはλ)が電気泳動で≧1.0g認められる(アミロイドーシスを合併しない場合) | |
| 小基準 | a | 骨髄中の形質細胞が10~30% |
| b | 単クローン性のグロブリン・スパイクを認めるが、上記Ⅲ以下 | |
| c | 骨融解像が認められる(2個以上) | |
| d | 正常免疫グロブリンが、IgGでは<600mg/dl、IgAでは<100mg/dl、IgMでは<50mg/dl 明らかな進行性の病変とともに臨床症状を有する患者において、下記のa)~d)のいずれかに該当する場合に多発性骨髄腫と診断する。 |
|
| a) | I+b、I+c、I+d | |
| b) | II+b、II+c、II+d | |
| c) | III+a、III+c、III+d | |
| d) | a+b+c、a+b+d | |
| [6] Kyle RA, N Engl J Med 1980; 302: 1347-9. | ||
骨髄腫の診断基準に合致した患者さんでも、全てが治療の対象となるとは限りません。以下の条件を満たす「無痛性型骨髄腫 (indolent myeloma)」や「くすぶり型骨髄腫(smoldering myeloma)」
では長期間安定して症状がない場合が多く、安定期に治療すると病変が悪化することもあるとされているため、慎重に経過観察されることが多いです。また後述する「骨髄腫の病期基準(Durie & Salmonの病期基準)で病期Ⅰとされた場合も直ちに治療開始する対象とならないと考えられてきました。
(表3)
無痛性型骨髄腫 (indolent myeloma)
骨髄腫の診断規準を満たす症例のうち、以下の条件すべてにあてはまるものをいう。
- 骨病変がないか、あっても3個以下で圧迫骨折を認めない
- M蛋白がIgGでは<7.0g/dl、IgAでは<5.0g/dl
- 無症状あるいは合併症がない
- a) performance status>70%
- b) ヘモグロビン値>10g/dl
- c) 血清カルシウム値正常
- d) 血清クレアチニン<2.0mg/dl
- e) 感染症がない
くすぶり型骨髄腫(smoldering myeloma)
無症候性骨髄腫のうち下記の条件にあてはまるもの
- 明らかな骨病変がない
- 骨髄中の形質細胞が≦30%
骨髄腫の臨床病期分類
骨髄腫の臨床病期(進行度)を分類するために、以下の「Durie & Salmonの病期分類」が用いられました。病期Ⅰでは骨髄腫細胞は<0.6X10^12細胞/m2(体表面積)未満と少なく、病期Ⅲでは腫瘍量は 1.2x10^12細胞/m2(体表面積)以上と多いと推定されています。
一般に病期Ⅰでは全身的化学療法の対象となることは少なく、病期Ⅱ-Ⅲが化学療法の対象となります。
(表4)骨髄腫の病期診基準 (Durie & Salmon)
- I期 次の項目のすべてを満たすもの
- ヘモグロビン値 >10g/dl
- 血清カルシウム値 正常(≦12mg/dl)
- 骨X線写真で正常像もしくは孤立性の骨形質細胞腫
- 低-M成分産生率
- IgG値 <5g/dl
- IgA値 <3g/dl
- 電気泳動上の尿中L鎖M成分 <4g/24hr
- II期 病期I、IIIのいずれにも属さないもの
- III期 次項目のうちひとつ以上を満たすもの
- ヘモグロビン値 <8.5g/dl
- 血清カルシウム値 >12mg/dl
- 進行した骨融解病変(広範囲および骨折)
- 高-M成分産生率 (IgG値 >7g/dl 、IgA値 >5g/dl 、尿中BJP>12g/日)
- A =(血清Cre<2.0mg/dl) B =(s-Cre≧2.0mg/dl)
また血液や尿の検査でM蛋白が認められても以下の様な条件を満たし症状のない患者さんは「意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)」と呼ばれ、骨髄腫にではないと考えられ、多くの場合は治療を要しないが、一部の例では骨髄腫等の血液疾患に進展するため経過観察する必要があると考えられます。
(表5) 「意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)」の診断基準
- 単クローン性の高グロブリン血症を認める
- M蛋白が、IgGでは≦3.5g/dl、IgAでは≦2.0g/dl、BJPでは≦1.0g/24hr
- 骨髄中の形質細胞<10%
- 骨病変が認められない
- 無症状
8.新しい診断基準・分類
2003年に国際骨髄腫ワーキンググループ (International Myeloma Working Group: IMWG)により提唱された分類は、血液中のM蛋白量と骨髄中の骨髄腫細胞の割合、のほかに臓器障害、腫瘤(しゅりゅう)の有無により分類する方法です。[8]
(表6) 国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)の診断基準
- 【意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症 monoclonal gammopathy of undetermined significance (MGUS)】
- 【無症候性骨髄腫 asymptomatic myeloma (smouldering multiple myeloma】
- 【症候性骨髄腫 multiple myeloma (sympyomatic)】
- 血清 and/or 尿にM蛋白を検出
- 骨髄におけるクローナルな形質細胞の増加あるいは形質細胞腫臓器障害の存在
- 【非分泌型骨髄腫 nonsecretoy myeloma】
- 血清および尿にM蛋白を検出しない(免疫固相法により)
- 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10%増加あるいは形質細胞腫
- 臓器障害*の存在。
- *臓器障害:高カルシウム血症:血清カルシウム>11mg/dl(または基準値より1mg/dlを超える上昇)
- 腎不全:クレアチニン>2mg/dl
- 貧血:Hb値が基準値より2g/dl以上低下または10g/dl未満
