1.食道がんとは
1)食道の構造と働き
食道は咽頭と胃をつなぐ長さ約25cm,太さ約3cmの管状の臓器で、首から胸の中を通り,腹部に至ります.食道は体の中心にあり,胸部上部では気管と背骨の間にあり,下部では心臓,大動脈,肺に囲まれています.
食道壁は外に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています.食道の内側は食べ物が通りやすいように粘液を分泌するなめらかな粘膜で覆われています.粘膜の下には筋層との間に血管やリンパ管が豊富な粘膜下層があります.食道壁の中心は食道の動きを担当する筋肉の層です.筋層の外側の外膜は周囲臓器との間を埋める結合組織で,膜状ではありません.
食道は、食物を胃へ送る働きをしています.食事をすると重力で下に流れるとともに,ぜん動と呼ばれる筋肉の収縮運動によって食物は下方へ進み,下部食道括約筋を通過して胃に入ります.食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません.
2)食道がんの発生と進展
日本人の食道がんは、約半数が胸部食道の真ん中から,次に1/4が食道の下1/3に発生します.食道がんは食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生します.食道の内面をおおっている粘膜から発生したがんは,大きくなると粘膜下層に広がり,さらにその下の筋層に入り込みます.さらに大きくなると食道壁を貫いて食道の外まで広がっていきます.食道の周囲には気管・気管支や肺,大動脈,心臓など重要な臓器が近接しているので,がんが進行しさらに大きくなるとこれら周囲臓器へと広がります.
食道壁の中と周囲にはリンパ管や血管が非常に豊富です.がんはリンパ液や血液の流れに入り込んで食道を離れ,食道とは別のところに流れ着いてそこで増えはじめます.これを転移といいます.リンパの流れで転移したがんは,リンパ節にたどり着いて塊をつくります.食道のまわりのリンパ節だけではなく,腹部や首のリンパ節に転移することもあります.血液の流れに入り込んだがんは,肝臓,肺,骨などに転移します.
3)食道がんの統計
年齢別にみた食道がんの罹患(りかん)率,死亡率は,ともに40歳代後半以降増加し始め,特に男性は女性に比べて急激に増加します.
罹患率、死亡率ともに男性のほうが高く,女性の5倍以上です.罹患率の年次推移は,男性では軽度増加傾向,女性では横ばい状態です.一方,死亡率の年次推移は、男女ともに近年は横ばい状態です.
罹患率の国際比較では,日本人は他の東アジアの国の人や,アメリカの日本人移民に比べて高い傾向があります.
4)食道がんの組織分類
食道がんは食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生します.食道の上皮は扁平上皮でできているので,食道がんの90%以上が扁平上皮癌です.
これに対して,欧米では胃がんと同じ腺上皮から発生する腺癌が増加しており,現在では半数以上が腺癌です.腺癌のほとんどは胃の近くの食道下部に発生します.日本では腺癌は2%ほどですが,生活習慣や食生活の欧米化により,今後はわが国でも腺癌の増加が予想されています.
また,頻度はまれですが,食道には未分化細胞癌、癌肉腫、悪性黒色腫などの特殊な細胞でできたがんや粘膜ではなく筋層などの細胞から発生する消化管間質腫瘍も発生することがあります.
5)食道がんの原因
食道がんについては,喫煙と飲酒がリスク要因として確立しています.特に扁平上皮癌ではその関連が強いことがわかっています.また,喫煙と飲酒が相乗的に作用してリスクが高くなることも報告されています.
熱い飲食物が食道粘膜の炎症を通して,食道がんのリスクを上げることを示す研究結果が多く報告されています.熱いものを飲んだり食べたりする食習慣も,おそらく確実なリスク要因でしょう.近年、欧米で急増している腺がんについては,胃・食道逆流症に加えて,肥満で確実にリスクが高くなるといわれています.
2.症状
食道がんの最も多い初発症状は食物のつかえに起因する症状(飲み込みにくさや狭窄感など)です.ただし,がんが大きくなってこれらの症状が出現することが多いですから,早めに受診することが大切です.また,胸の中の食道が狭いのにもっと上ののどがつかえるように感じることがあります.のどの検査で異常が見つからない時は食道の検査も受けましょう.
