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下垂体腺腫

1.定義、分類

発生学的に下垂体は,胚の口腔粘膜より上方へ伸びたラトケ嚢が胎生2カ月でトルコ鞍内で分離し,その前壁が下垂体前葉,後壁が中間葉となる.間脳より下方に伸びた漏斗が後葉となり,両者が融合して下垂体が形成される.下垂体腺腫は前葉のホルモン産生細胞より発生する.発生途上で下垂体組織が残存し,成人になっても咽頭下垂体や漏斗部下垂体腺細胞が存在することがある.そのため,稀に,漏斗部,蝶形骨洞、咽頭などから異所性下垂体腺腫が発生することがある.

臨床的には、下垂体ホルモン過剰症状を呈する機能性腺腫とホルモン過剰症状を呈しない非機能性腺腫に大別される.機能性腺腫はgrowth hormone (GH)産生腺腫, prolactin(PRL)産生腺腫, adrenocorticotropic hormone (ACTH)産生腺腫,thyroid stimulating hormone(TSH)産生腺腫, gonadotropin (Gn) (luteinizing hormone:LH, follicle stimulating hormone:FSH)産生腺腫に分類される.複数のホルモン産生を認める場合,多ホルモン産生腺腫(plurihormonal adenoma)に分類される.PRL産生腺腫やGH産生腺腫は下垂体の外側に、ACTH産生腺腫は下垂体の中心部に発生する傾向にある.下垂体細胞が腫瘍塊までに増殖しない過形成(hyperplasia)の段階でもホルモン異常を示すことがある.非機能性腺腫では腺腫細胞の多くにGn産生があることが証明されたが,末梢血ではGn異常高値を示さない.また,少数ではあるが,GH産生腺腫やACTH産生腺腫の中にもホルモン過剰症状を呈さない腫瘍がある.

古典的には,HE染色により腺腫を好酸性,塩基好性,嫌色素性に分類していたが, 2004年にKovacsらの電顕像を主体とした”WHO classification, tumours of endocrine organs”が刊行され、下垂体腺腫の新分類が発表された。

2.頻度,年齢

剖検によれば、正常下垂体における微小腺腫の頻度は2~9%との報告があり,高頻度に潜在する腫瘍である.また,2個以上の微小腺腫が0.9%にみられる.さらに,健常者のMRIによるスクリーニングでは10%に下垂体微小腺腫が発見されるという報告がある.脳腫瘍全国集計によると,下垂体腺腫は原発性脳腫瘍の16.9%を占める.この下垂体腺腫3,166例中,非機能性腺腫は42.7%,機能性腺腫のうちPRL腺腫が28.5%,GH腺腫が22.4%,ACTH腺腫が4.7%,他の機能性腺腫が1.5%,悪性腺腫が0.1%である.腺腫のほとんどは成人に発症し,小児期には稀である.

3.臨床症状

下垂体腺腫に共通する臨床症状は,初期には下垂体周囲の硬膜が腺腫により圧迫されることによる,前頭部~眼窩を中心とする頭痛である.機能性腺腫では,直径10mm以下の微小腺腫でもそれぞれの腺腫に特徴的なホルモン過剰症状を呈する.非機能腺腫では,視神経を圧迫するような大きさになるまで発見されないことが多いが,最近はMRIの普及により無症状でも発見される(下垂体偶発腫).

腺腫が大きくなると視力視野障害や下垂体機能低下症を生ずる.視野障害は視交叉部の圧排により両耳側半盲を呈するが,特に上方1/4の視野が障害されやすい.下垂体前葉障害に比して,尿崩症などの後葉障害はまれである.PRL産生腫瘍でなくとも血中のPRLの軽度上昇が見られる(PRL <100ng/ml).これは腫瘍が下垂体柄を圧迫し,prolactine releasing-inhibitory factor (PIF)が下垂体前葉に機能しないことで説明される (stalk effect).