- 骨病変:溶骨病変または圧迫骨折を伴う骨粗鬆症(MRI, CT)
- その他:過粘稠症候群、アミロイドーシス、年2回以上の細菌感染
- 【孤発性骨形質細胞腫 solitary plasmacytoma of bone】
- 【髄外性形質細胞腫 extramedullary plasmacytoma】
- 【多発性形質細胞腫 multiple solitary plasmacytoma】
- 【形質細胞白血病 plasma cell leukemia】
- 【POEMS症候群】
「意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)」は血清M蛋白量が<3g/dlであり、骨髄中の形質細胞<10% 未満、他のB細胞増殖性疾患が否定されること、臓器障害がないことと定義されます。
MGUSは骨髄腫には含まれず、症状がないため直ちに治療を開始する必要はなく、病状が安定していれば経過観察します。
「無症候性骨髄腫」は血清M蛋白量が≧3g/dlであり、骨髄中の形質細胞≧10% 以上で骨髄腫に含まれますが、臓器障害がないことと定義されます。
症状はなく、直ちに治療を要さないが、2-300ヶ月(中央値23ヶ月)に次に示す「症候性骨髄腫」に進展します。最初の1年間は10%、次の1年間は3%、以後1年ごとに1%程度の率で「症候性骨髄腫」となり、治療を要する状態になることがあるので、定期的に検査を行い、経過観察する必要があります。もし「症候性骨髄腫」に進行した場合に治療を開始します。
「症候性骨髄腫」は血清M蛋白量が≧3g/dlであり、骨髄中の形質細胞≧10% 以上で、以下に示す骨髄腫による臓器障害がある場合をいいます。
新しい分類は、M蛋白の量や骨髄腫細胞の割合より、治療を要する臓器障害が重要視されます。骨髄腫による臓器障害とは、血中カルシウムの高値(>11mg/dl)、腎機能の低下(クレアチニン>2mg/dl)、貧血(ヘモグロビン<10g/dl)、骨の病変、過粘稠度症候群、アミロイドーシス、繰り返す細菌感染(年2回以上)があげられています。これらの内1つでもある場合には症候性骨髄腫と診断され、治療を検討します。
【非分泌型骨髄腫 nonsecretoy myeloma】
骨髄腫の中でも血液や尿にM蛋白が検出されないことが3%程度あり、これを「非分泌型骨髄腫」と呼ばれ、以下のように定義されます。
- 血清および尿にM蛋白を検出しない(免疫固相法により)
- 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10%増加あるいは形質細胞腫がある。
- 臓器障害(前述)が存在する。
その他、特殊な型として、以下の病型があります。
【孤発性骨形質細胞腫 solitary plasmacytoma of bone】
通常の多発性骨髄腫では複数の骨病変を生じるのに対し、1ヵ所の骨にのみ骨髄腫の病変ができる型です。形質細胞腫瘍の5%を占め、男性が2/3を占め、発症年齢の中央値は55歳と通常の多発性骨髄腫より若く、孤発性病変からの生検や摘出手術で形質細胞腫と診断され、他に部位の骨髄生検からは形質細胞の増加は認めず、M蛋白も認めないものをさします。放射線療法が行われることが多いが 2-4年以内に3/4の症例が「症候性骨髄腫」に進展するとされます。
【髄外性形質細胞腫 extramedullary plasmacytoma】
骨および骨髄外に腫瘍をつくるものを「髄外性形質細胞腫」と呼びます。形質細胞腫瘍の3%を占め、口腔、鼻、喉や消化管に発生することが多いとされます。
放射線療法が行われることが多いが 径5cm以上のものは「症候性骨髄腫」に進展することが多いとされます。
【多発性形質細胞腫 multiple solitary plasmacytoma】
形質細胞腫が多発する場合で、臓器傷害は認めず、骨髄に病変は認めない、ものです。多くの部位に病変がある場合は照放射線照射では治療困難で全身化学療法を行います。
【形質細胞白血病 plasma cell leukemia】
末梢血液中に形質細胞が20%以上、かつ2000/μL以上認められるものは「形質細胞性白血病(PCL)」と呼ばれます。発症時から白血化しているものを原発性PCLとよび約6割を占め、骨髄腫の経過中に白血病化したものを続発性PCLと呼びます。骨髄外の病変や臓器障害をきたす場合が多く、全身的な化学療法を要するが予後は不良とされています。
【POEMS症候群:(Crow-Fukase症候群・高月病)】
骨髄腫の特殊な病型で、多発神経炎(Polyneuropathy)、臓器腫大(Organomegaly) 、内分泌症(Endocrinopathy)、M蛋白血症( Monoclonal protein)、皮膚症状(Skin changes) の症状の頭文字を集めたもので、(Crow-Fukase症候群・高月病)とも呼ばれます。下肢の感覚・運動障害をきたすため、病変部位に放射線治療を行うことにより改善する場合もある。多発性骨髄腫と同様な化学療法や自家移植が有効な場合が報告されています。
9.予後因子
予後因子:従来病期分類として用いられてきたDurie&Salomon分類は腫瘍量を反映する分類です。最近では国際骨髄腫ワーキンググループにより、臨床的予後の解析から、新しい国際病期分類が提唱されました。これは、血清アルブミンの値とβ2ミクログロブリン(β2MG)の値の2つで予後が推定できます[9]。
(表7)
| 基準 | 生存期間 中央値 |
|
| Stage I | β2MG<3.5mg/L かつ Alb>3.5g/dL | 62カ月 |
| Stage II | I でも III でもない場合 | 45カ月 |
| Stage III | β2MG >5.5mg/L | 29カ月 |
このほかにも、血小板数が低い場合や、LDHやCRP、カルシウムが高い場合も病気の進行が早い可能性が考えられます。
骨髄腫細胞の形態や表面マーカーで細胞の成熟度が推定され、染色体の異常(13番染色体が欠けている場合)や4番と14番染色体が転座している場合にも、予後が良くないことが知られています。
10.治療
どのような時に治療をはじめるべきか?