一方,健康診断や人間ドックの内視鏡検査などで偶然発見される無症状の食道がんも20%近くあります.無症状で発見された食道がんは早期のがんであることが多く,最も治る確率が高いがんです.また,食べ物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛んだり,熱いものを飲み込んだときにしみるように感じるといった症状も,がんの初期のころにみられるので,早期発見のために注意してほしい症状です.軽く考えずに是非内視鏡検査を受けることをお勧めします.
先ほど述べたつかえの症状を放置しておくと,がんがさらに大きくなり食道を塞いで水も通らなくなり,唾液も飲み込めずにもどすようになります.また,食べ物がつかえることで食事量が減り,低栄養となり体重が減少します.そして,がんが食道の壁を貫いて周囲の肺や背骨,大動脈を圧迫するようになると,胸の奥や背中に痛みを感じるようになります.
さらに食道がんがかなり進行して気管・気管支,肺へ及ぶと,むせるような咳(特に飲食物を摂取する時)が出たり,血痰が出るようになります.
進行した食道がんで認める他の症状として,食道のすぐわきに声を調節している神経ががんで壊されると声がかすれます.耳鼻咽喉科を受診する場合が多いのですが,喉頭そのものには腫瘍や炎症はないとして見すごされることもありますので,声帯の動きだけが悪い時は食道がんも疑って食道の検査をすることをお勧めします.
3.診断
食道がんの診断方法には,一般に内視鏡検査とX線(レントゲン線)による食道造影検査があります.また他にも,がんの広がり具合を見るためにCT検査,MRI検査,超音波内視鏡検査,超音波検査などを行います.がんの進行度を正確に診断することは,治療法を選択する上で非常に重要なことです.
1)内視鏡検査
内視鏡検査は,内視鏡を口または鼻から挿入して,食道粘膜を観察する方法です.病変を直接観察できることが大きな特徴です.病変の位置,大きさや数だけでなく,病巣の拡がりや表面の形状,色調などから,ある程度がんの進展の深さを判断することが出来ます.食道の内視鏡精密検査では,通常の観察に加えて色素内視鏡を行います.正常な粘膜上皮細胞がヨウ素液(一般にルゴールといいます)に染まるのに対し,がんなどの異常のある部分は染まらないでんぷん反応を利用した方法です.
もう1つの内視鏡検査の大きなメリットは,直接組織を採取して(組織生検),顕微鏡でがん細胞の有無をチェックすることができ,病変の診断に役立つことです.
たとえレントゲン検査で異常が認められなくとも内視鏡検査で発見されることもあり,無症状あるいは初期の食道がんを見つけるために内視鏡検査は極めて有用な検査です.
2)食道造影検査(食道透視)
バリウムを飲んで,それが食道を通過するところをレントゲンで撮影する検査です.造影検査は苦痛を伴わず,がんの場所やその大きさ,食道内腔の狭さなど全体像が見られます.
3)CT・MRI検査
CT(コンピューター断層撮影)はコンピューターで処理することで身体の内部を輪切りにしたように見ることができるX線検査です.CT検査は,がんと食道の周囲の重要臓器(気管,気管支,大動脈,心臓など)との関係を調べるためには最も優れた診断法といえます.リンパ節転移の存在も頸部,胸部,腹部の3領域にわたって検索ができます.さらに肺、肝臓などの転移の診断にも欠かせません.進行したがんにおいては進行度を判定するために最も重要な検査です.
MRI検査はCTとほぼ同等の診断能力がありますが,リンパ節をはじめとして描出能の点でCTを越えるものではありません.
4)超音波内視鏡検査
食道上皮から発生したがんは次第に粘膜下層,筋層へと拡がり,周囲の臓器へ拡がっていきます.がんがより深く浸潤しているほど,リンパ節転移の確率が高いことが明らかとなっています.また、食道は気管や肺静脈などと隣接しているため,気管あるいは気管支などの周囲の臓器へ直接がんが喰い込むことがあります.超音波内視鏡は,内視鏡の先端についた超音波装置を用いて,食道がんがどのくらい深く進展しているか,周りの臓器へ浸潤していないか,食道の外側にあるリンパ節が腫れていないか(リンパ節転移の有無)などについてのより詳細な情報を得ることができます.これは,治療方針の決定に非常に重要な役割を果たします.
