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下咽頭がん

1)下咽頭癌とは

下咽頭癌は比較的稀な疾患で、頭頸部癌の10%あまりを占める。好発年齢は50−60歳代である。喫煙および過度のアルコール摂取が下咽頭癌の第一危険因子である。組織学的にほとんどの下咽頭癌は扁平上皮癌であり、粘膜内、正常な上皮下で拡がる傾向があり、スキップ転移して原発部位から離れた部位へ進展する事がある。

下咽頭は、解剖学的に上は舌骨に始まり下は輪状軟骨下縁まで拡がる。下咽頭は梨状陥凹、輪状後部および咽頭後壁、の3部から構成されている。下咽頭癌の発生部位別頻度は、梨状陥凹、咽頭後壁、次いで、輪状後部の順である。頭頸部所属リンパ節は以下のレベルI-Vに分類されている。すなわち、レベルI:オトガイ下および顎下リンパ節、レベルII:上内深頸リンパ節、レベルIII、中内深頸リンパ節、レベルIV:下内深頸リンパ節、レベルV:副神経リンパ節である。下咽頭からのリンパ液は、レベルII-IVリンパ節およびルビエールリンパ節へ流入する。

臨床的に、下咽頭癌は進行性で、広範な局所進展、比較的早い時期における所属リンパ節転移、比較的高い割合での遠隔転移を来す事、などが特徴である。50%を超える下咽頭癌患者で、発症時に臨床的リンパ節転移が陽性であり、梨状陥凹型で87%、咽頭後壁型で82%の患者が病期IIIあるいはIVの進行癌である事と無関係ではない。

2)診断

下咽頭癌の診断は組織学的生検によって行う。下咽頭癌の臨床的病期決定には、基本的に臨床評価および画像評価の両方を行う。原発腫瘍は視診により評価する。喉頭ファイバーによる評価は必須である。考えられる所属リンパ節については特に慎重に触診を行う。画像診断は、頭頸部および胸部を含むCTは必須で、必要に応じて頭頸部MRIおよびFDG-PETを追加する。MRIは軟組織における腫瘍の進展範囲の評価に、CTは軟骨への進展の有無の評価に、FDG-PETは病期判定のための全身評価や再発下咽頭癌に対する評価法として有用である。

また、多発性原発癌の有無を評価するため、上部消化管を治療前に評価する事は重要である。

3)病期

UICCは、TNM分類による以下の病期決定を指定している。

原発腫瘍 (T)

  • T1:下咽頭の1亜部位★に限局し、最大径が2センチ以下の腫瘍
  • T2:片側喉頭の固定がなく、下咽頭の1亜部位★を超えるか、隣接部位に浸潤するか、または最大径が2センチを超えるが4センチ以下の腫瘍
  • T3:最大径が4センチを超えるか、または片側喉頭の固定する腫瘍
  • T4a:甲状/輪状軟骨、舌骨、甲状腺、食道、または前頸筋および皮下脂肪などの中央区分軟部組織に浸潤する腫瘍
  • T4b:椎前筋膜に浸潤し、頸動脈を完全に包み、あるいは縦隔構造に転移する腫瘍
  • ★下咽頭の亜部位は以下の通りである:
  • −輪状後部:披裂軟骨および披裂間ヒダの高さから輪状軟骨下縁まで拡がる咽頭食道接合部
  • −梨状陥凹:咽頭喉頭蓋ヒダから食道上端まで拡がり、外側は甲状軟骨を境界とし、内側は披裂喉頭蓋ヒダの表面および輪状軟骨を境界とする部位
  • −咽頭後壁:喉頭蓋谷の底部から輪状披裂関節の高さまで拡がる咽頭後壁

所属リンパ節転移 (N)

  • N0:所属リンパ節の転移を認めない
  • N1:同側の単発性リンパ節転移で最大径が3センチ以下
  • N2:同側の単発性リンパ節転移で最大径が3センチを超えるが6センチ以下、または同側の多発リンパ節転移で最大径が6センチ以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6センチ以下
    • N2a:同側の単発性リンパ節転移で最大径が3センチを超えるが6センチ以下
    • N2b:同側の多発リンパ節転移で最大径が6センチ以下
    • N2c:両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6センチ以下
  • N3:最大径が6センチを超えるリンパ節転移

遠隔転移 (M)

