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髄芽腫

1.基本事項,発生母地

小脳虫部に発生する増殖能の高い悪性腫瘍(WHO grade IV)であり,ほとんどが小児期に発症する.浸潤能が高く,早期に髄液播腫をきたしやすい.medulloblastomaという名称は,Bailey & Cushingらにより,発生途上に神経,グリアの双方へ分化能を持つ細胞"medulloblast"が想定され命名された.しかし,medulloblastは概念上の細胞であり,発生学的に観察される細胞ではない.medulloblastomaの細胞の由来に関してはいまだ多くの議論があるが,多分化能とくに神経系への分化能を有する幹細胞にその起源を求める考えが有力である.

2.発生部位

小児で発見されるmedulloblastomaのほとんどは,小脳虫部,後髄帆に付着し発育する. 1/3が小脳虫部のみに存在し,1/3が脳幹浸潤,1/3が小脳虫部に加え小脳半球への進展がある.小脳半球に限局して存在するものは数%である.発生年齢が高くなるに従い,小脳半球に多くなる傾向にあり,成人例の 50~60%は小脳半球に発生する.

3.頻度,年齢,性別

本邦では原発性脳腫瘍の1.1%,小児脳腫瘍の11.9%を占める。発症年齢は14歳以下が90.8%であり、5~9歳にピークがある.先天例はまれである.本邦では年間70~80例の報告がある.2:1で男児に多い.成人でも男性にやや多く(65%),20歳~40歳代までの発症例が多い.

4.症状

体幹の運動失調を認めることが多い.早期に閉塞性水頭症をきたす.小児144例の報告では,65%に頭痛,76%にうっ血乳頭,62%に体幹失調,35%に四肢失調,44%に眼振がみられた.幼少児では頭囲拡大で発見されることもある.

5.神経放射線学的所見

頭部単純写真で縫合離開がみられることがある.単純CTでは腫瘍は等~高吸収域を示し,一様に強く造影される.腫瘍がブドウの房状 (grape-like)に結節状に増殖している所見も特徴的である.嚢胞形成もしばしばみられ,上衣腫との鑑別が問題となる.MRIでは,T1強調像で腫瘍は低信号を示すことが多く,造影剤により増強される.T2強調像では高信号を呈する.成人例では小脳半球に多く、外側に大きく進展した場合,髄膜腫や神経鞘腫との鑑別が難しい場合がある.脳血管撮影では,通常,腫瘍陰影は認めない.

6.病理所見

1)肉眼所見

境界明瞭な部分と不明瞭な部位があり,髄様で軟らかく,通常,出血や石灰化などは認めない.第4脳室内に充満し,Luscha孔から大槽に進展する傾向にある.浸潤性の腫瘍であり,クモ膜に"sugar coating"あるいは"icing"と形容される腫瘍浸潤像をみる.小脳半球に生じた症例では,組織亜型が異なることもあり,境界は比較的明瞭であるといわれる。

2)組織所見

小型類円形の細胞質に乏しい細胞が密に増殖し,特定の構造をとらない未分化な小型細胞の増生が基本所見である.HE標本では核がきわだっており,腫瘍細胞はcell to cellに密集し,blue tumorと呼ばれる.全症例の80%以上がこの型であり,classic medulloblastomaと分類されている.核が丸く細胞質を欠き,リンパ球様にみえる腫瘍細胞が密に増生しているものや,淡いクロマチンを持った楕円形の大きな核に,明瞭な核小体を有する細胞が増生するものなどが代表的な所見である.核分裂像は多く,全細胞の0.5~2%にみられる.腫瘍細胞が一列に並ぶ傾向やrhythmic palisading,Homer Wright rosette (neuroblastic rosette)もしばしば観察される(症例の40%程度).腫瘍血管は目立たず,一層の薄い血管内皮に裏打ちされたsinusoid様の外観を呈している.以上が基本的な medulloblastoma の病理所見であるが,多機能の未分化な細胞であるため,軟骨,脂肪組織や横紋筋への分化がみられたとの報告もある.腫瘍細胞は多分化能を有しており,免疫染色で示される腫瘍細胞の蛋白発現は多彩である.本腫瘍はとくに神経細胞への分化がみられることが多い.すなわち神経系マーカーとしてのneurofilament,synaptophysinが陽性となる.特に synaptophysinは大多数の症例で陽性で,Homer Wright rosetteを形成する細胞がよく染色される.その他の神経系マーカーとしてclass III beta-tubulin やchromogranin Aも陽性である.intermediate filamentではGFAPの陽性率が高く,vimentinも陽性である.横紋筋への分化を示唆するdesminも陽性となる.このようなintermediate filamentは様々な組み合わせで発現している.NCAM (neuronal cell adhesion molecule)やnerve growth factor (NGF), brain-derived neurotrophic factor (BDNF), NT-3、retinal S-antigenなど神経系に特有の蛋白が陽性である.Ki-67の陽性率は高く,通常、20%以上である.

