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毛様細胞性星細胞腫

1.発生部位

小脳 (虫部>半球),視神経,視交叉,脳幹,視床下部,視床,基底核,松果体部など正中・傍正中部に多い.まれに大脳半球,小脳橋角部,脊髄に生ずる.

2.頻度,年齢,性別

小児,若年者に多く,ほとんどは20歳未満で発症する.全神経膠腫の5~6%で,小児の神経膠腫の約30%である.小児の大脳半球astrocytomaの10%,小脳astrocytomaの85%を占める.性差はない.

3.症状

1) 小脳発生

頭痛,嘔吐,うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進症状,小脳虫部症状 (体幹失調,失調歩行),小脳半球症状 (上下肢運動失調)を呈する.

2) 視神経発生

視神経に限局した場合は眼球突出,視力低下,視野狭窄などを生ずる.NF1 (neurofibromatosis type 1,von Recklinghausen病)に合併した視神経膠腫はほとんどpilocytic astrocytomaであり,年余にわたって発育がほとんど停止していることが多い.10~50%はNF1に合併して生じ,両側性の場合が多い.またNF1患者の5~15%に視神経のpilocytic astrocytomaが生ずる.

3) 視交叉発生

視力低下,視野異常が初発症状で後上方へ進展するとモンロー孔を閉塞して水頭症を生ずる.下垂体,視床下部の機能低下を示し,脂肪性器異栄養症 (Fröhlich症候群,dystrophia adiposogenitalis)を呈することがある.視床下部に進展すると小児ではdiencephalic syndrome (Russell syndrome) を生ずることがあり,尿崩症,思春期早発症,多幸,るいそうなどの症状を呈する.

4)大脳半球発生

頭痛,嘔吐,うっ血乳頭などの脳圧亢進症状,けいれん,片麻痺などを生ずる.

4.神経放射線学的所見

1) CT

境界鮮明で腫瘍は等~やや高吸収域で,通常強く造影される.嚢胞は低吸収域となるが,髄液よりCT値は高い.

2) MRI

腫瘍実質はT1強調像で等~やや低信号域,T2強調像では高信号を示し,境界鮮明で著明に増強される.嚢胞はT1強調像で低信号域,T2強調像で高信号を示す.

5.病理所見

1)肉眼所見

小脳発生例の多くは大きな嚢胞を伴い,腫瘍実質は壁在結節 (mural nodule)となっている.脳幹部ではdorsally exophytic massとなることが多い.肉眼的には,境界は通常鮮明である.大脳発生例でも嚢胞と壁在結節を伴うものが多い.

2)組織所見

腫瘍細胞は細長いunipolarまたはbipolarな細胞突起をもち,紡錘形である (piloid, hair-like, spongioblastic cellなどと表現される).核は円形または楕円形である.腫瘍細胞が充実性に増殖する部分と,細胞密度が低くmicrocystic change (この部分ではpiloidというよりstellate (星芒)状を示し,protoplasmic astrocytomaに類似する)がみられる部分の混在を認める (biphasic pattern).核の濃染や異型性,時に核分裂像や壊死像を認めることもあるが必ずしも悪性所見ではない.一般に血管は豊富であり,perivascular pseudorosette,血管壁のhyalinizationをしばしば伴う.特に嚢胞壁にはglomeruloid typeの微小血管増生 (microvascular proliferation)をみることがあるがこれも本腫瘍では特例的に悪性所見とはみなされない.Rosenthal fiberは腫瘍細胞が密に増殖した部分に多くみられる棍棒状,または類円形のエオジン好性の小体である.一般に良性腫瘍にみられる所見とされるが,まれにglioblastomaでも出現することがある.eosinophilic granular body (EGB) はさまざまな大きさの類円形小体で,顆粒状の内容物を容れ,腫瘍細胞が疎な部分に多い.この小体は腫瘍細胞の変性あるいは貪食作用に関係するといわれ,antiproteinase を含む.その他,微小石灰化やヘモジデリン沈着などがみられる.このようにpilocytic astrocytomaは同一症例でも様々な所見を呈している.脳と腫瘍の境界は画像や肉眼的には鮮明の場合が多いが,顕微鏡的には必ずしも境界鮮明ではなく,diffuse astrocytomaでみられるように脳組織に腫瘍細胞が浸潤していたり,腫瘍深部に神経細胞が取り込まれた所見を呈することもある.免疫染色にて腫瘍細胞は通常GFAP強陽性である.Rosenthal fiberは,周辺部はGFAP陽性であるが中心部は弱陽性~陰性のことが多い.EGBはalpha 1-antichymotrypsin,GFAP,S-100,PASに陽性である.

6.分子生物学的所見

約30%の症例で第7,8染色体のchromosomal gainがあると報告されている.diffusely infiltrating astrocytomaに比較してp53の異常が少ない (mutationの頻度が3%)とするもの,逆に高頻度 (同35%)であるとする報告がある.またp53のmutationがなくてもp53蛋白が異常集積している症例が多いとの報告もある.NF1を伴わない孤発例のpilocytic astrocytomaにおけるNF1遺伝子の関与に関しては,何らかの関与を示唆するものと,関係は薄いとするものがある.

7.治療,予後

手術的摘出が原則である.肉眼的に全摘された症例は後療法の必要はなく,10年生存率90~100%と予後良好である.大脳発生例でも嚢胞を伴うものは壁在結節 (mural nodule)を全摘すれば小脳発生例と同様に予後良好である.しかし非全摘出例では2~3年で再発することが多く,再発率は60%以上とされる.非全摘出例に対する放射線照射に関しては,照射により再発率の低下と生存率の向上を認めるとするもの,差がないとするものがある.非全摘出例でも,自然に腫瘍が消退することもあり,自然経過を慎重に見守るべきであるとの意見もある.再発腫瘍でも手術により長期生存が得られることも多い.

pilocytic astrocytomaでは髄膜浸潤がまれでなく,30%の症例にみられるという報告もある.診断時にすでに脊髄播種を認めることがあるが,こうした症例でも組織学的には悪性の所見は認めず,増殖の速度は遅いことが多い.放射線照射例で再発時に髄膜播種を起こすことがあり,照射は慎重にすべきである.pilocytic astrocytomaがanaplastic astrocytomaやglioblastomaに悪性転化することは非常にまれである.Ki-67の陽性率は通常1%程度であり増殖能は低い.悪性度はWHOのgrade Iで,神経膠腫の中では最も予後良好である.