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肝がん(かんがん)

1. 肝がんとは

(ア) 肝臓の構造と働き

肝臓は上腹部に位置し,腹腔内実質臓器の中で最も大きな臓器で,重量は1,000-1,500gあります.葉と呼ばれる2つの部分(左葉,右葉)にわかれています.

肝臓へ流入する血管として,肝動脈と門脈があり,肝臓に流入する血液の割合はそれぞれ1:3です.門脈を経由して消化管で吸収された栄養などを肝臓に運んでいます.肝静脈を介して血液が下大静脈へ流出しています.また肝内で産生された胆汁は肝内胆管から肝外胆管を経由して十二指腸へと分泌されています.

肝臓では,生体活動に必要な多くの代謝(糖代謝,脂質代謝,アミノ酸・蛋白・アンモニア代謝,コラーゲン代謝,ビリルビン代謝,胆汁酸代謝)活動を担っており,また多くの薬物の代謝の場としても重要な位置づけを占めています.

(イ) 肝がんの統計

日本における原発性肝がんによる死亡数は年間3万人を超えており,平成23年の厚生労働省人口動態統計によると,男性では肺がん,胃がん,大腸がんに次いで第4位,女性では大腸がん,肺がん,胃がん,乳がんに次いで第5位と高率です.男女比は約2 : 1と男性に多く,50歳前後より増加し始め,平均年齢は65歳から70歳です.年々高齢の方の発がんが増えてきています.

(ウ) 肝がんの組織分類

肝臓にできるがんには,原発性肝がん(肝臓から発生したがん)と,転移性肝がん(他の臓器のがんが肝臓に転移したがん)に大きく分けられます.原発性肝がんの大部分は肝細胞がんであり,全体の約95%を占めます.この他の原発性肝がんには,胆管細胞がん,肝細胞・胆管細胞混合がん,肝細胞芽腫,未分化がん,胆管嚢胞腺がん,カルチノイド腫瘍などがあります.

(エ) 肝がんの発生

原発性肝がんは,肝を構成する肝細胞,胆管上皮,間葉組織から発生したがんです.肝細胞がんは,肝細胞由来のがんを指します.肝臓において慢性炎症により肝細胞が破壊と再生を繰り返すことにより,遺伝子変異が蓄積し,肝細胞がんの発癌に至ると考えられています.

(オ) 肝がんの原因と予防

肝細胞がんの症例のほとんどが慢性肝疾患を合併しており,肝炎ウイルスに罹患している割合は B型肝炎ウイルス(HBs抗原陽性)が約15%,C型肝炎ウイルス(HCV抗体陽性)が約70%です.アルコール性肝障害,原発性胆汁性肝硬変,ヘモクロマトーシスを背景とした発癌例もあり,最近は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)など生活習慣病を背景とした発癌例が増えています.

C型慢性肝疾患では発癌率は肝組織の線維化の進行とよく相関し,肝硬変では年間肝発癌率は約8%に達します.一方,B型慢性肝疾患では,肝組織の線維化にかかわらず,初期の肝炎状態やキャリアからの発癌もみられます.

B型慢性肝炎に対して核酸アナログ製剤(ラミブジン,エンテカビルなど)にてウイルス量を減らすことで,またC型慢性肝炎に対してインターフェロンにてウイルスを排除することで,肝細胞がんが発生する危険性を大きく減らすことができます.またウイルスの排除ができなくても,肝炎の強さを反映するAST,ALTを薬剤で正常化させることで,肝細胞がん発生の危険性を減らすこともできます.一方,飲酒や糖尿病は肝細胞がん発生の危険性を高めることがわかっています.

2. 症状

肝細胞がんに特徴的な症状は少なく,発見される際に無症状であることがほとんどです.