従来の「SWOGの診断基準」で多発性骨髄腫と診断され、かつDurie&Salmonの病期分類でII期とIII期の患者さんが治療の対象とされていました。
「SWOGの診断基準」で多発性骨髄腫と診断されても、Durie&Salmonの病期分類で病期 IA期の場合直ちに治療開始しても病変が進行してから開始しても成績は変わらないことが示され[10]、従ってこれらの患者さんは3~6ヵ月毎に検査をして経過観察することが一般的でした。
病期Ⅰで腎障害のあるⅠBでは予後が不良のため治療開始します。
2003年、国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)は、骨髄腫および関連疾患の新たな診断基準では、臓器障害(貧血、腎障害、骨病変等)を重視し、これらの臓器障害がある患者さんを症候性骨髄腫と診断して治療を行うことを推奨しています。
今後はこのIMWGの診断基準によって、「症候性骨髄腫」と診断された患者さんが治療の対象となると考えられます。
同様に従来の「SWOGの診断基準」で「くすぶり型骨髄腫」の場合は、新しい国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)分類では「無症候性骨髄腫」に含まれ、経過観察し、症候性骨髄腫に進展するまで治療を開始しないのが一般的です。
治療(化学療法/移植)の目的と効果判定。
治療の目的は生存期間を延長させること、症状を軽減し、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を改善させること。合併症を予防することなどです。
効果判定の基準:以下のような検査により効果が推定することができます。
1998年に、欧州血液骨髄移植グループ/国際骨髄移植登録/アメリカ骨髄移植登録(EBMT/IBMTR/ABMTR)により、新たな判定基準がつくられました。これは「EBMT/IBMTR/ABMTRの基準」または「Bladeの基準」と呼ばれています。
(表8) EBMT,IBMTR,ABMTRの骨髄腫治療効果判定基準
- 1.CR(Complete response)以下のすべてを満たすこと
- 1) 免疫固定法で血清および尿中のM蛋白消失が6週間持続
- 2) 骨髄穿刺で形質細胞5%以下
- 3) 溶骨性病変の大きさあるいは数に増加のないこと(圧迫骨折は考慮しない)
- 4) 軟部組織の形質細胞腫の消失
- 1つでもCR基準を満たさない場合、それが次のPR基準に合致すればPRと判定。
- 免疫固定法が実施されていなければPRと判定。
- 2.PR(Partial response)以下のすべてを満たすこと
- 1) 血清M蛋白値の50%以上の減少が6週間持続
- 2) 24時間尿でM蛋白量の50%以上の減少または200mg未満が6週間持続
- 3) 非分泌型骨髄腫では骨髄形質細胞数の50%以上の減少が6週間持続
- 4) 軟部組織の形質細胞腫の大きさ50%以上の減少
- 5) 溶骨性病変の大きさあるいは数に増加のないこと(圧迫骨折は考慮しない)
- 1つでもPR基準を満たさない場合、それが次のMR基準に合致すればMRと判定
- 3.MR(Minor response)以下のすべてを満たすこと
- 1) 血清M蛋白値の 25~49%の減少が6週間持続
- 2) 24時間尿でM蛋白量が50~89%減少するが200mg以上の存在が6週間持続
- 3) 非分泌型骨髄腫では骨髄形質細胞数の25~49%以上の減少が6週間持続
- 4) 軟部組織の形質細胞腫の大きさ25~29%の減少
- 5) 溶骨性病変の大きさあるいは数に増加のないこと(圧迫骨折は考慮しない)
- 4.NC(NO change)MRおよびPDのいずれの基準も満たさないもの
- 5.PD(Progressive disease)以下の1つ以上を満たすこと
- 1) 血清M蛋白の25%以上の増加かつ絶対量で0.5g/dl以上の増加
- 2) 24時間尿でM蛋白量の25%以上の増加かつ絶対量で200mg以上の増加
- 3) 骨髄穿刺で形質細胞25%以上の増加かつ絶対数で10%以上の増加
- 4) 既存の骨病変あるいは軟部組織の形質細胞腫の明らかな増大
- 5) 新しい骨病変あるいは軟部組織の形質細胞腫の出現
- 6) 高カルシウム血症の出現(補正Ca値11.5mg/dl以上)
- (Blade, Brit J Haematol 102: 1115-1123, 1998.)
最近ではさらに国際骨髄腫ワーキンググループの効果判定統一基準が提唱されました。[12]
(表 9);国際骨髄腫ワーキンググループの治療効果判定
- sCR(厳密完全寛解):
- 以下に定義されたCR基準を満たすとともに、FLC比が正常で、免疫組織化学検査又は免疫蛍光検査で骨髄中にクローン性細胞が見つからないこと
- CR(完全寛解) :
- 血清と尿での免疫固定法検査が陰性で、いかなる軟部組織にも形質細胞腫が認められず、骨髄中の形質細胞が5%以下の場合
- VGPR(非常に良い部分寛解) :
- 電気泳動検査では血清と尿にMタンパクが検出されないのに免疫固定法検査では検出される場合、又は、血清Mタンパクで90%以上の減少があり、かつ尿Mタンパクが100mg/24時間未満である場合
- PR(部分寛解) :
- 血清Mタンパク質が50%以上減少し、かつ24時間蓄尿のMタンパクが90%以上減少、又は200mg/24時間未満まで減少した場合。もし血清と尿のMタンパクが測定不可能な場合dは、Mタンパク評価基準の代わりに、相対するカッパ/ラムダ型のFLC cレベル間の差に50%以上の減少が必要です。また血清と尿のMタンパクが測定不可能で、血清フリーライト検査も測定できない場合、初診時の骨髄形質細胞比率が30%以上であることが判明しているなら、Mタンパクの代わりに形質細胞の50%以上の減少が必要です。上記の基準に加えて、初診時に軟部組織に形質細胞腫がある場合は、その大きさが50%以上縮小することも必要です。
- SD(病勢安定化):
- CR、VGPR、PR、あるいは病勢進行の基準に合わない場合。
化学療法によりM蛋白が減り止まって安定し、臓器障害を認めない状態が3ヵ月以上続くことを安定期(プラトー) といいます。この場合は、治療を中止し経過観察します。維持療法としてインターフェロンやステロイド、サリドマイドが行われることもあるが、これらのの有効性を示すデータは限られています。
10.1 初回治療の選択
初回治療として、「通常量化学療法」または「大量化学療法および自家造血幹細胞移植」の選択があります。
一般的には、65歳以下で移植条件を満たす患者さんには化学療法の後「自己末梢血幹細胞移植を伴う大量療法」の方が生存期間の延長が期待できるため、体力があり、臓器合併症がない場合には勧められます。(外国では条件によっては70歳までは移植を検討します)。66歳以上または移植条件を満たさない患者さんには「通常化学療法」が勧められます。( 図2)
(図2).現在の骨髄腫治療の概要
[3] 日本骨髄腫研究会. 2008
- MP: メルファラン(アルケラン?)/プレドニソロン間歇療法,
- VAD: ビンクリスチン(オンコビン?)/ドキソルビシン(アドリアシン?)/デキサメサゾン,
- DEX: デキサメサゾン
- CY: シクロホスファミド(エンドキサン?)
