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精巣腫瘍

診断

  • 1.病歴聴取;疼痛、発熱の有無、陰嚢内容の増大速度、陰嚢・鼠径部手術歴の有無
  • 2.陰嚢の触診、超音波検査;陰嚢水腫との合併例、腫瘍内出血や炎症の合併例を念頭に置き、精巣上体炎との鑑別に注意を要する場合あり。
  • 3.腹部腫瘤、頚部リンパ節、鼠径部リンパ節腫脹の有無をチェック
  • 4.腫瘍マーカーの測定(LDH, AFP, hCG, PLAP)
  • 半減期(Table 1参照)
    • Alpha-fetoprotein (AFP)
    • 胎児のyolk sac, liver, gastrointestinal tractから産生されるglycoproteinである。精巣腫瘍の50-70%において上昇し、yolk sac, embryonal carcinoma cellから産生される。半減期は5-7日である。

    • Human chorionic gonadotropin (hCG)
    • 胎盤のsyncytiotrophoblastic cell から産生されるglycoproteinである。精巣腫瘍の40-60%において上昇し、choriocarcinomaでは100%、embryonal carcinomaでは80%、seminomaにおいては10-25%で上昇する。 腫瘍組織内のsyncytiotrophoblastic cell から産生されるが、seminomaにおいてはmononuclear tumor cellからの産生も報告されている。beta subunitの半減期は24-48時間である。

    • Placental alkaline phosphatase (PLAP)
    • 胎盤のsyncytiotrophoblastic cell から産生されるglycoproteinである。精巣腫瘍の20-50%において上昇し、ことにseminomaはnonseminomaに比べ陽性率が高い。CISを含む腫瘍細胞から産生されるが、seminomaではnonseminomaに比べ明らかに組織内濃度は高い。半減期は2-3日である。

  • 5.高位精巣摘除術
  • 6.病理診断の確定
  • セミノーマ(seminoma)と非セミノーマ;絨毛癌(choriocarcinoma), 卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor), 胎児性癌(embryonal carcinoma), 奇形種(teratoma)に大別され、こられの単一あるいは混合組織の腫瘍として確定診断を得る。

Table 1   腫瘍マーカー半減期(HL; half life)
Marker Biological HL 化学療法(CR達成時)
AFP 5 - 7 d 5.7 d
HCG-B 24 - 48 h 3.1 d
HCG 24 - 48 h
PLAP 2 - 3 d 3 - 5 d
LDH 6 - 7 d

病期(日本泌尿器科学会分類)とその治療について

I 期:精巣に限局している;

セミノーマ;NCI-PDQによればサーベイランスと予防的照射が併記

サーベイランス(Table 2参照);再発率は約15%、再発部位として1)傍大動脈リンパ節、2)骨盤部リンパ節、3)鼠径リンパ節、4)肺の順に多い。再発例の20%は精巣摘出術後、4年以上経過して発症することから長期の経過観察が必要とされる。

放射線療法;予防的照射は傍大動脈リンパ節から同側の腸骨リンパ節領域に25−30 Gyの照射が行われる。予防照射後の再発率は約4%で、大部分は2年以内に再発する。照射領域内の再発はまれであり、部位としては縦隔リンパ節、鎖骨上リンパ節が多く、肺転移がこれに続く。

非セミノーマ;サーベイランスと神経温存後腹膜リンパ節廓清術が併記

サーベイランス(Table 2参照);再発率は約30%、再発部位として1)傍大動脈リンパ節、2)肺、3)縦隔リンパ節、4)腫瘍マーカーの上昇のみが続く。大部分は2年以内に再発を来すが、ほとんど症例はその後の治療により治癒可能であり、サーベイランス全体としての治癒率は約98%とされている。

神経温存後腹膜リンパ節廓清術;切除リンパ節に転移を認める症例は約30%とされる。転移陰性であっても、約15%の症例に再発(主に肺転移)を来す。従って、手術後は上述のサーベイランスに準じた経過観察を行い、再発を認めた時点で化学療法を行うことが推奨されている。

Table 2   病期 I ;サーベイランス プロトコール
術後(年) マーカー 胸部X−p 腹部CT
セミノーマ 1〜3 3M 3M 4M
4〜7 6M 6M 6M
8〜 12M 12M 12M
非セミノーマ 1M 1M 3M
2M 2M 3M
3M 3M 4M
4M 4M 6M
6M 6M 12M
6〜 12M 12M 12M