自覚症状としては,肝癌自体によるものよりも,むしろ肝炎や肝硬変による肝機能低下からくる症状が主体となります.肝機能低下に伴う症状として,全身倦怠感,食欲不振,尿の黄染,黄疸,浮腫,腹水,脳症などがあります.一方肝細胞がんが進行すると,肝臓の部位にしこりを感じることがあり,また肝細胞がんが破裂した場合は突然腹痛をきたし貧血症状をきたすこともあります.これらの症状は他の臓器の病気でもきたすことがありますので,肝細胞がんに特徴的な症状ではありません.

3. 診断

B型あるいはC型肝炎ウイルス陽性の患者は肝細胞癌発症の高危険群であり、特に進行した慢性肝炎・肝硬変症例は超高危険群です.これらの患者に対して,腫瘍マーカーと画像診断を組み合わせた定期的なスクリーニングを行うと、肝癌細胞癌が小さい段階で肝細胞癌が検出できる可能性が高まります。肝細胞がんの発生が疑われた場合は,CTやMRIなどの画像検査にて,その結節の性質や,個数,大きさ,広がりを診断して,治療方針を決定していきます.

厚生労働省研究班が作成し2013年に出版された「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」による肝細胞がん診断アルゴリズムを掲載します.(図1)

 

(ア) 腫瘍マーカー

肝細胞がんの腫瘍マーカーとして,AFP(アルファ型胎児性タンパク)やPIVKA-IIなどが用いられます.肝がんが発生し,数が増え,大きくなるにつれて,腫瘍マーカーの値は上昇します.治療にてがんが小さくなると低下します.そのため治療効果の判定や,再発の有無を診断するのに役立ちます.注意すべき点として,肝炎・肝硬変だけでも陽性を示すことがあること,また早期の肝細胞がんでは異常値を示さないことも多いため,腫瘍マーカーだけの検査では早期発見することが難しく,画像診断と組み合わせて診断することが必要となってきます.

(イ) 画像診断

① 超音波検査

超音波検査装置を使って肝臓の中をみて,肝細胞がんの有無を調べる検査です.放射線の被曝の心配がなく,繰り返し行うことができますが,体型や肝臓の状態,がんの場所によっては見えにくい場合もあります.

最近では超音波検査専用の造影剤を使い,腫瘍の性質を調べることができる機種もあります.

② CT検査

エックス線を使って肝臓の中を見る検査です.超音波検査で見づらい部位もみることができます.病変を詳しく見るために造影剤の注射を行いますが,腎臓の働きが低下している方や,造影剤にアレルギーのある方には,造影剤を使用することができない場合があります.

③ MRI検査

磁場を使って肝臓の中を見る検査です.エックス線の被爆の心配がなく,超音波検査で見づらい部位も見ることができます.病変を詳しく見るためにいろいろ条件を変えて撮影し,また造影剤の注射を行うこともあります.

体内に金属が埋め込んである方や,ペースメーカーの方はできない場合があります.

 

④ 血管造影,血管造影下CT

腫瘍内の詳細な血管の状態や,正確な個数を確認することが必要な場合には,足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を入れ,血管造影をしながらCTを撮影することもあります.

(ウ) 腫瘍生検

画像診断で診断が困難な場合は,超音波検査で肝臓をみながら細い針を腫瘍の部分に刺して,腫瘍組織を採取する生検という方法を行うことがあります.ただし針の穿刺により,出血をきたす危険性や,腫瘍をまき散らす危険性がありますので,必要性を十分に検討した上で行います.

4. 病期(ステージ)

日本では,日本肝癌研究会による「原発性肝癌取り扱い規約」による肝細胞がんの進行度分類が広く用いられています.肝がんの「個数が2個以上か」,「大きさが2cm以上か」,「門脈・静脈・胆管など肝内の脈管への浸潤が認められるか」,の3項目の有無を画像診断で調べます.(図2)

「ステージI」

一つも当てはまらない

「ステージII」

1項目当てはまる

「ステージIII」

2項目当てはまる

「ステージIV A」

3項目ともに当てはまる またはリンパ節転移が認められる

「ステージIV B」

他の臓器への遠隔転移が認められる

また肝細胞がん自体ではなく,肝臓自体の働き,すなわち「肝予備能」もあわせて評価することが必要です. 肝予備能を評価する方法として,「肝障害度」分類や「Child-Pugh」分類がよく使われます.