5)超音波検査
体外式(体表から観察する)の超音波検査は腹部と頸部に対して行います.腹部では肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無などを検索し,頸部では頸部リンパ節転移を検索します.頸部食道がんの場合は,主病巣と気管,甲状腺、頸動脈などの周囲臓器との関係を調べるため行います.
6)PET検査
PET検査(陽電子放射断層撮影検査)は,全身の悪性腫瘍細胞を検出する検査です.悪性腫瘍細胞は正常細胞よりも活発に増殖するため,そのエネルギーとしてブドウ等を多く取り込みます.PET検査では、放射性ブドウ糖を注射しその取り込みの分布を撮影することで悪性腫瘍細胞を検出します.食道がんでも進行度診断での有効性が報告されています。
7)腫瘍マーカー
PET検査(陽電子放射断層撮影検査)は全身の悪性腫瘍細胞を検出する検査です。悪性腫瘍細胞は正常細胞よりも活発に増殖するため,そのエネルギーとしてブドウ等を多く取り込みます.PET検査では、放射性ブドウ糖を注射しその取り込みの分布を撮影することで悪性腫瘍細胞を検出します.食道がんでも進行度診断での有効性が報告されています.
4.病期(ステージ)
食道がんの治療法を決めたり,また治療によりどの程度治る可能性があるかを推定したりする場合,病気の進行の程度をあらわす分類法,つまり進行度分類を使用します.わが国では日本食道学会の「食道癌取扱い規約」に基づいて進行度分類を行っています.各検査で得られた所見、あるいは手術時の所見により、深達度,リンパ節転移,他の臓器の転移の程度にしたがって病期を決定しています.
がん病巣の広がりぐあいで病気の進行度を0,I,II,III,IV期に分類します.
0期
がんが粘膜にとどまっており,リンパ節,他の臓器,胸膜などにがんが認められないものです.いわゆる早期がん,初期がんと呼ばれているがんです.
I期
がんが粘膜にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか,粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜・腹膜にがんが認められないものです.
II期
がんが筋層を越えて食道の壁の外にわずかにがんが出ていると判断された時,あるいは食道のがん病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみにがんがあると判断された時,そして臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければII期に分類されます.
III期
がんが食道の外に明らかに出ていると判断された時,食道壁にそっているリンパ節か,あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節にがんがあると判断され,他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければIII期と分類します.
IV期
がんが食道周囲の臓器に及んでいるか,がんから遠く離れたリンパ節にがんがあると判断された時,あるいは他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められたらIV期と分類されます.
5.治療
各種検査の結果を総合的に評価して,がんの進展度と全身状態から治療法を決めます。食道がんの治療には大きく分けて,4つの治療法があります.それは、内視鏡治療,手術療法,放射線治療と抗がん剤治療です.その他に温熱療法や免疫療法などを行っている施設もあります.ある程度進行したがんでは,手術療法,放射線療法,抗がん剤治療を組み合わせてこれらの特徴を生かした集学的治療も行われます.
以下各治療法について説明します.
1)手術(外科)療法
手術は食道がんに対する現在最も一般的な治療法です.手術ではがんを含め食道を切除します.同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します(リンパ節郭清といいます).食道を切除した後には食物の新しい通り道を再建します.食道は頸部,胸部,腹部にわたっていて,それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので,がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります. また,進行がんでは術前に後で述べる放射線化学療法をおこなうことがあります.(1)頸部食道がん
がんが小さく頸部の食道にとどまり,周囲へのがんの拡がりもない場合には,通常はのどと胸の間の頸部食道のみを切除します.切除した食道の代わりに小腸の一部(約10cm)を移植して再建します.同時に移植腸管は血管を頸部の血管とつなぎ合わせることが必要です.のどの近くまで拡がったがんでは頸部食道とともに喉頭を切除し,気管の入口を頸部の最下端中央につくります.喉頭を切除するため声が出せなくなります.