- G-CSF: 顆粒球コロニー刺激因子
10.2 通常量化学療法
1960年代にメルファラン/プレドニゾロンの2種類の薬を内服するMP療法の骨髄腫に対する有効性が報告されました[13] 。完全寛解は6%未満、部分寛解は約半数に認められました。未治療では骨髄腫の生存期間が1-2年程度であったのが、MP療法では約3年に延長することが認められました。
その後抗がん剤を3種類以上併用して治療強度を強化した多剤併用療法が開発されました。しかし1998年英国のグループが、MP療法と多剤併用療法を比較した多くの研究をまとめたメタ解析の結果を報告し[14]、多剤併用療法はMP療法に比し、奏功率は改善するが、生存期間を延長する効果は認められませんでした。このことから、一般的にはMP療法が標準的治療として推奨されています。
しかし、腎障害や骨病変が強く、急速に進行する例では、多剤併用療法の治療成績のほうが優れているため、これが選択されます。
またMP療法は造血幹細胞を減少させるため、将来自家移植を予定する場合は、初回治療としてMP療法は行わないことが勧められます。
サイクロホスファミド(CPM)療法: 経口サイクロホスファミドやサイクロホスファミドを週1回注射で投与する方法で、MP療法で効果がない場合も半数に有効であった報告があります。血球の少ない場合などに用いられます [15]。
VAD療法[16]: VAD療法はビンクリスチン(V) アドリアシン(A) デキサメサゾン(D) を中心静脈から4日間持続点滴静注するもので、再発例に対しても6割の奏功率を示すことが知られています。65歳以下で自家移植を予定している症例では、初回の化学療法として広く用いられます。ステロイドホルモンであるデキサメサゾンは40mg を計12日投与するのが本来の治療法ですが、感染症などの副作用を避けるため4日に短縮して行うこともあります。
デキサメザゾン単独療法:VAD療法で用いられるデキサメザゾンを単独で用いるもので、これも同様に効果があることが期待されます。
(表10) 各種の化学療法
| アルケラン錠 | 6~8mg/m2 を2回に分けて | 4日間 |
| プレドニン錠 | 40~60mg/body を2回に分けて | 4日間 |
| 2.ROAD療法(5週ごとに3コース) | ||
| サイメリン注 | 1回40mg/m2 点滴静注 | 第1日 |
| オンコビン注 | 1回1.2mg/m2(max2mg)静注 | 第1日 |
| アルケラン錠 | 8mg/m2 を3回に分けて | 第1~6日 |
| デカドロン注 | 1回40mg/日 点滴静注(1時間) | 第1~4, 9~12,17~20日 |
| 3.MCNU-VMP療法(6週ごとに繰り返す) | ||
| サイメリン注 | 1回70mg/m2 点滴静注 | 第1日 |
| フィルデシン注 | 1回2mg/m2 静注 | 第1日 |
| アルケラン錠 | 6.5mg/m2 を2回に分けて | 第1~4、22~25日 |
| プレドニン錠 | 40~60mg/日 を2回に分けて | 第1~4、22~25日 |
| 4.Full VAD療法(4~5週ごとに繰り返す) | ||
| オンコビン注 | 1回0.4mg/日 24時間持続点滴静注 | 第1~4日 |
| アドリアマイシン | 10mg/m2/日 24時間持続点滴静注 | 第1~4日 |
| デカドロン | 40mg/日 点滴静注(または内服) | 第1~4, 9~12,17~20日 |
| 5.short VAD療法(3~4週ごとに繰り返す) | ||
| オンコビン注 | 1回0.4mg/日 24時間持続点滴静注 | 第1~4日 |
| アドリアマイシン | 10mg/m2/日 24時間持続点滴静注 | 第1~4日 |
| デカドロン | 40mg/日 点滴静注(または内服) | 第1~4日 |
| 6.デキサメタゾン大量療法(4週ごとに繰り返す) | ||
| デカドロン | 40mg/日 点滴静注(または内服) | 第1~4、9~12、17~20日 |
10.3 造血幹細胞移植とは
造血幹細胞移植とは大量の化学療法を行った後に、血液の源となる造血幹細胞を血液中に輸注して造血の回復をはかる治療です。
造血幹細胞移植には、幹細胞の源によって自家(自己)移植と同種移植の2つの方法があります。また幹細胞をどのように採取するかによって骨髄移植と末梢血幹細胞移植と呼ばれる方法があります。
自家骨髄移植とは患者さん自身の骨髄細胞を採取し、冷凍保存しておき、大量化学療法により自己の血液細胞も、悪い細胞もゼロになった後に自己の血液幹細胞を再度体に返して造血の回復を計るものです。
近年は移植に必要な造血幹細胞を末梢血から採取する技術が進み、自家骨髄移植よりも簡便で造血回復の早い自家末梢血幹細胞移植が行われることが多くなりました。
同種骨髄移植は家族や非血縁者(骨髄バンクの提供者)などの他人から提供された骨髄細胞を輸注するものです。最近は同種末梢血幹細胞移植も行われるようになって来ました。
現在骨髄腫に対して行われている移植は主に自家末梢血幹細胞移植です。
10.4.通常量化学療法(抗がん剤治療)と自家造血幹細胞移植の比較
1980年代に、再発または治療抵抗性の骨髄腫症例に対して、超大量の抗がん剤(メルファラン)投与した後に自家骨髄移植を行う治療が試みられ、有効な結果を期待されました。そこで、自家骨髄移植を行う治療が、通常の抗がん剤治療より優れているかを調べる研究が行われました。フランス/イギリス/スペイン/イタリア/アメリカ/オランダなどで行われた9つの無作為化比較試験の結果をまとめたメタ解析では、全生存率では移植と化学療法の差は認められませんでしたが、無進行生存率では移植が勝っていました [17] 。フランスの試験では生存期間の延長も認められました[18]。自家移植の研究は多くは65歳以下の患者さんを対象としたものであり、少なくとも65歳以下の患者さんに対しては自家移植が優れている根拠があると考えられます。従って現在は、65歳未満の症候性骨髄腫に対して、まずVAD療法や大量デキサメサゾン療にて腫瘍の減量を計った後、自家造血幹細胞採取を行い、その後に自家移植を行うことが、標準的治療として勧められます。自家移植の際には移植前治療として、抗がん剤のメルファラン大量投与する方法が最も多く用いられます[19, 20]。但しこれらの臨床データは後述する「サリドマイド」「ボルテゾミブ」がなどの新規薬剤が用いられる前の成績であり、自家移植は化学療法に比べて移植関連死のリスクが高いことに留意すべきです。
自家末梢血幹細胞移植をいつ実施するか、その適正時期については精確なデータはありませんが、一般に診断後1年以内の早期実施が有利とされています[10]。
但し、自家末梢血幹細胞移植により骨髄腫患者さんの生存期間は延長しますが、長期的には70%以上の患者さんが再発するとされており、治癒をもたらす治療は確立されていません。
10.5 タンデム(ダブル)移植
1990年代に入り、1回の自家移植を行うより、自家移植を2回連続して繰り返すタンデム自己移植のほうが優れているかを検討する臨床試験も進められてきました。5つの研究のうち4つの研究で2回移植の無進行生存率が優れていることが認められましたが、全生存率では1研究でのみ優位性が認められています
