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神経鞘腫

1.基本事項

Schwann細胞が腫瘍化したものであり,多くは感覚神経から生ずる.末梢神経より発生する腫瘍としては最も頻度の高いものである.現在も“neurinoma”という名称がよく使われているが,Schwann細胞から発生する腫瘍であるので“schwannoma”という用語が混乱を避ける意味でも適当である.

2.発生部位

頭蓋内では脳神経,特に聴神経 (上下の前庭神経,蝸牛神経)と三叉神経に多く発生する.脊髄神経にも好発する.

聴神経鞘腫はacoustic schwannoma,あるいはvestibular schwannomaと呼ばれる.多くは前庭神経より発生する.前庭神経の髄鞘は脳幹から10mm前後まではoligodendrocyteで形成され,Schwann細胞に移行している.この移行部はroot entry zone (Obersteiner-Redlich zone)と呼ばれ,腫瘍はこの移行部付近 (聴神経鞘腫では通常内耳道内)に発生することが多い.蝸牛神経からの発生はまれで5%以下である.

まれな発生部位として脳実質内,脳室内,嗅窩,トルコ鞍内,脊髄髄内などがある.これらの発生母地としては,血管周囲の神経叢のSchwann細胞や脈絡叢に残存したSchwann細胞等が考えられている.多発性の神経鞘腫はほとんどNF2に合併して発生する.

3.頻度,年齢,性別

原発性脳腫瘍の10.3%で,40歳~60歳代に多い (脳腫瘍全国集計2003).頭蓋内発生では1.3:1で女性に多い.頭蓋内では70~90%が聴神経に発生する.聴神経以外の頭蓋内神経鞘腫の発生部位の内訳は三叉神経約40%,顔面神経25%,頚静脈孔 (舌咽,迷走,副神経) 20%,舌下神経5%である.第3~12脳神経のいずれからも発生するが,感覚神経由来のものが圧倒的に多い.神経鞘腫のうち90%は孤発性で,NF2に伴うものが約4%である.NF2では特に神経鞘腫の発生頻度が高く,90%以上の症例で経過中に両側の聴神経鞘腫を生ずる.

4.症状

1)聴神経鞘腫

難聴 (90%),耳鳴 (60%),三叉神経障害 (80%)などを生ずる.初発症状として顔面神経麻痺は非常に少ない.画像診断の発達で最近では軽度の難聴や耳鳴といった蝸牛神経症状で発見されることが多くなった.前庭神経から発生しても眩暈などの前庭神経症状は初期には生じにくいとされるが,内耳道内限局の小腫瘍で早期に生じるとの報告もある.古くから有名なBruns眼振 (病巣側を注視したときに出現する振幅の大きな眼振,PPRFの障害による)は腫瘍が大きくなり脳幹を圧迫すると生じる.腫瘍がさらに増大すると第4脳室狭窄,閉塞による水頭症,頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭,意識障害が生ずる.まれに腫瘍内出血やクモ膜下出血で発症する.

2)三叉神経鞘腫

三叉神経症状 (顔面痛,顔面知覚鈍麻)が最も多い.ganglion type (約50%)では顔面痛,また動眼,滑車,外転の各脳神経麻痺を伴うことも多い.root type (20~30%)では顔面知覚鈍麻に加え,顔面神経や聴神経障害も出現することがある.錐体骨の後面が破壊されることが多い.クモ膜下出血により発症することもある.

5.神経放射線学的所見 (聴神経鞘腫)

1) 頭蓋単純X線撮影

内耳孔の拡大を認める (Stenvers撮影).内耳道が8mm以上,または左右差が2mm以上の場合に異常とみなす.

2) CT

内耳孔の拡大を認める.腫瘍は単純CTで低~等吸収域を示し,充実性の部分は著明に造影される.石灰化はまれである.

3) MRI

T1強調像で低信号,T2強調像で高信号を示すことが多い.腫瘍実質部分は均一に造影される.嚢胞を伴う場合,その壁も通常強く造影される.

6.病理所見

1) 肉眼所見

通常薄い被膜に包まれ,境界は鮮明で黄色,灰色調を呈することが多い.小結節状を呈することもある.腫瘍の表面は血管が豊富である.充実性の部分は弾性硬である.

2) 組織所見

線維芽細胞に類似した紡錘形細胞が密に増殖する部分 (Antoni type A)と腫瘍細胞が粘液状の基質のなかに疎に存在する部分 (Antoni type B)が混在する.Type Aの部分は細胞の大小不同が目立ち,核はとげとげしくニシンの骨 (herring bone)にたとえられる.細胞はstreamを形成し,時にwhorl様になり部分的に髄膜腫と類似することもある.核が横一列に柵状に並ぶいわゆるpalisadingが特徴の一つであるが,典型的なpalisadingは頭蓋内発生例には少なく,脊髄発生例に多い.柵状配列した核が20~30個で類円形の小体を形成することがありVerocay bodyと呼ばれる.Type Bの部分では核は多形性を示し,脂肪変性や粘液変性を伴う.腫瘍の血管壁は薄く,非常に血管が豊富で血管腫様となることがある.また血管にはしばしば硝子化を伴う.小嚢胞,ヘモジデリン沈着,血栓形成もしばしばみられる所見である.免疫染色では,腫瘍細胞はS-100,vimentin,Leu-7に陽性である.神経鞘由来の腫瘍にはGFAPと同じepitopeを持つ蛋白が存在するために,抗体の種類によってはcross reactionを示す可能性がある.したがってGFAP陽性であっても必ずしもastrocytic GFAPが存在するというわけではない.腫瘍細胞は基底膜で覆われており,lamininやcollagen type IVに陽性となる.特にlamininは基底膜を構成する最も重要な糖蛋白であり,Schwann細胞をfibroblastと区別するマーカーとして有用である.lamininやcollagen type IVはSchwann細胞が産生しており,細胞質も陽性を示す.MBPは正常のSchwann細胞では陽性であるが腫瘍細胞では通常陰性である.腫瘍化した細胞は髄鞘形成蛋白を産生しないためと考えられている.

7.分子生物学的所見

癌抑制遺伝子の一つであるNF2の異常が孤発性のschwannomaでも60~82%にみられ,その発生に関わっていると考えられている.遺伝子変異のある症例では対立遺伝子にも変異や欠損を認める (two hit)ことも多い.またこうした遺伝子異常の有無にかかわらずmerlin (schwannomin)の発現はほとんどの症例で消失しているとされており,merlinの機能消失がschwannomaの発生に最も重要と考えられている.現在のところNF2遺伝子以外には恒常的な遺伝子異常は報告されていない.

8.治療,予後

脳神経や脊髄神経に発生するものはほとんど良性であり,手術摘出により治癒する場合が多い.悪性度はWHOのgrade Iである.部分摘出や亜全摘出症例では放射線照射が再発予防に有効との報告がある.最近では直径が3cm以下の場合は定位放射線治療も広く行なわれている.聴神経腫瘍の栄養血管は後頭動脈,上行咽頭動脈,中硬膜動脈等外頚動脈系から流入している.このため血管豊富な症例に対しては摘出術前の塞栓術がしばしば有効である.