(2)胸部食道がん
原則的に胸部食道を全部切除します.同時に胸部のリンパ節を切除します.胸の中にある食道を切除するために、右側の胸を開きます。最近では胸腔鏡を使って開胸せずに食道を切除する方法も試みられていますが,その有効性はまだ検討段階です.開胸を行わずに頸部と腹部を切開し食道を引き抜く術式(食道抜去術)もあります.この術式では食道の周囲のリンパ節を切除できません.
食道を切除した後,胃を引き上げて残っている食道とつなぎ,食物の通る道を再建します.胃が使えない時には大腸または小腸を使います.胃や大腸・小腸を引き上げる経路により,前胸部の皮膚の下を通す方法と胸骨の裏を通す方法ともとの食道のあった場所を通す方法の3通りがあり,それぞれの病態により選択されます.
(3)腹部食道がん
腹部食道のがんに対しては,左側を開胸して食道の下部と胃の噴門部を切除します.左側の開胸による手術は胸部・下部食道がんで肺機能の悪い人にも行われます.
(4)外科療法の合併症
手術に続いて発生する余病(合併症)は肺炎,縫合不全(つなぎめのほころび),肝・腎・心障害などです.これらの合併症が死につながる率,すなわち手術死亡率(手術後1ヵ月以内に死亡する割合)は一般的に2~3%です.これらの発生率は,手術前から他の臓器に障害をもっている人では高くなります.
2)放射線療法
放射線療法は手術と同様に限られた範囲のみを治療できる局所治療ですが,働きや形をそのまま温存することをめざした治療です.高エネルギーのX線などの放射線を当ててがん細胞を殺します.放射線療法には2つの方法があります.放射線を身体の外から照射する方法(外照射)と,食道の内腔に放射線が出る物質を挿入し身体の中から照射する方法(腔内照射)です.また,放射線療法は治療の目的により大きく2つに分けられます.がんを治してしまおうと努力する治療(根治治療)とがんによる痛み,出血などの症状を抑さえようとする治療(姑息治療、対症治療)です.
(1)根治治療
根治治療の対象は,がんの広がり方が放射線を当てられる範囲にとどまっている場合です。根治治療の放射線療法は、外照射だけを週5日6~7週続けるやり方と,外照射5~6週に2~3回の腔内照射を組み合わせるやり方があります.
最近,放射線療法と抗がん剤治療を同時に行う方が放射線療法だけを行うよりも効果があることがわかってきました.放射線療法に抗がん剤治療を加えることで手術をしなくても治る患者さんが増えたという報告もあります.治すことをめざして治療をする場合は,放射線療法と抗がん剤治療を同時に行うことが勧められます.
(2)姑息治療
姑息治療は骨への転移による痛み,脳への転移による神経症状,リンパ節転移の気管狭窄による息苦しさ,血痰などを改善するために行われます.症状を和らげるために放射線は役に立ちます.症状がよくなれば目的は達成されるので,根治治療の時のように長い期間治療しません.2~4週くらいの治療です.
(3)放射線療法の副作用
放射線療法の副作用は主に放射線が照射されている部位に起こります.そのため治療している部位により副作用は異なります.また副作用には治療期間中のものと,治療が終了してから数ヶ月~数年後におこりうる副作用があります.
治療期間中におこる副作用は,頸部に照射した場合,嚥下時の違和感・疼痛・咽頭の乾き・声のかすれ,胸部に照射した場合は嚥下時の違和感・疼痛,腹部を治療した場合は腹部不快感・嘔気・嘔吐・食欲低下・下痢などの症状が出る可能性があります.照射部の皮膚には日焼けに似た症状が出てきます.その他にも身体のだるさ、食欲低下といった症状を訴える方もいます.血液障害として白血球や血小板が減少することがあります.以上の副作用の程度には個人差があり,ほとんど副作用の出ない人も強めに副作用が出る人もいます.症状が強い場合は症状を和らげる治療をしますが,時期がくれば自然に回復します.
治療が終了してからおこりうる副作用としては,心臓や肺が照射部に含まれているとこれらの臓器に影響が出ることがあります.脊髄に大線量が照射されると神経麻痺の症状が出ることがありますが,神経症状が出る危険がないとされている程度に照射線量を設定するのが普通です.
3)抗がん剤による化学療法
抗がん剤治療はがん細胞を殺す薬を投与します.抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切りとれないところや放射線を当てられないところにも,全身に行き渡ります.多くは他の臓器にがんが転移している時に行われる治療ですが,単独で行われる場合と,放射線療法や外科療法との併用で行われる場合とがあります.