II期:横隔膜以下のリンパ節にのみ転移を認める。

  • II A:後腹膜リンパ節転移が直径5cm未満のもの。
  • II B:後腹膜リンパ節転移が直径5cm以上のもの。
セミノーマ;
  • II A;放射線治療(90%以上の治癒率)、あるいは化学療法、
  • II B;化学療法、必要により後腹膜リンパ節廓清術
  • セミノーマの場合、一般的に癌細胞の残存する例は少ないとされ、残存腫瘍に対する手術の適応として径3cm以上とする報告がある。

非セミノーマ;
  • II A & B;化学療法、必要により後腹膜リンパ節廓清術
  • 非セミノーマの場合は残存腫瘍が径1cm以上の場合は手術を行うとする報告が多い。また原発巣に奇形種が含まれていた場合は、残存腫瘍に奇形種が含まれる可能性が高く手術は必要と判断される。

III期:横隔膜を越えたリンパ節転移、あるいは遠隔転移

セミノーマ、非セミノーマとも化学療法、必要により後腹膜リンパ節廓清術、転移巣摘出術

まずIGCC分類(Table 3参照)による治療前予後因子についての評価を行う。

導入化学療法(BEP療法が標準)を3ないし4コース施行し、腫瘍マーカーの陰性化を図る。マーカーが陰性化し、転移巣が完全に消失した場合、治療を終了し経過観察とする。一方、転移巣が残存した場合は、可及的に切除し、摘出標本中に癌細胞陰性の場合は治療終了、癌細胞が残存した場合は、レジメンを変更した化学療法(サルベージ療法)を追加する。

IGCC分類において予後不良群に相当する症例では4コースのBEP療法でマーカーの陰性化が得られないことが多い。サルベージ療法として一般的なものはVIP, VeIP療法があげられるが、十分な治療効果を得るに至っていない。これらの症例に対して末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法や新規抗癌剤を用いた研究的治療の報告が国内でも散見される。
複数のサルベージ療法を行っても、腫瘍マーカーの陰性化が得られない症例において、残存腫瘍の外科的切除により良好な結果を得られることが報告されているが、これらは転移部位が1ヶ所で完全切除が可能な症例であり、その大部分は後腹膜リンパ節転移でかつAFPのみの上昇例である。

Table 3 IGCC 分類
Good prognosis
Non-seminoma Seminoma
Testis / retroperitoneal primary
and
No non-pulmonary
Visceral metastases
and
Good markers – all of :
AFP<1,000 ng/ml and
hCG<5,000 IU/L(1,000ng/ml) and
LDH<1.5 x upper limit of normal
Any primary site
and
No non-pulmonary
visceral metastases
and
Normal AFP, any hCG, any LDH
Intermediate prognosis
Non-seminoma Seminoma
Testis / retroperitoneal primary
and
No non-pulmonary
visceral metastases
and
Intermediate markers – any of :
AFP:1,000 ~ 10,000 ng/ml or
hCG: 5,000 ~ 50,000 IU/L or
LDH:1.5 ~ 10 x upper limit of normal
Any primary site
and
Non-pulmonary
Visceral metastases
and
Normal AFP, any hCG, any LDH
Poor prognosis
Non-seminoma
Mediastinal primary
or
Non-pulmonary
Visceral metastases
or
Poor markers – any of :
AFP>10,000 ng/ml or
hCG>50,000 IU/L(10,000ng/ml) or
LDH>10 x upper limit of normal

予後(5年生存率)

日本泌尿器科学会分類

  • I 期:98%以上
  • II期:90%以上
  • III期:40〜90%(転移臓器の部位や腫瘍マーカーの値による)

IGCC分類における予後(5年生存率)

Good prognosis;
  • Seminoma; 92 %
  • Non-seminoma 86 %
Intermediate prognosis;
  • Seminoma; 72 %
  • Non-seminoma 80 %
Poor prognosis;
  • Non-seminoma 48 %