[21]その理由として、最終的な治療効果を評価するための観察期間が短いことが考えられます。現在全ての患者さんに対し2回移植を薦めることは臨床試験として行う以外は推奨する根拠は少ないと考えられます。しかし、第1回の自家移植で効果が不十分な患者に対しては、2回目の自家移植を行うほうが有用となることが示唆されます。
11. 再発・難反応例の治療
近年、サリドマイドやボルテゾミブ等の新規薬剤が開発され、再発・難治の患者さんに対して臨床試験が行われ、その有効性が認められています。
初回治療に効果がない場合(治療不応例) では以下の新規薬剤による治療を検討します。
再発持の治療:初回の治療に効果があっても、長期的には多くの患者さんが再発するため、その場合は、同様の治療を行うか、別の治療を選択します。(救援化学療法)
移植後の再発:初回治療として大量化学療法+自家移植が行われた場合、特に2年後に再発した場合は再度自家移植が有効と考えられます。[22] しかし予後不良の染色体異常を有する場合は、新規薬剤が勧められます。[23]
化学療法後の再発:化学療法でM蛋白量が減少し、不変(25%以内の変動)となった場合は安定期(プラトー)に達したと判定され、以後は中断し、経過観察することが進められます。[3] 休薬後 6か月以上たってから再発した場合は以前に効果があった治療を繰り返すことで効果が期待できます [24]。可能であれば自家移植も選択となります [25]。 救援化学療法としてVAD などの化学療法や新規薬剤(ボルテゾミブ、サリドマイド)が行われます
11.1サリドマイド
サリドマイドは、かつて鎮静薬として使用されましたが、妊娠中に服用すると胎児に奇形をもたらし、1960年代に大きな問題となりました。1998年になり骨髄腫に対する有用性が報告されました。再発・治療抵抗性の骨髄腫に対してサリドマイド単独で奏功率は完全寛解は1・6%、部分寛解は26%と報告されました。[26]。奏功までの期間は1-2ヶ月、1年無進行生存率は23-45%、 1年全生存率は49/86%とされています。[27]。 副作用として欧米では深部静脈血栓症(血管内で血液が固まり血管が詰まるため肺などの臓器に障害が起こる)が報告されています(5%未満)。
再発・治療抵抗性骨髄腫に対してサリドマイドとデキサメタゾンとの併用では、奏功率は50%に及びます。他の化学療法との併用では50~60%の奏功率が報告されています。しかしサリドマイドとデキサメタゾンとの併用で深部静脈血栓症は10%、サリドマイドと他の化学療法との併用では30%近くにみられ、血栓症の対策を検討します。[27] [28] 。その他、副作用としては、末梢神経障害、便秘などの消化器症状、傾眠などの精神神経症状、白血球減少等がみられます。
サリドマイドの管理:サリドマイドは、過去に重篤な薬害を起こした経緯があることから、間違って妊婦さんが服用することが絶対にないよう、十分な管理を行う必要があります。2004年に厚生労働省は日本臨床血液学会と、日本血液学会の協力を得てサリドマイド使用のガイドラインを発表しました。これまで日本ではサリドマイドを用いる患者さんは外国より輸入して用いてきましたが2008年11月に日本でも製造販売が承認されました。使用に当たっては、学会指定の病院やまたは専門医と連携の取れる病院で処方し、患者さんは薬剤についての正しい知識を得ていることを確認し、家庭においても管理を徹底して使用するようにしています。サリドマイドは海外では初発治療にMP療法と併用することが有用であるという研究が行われていますが、現在わが国では、通常の治療に抵抗性・再発性の患者に使用が認められます。
11.2ボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)
ボルテゾミブは細胞内にあるプロテアソームという器官を抑制する薬剤で、プロテアソーム阻害剤と呼ばれています。近年、難治性骨髄腫に対するボルテゾミブが有効であることを示す報告が発表されました。再発した骨髄腫に対し、ボルテゾミブ単独でCR 9%, VGPR 7% 1年全生存率は80%であったことが報告されました [29] 更に、通常の治療では効果が少ないとされている13番染色体欠損のある患者さんに対しても同等の効果が認められました [30] 。さらにボルテゾミブとデキサメサゾン併用でさらに奏功率が改善することが示されました [31]。
しかしボルテゾミブ使用例の75%に重篤な有害事象が認められ、血球減少症、末梢神経障害、下痢などの消化器症状、倦怠や息苦しさといった症状が見られました。日本では発売前の治験の段階でボルテゾミブを使用した52例のうち9例(17%)に呼吸器障害が発生したと報告されました[32] 。呼吸器障害を発症した患者さんの多くは、抗がん剤投与の治療歴が長く、造血幹細胞移植後やサリドマイドなど他の治療で効果が不十分であった例が多く、ボルテゾミブ投与が呼吸器障害に関連しているか否かに関しては、まだ不明な点が多いと考えられます。日本では2006年12月に再発性/治療抵抗性の骨髄腫患者さんに使用承認されましたが、肺疾患のある患者さんに対しては使用を差し控えるなどの注意が促され、その後の特定使用成績調査の解析で、急性肺障害・間質性肺炎の頻度は525例中22例(4・2%)であり、死亡例は2例であることが知られ、肺障害に注意して使用することにより、合併症のリスクが下がることが認められました。
10.6 研究段階の治療
同種造血幹細胞移植(ミニ移植を含む)
1980-90年台にかけて同種造血幹細胞移植が行われた成績では、移植関連死が46%から30%であり、リスクの高い治療でした [33]。骨髄腫は高齢者に多く(発症年齢中央値が65歳)、同種造血幹細胞移植の適応となる患者さんは少ないと考えられます。55歳以下の患者で適合同胞(兄弟)からの同種移植を行った米国の臨床試験の成績では、自家移植と比べて骨髄腫の再発は少ないが移植関連毒性が高く、自家移植と同等の成績と考えられました。
最近、骨髄非破壊的移植(ミニ移植)が進められ、移植関連死が少なく、比較的高齢者にも可能な移植方法として導入されました。3年全生存率は40%、無進行生存率は 40%でした。 [34]
骨髄腫に対して、自家末梢血幹細胞移植で腫瘍を減らした後にミニ移植を行う方法 (タンデム自家/ミニ移植)が期待されています。但し現在までの欧米の報告では、骨髄腫に対するタンデム自家/ミニ移植の成績は、タンデム自己移植に比べても優れているといえるかは不明であり、米国で現在進行中の大規模比較試験の結果により評価されるものと思われます。
12.補助療法
12.1骨病変
ビスホスホネート製剤
骨髄腫では破骨細胞の機能が高まり、骨破壊や骨痛の強い場合が多いことは前述のとおりです。ビスホスホネート製剤は破骨細胞の機能を抑制することによって骨折の頻度を減らし、血液中のカルシウムを低下させる働きがあります。
放射線療法
限局的な骨病変による痛みに対しては、少量の放射線照射が有効であるとされます。腫瘍のため脊髄圧迫を来たし、下肢麻痺などが出現した場合は、速やかに照射を行うことで機能改善を試みます。
疼痛対策
疼痛に対しては以下のような鎮痛薬を用いてコントロールに努めます。
非ステロイド系消炎鎮痛薬は、通常外傷などのさいに用いる痛み止めですが骨の痛みに対しては有効性が高いと考えられます。
オピオイド鎮痛薬は神経に作用し比較的強い除痛作用を有します。
高カルシウム血症
