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上咽頭がん(じょういんとうがん)

1.上咽頭がんとは

1)上咽頭の構造と働き

咽頭とは鼻の後ろの出口(後鼻孔)から食道の入り口までの管状の部分で、「上咽頭」は、後鼻孔から口蓋垂(いわゆるのどちんこ)の高さまでにあたります。ここでは左右の鼻を分けるしきりがなく、一つの腔を形成しています。

上咽頭の左右の壁にはそれぞれ左右の耳(中耳)へつながる管(耳管)が開いており、中耳の圧調整をしています。例えば、飛行機などで耳がつまった時につばを飲むと直るのは、つばを飲むことにより耳管を通して中耳の圧が調整されるためです。また、上咽頭は発声の時の共鳴腔として、声の調節にも役立っています。

2)上咽頭がんの発生

上咽頭がんは上咽頭の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生します。細胞ががん化する(無秩序に増える悪性の細胞にかわる)理由はじゅうぶんにわかっていませんが、民族的背景(中国系人種、アジア系人種)やエプスタイン・バール ウイルスへの暴露が危険因子といわれています。

民族的背景については、上咽頭がんが中国南部や台湾、シンガポールなどに多いことから推測されています。また、上咽頭がんの細胞には、多くの場合、エプスタイン・バール ウイルスが認められ、このウイルスが発がんに関係していると推測されています。しかし、このウイルスには、成人のほぼ100%が感染しており、なぜ一部の人だけにがんが発生するのかはわかっていません。

がんは周囲の組織を破壊しながら増殖し、また他の臓器へ広がります。他の臓器へ広がることを転移と呼びます。

3)上咽頭がんの統計

日本では人口10万人あたり年間0.2〜0.3人の発生頻度です。

4)上咽頭がんの組織分類

上咽頭癌は組織学的には、世界保健機関(WHO)の分類にしたがい、角化型扁平上皮がん(WHO-I型)、非角化型がん(WHO-II型)、未分化がん(WHO-III型)にわけられます。

2.症状

上咽頭がんの症状としては、上咽頭のがんによるものとして、鼻血、頭痛、聴力障害、耳の痛みや耳鳴り、呼吸障害や発話障害、のどの痛み、鼻腔内のしこり、などあげられます。また頸部転移リンパ節によるものとして、頸部のしこりがあげられます。しかし、大きさなどにより症状の出にくい場合もあり、症状がないからといって安心はできません。

3.診断

上咽頭がんの発見と診断には、がんを診断するための検査と、病気の広がりを調べる検査があります。

1)上咽頭内視鏡検査

内視鏡を鼻から挿入し、上咽頭の観察をします。がんの診断のために内視鏡の中から細い器具を出して、あるいは内視鏡とは別に細い器具を鼻に挿入して、組織を採取します。癌細胞があるかどうか、病理医による顕微鏡検査へ提出されます。組織の採取とは別に、内視鏡により、がんの広がり(鼻の方への広がりやのどの奥への広がり)を観察します。

2)CTスキャン・MRI

CTスキャンはX線装置に接続されたコンピュータにより作成される断層写真です。造影剤を静脈に注射することにより、病気の範囲を評価することができます。また、頭蓋骨の底の部分などの骨の破壊の有無なども知ることができます。上咽頭だけではなく、頸部のリンパ節転移の有無や、肺や肝臓などへの転移の有無なども評価できます。MRIは磁気を用いてコンピュータにより作成される断層写真です。病気の範囲を評価します。

3)PETスキャン(ポジトロン放射断層撮影)

 体内の悪性腫瘍細胞を発見するための検査法です。量の放射性核種を含有するブドウ糖を溶かした液体を静脈内に注射した後、PETスキャナという装置を用いて、ブドウ糖が消費されている体内の領域を示す画像を作成します。がん細胞は正常細胞より活発であるため、ブドウ糖を多く取り込む性質があり、がんの部分に薬が集まって描出されます。

4)臨床検査

血液や尿などの体から得られる検査材料を調べる内科的な検査法です。全身状態を評価するなど治療計画に参考にします。また、上咽頭がんでは、エプスタイン・バール ウイルスの抗体の値が上昇していることが多く、診断の補助になります。

5)神経学的検査

脳や脊髄の機能を調べる目的で行われる一連の問診と検査です。病気の広がりの参考にします。

4.病期

上咽頭がんの診断がついた後には、がん細胞の上咽頭内での広がりや他の部位への転移の有無を明らかにするために、さらに検査が行われます。「3.診断」の項目に記された検査がしばしば用いられます。これらの情報を基に、病期が判定されます。