化学療法の実際

投与量及び投与間隔(dose intensity)を維持した導入化学療法を完遂することが最も重要なポイントである。

BEP 療法において

次回化学療法延期の条件
  • 1)1,000/mm3 以下の顆粒球減少を伴った発熱のある場合。
  • 2)血小板;10万/mm3未満の場合。

A) プロトコールの紹介

  • 1)導入化学療法(BEP療法;Table 4 参照)
  • 2)サルベージ化学療法(VIP療法;Table 5参照)
Table 4 BEP療法
セット名称 胚細胞腫瘍 BEP
★レジメンセット
RP 薬品名/用法 用量/単位
RP01 ソリタ-T1号 500mL瓶【B】 1本
メイロン 84 (8.4%) 20mLアンプル【B】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 BEP
点滴静注(末梢)
点滴時間 6時間で
投与経路 末梢ルートメイン1
RP02 生食(テルモ) 500mL袋【D】 1本
ラステット注 100mg/5mLV【B】 100mg /m2 (300mg 絶対量)
療法名:胚細胞腫瘍 BEP
点滴静注(末梢)
点滴時間 2.5時間で
投与経路 末梢側管1
RP03 ブレオ注射用 【B】 30mg (30mg 絶対量)
生理食塩注(大塚) 20mL/A【D】 3mL
療法名:胚細胞腫瘍 BEP
筋肉注射
RP04 生理食塩注(大塚) 100mL瓶【D】 1本
ナゼア注 0.3mg/2mLA【D】 1本
デカドロン注射液 8mg/2mLV【D】 8mg
療法名:胚細胞腫瘍 BEP
点滴静注(末梢)
点滴時間 30分で
投与経路 末梢側管1
RP05 マンニットール注20% 300mL瓶【B】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 BEP
点滴静注(末梢)
点滴時間 1時間で
投与経路 末梢側管1
RP06 生食(テルモ) 500mL袋【D】 1本
ランダ/ブリプラチン注【B】 20mg /m2 (60mg 絶対量)
療法名:胚細胞腫瘍 BEP
点滴静注(末梢)
点滴時間 3時間で
投与経路 末梢側管1
RP Day1 Day2 Day3 Day4 Day5 Day6 Day8 Day15
RP01 7:00 1:00 1:00 1:00 1:00 1:00
13:00 7:00 7:00 7:00 7:00 7:00
19:00 13:00 13:00 13:00 13:00
19:00 19:00 19:00 19:00
RP02 9:00 9:00 9:00 9:00 9:00
RP03 9:00 9:00 9:00
RP04 11:30 11:30 11:30 11:30 11:30
15:30 15:30 15:30 15:30 15:30
RP05 12:00 12:00 12:00 12:00 12:00
RP06 13:00 13:00 13:00 13:00 13:00
Table 5 VIP療法
セット名称 胚細胞腫瘍 VIP
★レジメンセット
RP 薬品名/用法 用量/単位
RP01 ラステット注 100mg/5mLV【B】 75mg /m2 (200mg 絶対量)
生食(テルモ) 500mL袋【D】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 VIP
点滴静注(末梢)
点滴時間 2時間で
投与経路 末梢側管1
RP02 イホマイド[注射用] 1gV【B】 1.2g /m2 (3g 絶対量)
生食(テルモ) 500mL袋【D】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 VIP
点滴静注(末梢)
点滴時間 2時間で
投与経路 末梢側管1
RP03 ランダ/ブリプラチン注【B】 20mg /m2 (50mg 絶対量)
生食(テルモ) 500mL袋【D】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 VIP
点滴静注(末梢)
点滴時間 3時間で
投与経路 末梢側管1
RP04 [ケモ用]ウロミテキサン注 400mg/4mLA【D】 240mg /m2 (600mg 絶対量)
療法名:胚細胞腫瘍 VIP
ワンショット静脈注射
RP05 ソリタ-T3号 500mL瓶【B】 1本
メイロン 84 (8.4%) 20mLアンプル【B】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 VIP
点滴静注(末梢)
点滴時間 6時間で
投与経路 末梢ルートメイン1
RP06 生理食塩注(大塚) 100mL瓶【D】 1本
ナゼア注 0.3mg/2mLA【D】 1本
デカドロン注射液 8mg/2mLV【D】 1本
療法名:胚細胞腫瘍 VIP
点滴静注(末梢)
点滴時間 30分で
投与経路 末梢側管1
RP Day1 Day2 Day3 Day4 Day5
RP01 9:00 9:00 9:00 9:00 9:00
RP02 11:30 11:30 11:30 11:30 11:30
RP03 14:30 14:30 14:30 14:30 14:30
RP04 11:30 11:30 11:30 11:30 11:30
15:30 15:30 15:30 15:30 15:30
19:30 19:30 19:30 19:30 19:30
RP05 7:00 1:00 1:00 1:00 1:00
13:00 7:00 7:00 7:00 7:00
19:00 13:00 13:00 13:00 13:00
19:00 19:00 19:00 19:00
RP06 11:00 11:00 11:00 11:00 11:00
17:30 17:30 17:30 17:30 17:30