下垂体腺腫が出血あるいは梗塞をきたし急激に腫瘤が増大をきたすことがある。これを下垂体卒中 (pituitary apoplexy)と呼び,激しい頭痛,急激な視力低下,眼球運動障害をはじめとする脳神経障害,下垂体機能低下や視床下部症状をきたす.クモ膜下出血や脳室内出血を呈し意識障害を伴う場合がある.腺腫内に限局した出血を下垂体卒中の範疇に含めると腺腫の約17%に出血がみられる.

4.神経放射線学的所見

頭部単純X線撮影ではトルコ鞍の風船状拡大 (ballooning),側面像での二重鞍底 (double floor)が特徴的である.CTでは嚢胞化,石灰化,周りの骨変化などがわかり,腺腫は造影される.MRIでは腺腫の大きさと浸潤程度,周囲の血管や脳神経が判読できる.腫瘍の大きさが直径10mm以下をmicroadenoma、それ以上をmacroadenomaと呼ぶ.

5.病理所見

1) 肉眼所見

直径5mm以上の微小腺腫は白くて軟らかいので,手術顕微鏡下に黄赤色調で硬い出血性の正常の下垂体組織と区別できる.しかし,腺腫は明確な被膜を形成していない.腺腫が大きくなると,嚢胞,出血巣などが混在したり、線維成分が増生することにより腺腫が硬くなることがある.

2)組織所見

腫瘍組織では,正常下垂体組織にみられる結合織と血管で作られる網目状のacinar patternが消失する.光顕上,他のホルモン分泌器官より発生する腫瘍細胞の配列と類似しており,細胞構築によりびまん性(diffuse),洞性 (sinusoidal),乳頭状 (papillary)構造となる.これらの構造は腺腫の種類により一定の傾向があるものの,同一の腫瘍内に様々な割合で混在している場合が多い.腫瘍細胞の大きさはほぼ均一である.核は丸く,核異型や核分裂像は稀である.嚢胞,出血,石灰化などが時々見られる.壊死は下垂体卒中の場合によく見られる.腫瘍を栄養する血管は小血管が多いが,直径100μm以上の血管もよく見られる.腫瘍細胞が血管周囲に花輪状に集合する部位がある.線維性結合組織は少ないが,約10%はfibrous adenomaと呼ばれる線維成分の多い腺腫である.免疫染色では、それぞれの産生ホルモンが陽性になるが,各組織型に共通して見られる所見としては,synaptophysin, chromogranin A, low molecule cytokeratinが陽性となる.

6.増殖能と下垂体癌(pituitary carcinoma)

下垂体腺腫は良性の腫瘍であり,Ki-67 陽性率は低い.Ki-67 陽性率はGH,PRL,ACTHなどの機能性腺腫で高く (1.1~1.5%),非機能性腺腫で低い(0.1~1.0%)と報告されている.非機能性腺腫でのKi-67陽性率は年齢との相関はあるが,再発との相関はなく、非機能性腺腫の再発予測因子は、MRIでの浸潤度,手術摘出率,年齢,術後放射線照射の有無の順である.

頭蓋内への播腫や他臓器への転移が認められるものを,下垂体癌(pituitary carcinoma)と定義している.初発よりpituitary carcinomaとして発見されるもの (de novo)と,先行するpituitary adenomaが再発を繰り返すうちに転移巣を形成するものがある.pituitary carcinomaと報告されている例は,2007年までに約150例あり,Cushing病(42%)とPRL 産生腺腫 (33%)が大部分で,66%は診断後1年以内に死亡している.

7.分子生物学的所見

1)転写因子

下垂体前葉細胞の細胞分化に関しては、転写因子により3系のホルモン産生細胞のメイン・ルートが解明されている. mammosomatotroph, lactotroph, thyrotrophでは転写因子Pit-1が発生過程において重要で、Pit-1 familyと呼ばれる. Pit-1が欠損するとGH,PRL,TSHが産生されず,下垂体前葉は低形成となる.thyrotrophではthyrotroph embryonic factor (TEF)がTSH産生を促す. corticotrophsではTpitと結合するNeuroD1/beta2が転写因子である. gonadotrophではsteroidogenic factor(SF)-1, GATA-2, Lhx4などの転写因子が同定されている.

