髄膜腫
1 基本事項
髄膜腫は,正常クモ膜顆粒を構成するクモ膜細(meningothelial cells)から発生すると考えられている.腫瘍は硬膜に付着し,ゆっくり発育する,ほとんどが良性の脳脊髄腫瘍である.この腫瘍は,成人に発育することがほとんどで,女性に多い.この腫瘍の悪性度は,WHO分類のgrade Iであるが,少数のものはgrade II ~ IIIに相当する.
2 発生頻度
髄膜腫は,原発性脳腫瘍の約1/4を占め,原発性脳腫瘍のうちで最も多い腫瘍である.最近では,CTやMRIの普及により,無症候性髄膜腫が発見される頻度が増加している.多発性髄膜腫はneurofibromatosis 2 (NF2)の患者に頻度が高く,またNF2以外の髄膜腫多発家系も存在する.悪性傾向を示すatypical meningioma (WHO grade II)は髄膜腫の4.7~7.2%,anaplastic (malignat) meningioma(WHO grade III) は1.0~2.8%を占める.
3 年齢、性別
髄膜腫は中年,高齢者に好発し,50~70歳代に発生のピークがある.若年者の髄膜腫は発育速度が速い傾向にある.性別では,女性が男性の約2倍の頻度であり,特に脊椎管に発生する髄膜腫は女性が10倍である.一方,NF2での髄膜腫の発生は男女同数である.悪性傾向を示す髄膜腫では,男性が優位である.
4 発生部位
ほとんどの髄膜腫は,頭蓋内か脊椎管内に発生する.頭蓋内では,大脳鎌に接する部位やその付近の円蓋部に発生する.頭蓋底部にも多く,前方から嗅窩部,トルコ鞍部,蝶形骨縁部や斜台,錐体骨,小脳テント,後頭蓋窩の大孔付近に好発する.硬膜に接しない脳室内やシルビウス裂内,脳内にも孤立して発生することがある.稀には,硬膜外や硬膜に接しない異所性髄膜腫として頭蓋骨や頭皮下に限局して発生する.さらに,頚部以下では,皮下組織,肺,手指,縦隔,後腹膜などにも発生することがある.脊椎管内では,頚椎や胸椎の前側方に多く,骨には浸潤することが無い.神経根部の髄膜細胞が集合している部位から発生し,石灰化した腫瘍が多い.
5 臨床症状
髄膜腫の成長は年余にわたるので,臨床症状は徐々に出現する.一方,悪性髄膜腫は臨床経過が早い.円蓋部であれば,局所神経症状を出す前に頭痛やけいれん発作で発見されることが多い.頭蓋底であれば,最初に腫瘍付近の脳神経の圧迫症状が出現し発見されることが多い.腫瘍が大きくなれば,頭蓋内圧亢進症状が出現する.最近では,軽度の頭痛や腫瘍と無関係の神経症状が出現して画像診断を行うことが多く,無症候性髄膜腫と判断されるものが多くなった.
6 画像診断
頭蓋単純撮影で,腫瘍付着部位の骨過形成や骨融解,石灰化などがみられる.CTで,腫瘍は一般に単純で脳と等吸収度であり,造影効果を認めることが多い.CTでは,腫瘍内の石灰化,腫瘍付着部の骨病変,嚢胞や出血などが把握できる.3D-CTでは,腫瘍と血管,周囲の頭蓋骨の関係が立体的に把握できる.MRIでは,T1強調画像で腫瘍は脳と低~等信号で,均一に造影されることが多い.造影MRIで,腫瘍付着部の辺縁の硬膜に尾が付いたように見える部位(dural tail sign)を認める.T2強調像で高信号の腫瘍は軟らかく,低信号の腫瘍は硬い傾向がある. 髄膜腫の血管撮影像は特徴的で,外頚動脈系からの供給血管が腫瘍付着部より腫瘍陰影を形成し,sunburst appearance を示す.腫瘍が大きくなると,内頚動脈系からも栄養される.
7 病理所見
1) 肉眼所見
髄膜腫の多くのものは硬膜を底面とする半球状の限局性増殖を示す.腫瘍の表面が平滑なものや多結節状のものが多い.腫瘍の色彩は肉色(赤~白),桃白色や黄白色である.腫瘍の硬度は様々で,軟らかく容易に吸引できるものから,腫瘍内に索状の線維が錯綜したり,組織全体がゴム状や線維状で硬さが増し,さらに砂状に硬いもの(psammomatous meningioma)まである.一方,スポンジ状で多くの水分を含むもの(microcystic meningioma),血管に富みゴム状のもの(angiomatous meningioma)などもある.腫瘍が小さければ脳との境界は明瞭であるが,直径数cm以上の腫瘍では,脳との境界が不明瞭な部分もある.腫瘍が脳の主幹動脈を巻き込んで発育することもある.また,腫瘍が頭蓋骨や皮膚,眼窩にも浸潤することがある.頭蓋底の蝶形骨縁などで平面状に発育する場合(meningioma en plaque)には,骨肥厚や骨浸潤が多い.悪性傾向を示す腫瘍では,腫瘍が脳表に浸潤する様に広がって発育し脳との境界が不明瞭のこともある.一般的に,悪性傾向を示す腫瘍は大きなものが多い.
