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小細胞肺癌(small cell lung cancer: SCLC)

1.概念

小細胞肺癌(small cell lung cancer: SCLC)は,原発性肺癌全体の約15-20%を占めるとされている.非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer: NSCLC)と比較して増殖速度が早く,診断時にはすでにリンパ節転移や,脳・骨・肝臓などへの遠隔転移が認められることが多い.そのため,外科的治療の対象となる症例は限られているが,その反面,化学療法・放射線療法に対する高い感受性を持ち,多くの症例がこれらの内科的治療の対象となる.

2.細胞生物学的特徴

SCLCでは,ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)やADH(抗利尿ホルモン)などのペプチドホルモンやセロトニンなどの生理活性物質の産生が認められ,Cushing症候群,不適切ADH分泌症候群(SIADH)やEaton-Lambert症候群などの腫瘍随伴症候群を呈することがある.また,N-myc,c-kit,bcl-2などのがん遺伝子の異常や,p53, Rb,FHIT,PTENなどのがん抑制遺伝子の異常が,腫瘍の発生・進展に関与していることが報告されている.

3.組織型(亜型)分類

[SCLC亜型の現在の分類]

小細胞癌 混合小細胞癌/大細胞癌 混合型小細胞癌(腫瘍性扁平上皮および/または腺様成分の混合)

4.診断

NSCLCと同様に,喀痰細胞診,気管支鏡下生検法,CTガイド下生検法などにより,迅速に病理学的診断を得ることが必要である.病期診断のためには,CT,MRI,RI検査(骨シンチ,FDG-PETなど)を組み合わせて,確実な結果を得ることが重要である.診断時に遠隔転移を来していることが稀ではないため,SCLCの疑いがある場合は,早期に全身転移の有無を検索する事も必要である.

5.臨床病期による治療選択

SCLCの臨床病期は,一般的なTMN分類のほかに,治療方針選択の面から限局型(limited disease: LD)と進展型(extensive disease: ED)に分けられる.LDは,腫瘍が一側胸腔内・同側肺門リンパ節・両側縦隔リンパ節および鎖骨上窩リンパ節に限局している場合であり,それ以外の場合をEDと定義される.

6.治療

1)臨床病期I期に対する治療

LD-SCLCのうちTNM分類で臨床病期I期に相当する早期の場合,外科的切除術に術後補助化学療法を加えることによって,5年生存率70%と良好な成績が得られることが報告されている1).これにより,臨床病期I期のLD-SCLCの標準的治療は外科的切除+化学療法とされている.

2)LD-SCLCに対する初回治療

LD-SCLCに対する治療の基本は,化学療法+胸部放射線療法の併用療法である.臨床病期I期のLD-SCLCの標準的治療は外科的切除+化学療法であるが,それ以外のLD-SCLCに対しては,cisplatin(80mg/m2, day 1)+etoposide(100mg/m2, day 1-3)療法(PE療法)を4サイクルと胸部放射線療法(総線量45Gy-50Gy)併用療法が標準的である.化学療法は,胸部放射線療法中は4週ごとに行い,それ以外の期間は3週ごとに行われる.

胸部放射線療法のタイミングについて,JCOGによって,PE療法を4サイクル行い,総線量45Gyの加速分割照射(accelerated -hyperfractionation: AHF)を1サイクル目から同時併用する群と,4サイクルのPE療法後に逐次併用する群の比較試験が行われた.生存期間中央値(27.2ヶ月 vs. 19.5ヶ月),5年生存率(23.7% vs. 18.3%)ともに両群間で有意差は認められなかったものの,同時併用群が逐次併用群よりも予後が良好であった2).また,2006年に報告されたメタアナリシスの結果では,LD-SCLCにおける化学療法+胸部放射線療法において,化学療法開始後30日以内に胸部放射線療法を開始し,照射期間が30日以内の場合に5年生存率の改善を示すことが報告されている3).

胸部放射線療法の照射法について,PE療法の1サイクル目に通常分割照射(1.8Gy/回,1日1回,総線量45Gy)を併用する群とAHF(1.5Gy/回,1日2回,総線量45Gy)を併用する群の比較試験が行われた.AHF併用群では通常分割群に比較して,生存期間中央値(23ヶ月 vs 19ヶ月),5年生存率(23% vs 16%)ともに優れていた4).

以上の結果より,LD-SCLCの標準的治療は,PE療法を4サイクル行い,胸部放射線療法は総線量45GyのAHFを1サイクル目から併用する治療法が標準的治療とされている.

LD-SCLCのさらなる治療成績の向上を目指して,新規抗癌剤などを用いた臨床研究も試みられている.EORTCでは,化学療法±胸部放射線療法が奏効したLD-SCLCを対象に,ワクチン療法(Bec2/BCG)の有用性を検証する大規模第III相臨床試験が行われた.結果として,全生存期間,無増悪生存期間,QOLのいずれにおいてもBec2/BCG療法の優越性は証明されなかったが5),次世代のSCLCの治療法開発の方向性を見きわめる上で評価に値する.