2) 癌遺伝子

下垂体腫瘍関連の癌遺伝子としてGsp,pituitary tumor transforming gene (PTTG),CD1(CCND1),c-mycなどが注目されているが,特定の癌遺伝子との明確な因果関係は明らかにされていない.Gsp遺伝子は細胞内シグナル伝達系のG-proteinのα-subunit (GSP遺伝子)をコードする遺伝子であるが,point mutationがGH産生下垂体腺腫において40%の患者に存在することが報告されている.この遺伝子のcodon 201、あるいはcodon 227の変異によりG蛋白の持続的な活性化がおき,増殖シグナルが発生すると考えられている.本邦でも30~40%の症例で変異を認める.本遺伝子はPRL産生腺腫や非機能性腺腫での異常は少ない.EGF-Rの増強はGH産生腫瘍の再発を促すといわれている.PTTGは多くの下垂体腺腫で発現しているが,他臓器の癌でも発現している.CD1遺伝子(11q13)のamplificationや染色体のrearrengementによるCD1の発現は下垂体腺腫でよくみられるが,他の腫瘍でも頻繁にみられる所見である.c-mycのoverexpresssion は下垂体腺腫の約30%にみられるが,特にPRLやGH産生腺腫で高い.pituitary tumor-derived(ptd)-FGFR4の強発現はKi-67陽性率と良く相関するという報告がある.

3) 癌抑制遺伝子

下垂体腺腫関連の癌抑制遺伝子としてはMEN1(multiple endocrine neoplasia type 1: menin,11q 13)が最もよく知られている.MEN1では,常染色体優性遺伝を示し,副甲状腺,膵臓,十二指腸などに良性のホルモン産生腫瘍が発生する.下垂体腺腫はMEN1患者の54~80%に伴い,PRLやGH産生腺腫が多い.nm23はcyclin Bを阻害して細胞周期はG2で停止するが,pituitary carcinoma やcavernous sinusへ浸潤した症例ではその発現が抑制されているとの報告がある.成長阻止遺伝子であるGADD45は非機能性腺腫で著明な減少が見られるという.pituitary carcinomaではp53,Rb, H-rasなどもその発生や悪性化に関与していると推察されている.

8.治療

1960年代からGuiotやHardyらにより術中X線透視装置と手術顕微鏡を併用する経蝶形骨洞経由による手術が安全に行われるようになった.さらに現在では,内視鏡手術の器具が開発され,顕微鏡と内視鏡の併用、内視鏡単独使用による経鼻的手術に変わってきている.頭蓋内で大きく側方や前方に進展している巨大腺腫に対しては、経頭蓋到達法を選択する.直径20mm以下の残存腺腫に対しては定位的放射線治療を考慮する.その際、分割定位的放射線治療(SRT)は腫瘍の縮小に有効で,周囲組織への放射線障害が少ない.

PRL微小腺腫は,CB-154やterguride、cabergoline などのドーパミンアゴニストを優先する方がよいとする意見と,若年者には手術を優先すべきであるという意見がある.定位的放射線治療が有効な場合もある.

GH産生腺腫に対しては,残存腫瘍に定位的放射線治療を追加すると,有効な治療となる.最近はGH産生腺腫には手術よりも定位的放射線治療を優先する施設もある.術前にoctreotideを投与することでGH産生腺腫を縮小させる工夫もなされている.術後もGHコントロール不良例にはoctreotide,pegvisomant,ドーパミンアゴニストの薬剤療法を考慮する.

ACTH産生腺腫は臨床症状が顕著な例でもMRIで腺腫が発見されないことがある.この場合ACTHのinferior petrosal sinus samplingが有用である。長期 (平均約7年)の術後観察結果、特に20歳以下のACTH産生腺腫に再発率(17%)が高いと報告されている.ACTH産生腺腫では,脳萎縮が高率に生じることが指摘されており,長期にACTH値をコントロールすることが重要である.海綿静脈洞に浸潤しているACTH産生腺腫では定位的放射線治療が有効な例がある.