B) 副作用に対する対策

化学療法中のチェック項目(Table 6参照)

感染

好中球減少に伴う発熱(頻度は20%以下);広域ラクタム剤、カルバペネム系抗菌剤を投与する。

BLM投与に起因する発熱;投与4〜5時間から48時間以内に発症、悪寒戦慄を伴い高熱に至るまでの経過が早く、短期間で解熱する。

腎障害

CDDPによる腎毒性予防;投与前後6時間は150〜200ml/h, 投与後2〜3日は100ml/hの尿量を維持できるように輸液を行う。

肺障害

用量依存性に発症するとされ、一般に総量150 mg以下では臨床的に問題となる肺障害はまれであり300 mgを越えると危険とされる。定期的に胸部X線検査、血液ガス分析、肺機能評価(拡散能)を行う必要がある。

Table 6 副作用のチェック
検査頻度 検査項目
骨髄機能 2-3/week WBC PLT Hb 出血傾向
腎機能 1/week BUN Cr Ccr 検尿所見
肝機能 1/week GOT GPT γGTP ALP
Bil ZTT Prot Alb
肺機能 1/1-2 cycles 換気能 動脈血ガス
聴力 1/1-2 cycles 聴力検査

C) 治療効果判定

1)腫瘍マーカーの測定と半減期の算出

腫瘍マーカーの採取はday 0〔治療前日〕、day 7、day 21、day 7に治療前値よりも上昇すること(surge phenomenon)があることを認識し、半減期算出の際は注意を要する。

腫瘍マーカー半減期の延長については治療結果に相関を認めるとする報告と認めないとする報告があり確立した因子とは断定できないが、これまでの経験ではnecrosisを得た症例でマーカー半減期の延長を認めた例はほとんどなかった。

2)画像診断(CT)による縮小率の算出

正常リンパ節の大きさには部位により多少の差異が認められる。大きさの上限として横隔膜脚後リンパ節では5 mm, celiacからrenal vesselまでは7 mm, それ以下分岐部までは10 mmと報告されている。

精巣腫瘍のリンパ節転移巣のCT値は約半数で低い領域(<30HU)にはいるとされ、20-40代の男性で低CT値を示すmassが縦隔、後腹膜に認められたなら精巣腫瘍の転移を疑うべきである。化学療法後の低値:low density changeは壊死巣を示唆することが多く、後腹膜リンパ節転移に対して化学療法を施行後、摘出術を施行した症例についてCT値と組織との比較をおこなったところ、cancer + : 37.7 + 4.8 HU、cancer - : 18.7 + 7.8 HUと有意差が認められ、20 ml以上の腫瘍においてはCT値が治療効果を判定する最も重要な因子であるとの報告がある。しかし化学療法後の低CT値が必ずしも腫瘍陰性を意味しないことはしばしば経験され、その効果判定には腫瘍の縮小率が重要であるとする報告が多い。

3)画像診断による質的診断
  • Magnetic resonance imaging: MRI
  • リンパ節転移巣はT1-image で筋組織と等あるいは高信号、脂肪組織より低信号に、 T2- image では脂肪組織と等あるいは高信号に描出され、腫瘍の局在診断とくに上下方向の広がりにおいて優れた情報が提供される。さらにrelaxation timeの変化を追うことで腫瘍の内部構造の変化を知ることが可能である。従って抗癌化学療法の治療効果を判定するうえでCTと比べてより多くの情報が得られることが期待される。腫瘍の大きさに変化がないか、あるいは増大傾向が認められ、かつT2- imageでsignal intensityの増強が認められる場合はmature teratomaである可能性が示唆される。化学療法によって腫瘍内のsignal intensityは多様な変化を示すがmature teratomaを除いてある組織型に特異的な所見は認められず、これまでのところMRIによってviable cancerをfibrosisやnecrosisから識別することは困難である。

  • Positron emission tomography: PET
  • 化学療法後の残存腫瘍に対する評価としてはviable cancer cellが確認されたnonseminomaにおいて75%は陽性であったがteratomaやnecrosis/fibrosisは共に陰性であり両者の鑑別は不可能であったと報告されている。さらにseminomaでは salvage chemotherapyを施行した40%にfalse negativeが認められ、その臨床的有用性は低いとされる。FDGの集積は細胞の増殖速度に依存することから、未治療である程度以上の大きさをもつ腫瘍の局在診断にPETは有用であるが、増殖速度の遅いmature teratomaや化学療法直後の残存腫瘍に対するsensitivityには限界があると思われる。