3)ED-SCLCに対する初回治療

1970年代にSCLCに対するcyclophosphamaideを含む多剤併用療法の有用性が報告され,cyclophosphamaide+doxorubicin+vincristine併用療法(CAV療法)が標準的治療とされた.その後,PE療法の有用性が報告され,CAV, PE,CAV/PE交替療法の比較試験が行われた.この結果,PE療法およびCAV/PE交替療法がCAV療法と比較して,奏効率,毒性の面で優れていることが示された6),7).

1990年代に入り,新規抗癌剤を含む併用療法の臨床試験が行われ,JCOGでは,ED-SCLCの未治療例に対して,PE療法とcisplatin+irinotecan併用療法(IP療法)の第III相比較試験が行われた(JCOG9511).奏効率がそれぞれ84.4% vs. 67.5%,生存期間中央値が12.8ヶ月vs. 9.4ヶ月であり,いずれもIP療法がPE療法より有意に優れていることが示された(表2)8).この結果により,わが国においては4サイクルのIP療法またはPE療法がED-SCLCにおける標準的治療となっている.

JCOG9511試験の結果を確認するために欧米で2つの追試が行われた.いずれの試験においても,IP療法群とPE療法群の間で生存期間・奏効率に有意差は認められず,治療コスト等の面から引き続きPE療法が標準的治療とされている9).

Amrubicinは,わが国で開発された新規anthracycline系抗癌剤であり,cisplatinとの併用により,ED-SCLCに対する優れた抗腫瘍効果が報告されている10).

4)予防的全脳照射(prophylactic cranial irradiation: PCI)

SCLCでは脳転移をきたすことが多く,しばしばこれが予後を左右することが知られている.LD-SCLCにおいて,初回治療でCRまたはgood-PRとなった場合,予防的全脳照射(PCI)を行うことによって,死亡のリスクが有意に減少し,3年生存率が5.4%向上することが,メタアナリシスによって示されている11).PCIの照射線量は,1回2.5Gy,総線量25Gyまたは,1回2Gy,総線量30Gyが勧められる. 2007年にEORTCの臨床研究によって,化学療法が奏効したED-SCLCにおいて,PCIを加えることにより1年以内の脳転移発症のリスクを減少させ,1年生存率を有意に改善させることが明らかにされた12).今後は,ED-SCLCにおいても症例によってはPCIを考慮する必要がある.

5)高齢者およびPS不良SCLCに対する治療

人口の高齢化とともに高齢者肺癌が増加している.特にSCLCでは70才以上の高齢者症例の増加が著しく,これらに対する治療法の確立が求められている.また,CDDPを含む標準的治療を行うことが困難なPS不良例に対しても,QOLに留意した治療を考慮する必要がある.いくつかの第II相試験により,高齢者あるいはPS不良例におけるcarboplatin+etoposide併用化学療法の有用性が報告されてきたが,大規模な比較試験での検証は行われていなかった.このような状況のなかで,JCOGによって,70歳以上の高齢者およびPS3のED-SCLCを対象に,分割cisplatin(25mg/m2, days 1-3)+ etoposide(80mg/m2, days 1-3)とcarboplatin(AUC 5, day 1)+ etoposide(80mg/m2, days 1-3)の第III相比較試験(JCOG9702)が行われた.奏効率(両群とも73%),生存期間中央値(cisplatin+etoposide群10.6ヶ月,carboplatin+etoposide群9.8ヶ月)とも同等であり,毒性のプロフィールもほぼ耐容可能であった13).この結果によって,高齢者およびPS不良(PS3)SCLCにおいては,いずれの治療法も臨床的に使用可能と考えられている.

6)再発SCLCに対する化学療法

SCLCは,初回治療が奏効しても多くの場合再発をきたし,2年生存率はED-SCLCで10-20%,ED-SCLCでは5%以下であると報告されている14).再発SCLCは,初回治療が奏効し,治療終了から90日以上経過しての再発(sensitive relapse)と,初回治療に不応または治療終了から90日以内の再発(refractory relapse)に分けられる.前者では初回化学療法と同様のレジメンでも奏効することが多い.後者では一般的に初回化学療法で用いられなかった薬剤が選択されるが,その効果は十分とは言えない.再発SCLCに対する標準的治療は確立されていないが,新規抗癌剤であるtopotecan, irinotecan, amrubicinなどを用いた臨床試験の結果が報告されている.米国においては,sensitive relapseに対して,CAV療法とtopotecan単剤療法の第III相比較試験が行われ,奏効率と生存期間中央値は同等であったが,症状の改善に関してtopotecan単剤群が優れていた15).