「肝障害度」は、A、B、Cの3段階に分けられます。AからCの順序で肝障害の程度が強いことをあらわします。 各項目別に重症度を求め、そのうち2項目以上が該当した肝障害をとります。2項目以上の項目に該当した肝障害度が2ヵ所以上に生じる場合には高い方の肝障害度をとります。たとえば、肝障害度Bが3項目、肝障害度Cが2項目の場合には肝障害度Cとします。

項目 肝障害度

 

A

B

C

腹水

ない

治療効果あり

治療効果少ない

血清ビリルビン値(mg/dl)

2.0未満

2.0以上、3.0以下

3.0超

血清アルブミン値(g/dl)

3.5超

3.0以上、3.5以下

3.0未満

ICG R15 (%)

15未満

15以上、40以下

40超

プロトロンビン活性値(%)

80超

50以上、80以下

50未満

「Child-Pugh」も,A、B、Cの3段階に分けられ,同様にAからCの順序で肝障害の程度が強いことをあらわします。各項目のポイントを加算し,その合計点で分類します.5-6点がA,7-9点がB,10点以上がCとなります.

項目 Child-Pugh

 

1点

2点

3点

脳症

ない

軽度

時々昏睡

腹水

ない

少量

中等量

血清ビリルビン値(mg/dl)

2.0未満

2.0以上、3.0以下

3.0超

血清アルブミン値(g/dl)

3.5超

2.8以上、3.5以下

2.8未満

プロトロンビン活性値(%)

80超

50以上、80以下

50未満

この表のように細かな数字で規定されていますが、およそ次のような状態に相当します。

A:肝臓障害の自覚症状がない。

B:症状をたまに自覚する。

C:いつも症状がある。

5. 治療

(ア) 治療法の選択

肝細胞がんの治療法を選択する上で他のがんと大きく異なる点は,肝細胞がんの広がりを示す「病期」だけではなく,肝臓の働き,すなわち「肝予備能」もふまえた上で治療法を考慮する必要がある点です.

肝細胞がんの大部分は,慢性肝炎,肝硬変となった肝臓から発生するため,肝機能が低下していることが多く,各治療による身体,肝臓への負担の違いを加味した上で,病期に応じた治療法を選択する必要があります.

① 肝切除

全身麻酔のもと,肝がんを含めて肝臓の一部分を切除する方法で,肝がんに対して最も確実な治療方法のひとつです.その一方で身体への負担も大きく,肝臓の機能が良好であることが治療を受ける条件となります. 最近では腹腔鏡を用いることで身体の負担を減らした肝切除が可能な場合もあります.

肝がんが1個である場合がよい適応であり,肝細胞がんが比較的大きくても治療可能です.

② 経皮的治療

経皮的治療には,ラジオ波焼灼療法(RFA),エタノール注入療法(PEIT)などがありますが,少ない治療回数で優れた治療効果が得られるラジオ波焼灼療法が最近は主流となっています.ラジオ波焼灼療法は,超音波装置で肝細胞がんを見ながら針を刺し,電流を流してがんを完全に焼いてしまう方法です.直径2-3cm以下のがんであれば肝切除と遜色ない治療成績であり,一度に2-3個の肝がんを治療することも可能です.

③ 肝動脈化学塞栓療法(TACE)

肝細胞がんを栄養している動脈にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し,そこから抗がん剤を入れたあと,ゼラチンスポンジを使ってがんに行く血管を詰めて血液が流れないようにして“兵糧攻め”にする治療です.

肝がんが大型であっても,また複数であっても治療可能ですが,肝切除やラジオ波焼灼療法に比べ,がんに対する根治性が劣ることがあります.