2) 組織所見
髄膜腫の組織像は、多彩である。歴史的には、Cushung とEisenhardtによる9型22亜型の分類,Bailey とBucyによる9型の分類が有名であり,その後,髄膜腫の組織分類に関し多くの議論がなされてきた.しかし,組織型の場所による特徴はなく,一部を除いて生物学的差異もなく,多くはmeningothelial type,fibrous typeおよび両者の mixed typeに分類される.これらの純粋な組織型は少なく,3亜型が混在するものが多い.ほとんどの髄膜腫細胞の核や細胞体は,良性腫瘍としての性格を供えており,classic typeとして分類されるが,その他にatypical typeやanaplastic (malignant) typeを分類することは,臨床的に重要である.WHO分類では,良性の髄膜腫11亜型と悪性の髄膜腫4亜型の計15亜型が提唱されている.以下、主な3タイプについて述べる。
- i. Meningothelial meningioma(髄膜皮性髄膜腫)
- 基本的な髄膜腫の組織像の一つで、正常のくも膜顆粒に類似している.数十~数百個の腫瘍細胞群は線維性結合組織により区画され小葉を形成する.この型では,合胞体形成は良く見られるが,渦状紋(whorl)形成や砂粒体 (psammoma body)はあまり出現しない.腫瘍細胞の核は円形,楕円形であり,時に中心が明るく抜けて見える.細胞体はエオジンに淡く染まり,細胞境界は不明瞭である.
- ii. Fibrous(fibroblastic) meningioma(線維性、線維形成性髄膜腫)
- 線維芽細胞に類似した紡錘形の細胞が柵状に配列している組織像を示し,基本的な髄膜腫の一つである.腫瘍細胞の核は楕円形で,神経鞘腫によく観察される濃いクロマチンを持ち奇怪な形をした核は少ない.腫瘍細胞間には膠原線維や好銀線維の発達があり,時に弾力線維成分が顕著な場合もある.神経鞘腫では膠原線維の発達がわずかであり,膠原線維染色か好銀線維染色やマッソン染色で両者を鑑別できる.渦状紋形成や砂粒体形成は少ない.
- iii. Transitional(mixed) meningioma(移行性、混合性髄膜腫)
- 髄膜腫の65%を占める.この型では、渦状紋形成が顕著なものがあり,髄膜腫の真の姿を形成している.渦状紋の中心には、時に砂粒体を形成する.また,髄膜皮腫型と線維形成性髄膜腫の両者の組織像を兼ね備えているものが多く,小葉構造や柵状構造が混在して腫瘍を形成している.
免疫染色では,髄膜腫細胞は中胚葉系細胞と内胚葉系細胞の両者の性格を同時に保有しているため,多くの細胞はビメンチンとEMAに陽性で,診断の一助となる.EMAはほとんどの髄膜腫細胞の細胞膜や細胞体と突起に陽性であるが,悪性傾向を示す髄膜腫細胞では陽性率が低い.また,多くの髄膜腫細胞はNSEやS-100蛋白に陽性であるが,非特異的である.電顕上,髄膜腫細胞は,クモ膜細胞を模倣した超微細構造を有している.腫瘍細胞突起が多数突出し,隣接する突起 とお互いに手の指を重ね合せた様に咬合している(interdigitation).細胞間接着装置の発達がよく,明瞭なdesmosome構造から未発達の接着装置まで観察できる.これらの電顕所見は髄膜腫のいかなる組織型にも共通なので,一枚の電顕写真で髄膜腫と診断できる.
8 分子生物学的所見
第22染色体長腕上のNF2遺伝子に変異があるNF2患者の多くに髄膜腫が発生する.また,NF2患者以外の髄膜腫では60%にNF2遺伝子異常が見い出されている.組織型では,線維形成性や混合性髄膜腫の70〜80%,髄膜皮腫型では25%にNF2遺伝子変異がある.NF2遺伝子の変異に関与しない髄膜腫の家族発生も報告されており,この家系では髄膜皮腫性髄膜腫の発生が多い.退形成型や悪性型髄膜腫でのNF2遺伝子変異は70%程度であり,良性との差は無く,NF2遺伝子異常は悪性化には関与していないものと推測されている.その他の染色体異常として1p,6q,9q,10q,14q,17q,18qの欠損が確認されている.悪性傾向を示す髄膜腫では,6q,9q,10q,14qの欠損,1q,9q,12q,17q,20qの染色体の獲得が報告されている.anaplastic meningiomaの遺伝子異常では,9p21の欠損,17q22-q23の増幅が報告されている.
9 治療、予後
髄膜腫は外科的な摘出率が高いほどその後の再発率が低いため,神経脱落症状を残さない程度に腫瘍をできるだけ摘出することが大切である.最近では,腫瘍摘出が困難な部位や不完全な摘出部位には,ガンマナイフやライナックによる定位放射線治療(SRS)が有効であることが報告されている.髄膜腫が組織学的に悪性の場合には,腫瘍を肉眼的に全摘出しても再発は免れない.再発率は良性髄膜腫で20%以下,異型性は30~40%,悪性は50~80%である.悪性髄膜腫の平均生存は約1年半である.再発予測はKi-67/MIB-1陽性率が最も信頼できる指標であり,その値が3%以上で,残存腫瘍があれば,再発の危険が高く,再発予防にSRSを行った方が良いと考えられる.