乏突起膠腫
1.概念
組織所見上,ほぼ同じ大きさの円形の核を持ち,細胞体が抜けて明るく見える腫瘍細胞が,ひとつずつ明瞭な細胞膜に囲まれて敷き石状に並び,蜂巣様構造を示す所見が特徴的で,正常のoligodendrogliaと同じ構造を示す集まりからなるとして,1929年にBaileyと Bucyによりoligodendrogliomaと命名された.
2.発生部位
発生部位のほとんどは大脳半球の皮質や髄質で,約半数は前頭葉に発生する.脳幹,小脳半球)や脊髄,髄膜を中心に発生したものなどの報告もある.
3.頻度,年齢,性別
脳腫瘍全国集計(2003)では,原発性脳腫瘍の2.1%で,gliomaの6%を占める.Ludwigらの323例の報告によると発症年齢は30歳代から60歳代にピークがある.性別では,男性に多く、2:1で男性優位,男性は女性の1.4倍,1.6倍との報告がある.
4.症状
通常長い経過をたどる臨床症状があり,腫瘍が発見される.最近では,平均1年以内に腫瘍が診断されている.最も多い症状は,頭痛とけいれん発作である.けいれん発作は前頭葉に腫瘍の主座があれば,全身性発作か,部分発作が主であり,側頭葉に位置すれば,幻覚や自動症などの精神運動発作が多い.この腫瘍は大脳皮質に浸潤することが多いので,けいれん発作が起きやすい.そのほか,悪心・嘔吐,片麻痺,運動失調,痴呆を含む精神症状,視力障害などの症状がある.
5.神経放射線学的所見
腫瘍は石灰化や嚢胞を伴うことが多く,CTで石灰化,嚢胞が見られる.CTでは,腫瘍は造影されないことが多い.MRIでは,T1強調像は低信号か等~高信号で,T2強調画像では高信号である.MRIでは点状かレース状に造影されることが多い.腫瘍が悪性化すれば,壊死を伴いリング状に造影されたり,出血もみられる.しかし,これらの画像所見は他の神経膠腫と鑑別できる特徴的所見ではない.
6.病理所見
1)肉眼所見
腫瘍は皮質と髄質に発生し,びまん性に発育するが,時には境界明瞭に限局して発育する.桃白色で軟らかく,ゼラチン様,砂状,黄色い嚢胞液を含むことがある.腫瘍はときに脳表に茸状に発育し,播種状に髄膜腔に拡がる.悪性傾向を示す腫瘍では出血や壊死組織が混在し,多彩な性状を呈する.
2)組織所見
最も特徴的な組織像は,ほぼ一定の大きさの丸い核を持ち,細胞質が明るく抜けて細胞膜の明瞭な細胞が,タイルを敷き詰めた様に配列している像である.この組織像の細胞質の抜けた部分は人工産物であり,凍結切片ではこの特徴的な組織像を見い出すことはできない.細胞は小型のものや大型のもの,microgemistocyteあるいはminigemistocyteと言われる偏在した核とガラス様で微細線維状の細胞質を有するもの,astrocytomaに移行する部分など様々である.悪性傾向を示す乏突起膠腫では,核分裂像や壊死像,血管形成細胞の増生などが顕著になる.とくに再発例では腫瘍細胞は多彩な像を示し,悪性神経膠腫や膠芽腫に近似してくるものが多い.乏突起膠腫の免疫染色で最も問題となるのは,正常のoligodendrocyteに存在するマーカーが,腫瘍化したoligodendrocyte にはほとんど染色されず,astrocyteのマーカーであるGFAPや神経細胞のマーカーであるneurofilamentやsynaptophisinなどのほうが良く染色されるという点である.
7.分子生物学的所見
1pおよび19q染色体の欠失が特徴とされ,grade II oligodendrogliomaの60~80%、grade III anaplastic oligodendrogliomaの40~60%に認められる.本所見を有する腫瘍では、放射線療法や化学療法に対する反応性がよく、予後のよい指標とされている.一方、腫瘍抑制遺伝子であるCDKN2A gene (9p21)の欠失、PTEN遺伝子の変異(10q23)、EGFR遺伝子増幅(7p12)がoligodendrogliomaの予後不良因子として報告されている.
8.経過、治療、予後
腫瘍を全摘出できれば,放射線照射の有無にかかわらず5年生存率は約80%であるが,悪性傾向を示す腫瘍では5年生存率は約20~30%である.腫瘍摘出後45Gy以上の放射線を照射すると,摘出のみの例よりも10年生存は2倍以上と、放射線療法の有効性を示す報告がある.1p/19q lossの存在する oligodendroglioma では術後のPCV(procarbazine,CCNU, vincristine)化学療法の有効性が示されてきた. しかし,1p /19q loss のあるanaplastic oligodendrogliomaでは,化学療法や放射線療法の種類に無関係に予後良好であることが,最近の報告で明らかとなり,化学療法として副作用の強いPCV療法からtemozolomide治療を第一選択とする傾向にある.