上咽頭がんでは、以下の0、I、II、III、IV期に分類します。

0期

上咽頭の表面を覆っている組織層のみのがんが認められます。0期のがんは上皮内がんとも呼ばれます。

I期

がんが上咽頭内のみに認められます。

II期

以下のようにII A期とII B期にわけられます。

  • II A期:がんが上咽頭を出て中咽頭(咽頭の中間部分で、軟口蓋、扁桃、舌根などで構成される)および/または鼻腔まで広がっています。
  • II B期:がんが上咽頭内に認められ、さらに頸部の左右どちらかのリンパ節に広がっているか、もしくは上咽頭の周辺領域に広がって(場合によりさらに頸部の左右どちらかのリンパ節にも広がっている)います。

III期

  • 上咽頭内に認められ、頸部の左右両側のリンパ節(大きさは6cm以下)に広がっている場合;または
  • 軟部組織(中咽頭および/または鼻腔)の内部および左右両側の頸部のリンパ節(大きさは6cm以下)に広がっている場合;または
  • 軟部組織を越えた咽頭周囲の領域および左右両側の頸部のリンパ節(大きさは6cm以下)に広がっている場合;または
  • 付近の骨または空洞に広がっている場合。頸部の片側または両側のリンパ節(大きさは6cm以下)に広がっていることもあります。

IV期

以下のようにIV A期、IV B期、IV C期にわけられます。

  • IV A期:がんが上咽頭を越えて広がっていて、脳神経、下咽頭(咽頭の下部)、頭蓋骨側面または下顎骨の内部または周辺の領域、および/または眼の周囲の骨に達していることがある。さらにがんが頸部の片側または両側のリンパ節に広がっていることもありますが、その大きさは6cm以下になります。
  • IV B期:がんが鎖骨のすぐ上のリンパ節まで広がっている、および/またはがんに侵されたリンパ節に大きさが6cmを越えるものがあります。
  • IV C期:がんが付近のリンパ節を越えて体の他の部分まで広がっています。

5.治療

病期や今までにかかった病気や現在かかっている病気、心臓や肺、肝臓などの臓器の機能や、一般的な健康状態に基づいて治療の方法を選択します。上咽頭がんに対する標準治療には主に以下の3種類が用いられています.

放射線治療

放射線治療は高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。

化学療法

化学療法は薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることにより、がんの増殖を阻止する治療法です。

手術

手術とはがんを体内から取り除く処置のことで、外科手術をも呼ばれます。上咽頭がんの場合は、放射線治療の効き目がみられない場合に手術が実施されます。また、がんがリンパ節まで広がっている場合に、頸部のリンパ節を周囲の組織とともに切除する手術が実施されることもあります。

この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。以下のようなものがあります。

生物学的療法

生物学的療法は、がんを撃退するために免疫系を利用する治療法です。体が本来持っているがんに対する抵抗力を高めたり、誘導したりします。免疫療法とも呼ばれます。

強度変調放射線治療

強度変調放射線治療(IMRT)は三次元放射線治療の一種です。

6.病期ごとの治療選択肢と治療成績

I期の上咽頭がん

  • 腫瘍と頸部リンパ節に対する放射線治療。

II期の上咽頭がん

  • 放射線治療を併用した化学療法。
  • 腫瘍と頸部リンパ節に対する放射線治療。

III期の上咽頭がん

  • 放射線治療を併用した化学療法。
  • 腫瘍と頸部リンパ節に対する放射線治療。
  • 放射線治療と、その後のがんに侵された頸部リンパ節(放射線治療の終了後に残存または再発したもの)を切除する手術。

IV期の上咽頭がん

  • 放射線治療を併用した化学療法。
  • 腫瘍と頸部リンパ節に対する放射線治療。
  • 放射線治療と、その後のがんに侵された頸部リンパ節(放射線治療の終了後に残存または再発したもの)を切除する手術。
  • 体の他の部位に転移したがんに対する化学療法。

再発上咽頭がん

  • 内照射放射線治療(限られた症例のみ)。
  • 手術(限られた症例のみ)。
  • 化学療法。

上咽頭癌がんの治療に関しての日本における科学的根拠となる論文はありません。欧米からは、III期とIV期(IV C期を除く)の症例において、全生存率は放射線治療を併用した化学療法(76%)の方が放射線治療単独(46%)よりも優れていることが、科学的根拠となりうる論文として報告されています(無増悪生存率ではそれぞれ69%と24%です)。この論文で報告されている化学療法を併用した放射線療法を同時併用+補助化学療法といいます。これは、放射線治療を行っている間に同時にシスプラチンの全身化学療法を3回行い、放射線治療が終わってからシスプラチンと5-FUの全身化学療法を3回行うものです。このような方法に対して、日本における参考となりうるものとして、II期・III期・IV期(IV C期を除く)の症例において、化学療法を併用した放射線治療による全生存率が83%(無増悪生存率は75%)であると報告されています。これは交替療法と呼ばれる方法で、放射線治療を前半と後半にわけ、その前、間、後にシスプラチンと5-FUの全身化学療法を行うものです。