④ 化学療法(抗がん剤)

局所療法や肝動脈塞栓療法(TACE)にて効果が期待できないと診断された,門脈腫瘍塞栓合併例,肝内多発例,肝外転移合併例など進行した肝がんに対して行われます.

化学療法には全身化学療法と肝動注化学療法があります.肝動注化学療法は肝臓の血管にカテーテルという管を入れて留置し,直接肝臓に抗がん剤を注入する方法です。外科的に開腹して入れる方法と内科的に入れる方法とがあります。カテーテルが入ると目的の血管に抗がん剤注入が簡単にできるようになり、外来で行うことも可能になります。

抗がん剤を入れるポートと呼ばれる器具を皮下に埋め込んで治療します.

また,経口薬の分子標的薬(ソラフェニブ)が日本でも承認されました.腫瘍縮小効果はほとんどありませんが,腫瘍内の血流を変化させ,腫瘍が大きくなるのを抑えることにより予後を延長させるといわれています.肝予備能がChild-Pugh Aと良好な症例が治療対象となります.副作用は従来の抗がん剤と異なり,手足皮膚反応,皮疹,消化器症状(下痢,食欲不振,悪心・嘔吐),脱毛,高血圧症,消化管出血など多彩にて,来院回数を増やすなど慎重な対応が必要です.

⑤ 肝移植

脳死肝移植と生体肝移植の2種類があります.日本では,脳死肝移植は提供者が不足しており肝がんの方に行われることは稀となっています.生体肝移植は,主に近親者から肝臓の一部を提供していただき,その肝臓を移植する方法です.現在肝がんに対する肝移植は,「ミラノ基準」に合致する場合保険適応となっています.遠隔転移や脈管侵襲がなく,「単発で5cm以下」または「3cm以下で3個以内」の肝がんであれば「ミラノ基準」を満たし,移植のよい適応と考えられています.一般的に65歳以下の方が対象となり,肝臓の働きが悪化して,肝切除など他の治療法が困難な場合に検討されます.

⑥ 放射線療法

放射線療法は、骨に転移した時などに疼痛緩和を目的として行われることがあります。また、最近では陽子線、重粒子線などを用いた治療が、肝がんの治療に使用されることもあります。

肝細胞がんの治療法を選択するアルゴリズムの一つとして,2013年に出版された「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」による「肝細胞癌治療アルゴリズム」を掲載します. (図3)

6. 生存率・予後

(ア) 再発率

日本肝癌研究会がまとめた「第18回全国原発性肝癌追跡調査報告」によると,初めて肝細胞がんと診断され治療を受けてから2年以内に28.8%の方に肝細胞がんの肝臓内での再発をみています.肝がんに対していかなる根治的な治療を行っても,肝がんが発生しやすい慢性肝疾患を有する肝臓が残っているため,いずれ再発するとの観点にたち経過をみていく必要があります.

(イ) 生存率,予後

肝細胞がん全症例における生存率は,日本肝癌研究会がまとめた「第18回全国原発性肝癌追跡調査報告」によると,3 / 5 / 10年累積生存率はそれぞれ55.0% / 37.9% / 16.5%でした.

治療対象となる症例の状態がそれぞれ異なりますので,各治療の成績を一概には比較できませんが,どの治療法であっても,「病期」や「肝予備能」が悪化すればするほど,累積生存率は低下します.例えば肝切除の場合,病期がI / II / III / IV A / IV Bと進行するにつれて,5年累積生存率は73.0% / 59.7% / 39.5% / 21.4% / 16.5%と悪化し,また肝予備能である肝障害度がA / B / Cへと悪化するにつれて,5年累積生存率は59.0% / 45.3% / 35.0%と悪化をみます.

死因としては,がん自体の進展によるものが55.8%,肝不全によるものが18.8%,消化管からの出血(食道・胃静脈瘤破裂を含む)によるものが6.2%を占めていました.

更新履歴

  • 2010年11月24日 一部改稿
  • 2014年04月05日 一部改定