  • M0:遠隔転移を認めない
  • M1:遠隔転移あり

 以上のTNM分類をもとにUICCは以下の病期分類を定義している。

  • I期:T1N0M0
  • II期:T2N0M0
  • III期:T3N0M0、T1-3N1M0
  • IVA期:T1-3N2M0、T4aN0-2M0
  • IVB期:T4bN0-2M0、T1-4N3M0
  • IVC期:T1-4N0-3M1

4)治療

T1の癌以外では、治療としてまず手術を施行した後、術後放射線療法を行うのが標準的である。III期およびIV期の患者には、集学的治療を検討すべきである。

1. I期の下咽頭癌

この病期で下咽頭癌が発見されることは比較的稀である。

治療の選択肢:
  • a. 放射線単独療法:中咽頭原発巣に対して、66Gyの照射を行う(2Gy/day x 33fx)。

2. II期の下咽頭癌

この病期の下咽頭癌では、下咽頭・喉頭切除術および患側の頸部廓清術を行う事が標準的である。ただし、実際の治療法選択においては予測される機能的結果、または社会経済的結果により総合的に決定されるべきである。

治療の選択肢:
  • a. 手術療法と放射線療法の併用:下咽頭・喉頭切除術および頸部廓清術を行う。梨状陥凹原発癌では、一部の症例で喉頭を温存出来る場合もある。この病期の症例では、局所制御率の向上のため、術後放射線療法を追加する。
  • b. 化学放射線療法:通常の放射線療法(総量66Gy、2Gy/day x 33fx)に加えて、放射線増感剤として週1回ドセタキセル(10mg/w/m2 x 6クール)による化学療法を同時併用で追加する。

3. III期の下咽頭癌

III期の下咽頭癌では、一般には手術と放射線療法の併用療法が標準的である。しかし、この病期での局所手術では術後の機能的、審美的結果が問題となる事があり、今後、至適治療の確立には多様な選択肢が必要である。

治療の選択肢:
  • a. 手術療法と放射線療法の併用:下咽頭・喉頭・頸部食道摘出術および少なくとも患側の頸部廓清術を追加する。原発巣の欠損部については、遊離空腸あるいは前腕皮弁による再建を行う。局所および頸部に対して、術後照射を追加する。高リスク患者では、術後化学放射線療法への変更を検討する。
  • b. 化学放射線療法:
    • T1およびT2症例:通常の放射線療法(総量66Gy、2Gy/day x 33fx)に加えて、シスプラチンによる全身化学療法(80mg/ m2 x 3クール)を同時併用で追加する。
    • T3症例:通常の放射線療法(総量66Gy、2Gy/day x 33fx)に加えて、シスプラチンによる動注化学療法(100mg/body x 3クール)を同時併用で追加する。

4. IV期の下咽頭癌

切除可能症例の治療:

IV期の下咽頭癌では、一般には手術と放射線療法の併用療法が標準的である。しかし、この病期での局所手術では術後の機能的、審美的結果が問題となる事があり、今後、至適治療の確立には多様な選択肢が必要である。

治療法の選択肢:
  • a. 手術療法と放射線療法の併用:下咽頭・喉頭・頸部食道摘出術および両側の頸部廓清術を追加する。原発巣の欠損部については、遊離空腸あるいは前腕皮弁による再建を行う。局所および頸部に対して、術後照射を追加する。高リスク患者では、術後化学放射線療法への変更を検討する。
  • b. 化学放射線療法:
    • T1およびT2症例:通常の放射線療法(総量66Gy、2Gy/day x 33fx)に 加 えて、シスプラチンによる全身化学療法(80mg/ m2 x 3クール)を同時併用で追加する。
    • T3症例:通常の放射線療法(総量66Gy、2Gy/day x 33fx)に加えて、シスプラチンによる動注化学療法(100mg/body x 3クール)を同時併用で 追加する。
切除不可能症例の治療:

これらの患者は化学放射線療法の対象である。

  • a. 化学放射線療法
  • 通常の放射線療法(総量66Gy、2Gy/day x 33fx)に加えて、シスプラチンによる全身化学療法(80mg/ m2 x 3クール)あるいはシスプラチンによる動注化学療法(100mg/body x 3クール)を同時併用で追加する。

5. 生存率

1988-2000年の13年間に根治治療を行った下咽頭癌の治療成績を、下咽頭がん以外の原因で亡くなった方を除いた場合の5年生存率(病因特異的5年生存率)は以下の通りである。

病期I: 100%、病期II: 75%、病期III: 67%、病期IV: 32%