転移性腫瘍
1.基本事項
中枢神経系組織以外に生じた腫瘍が脳に転移したものであり,原発臓器はさまざまである.すべての悪性腫瘍は脳に転移しうる.脳転移は全身転移の一表現であり,他臓器にも転移を伴っている場合が多いと考えられる.脳実質にはリンパ組織はなく,脳転移は血行性に生じる.近接部位の悪性腫瘍 (副鼻腔,頭蓋骨,頭皮等)が直接脳に浸潤することがあるが,原発巣と連続している場合は通常転移性脳腫瘍には含めない.原発巣の治療から脳転移の診断までの期間は肺癌で約7か月,乳癌では4~5年である.全転移性脳腫瘍の75%は原発巣の発見,治療から2年以内に発生している.
2.発生部位
70~80%がテント上に発生し,特に灌流域の広い中大脳動脈領域に多い.大脳半球の発生が全体の約45%である.前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉の比率は約 3 : 2 : 1 : 1である.テント下では小脳に多く10~15%,まれに脳幹,松果体,脈絡叢にも転移する.髄膜に播種した場合は癌性髄膜炎 (meningitis carcinomatosa, meningeal carcinomatosis, carcinomatous meningitis) と呼ばれる.原発巣の種類によって転移の好発部位が異なる.大脳半球に転移しやすいのは肺癌,腎癌,消化器癌,悪性黒色腫等,髄膜転移は乳癌,肺癌,悪性黒色腫,白血病,消化器癌に多く,硬膜転移は乳癌が最も多い.下垂体への転移はまれであるが乳癌,白血病にみられる.頭蓋骨に転移しやすいのは,乳癌,肺癌,前立腺癌,甲状腺癌などである.
3.頻度,年齢,性別
頭蓋外臓器の悪性腫瘍の剖検例の報告では約25~35%で頭蓋内転移がみられる.脳腫瘍全国集計 (2003)では転移性脳腫瘍は全頭蓋内腫瘍の約16%を占める.頭蓋外臓器の悪性腫瘍の脳転移率は5~13.5%と報告されている.脳腫瘍全国集計には1984~1996年の13年間に転移性脳腫瘍10,976例が登録されている.年齢別頻度は50歳代25%,60歳代33%,70歳代20%で,ピークは55歳~60歳代である.男女比は1.63:1で男性に多い.原発巣は肺癌52%,消化器癌 (胃,腸,直腸)15%,乳癌9%,尿路系癌6%,頭頚部癌4%,肝臓癌2%の順である (原発巣不明症例を除いた割合).原発巣不明のものは10%程度である.単発性が全体の61%と多いが,これは全国集計が主に手術を受けた症例を対象としているためと考えられる.転移性脳腫瘍患者全ての統計では,初発時に単発性の症例は約20%とされる.
4.症状
約半数の症例で頭蓋内圧亢進症状がみられる.転移した部位に一致した巣症状やけいれんも多い.精神症状も20~30%にみられる.出血を起こしやすい転移性脳腫瘍の原発巣として絨毛癌,悪性黒色腫,腎癌などがある.
5.神経放射線学的所見
1) CT
低~等吸収域を呈し,均一またはリング状に強く造影される.脳浮腫は病変の大きさに比して強いことが多いが,ほとんどみられない症例もある.消化器癌,乳癌,前立腺癌,子宮癌等は単発性が多く,肺癌,悪性黒色腫,原発不明では多発性が多い.
2) MRI
T1強調像で低信号を示し,不規則リング状に強く造影されることが最も多い.脳浮腫はT2強調像で高信号となる.硬膜や骨への転移もCTに比して明瞭に描出される.癌性髄膜炎の場合は脳表,クモ膜下腔,脳室壁が広範囲に造影され,脳室拡大がみられることがある.
6.病理所見
1) 肉眼所見
腫瘍塊を形成している場合は腫瘍と脳との境界は通常鮮明である.色調は灰白色,黄色調,赤色調等さまざまである.melanotic melanomaは黒色である.嚢胞,壊死,出血を伴うことも多い.腫瘍細胞は腫瘍塊の周辺部分に多くみられ,中心部が壊死となっている場合が多い.大脳では白質と灰白質の境界部分より発生することが多い.
2)組織所見
原発巣の組織に酷似する.核の異型性や細胞の大小不同が目立ち,核分裂像も通常多い.壊死巣が高率にみられしばしば広範囲である.壊死部でも血管周囲に腫瘍細胞が残存していることが多い.腫瘍内や腫瘍周辺の脳に微小血管増生 (microvascular proliferation)がみられることがあるが,膠芽腫ほど顕著なものではない.免疫染色の所見は原発巣に準ずる.Ki-67の陽性率は原発巣より高いことが多い.
7.血清腫瘍マーカー
脳転移に特異的な血清の腫瘍マーカーはない.通常原発巣を反映したもので,代表的なものとしてCEA (大腸癌,肺癌,乳癌など腺癌),SCC (扁平上皮癌),CA19-9 (膵臓癌など消化器癌),CK-20 (大腸癌他),AFP (肝臓癌),PSA (前立腺癌)などがある.原発巣のコントロールが良いにもかかわらず,これらのマーカーが上昇した場合は脳を含めた転移性の病変を疑う.
8.治療,予後
1) 手術療法
転移巣が単発性で全身状態良好,また原発巣が十分にコントロールされている場合が手術適応とされている.最近では,多発性でも摘出により症状の著しい改善や苦痛の緩和が期待される場合は手術適応とされる.
2) 放射線照射
肉眼的に全摘出しても腫瘍細胞は残存していることが多く,局所再発はほとんど免れない.このため可能な症例では,術後30~50Gyの外照射が行なわれてきた.最近では定位放射線照射(SRS) (辺縁線量15~20Gy)がboost,あるいは単独でも延命効果があると報告されている.SRSは多発性や深部腫瘍にも試みられているが,通常直径3cm以下が適応である.しかし,多発性脳転移,癌性髄膜炎の場合は,放射線照射を行なっても平均余命は3~6か月である.
3) 化学療法
原発巣に感受性のある薬剤が使用されることがある.悪性黒色腫にinterferon-beta,腎細胞癌にinterferon-alpha,扁平上皮癌にbleomycin,悪性リンパ腫にmethotrexateなどである.
4) 保存的療法
頭蓋内圧亢進や脳浮腫に対し頭蓋内圧降下剤 (マンニトール,グリセオール),ステロイドを投与する.けいれんの予防に抗けいれん薬の投与を行う.
予後良好の因子として若年者,全身状態良好などがあげられ,膠芽腫の場合と同様である.その他,放射線や化学療法に対する感受性,原発巣のコントロール,脳以外の臓器への転移巣の有無と状態 (部位,大きさ,数)などが予後に影響する.また原発巣によっても予後が異なる.脳転移後の2年生存率は頭頚部癌で43%と最も高く,次いで子宮癌32%,腎癌・乳癌31%,肺癌21%,胃・大腸癌15%である.相対生存率は1980年代の統計に比して1991~96年では20%程度改善している.これはCTやMRIにより原発巣の評価が容易になり,また転移巣の早期発見,早期治療が可能となったことが大きな要因と考えられる.