7.分子生物学的所見

本腫瘍の原因遺伝子は特定されていない.最も多い遺伝子異常はisochromosome 17qであり,30~40%の症例でみられるという.17番遺伝子短腕の欠失やmonosomyなど17番染色体の遺伝子異常の頻度が高く,癌抑制遺伝子p53(17p13.1)の関与について精力的に検討された.特に,Li-Fraumeni syndrome (p53のgerm line mutation)にもmedulloblastomaが発生することより注目されたが,変異型p53は全症例の5~10%にしか認められない.10qにもLOHを認め,この部位に存在するPTEN遺伝子異常やDMBT1(deleted in malignant brain tumors 1)が検討されたが,ごく少数例で関与が認められたにすぎず,腫瘍発生における役割は明らかでない.他に、PTCH,APC,Axin遺伝子などの異常が指摘されている.

8.治療,転移, 予後

まず手術により可及的に摘出するが,脳幹部に浸潤している部分は残さざるを得ない.通常,術後に全脳・全脊髄照射と化学療法を行う.予後を論じる上で標準リスク群と高リスク群に分ける.標準リスク群は,①3才以上,②術後残存腫瘍が1.5cm2以下,③転移(播腫)がない,という3つの条件を満たすものをいう.その要件を満たさないものを高リスク群とする.全国脳腫瘍集計における全髄芽腫の2年生存率は67%,5年生存率は42%である.米国では化学療法として,cisplatin, vincristine, cyclophosphamide (あるいはlomustine(CCNU))の使用が標準となっており,同治療で標準5年間無病生存率が81%という好成績が報告されている.本邦ではcisplatin, etoposide, ifosfamideを併用するSawamuraらの方法 (ICE療法)に準じる場合が多い.

予後因子に関してはさまざまな報告がある.全摘出,亜全摘出された症例の方が生検や部分摘出に比して予後が良い(5年生存率44%対25%).診断時の年齢では,6歳以上は予後が良いが,4歳以下の予後は不良である.組織学的にはlarge cell medulloblastomaは転移しやすく、予後不良である.異型性の顕著なanaplastic medulloblastomaも予後が悪いとされている.desmoplastic medulloblastomaは予後がよいというものもあるが,そうではないとの報告もある.medulloblastoma with extensive nodularityは予後が良いとの報告がある.摘出標本での分裂像の数,壊死の有無,核異型,aneuploidity,Ki-67陽性率等と予後との関係が個別に検討されているが,報告により結論が異なる.neuroblastomaで多く見られるMYC遺伝子の増幅は,medulloblastomaの20%程度の症例で認められ,増幅例では悪性度が高いという.beta-catenin が核に陽性になる症例は予後が良いとの報告や17p、isochromosome 17q,ErbB2の過剰発現が予後不良などさまざまな因子が検討されている。

10~35%の症例では診断時に髄膜播種を認める.播種巣は胸髄背側に多く,テント上,前頭葉下面にも好発する.血行性転移やシャントを介した転移もあり,骨(82%),リンパ節(65%),肝(28%),肺(12%)の頻度が高い.骨転移巣のみられる 症例の60%は骨増殖性であり骨盤,大腿骨,椎体骨に多い.転移がある症例の予後は不良で,1年以上の生存は困難である.髄芽腫は基本的にCollinsの法則に従う.すなわち,診断年齢+9カ月(胎児期間)を加えた期間再発しなければ治癒とみなすという考えである.