骨髄腫の病勢が強いときなどは高カルシウム血症を合併し、口渇、動悸、意識障害を来たす場合は生理食塩水の輸液とビスホスホネート製剤の点滴を行います。
また、ステロイドやカルシトニン製剤も併用されます。
腎障害
骨髄腫患者では腎臓へのM蛋白の沈着、高カルシウム血症による脱水、高尿酸血症、アミロイドーシス、尿路感染症、その他の多くの原因で腎障害が発症するとされています。輸液により水分補給・塩分バランスの異常を是正し、必要に応じて透析治療行います。
アミロイドーシス
骨髄腫細胞から産生されるM蛋白の一部からアミロイド蛋白が産生され、腎臓、心臓、神経、消化管、舌等の臓器に沈着して、臓器の働きの障害を起こすことをアミロイドーシスといいます。アミロイド沈着は骨髄腫の患者さんの約30%にみられます。診断のためには骨髄や皮下脂肪細胞をまたは直腸や十二指腸から組織を採取しアミロイドの存在を調べる方法があります。アミロイドーシスのある患者さんでは心不全や不整脈が予後にかかわる重要な因子です。
感染症
骨髄腫の患者さんは、病気や治療のために免疫力が低下していて、感染症にかかりやすい状態になっています。免疫グロブリン低下により肺炎球菌などにかかりやすくなります。治療中の患者さんは免疫抑制のために、ウイルス、真菌等の感染症をしばしば合併します。手洗いを心がけ、人混みや、埃の多い場所、風邪を引いている人と同席することは避け、動物や土に触れることも避けて感染予防に努めることが重要です。
13.おわりに
骨髄腫は難治性の疾患で、高齢者や合併症を持つ方が多く治療が難しい疾患です。
しかし近年、新しい治療が開発され、より簡便に、安全な治療が開発されることで患者さんの日々の生活の質の向上に役立っています。
新しい治療が開発されるためには患者さんの理解や社会の協力が不可欠であり、新薬の臨床試験も、認可を求めることも患者さんの声が最も強い推進力になっています。従って、治療を開発する主役は患者さんであるといえます。
担当医師とよく相談されて、現在の確立された治療と、さらに個々の患者さんの状態を考えて、最も良いと思われる治療を選択をされ、納得いく治療を受けられることを願います。
- [1]国立がんセンターがん対策情報センター:がん情報サービス。http://ganjoho.ncc.go.jp/public/cancer/data/myeloma_diagnosis.html
- [2] 血液疾患ハンドブック (下巻) 医薬ジャーナル社
- [3] 日本骨髄腫研究会編. 多発性骨髄腫の診療指針 (第 2 版). 文光堂, 2008
- [4] http://ganjoho.ncc.go.jp/pro/statistics/gdball.html?18%2%1#Graph
- [5] Kyle RA, Rajukumar SV. Monoclonal gammopathies of undetermined significance: a review. Immunol Rev.; 194:112-39, 2003
- [6] Kyle, RA, Greipp, PR. Smoldering multiple myeloma. N Engl J Med; 302:1347-9,1980
- [7] Durie BG, Salmon SE. A clinical staging system for multiple myeloma. Correlation of measured myeloma cell mass with presenting clinical features, response to treatment, and survival. Cancer. 36(3):842-54, 1975
- [8] Smith A, Wisloff F, Samson D; UK Myeloma Forum; Nordic Myeloma Study Group; British Committee for Standards in Haematology. Guidelines on the diagnosis and management of multiple myeloma 2005. Br J Haematol.;132(4):410-51, 2006.
- [9] Greipp PR, San Miguel J, Durie BG, Crowley JJ, Barlogie B, Blade J, Boccadoro M, Child JA, Avet-Loiseau H, Kyle RA, Lahuerta JJ, Ludwig H, Morgan G, Powles R, Shimizu K, Shustik C, Sonneveld P, Tosi P, Turesson I, Westin J. International staging system for multiple myeloma. J Clin Oncol. 20;23(15):3412-20, 2005
- [10] Riccardi A, Mora O, Tinelli C, Valentini D, Brugnatelli S, Spanedda R, De Paoli A, Barbarano L, Di Stasi M, Giordano M, Delfini C, Nicoletti G, Bergonzi C, Rinaldi E, Piccinini L, Ascari E. Long-term survival of stage I multiple myeloma given chemotherapy just after diagnosis or at progression of the disease: a multicentre randomized study. Cooperative Group of Study and Treatment of Multiple Myeloma. Br J Cancer.;82(7):1254-60, 2000
- [11] Blade J, Samson D, Reece D, Apperley J, Bjorkstrand B, Gahrton G et al. Criteria for evaluating disease response and progression in patients with multiple myeloma treated by high-dose therapy and haemopoietic stem cell transplantation. Br J Haematol ; 102: 1115?1123, 1998
- [12] Durie BG, Harousseau JL, Miguel JS, Blade J, Barlogie B, Anderson K, Gertz M, Dimopoulos M, Westin J, Sonneveld P, Ludwig H, Gahrton G, Beksac M, Crowley J, Belch A, Boccadaro M, Cavo M, Turesson I, Joshua D, Vesole D, Kyle R, Alexanian R, Tricot G, Attal M, Merlini G, Powles R, Richardson P, Shimizu K, Tosi P, Morgan G, Rajkumar SV; International Myeloma Working Group. International uniform response criteria for multiple myeloma. Leukemia.;20(9):1467-73, 2006
