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脳腫瘍(のうしゅよう)

脳腫瘍には、大きく分けると、他の臓器のがんが脳へ転移してきた転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)と、脳組織自体から発生する原発性脳腫瘍(げんぱつせいのうしゅよう)の2種類があります。

転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)

●どのくらいの患者さんがいるのですか?

日本では、年間5万人以上の患者さんが転移性脳腫瘍を発症し、患者さんの総数は6から12万人と推定されています。転移性脳腫瘍を伴ったがん患者さんの死亡原因は、原発巣(もともとの臓器に生じたがんのことです)の悪化によるものが50%、転移性脳腫瘍(がん性髄膜炎を含む)によるものが30%と言われています。年間2万人以上の方々が、転移性脳腫瘍で亡くなられていると推定されます。

●がん患者のどのくらいの方が脳に転移するのですか?

がんになった患者さんのおおよそ1割の方に、生前、転移性脳腫瘍が見つかります。しかし、剖検(患者さんが亡くなられた後に行う解剖のことです。病理解剖とも言います)では、20~40%のがん患者さんに転移性脳腫瘍が見つかると言われています。

●原発巣(もともとの臓器に生じたがん)としては、どんな種類のがんが多いのですか?

肺がんが最も多く約半数を占めます。次いで乳がん(約9%)、直腸がん(約5%)、胃がん(約5%)、腎がん(約5%)、大腸がん(約4%)、頭頸部がん、肝がん、子宮がん、甲状腺がんなどです。また、開頭手術で初めて転移性脳腫瘍と分かっても、原発巣が発見できず、極端な場合には剖検によっても原発巣が分からないことがあります。このような原発巣不明なものが1割前後あるという報告もあります。

●原発巣が診断されてから、どのくらいの期間で脳転移が見つかることが多いのですか?

肺がんでは平均4ヶ月、乳がんでは平均3~4年といわれています。原発巣と同時期に脳転移が見つかることもあります。また逆に、脳の転移巣がはじめに分かり、後に原発巣が見つかることもあります。

●どのような症状を生じますか?

1)頭痛、2)脳機能の障害による症状(麻痺、しびれ、言葉がしゃべりにくい など)、3)ひきつけ(てんかん発作)、4)精神症状(物覚えが悪い、急に性格が変わった など)です。このうち、精神症状は2~3割の方に生ずるといわれ、本症状が出てきた場合、安易に心因的なものと考えず、頭部のCTやMRI検査を行っていただくべきです。

●どのような検査で診断するのですか?

造影MRIが、もっとも有効な検査法です。

●脳への転移があるということは、末期状態ということになるので、治療は無意味ではありませんか?

たしかに原発巣の再発や脳以外の臓器にも転移があり、脳にも転移がある、となると脳の転移巣だけのことを考えて治療していても意味がありません。しかし、転移が脳にしかなく、原発巣や他の臓器の転移巣がうまく治療されている場合、脳への転移があってもそれだけで“末期”であるということにはなりません。また、脳への転移があることによって生じる麻痺や頭痛といった症状が患者さんにとって非常につらいこともあります。全身状態や脳の転移の大きさ、場所、数などにもよりますが、いろいろな治療を行うことによって、余命を延ばし、また、余命を延ばすことができなくても、つらい症状をとることによって限られた余命を有意義に過ごしていただくことができます。ですから、脳に転移があっても、それを積極的に治療する場合も少なくありません。脳の転移が見つかった後、脳の転移巣に対する治療を行い、その後何年も無症状で生存されている方もいらっしゃいます。

●どのくらいのはやさで大きくなるのですか?

肺がんの脳転移の場合、腫瘍の大きさ(体積)が倍になるのに、平均25日という報告があります。直径2cmでみつかった腫瘍が、3~4ヶ月で直径5cm(この大きさになると致命的です)になります。

●どのような治療法があるのですか?

がんの種類、転移巣の場所や数によりますが、摘出手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて行ないます。

●どういう場合に摘出手術が行われるのですか?

原則としては、原発巣の再発や脳以外の臓器に転移がなく、脳の転移巣も1回の手術で、全摘出が可能な場合に、摘出術を行います。特に腫瘍が大きい場合や脳浮腫(腫瘍周囲の脳が腫れることです)が強い場合、なるべく早めに手術を行います。また、転移性脳腫瘍が最初に疑われ、原発巣が種々の検査で見つからない場合、診断を確定するために摘出術を行なうことがあります。

●放射線治療にはどのような種類がありますか?