(1)化学療法の方法
抗がん剤治療は,何種類かの抗がん剤を組み合わせて使うほうがよく効きます.抗がん剤として現在,フルオロウラシルとシスプラチンの併用療法が最も有効とされています.シスプラチンによる腎臓の障害を防ぐために1日に3,000mlくらいの点滴を同時に行います.このために入院が必要です.効果がない場合は別の抗がん剤に切り替えます.
新しい抗がん剤の開発により,大量の点滴を必要としない抗がん剤治療をも増えています.
(2)抗がん剤の副作用
副作用は個人差がありますが,薬剤使用中は嘔気,嘔吐,食欲不振はほとんどの人にある程度認められます.しかし,薬剤使用終了後,2~3日で回復の兆しがみられます.また,白血球,血小板が減少することがあるので,注意が必要です.そのほか,シスプラチン投与では腎障害をおこすことがあります.そのため,毎回,投与前には白血球数,血小板数,腎機能などのチェックが必要です.
4)化学放射線療法
食道癌に対して放射線療法単独よりも化学療法と併用して行ったほうがより効果が高いことがわかっています.また,放射線と化学療法を順番に行う方法と,同時併用する方法の比較では,同時併用のほうで効果が高いとされています.現在放射線照射を外照射にて30回~35回行いながらフルオロウラシルやシスプラチンといった抗癌剤を同時に投与する方法が一般的に行われています.化学放射線療法には,目的によって,根治的化学放射線療法と緩和的化学放射線療法があります.さらに術前に行う方法も試されています.
(1)根治的化学放射線療法
化学放射線により完治を目指す治療を行います.病変がすべて放射線照射野に入る場合で,手術可能な症例も含まれますが,手術を望まない人,合併症などで手術のリスクの高い人などが含まれます.癌が気管や大動脈などに浸潤していて手術できない場合にも適応となります.臓器機能が低下している場合や患者さんの状態が悪い場合には,放射線療法のみを行います.
(2)緩和的化学放射線療法
全身にがんが広がっており根治的化学放射線療法はできないが,がんで食事が通過しない場合など,局所的な効果により患者さんに利益があると予測される場合に症状緩和を目的に行います.この場合も患者さんの状態が悪ければ,放射線療法のみを行います.
(3)化学放射線療法の副作用
化学療法と放射線療法を併用することで,効果は上昇しますが,副作用も増加します。食欲不振,口内炎,食道炎や白血球減少などは両者ともに引き起こす可能性があります.
5)内視鏡治療
食道壁の粘膜層にとどまる食道がんを早期食道がんと定義しています.内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、この粘膜にとどまったがんを内視鏡で見ながら食道の内側から切り取る治療法です.ただし,広範囲に切り取った場合には治療した痕が引きつれたり,狭くなることがあります.過度に狭くなった場合には,内視鏡を用いた拡張術(内腔を広げる治療)が必要になることがあります.切除した組織を顕微鏡で調べた結果,もし治療前診断と異なりがんがより深く進展していたり,リンパ管や静脈へがんが及んでいた場合には,がん細胞が食道の外側のリンパ節などに広がっている可能性があるため,追加の外科手術や放射線治療,化学放射線治療が必要になります.
6)食道ステント治療
がんによる食道の狭窄のために食事摂取が困難な場合に,金属の網でできたパイプ状のものを食道の中に留置して食物が通過できるようにする方法です.食道に穴があいて食物が外に漏れて肺炎などをおこす場合には、穴をおおうためにも使います.手術をしなくとも内視鏡を用いてできるので負担が少なく,QOL向上のためには有用です.
6.病期(ステージ)別治療
治療は主に病期により決定されます.病気の進行ぐあい,全身状態,心臓・肺機能などによって治療が異なります.
0期
粘膜にとどまるがんでは、食道を温存できる内視鏡的粘膜切除術が可能です.切除した組織でがん細胞の拡がりを調べることができないため,レーザー治療は標準治療ではありません.がんの範囲が広いために内視鏡的に切除できない場合には,手術治療や化学放射線療法も検討されます.