- [13] Alexanian R, Haut A, Khan AU, Lane M, McKelvey EM, Migliore PJ, Stuckey WJ Jr, Wilson HE. Treatment for multiple myeloma. Combination chemotherapy with different melphalan dose regimens. JAMA. 208(9):1680-5, 1969
- [14] Myeloma Trialists’ Collaborative Group:Combination chemotherapy vs. melphalan plus prednisone as treatment for multiple myeloma : an overview of 6633 patients from 27 randamized trials. J Clin Oncol 16 : 3832-42, 1998
- [15] Smith AZ Br J Hematol 132:410-451, 2005 *oral CY
- [16] Barlogie B, Smith L, Alexanian R.Effective treatment of advanced multiple myeloma refractory to alkylating agents.N Engl J Med. 24;310(21):1353-6, 1984. *VAD
- [17] Koreth J, Cutler CS, Djulbegovic B, Behl R, Schlossman RL, Munshi NC, Richardson PG, Anderson KC, Soiffer RJ, Alyea EP 3rd. High-dose therapy with single autologous transplantation versus chemotherapy for newly diagnosed multiple myeloma: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Biol Blood Marrow Transplant;13(2):183-96, 2007
- [18] Michel Attal, Jean-Luc Harousseau, Anne-Marie Stoppa, Jean-Jacques Sotto, Jean-Gabriel Fuzibet, Jean-Francois Rossi, Philippe Casassus, Herve Maisonneuve, Thierry Faco, Norbert Ifrah, Catherine Payen, Regis Bataille, for The Intergroupe Francais du Myelome A Prospective, Randomized Trial of Autologous Bone Marrow Transplantation and Chemotherapy in Multiple Myeloma N Engl J Med;335:91-7, 1996
- [19] Hari P, Pasquini MC, Vesole DH. Cure of multiple myeloma -- more hype, less reality. Bone Marrow Transplantation.;37:1-18, 2006
- [20] Attal M, Harousseau JL, Facon T, Guilhot F, Doyen C, Fuzibet JG, Monconduit M, Hulin C, Caillot D, Bouabdallah R, Voillat L, Sotto JJ, Grosbois B, Bataille R. Single versus double autologous stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 25;349(26):2495-502,2003
- [21] Cavo M, Tosi P, Zamagni E, Cellini C, Tacchetti P, Patriarca F, Di Raimondo F, Volpe E, Ronconi S, Cangini D, Narni F, Carubelli A, Masini L, Catalano L, Fiacchini M, de Vivo A, Gozzetti A, Lazzaro A, Tura S, Baccarani M. Prospective, randomized study of single compared with double autologous stem-cell transplantation for multiple myeloma: Bologna 96 clinical study. J Clin Oncol.10;25(17):2434-41,2007。
- [22] J Mehta and S Singhal High-dose chemotherapy and autologous hematopoietic stem cell transplantation in myeloma patients under the age of 65 years. Bone Marrow Transplantation 40, 1101-1114,2007
- [23] S Jagannath, P G Richardson, P Sonneveld, M W Schuster, D Irwin, E A Stadtmauer, T Facon, J-L Harousseau, J M Cowan, K C Anderson. Bortezomib appears to overcome the poor prognosis conferred by chromosome 13 deletion in phase 2 and 3 trials. Leukemia 21, 151-157, 2007
- [24] Robert A. Kyle, M.D., and S. Vincent Rajkumar, M.D. Multiple Myeloma N Engl J Med 351;1860-73, 2004
- [25] SK. Kumar, S. Vincent Rajkumar, Angela Dispenzieri, Martha Q. Lacy, Suzanne R. Hayman, Francis K. Buadi, Steven R. Zeldenrust, David Dingli, Stephen J. Russell, John A. Lust, Philip R. Greipp, Robert A. Kyle, and Morie A. Gertz. Improved survival in multiple myeloma and the impact of novel therapies. Blood; 111: 2516-2520, 2008