転移性脳腫瘍に対しては、脳全体に放射線照射を行う全脳照射が標準的な方法です。最近では、ガンマナイフ、エックスナイフ、サイバーナイフといった定位照射(ある一定の領域に放射線を集中的に照射する)も用いられます。定位照射では、治療期間が短く(1泊2日の入院で済むこともあります)、場合によって何回も繰り返すことができる、がんの種類によらず有効である、全脳照射で生じることがある認知症になりにくい、などの利点があります。しかし、定位照射だけでは、全脳照射とくらべ、新たな転移巣が生じる可能性が高くなるとも言われています。全脳照射と定位照射を組み合わせて行うこともありますが、その有効性は確立されたものではありません。

●化学療法(抗がん剤の投与)は効果がありますか?

がんの種類により、化学療法の有効性が認められています。特に肺がん(特に小細胞がん)、乳がん、胚細胞性腫瘍 などの化学療法が効きやすい腫瘍による脳転移の場合は、原発巣同様、腫瘍が小さくなることが期待できます。

原発性脳腫瘍(げんぱつせいのうしゅよう)

●どのくらいの頻度で生じるのですか?

おおよそ1年間に1万人に1人程度の発生率と考えられています。他の臓器に生じる腫瘍の発生率と比べるとそう多いものではありません。しかし、子どもでは、約2割が脳腫瘍と、白血病に次いで高い発生率となっています。

原発性脳腫瘍による年間の死亡数は2,000人ほどと報告されています。

●どんな種類があるのですか?

原発性脳腫瘍は、脳からできるものだけを指すのではなく、慣例として頭蓋骨に囲まれた組織から発生する腫瘍を言います。すなわち、脳だけではなく、例えば、脳を包む膜からできる腫瘍(「髄膜腫(ずいまくしゅ)」)、脳から出る神経からできる腫瘍(「神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)」)、脳下垂体という脳の下にあるホルモンを作る小さな臓器からできるもの(「下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)」も含まれます。脳自体からできる代表的な腫瘍が神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマとも言います)です。このほかに胎児期に体を形成するときに残った未熟な細胞からできると考えられている腫瘍として、頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)、胚細胞性腫瘍(はいさいぼうせいしゅよう)、髄芽腫(ずいがしゅ)などがあります。

●原発性脳腫瘍のうち最も多いものは何ですか?

髄膜腫と神経膠腫が、約1/4ずつを占め、次いで下垂体腺腫の17%、神経鞘腫の10%の順になっています。

●どのような症状がでますか?

1)頭痛、2)脳機能の障害による症状(麻痺、しびれ、言葉がしゃべりにくい など)、3)ひきつけ(てんかん発作)、4)精神症状(物覚えが悪い、急に性格が変わった、などです。このうち頭痛は、脳腫瘍により頭蓋内圧(脳圧)が高くなって起こってきます。この頭痛は、早朝に強いのが特徴です。また、しばしば悪心(吐き気)を伴います。しかし、すべての脳腫瘍が頭痛を起こすわけではありません。良性のものでゆっくりと大きくなってきたような場合は、かなり大きな脳腫瘍でも頭痛を起こさないことも少なくありません。

上記の症状のほかに、下垂体や下垂体近くから生じた腫瘍の場合では、下垂体ホルモンの分泌量の変化による症状(末端肥大症、クッシング病、尿崩症など)がでることがあります。

●脳腫瘍ができると危険な場所はどこですか?

脳は場所によって働きが違います。もちろん、すべての部分がなんらかの働きを担っているので、治療する側からすると、どの場所に腫瘍ができても脳腫瘍は危険ということになります。そのなかでも、特に危険な場所としては、言葉を話したり、理解するのをつかさどる言語野、手足を動かす運動野やその神経路である錐体路(すいたいろ)、意識の中枢や多くの神経路・神経核などが密集している脳幹(のうかん)など、いくつもあります。また、腫瘍が、脳に血液を送っている血管や、脳から出る神経を巻き込んでいる場合なども、治療する際に非常に気をつかいます。

●グレードとは何ですか?