I期
外科療法が標準治療です.化学放射線療法により,手術をせずに臓器を温存しつつ手術と同等の治癒率が得られるという報告も出てきました.
しかし,化学放射線療法では副作用は放射線療法のみに比べると強くなるので,体力が十分でない場合は放射線療法のみが望ましい場合もあります.
II期 III期
外科療法が標準治療です.再発・転移の防止のために手術前後に化学療法または化学放射線療法を行うこともあります.一方、治療前の検討で体力が手術に耐えられないと判断された場合には,化学放射線療法や放射線療法が選択されます.
IV期
通常,IV期では手術を行うことはなく,化学療法や化学放射線療法が行われます.がんの著明な縮小を認めることもありますが,すべてのがんを消失させることは困難です.全身状態が不良な場合には化学療法ができないことがあります.また,がんによる食道の狭窄により通過障害があるときなどは,症状に応じて放射線療法も行われます.
IV期ではがんによる痛みや呼吸困難などの症状を緩和するための治療が重要になります.症状緩和の治療技術はかなり進歩してきており,多くの症状を軽減することが可能となっています.
7.生存率・予後
生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが,患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます.用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため,生存率の値が異なる可能性があります.
いわゆる早期の食道がんの治療成績は良好です.0期のがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除された後の5年生存率はほぼ100%です.粘膜にとどまるがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除できない場合でも,手術で切除できれば5年生存率はほぼ100%です.
国立がんセンター中央病院で1996年~2000年に手術を受けた方の5年生存率は,TNM分類による進行度I期:70.1%,進行度IIA期:48.4%,進行度IIB期:55.8%,進行度III期:26.3%,進行度IV期:20.3%と報告されています(食道がん以外の原因で死亡した場合も含みます).
日本食道疾患研究会の「全国食道がん登録調査報告」では,手術でとりきれた場合の食道癌全体の5年生存率は,ほぼ54%に達しています.
これまでは外科療法が主な治療法でしたが,シスプラチンとフルオロウラシルなどの化学療法が積極的に導入され,さらに化学放射線療法も試みられています.化学放射線療法で,手術治療と同じ5年生存率が得られたという報告もあります.
しかし,他の臓器にがんが拡がっている方,多くのリンパ節にがん転移を認める方に限定すると,外科療法でも化学放射線療法でも治癒は困難です.残念ながら,高度に進行したがんを治癒できる治療法は確立されていません.
8.再発
食道がんの再発のほとんどはリンパ節と肺,肝臓などの臓器や骨への転移です.首のつけ根のリンパ節に再発すると首がはれてきたり声がかすれたりします.胸や腹部の奥のリンパ節に再発すると背中や腰に重苦しい痛みを感じます.肺や肝臓への転移は大きくなるまではっきりした症状は出ません.しかし,体重が減る,食欲が落ちる,疲れやすくなるといった症状が出る場合があります.肺の転移が大きくなると,咳が出たり,胸の痛みを感じたりします.肝臓の転移が大きくなると腹部がはって重苦しく感じます.骨への転移は痛みを感じます.もともとのがんが大きかった場合には,がんがあった場所に再発することがあります.気管や気管支に再発すると咳が出たり,血痰が出たりします.
再発の場合には,再発した部位、症状、初回治療法およびその反応などを考慮して治療法を選択しますが,手術をすることはほとんどありません.胸の奥や腹部の奥のリンパ節への再発には放射線治療か抗がん剤治療を行います.肺や肝臓,骨への転移は抗がん剤治療を行います.その他、モルヒネなどの痛み止めを用いる症状緩和のための治療が選択されます.
どのような治療をしても,再発したがんが治る可能性は非常に少ないと考えられます.通常は,およそ半年ぐらいの余命と考えられます。放射線治療や化学療法で1年以上生きられることもありますが,がんの進行が早ければ3ヶ月以内のこともあります.
参考資料
- 国立がんセンターHP
- 人口動態統計年報,平成17年 厚生労働省大臣官房統計情報部(編)
- メルクマニュアル医学百科 最新家庭版
- 1998-1999全国食道がん登録調査報告
- 癌診療に役立つ最新データ2007-2008 臨床外科62(11) 2007
- 食道癌診断・治療ガイドライン2007年4月版