- [26] Prince HM, Schenkel B, Mileshkin L. An analysis of clinical trials assessing the efficacy and safety of single-agent thalidomide in patients with relapsed or refractory multiple myeloma. Leuk Lymphoma. Jan;48(1):46-55, 2007
- [27] Glasmacher A, Hahn C, Hoffmann F, Naumann R, Goldschmidt H, von Lilienfeld-Toal M, Orlopp K, Schmidt-Wolf I, Gorschluter M. A systematic review of phase-II trials of thalidomide monotherapy in patients with relapsed or refractory multiple myeloma.Br J Haematol;132(5):584-93, 2006
- [28] Palumbo A, Facon T, Sonneveld P, Blade J, Offidani M, Gay F, Moreau P, Waage A, Spencer A, Ludwig H, Boccadoro M, Harousseau JL. Thalidomide for treatment of multiple myeloma: 10 years later.Blood;111(8):3968-77, 2008
- [29] Richardson PG, Sonneveld P, Schuster M, Irwin D, Stadtmauer E, Facon T, Harousseau JL, Ben-Yehuda D, Lonial S, Goldschmidt H, Reece D, Miguel JS, Blade J, Boccadoro M, Cavenagh J, Alsina M, Rajkumar SV, Lacy M, Jakubowiak A, Dalton W, Boral A, Esseltine DL, Schenkein D, Anderson KC. Extended follow-up of a phase 3 trial in relapsed multiple myeloma: final time-to-event results of the APEX trial.1: Blood.;110(10):3557-60, 2007
- [30] Jagannath S, Richardson PG, Sonneveld P, Schuster MW, Irwin D, Stadtmauer EA, Facon T, Harousseau JL, Cowan JM, Anderson KC. Bortezomib appears to overcome the poor prognosis conferred by chromosome 13 deletion in phase 2 and 3 trials.Leukemia;21(1):151-7, 2007
- [31] Jagannath S, Barlogie B, Berenson JR, Siegel DS, Irwin D, Richardson PG, Niesvizky R, Alexanian R, Limentani SA, Alsina M, Esseltine DL, Anderson KC. Updated survival analyses after prolonged follow-up of the phase 2, multicenter CREST study of bortezomib in relapsed or refractory multiple myeloma.Br J Haematol.;143(4):537-40, 2008
- [32] Miyakoshi S, Kami M, Yuji K, Matsumura T, Takatoku M, Sasaki M, Narimatsu H, Fujii T, Kawabata M, Taniguchi S, Ozawa K, Oshimi K. Severe pulmonary complications in Japanese patients after bortezomib treatment for refractory multiple myeloma. Blood ;107(9):3492-4, 2006
- [33] Gahrton G, Svensson H, Cavo M, Apperly J, Bacigalupo A, Bjorkstrand B, Blade J, Cornelissen J, de Laurenzi A, Facon T, Ljungman P, Michallet M, Niederwieser D, Powles R, Reiffers J, Russell NH, Samson D, Schaefer UW, Schattenberg A, Tura S, Verdonck LF, Vernant JP, Willemze R, Volin L; European Group for Blood and Marrow Transplantation. Progress in allogenic bone marrow and peripheral blood stem cell transplantation for multiple myeloma: a comparison between transplants performed 1983--93 and 1994--8 at European Group for Blood and Marrow Transplantation centres.Br J Haematol;113(1):209-16, 2001
- [34] Shimazaki C, Fujii H, Yoshida T, Chou T, Nishimura M, Asaoku H, Miyawaki S, Ishii A, Ishida T, Taniwaki M, Iida S, Takagi T, Takatsuki K; Japan Myeloma Study Group. Reduced-intensity conditioning allogeneic stem cell transplantation for multiple myeloma: results from the Japan Myeloma Study Group.Int J Hematol;81(4):342-8, 2005