7)SCLCにおける分子標的療法

SCLCに対する分子標的療法としては,これまでに,matrix metalloproteinase阻害剤であるmarimastat,c-kitチロシンキナーゼ阻害剤であるimatinib,血管新生阻害剤であるthalidomide,bevacizumabなどの臨床研究が行われてきたが,いまだ明らかな有用性を証明するまでには至っていない.c-kitの発現は,SCLCの70%以上で認められ,これを標的とするimatinibの第II相試験が行われたが,有効性は認められなかった16).BevacizumabはNSCLCの初回治療において,化学療法(carboplatin+paclitaxel)との併用の有用性が示されている血管新生阻害薬(抗VEGFモノクローナル抗体)であるが,現在いくつかのグループによってSCLCに対する効果を検証する臨床試験が進行中あるいは計画中である.

7.予後

SCLCは,早期に治療を行わなければ肺癌のなかで最も急速な臨床経過とり,診断後の生存期間中央値は約2~4カ月である.SCLCの治療は,NSCLCに比較してその成績がplateauに達している感が否めないが,新規抗癌剤などの進歩により,現在,LDで生存期間中央値20~28カ月,EDでは生存期間中央値9~13カ月という成績が報告されている.

参考文献

1) Shepherd F.A. et al.: A prospective study of adjuvant surgical resection after chemotherapy for limited small cell lung cancer. A University of Toronto Lung Oncology Group study. J. Thorac Cardiovasc Surg., 97: 177-186, 1989.

2) Takada M. et al.: Phase III study of concurrent versus sequential thoracic radiotherapy in combination with cisplatin and etoposide for limited-stage small-cell lung cancer: results of the Japan Clinical Oncology Group Study 9104. J. Clin Oncol., 20: 3054-60, 2002.

3) De Ruysscher D. et al.: Time between the first day of chemotherapy and the last day of chest radiation is the most important predictor of survival in limited-disease small-cell lung cancer. J. Clin Oncol., 24: 1057-1063, 2006.

4) Turrisi A.T. et al.: Twice-daily compared with once-daily thoracic radiotherapy in limited small-cell lung cancer treated concurrently with cisplatin and etoposide. N Engl J. Med., 340: 265-271, 1999.

5) Giaccone G. et al.: Phase III study of adjuvant vaccination with Bec2/bacille Calmette-Guerin in responding patients with limited-disease small-cell lung cancer (European Organisation for Research and Treatment of Cancer 08971-08971B; Silva Study). J. Clin oncol., 23: 6854-6864, 2006.

6) Fukuoka M. et al.: Randomized trial of cyclophosphamide, doxorubicin, and vincristine versus cisplatin and etoposide versus alternation of these regimens in small-cell lung cancer. J. Natl Cancer Inst., 83: 855-861,1991.

7) Roth B.J. et al.: Randomized study of cyclophosphamide, doxorubicin, and vincristine versus etoposide and cisplatin versus alternation of these two regimens in extensive small-cell lung cancer: a phase III trial of the Southeastern Cancer Study Group. J. Clin oncol., 10: 282-291, 1992.

8) Noda K. et al.: Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer. N Engl J. Med., 346: 85-91, 2002.

9) Hanna N. et al.: Randomized phase III trial comparing irinotecan /cisplatin with etoposide/cisplatin in patients with previously untreated extensive-stage disease small-cell lung cancer. J. Clin Oncol., 24: 2038-2043, 2006.

10) Ohe Y. et al.: Phase I-II study of amrubicin and cisplatin in previously untreated patients with extensive-stage small-cell lung cancer. Ann Oncol., 16: 430-436, 2005.

11) Aupérin A. et al.: Prophylactic cranial irradiation for patients with small-cell lung cancer in complete remission. Prophylactic Cranial Irradiation Overview Collaborative Group. N Engl J. Med., 341: 474-484, 1999 .

12) Slotman B. et al.: Prophylactic cranial irradiation in extensive small-cell lung cancer. N Engl J. Med., 357: 664-672, 2007.

13) Okamoto H. et al.: Randomised phase III trial of carboplatin plus etoposide vs split doses of cisplatin plus etoposide in elderly or poor-risk patients with extensive disease small-cell lung cancer: JCOG 9702. Br J. Cancer, 97: 162-169, 2007.

14) Seifter E. J. et al.: Therapy of small cell lung cancer: a perspective on two decades of clinical research. Semin Oncol.,15: 278-299, 1988.

15) von Pawel J. et al.: Topotecan versus cyclophosphamide, doxorubicin, and vincristine for the treatment of recurrent small-cell lung cancer. J. Clin Oncol., 17: 658-667, 1999.

16) Johnson B.E. et al.: Phase II study of imatinib in patients with small cell lung cancer. Clin Cancer Res., 9: 5880-5887, 2003.