一般のがんの病気分類(ステージ)は、病気の進み具合(進展度)を指しますが、原発性脳腫瘍では、ステージ分類にあまり良いものがなく、また脳以外の臓器への転移がほとんどないため、ステージ分類はほとんど用いられません。さらに、原発性脳腫瘍には非常に多くの種類があるため、腫瘍名を聞いただけでは、どの程度の悪性度かわかりにくいということもあります。そのため、原発性脳腫瘍では腫瘍の病理診断(腫瘍を顕微鏡で観察して、どういう種類の腫瘍かを診断することです)が、予後(どのくらいの割合・期間で、腫瘍が大きくなるか、再発するか、死に至るかなど)を決める大切な因子であるために、悪性度を4段階かに分けて分類(WHO分類)し、目安にしています。グレード4が最も悪性、1が良性です。おおまかに以下のような目安になります。ただし、最近は種々の治療法の進歩により、たとえグレード4の腫瘍でも、何年も元気に過ごしていらっしゃる方もおられます。

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	グレード1:余命が正常人と同等のもの。
	グレード2:生存期間が10年を超えるものも少なくない。
	グレード3:生存期間が10年未満であることが多い。
	グレード4:生存期間が3年未満。1年程度のものも多い。
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●手術で治りますか?

原発性脳腫瘍は大きく良性と悪性に分けられます。良性腫瘍の多くは、摘出手術により、治癒する可能性が高いものです。髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫などがこれに相当します(これらの腫瘍でも一部、悪性のものがあります)。ただし、腫瘍の部位によっては手術で全部取りきることが、かえって障害を大きくする場合があり、その際は、手術で全摘出しないこともあります。また、手術で全摘出した場合でも、ときに再発することもあります。しかし、再発する場合、何年も後のことがほとんどです。

一方、悪性腫瘍の多くは、腫瘍が脳に深く入り込み(“浸潤(しんじゅん)”と言います)、全摘出すると脳の機能を大きく損なう箇所では、全摘出はなかなか困難です。また、全摘出しても再発することが多く、脳の機能を大きく障害してまで全摘出を行うことは勧められません。手術後、放射線療法や化学療法を行う必要があります。

●手術をせずに様子をみる場合もあるのですか?

CTやMRIなど脳の検査が安全にできるようになって、偶然脳腫瘍が見つかるケースが増えています。腫瘍が小さくて、その腫瘍による症状が何もない場合(“無症候性”と言います)、定期的に検査をして、様子をみていくことがあります。また腫瘍による症状が軽い場合でも、腫瘍の手術がより大きな障害を起こしそうな場合、すぐに手術をしないで様子をみたり、ガンマナイフなどの治療を行うことがあります。

●どのような場合に放射線治療を行うのですか?

一般に、グレード3および4の腫瘍では、脳全体に照射する全脳照射と、病変を中心に照射する局所照射を組み合わせて行います。また子供に多い髄芽腫という腫瘍では、髄膜播種(脳を包んでいるくも膜という薄い膜に、広く腫瘍ができている状態です)により脊髄腔にも腫瘍が及んでいくことが多いので、背骨全体にも照射を行います。グレード2の腫瘍では、原則として局所照射のみを行いますが、手術後すぐには照射せず、腫瘍が最増大もしくは再発してきた場合に照射を開始することもあります。グレード1の腫瘍では、通常、放射線照射は必要ありません。しかし、摘出が困難な箇所に腫瘍があり、腫瘍により症状が生じている場合には、局所照射を行うことがあります。また、髄膜腫や神経鞘腫などの良性腫瘍でも、病変が比較的小さい場合には(原則3cmくらいまで)最初から手術を行わずに、または術後再発時に、ガンマナイフやサイバーナイフなどの定位照射を行うことがあります。

●お薬による治療もあるのですか?

グレード3およびグレード4の神経膠腫では、テモゾロマイド(商品名テモダール)という飲み薬を、放射線治療中および治療後、または再発したときに服用します。またインターフェロン(商品名フェロン)の点滴も行うことがあります。髄芽腫、胚細胞性腫瘍や小児の神経膠腫では、数種類の抗がん剤を組み合わせて、点滴による治療を行います。

また下垂体腺腫では、様々なホルモンが過剰に分泌されたり、逆にホルモンの分泌が不十分になることがあり、ホルモンの分泌を抑える薬剤の投与やホルモンの補充が必要になることがあります。