悪性リンパ腫
1.概念と歴史
中枢神経系に発生する悪性リンパ腫は,①中枢神経系原発(primary central nervous system lymphoma, PCNSL)のものと,②転移や浸潤によって二次的に中枢神経系に生じたものがある.以下、主にPCNSLについて記載する.PCNSLは1929年にBaileyが“perithelial sarcoma”として初めて報告したが,当初は肉腫と考えられていた.その後Russell (1948年)は“microgliomatosis”と呼び,Rubinstein (1972年)は鍍銀染色に染まることから“reticulum cell sarcoma-microglioma”という名称を提唱した.最終的に腫瘍マーカーの免疫組織化学的検索等により,Henryらによってmalignant lymphoma of the central nervous systemであることが確立されたが,それまでに他にも多くの名称が用いられてきた.
AIDSなどの免疫不全患者から発生するPCNSLは,Epstein-Bar virus (EBウイルス)感染症が関与しているが,日本で多い免疫異常のないPCNSLではEBウイルス感染の関与はないとされる.中枢神経系にはリンパ組織は存在せず,PCNSLが脳固有の細胞から発生したものか脳外から生じたものかは現在のところ不明である.発生に関しては以下の諸説がある.①リンパ腫細胞が脳外で発生し,何らかの機序で脳の血管内皮に対して特異的な抗体や接着因子などを獲得し,脳血管内皮に接着して脳血管外に浸潤増殖した,②ウイルス感染などの炎症によって脳内に侵入した反応性のリンパ球(polyclonal lymphocytes)が腫瘍細胞(monoclonal neoplasm)に進展していった,③リンパ腫細胞が脳以外の体内では免疫学的に排除されたが脳内だけには排除されずに増殖した,などである.
2.分類
悪性リンパ腫はHodgkin病とnon-Hodgkin病に大別されるが,PCNSLのほとんどはnon-Hodgkin病である.non-Hodgkin病の分類としては,Rappaport分類,LSG (Lymphoma-Leukemia study group, 1979)分類,International Working Formulation分類,Kiel分類などがある.以前は,日本ではLSG分類,米国ではInternational Working Formulation,米国以外ではKiel 分類が主に用いられていたが,現在は2001年に新WHO分類が提唱され,これに準じることが多い.この分類ではリンパ腫をまずB cell typeとT cell typeに大別し,さらにそれぞれをprecursorとperipheral (mature)に分け,他の情報を加えて細分類している.PCNSLはびまん性大細胞型 (diffuse large cell type)が多いが,大細胞型を詳しく分類したものはなく,また,現在使われている分類は生物学的および臨床的な悪性度に関連がないとの報告も多く,予後を考慮した適当なPCNSLの分類がないのが現状である.
3.発生部位
PCNSLは脳実質内病変が多く,約60%がテント上で,前頭葉(15%),基底核/脳室周囲 (10%),側頭葉(8%),頭頂葉(7%),脳梁(5%),後頭葉(3%)に発生する.テント下では小脳に好発し,脳幹部,脊髄にはまれである.多発性の頻度は25~50%であるが,AIDS患者や臓器移植患者に発生した場合は60~85%が多発性である.PCNSLの30~40%に髄膜浸潤が認められるが,primary leptomeningeal lymphomaの頻度は8%以下である.primary dural and epidural lymphomaはさらにまれである.遠隔転移が6~10%に認められる.PCNSLのなかには剖検で内臓に病変を認めるものもあるが,神経症状以外の症状を呈するまでの十分な大きさとなることはまれである.secondary CNS malignant lymphomaは髄膜に生じることが多いとされる.
4.頻度,年齢,性別
脳腫瘍全国集計では,1969~1983年には脳腫瘍全体の1.1%,1984~1990年2.4%,1991~1996年3.4%と増加傾向にある.男女比は3:2で男性に多い.好発年齢は男女とも50歳から70歳代で,60歳代にピークがある.1991~1996年の登録データからは,日本で年間100万人に1~2人程度の発生頻度となるが,実際はさらに多いと考えられる.AIDS患者では1000人に4.7人と報告されており,これは一般人口比率の約3,600倍である.
5.症状
特徴的な症状はないが,50~80%に局所脳症状,20~30%に精神症状,10~30%に頭蓋内圧亢進症状,5~20%にけいれん発作がみられる.眼病変として,5~20%にぶどう膜炎や硝子体病変を認める.
6.神経放射線学的所見
1)CT
等~高吸収域の単発性または多発性腫瘤として認められる.充実性で,一様に造影されることが多い.嚢胞形成や造影効果のないものはまれである.上衣下に発生したものでは周囲が不明瞭で不均一に造影されることもある.腫瘍周囲浮腫は膠芽腫や転移性脳腫瘍よりも軽度であることが多い.AIDSに合併したリンパ腫では中心部に壊死を認めることがあり,リング状に造影されることがある.
2)MRI
T1強調像で等~高信号域,T2強調像で低~高信号域を呈し,造影剤で一様に増強されることが多い.拡散強調画像にて,細胞密度が高いことを反映し、高信号を呈するため、膠芽腫や転移性脳腫瘍との鑑別に有用である.
3)その他
IMP-SPECTが有用であり,delayed imageでIMPの取り込みが認められる.FDG-PETや201Tl-SPECTで集積が認められ,多発性硬化症やトキソプラズマや真菌などの非腫瘍性病変との鑑別に有用である. 7.病理所見 1)肉眼所見:一般に軟らかく,灰色から黄褐色を呈し,周囲との境界は不明瞭で,悪性グリオーマ様の所見を呈する.なかには固く境界明瞭で転移性脳腫瘍に類似するものもあるが,肉眼的に腫瘍の広がりや血管周囲浸潤を評価することはほとんど不可能である.髄膜発生では乳白色で髄膜炎様に浸潤性に発育したり,あるいは髄膜腫様に塊状に発育するもの,時に肉眼的には正常にみえるものもある. 2)組織所見:PCNSLは脳実質や血管周囲 (Virchow-Robin腔)に浸潤してびまん性に増殖する.低倍率で腫瘍細胞は脳内に散在性に増殖し,境界は不明瞭で,血管周囲に細胞が集積する傾向がある.腫瘍細胞は大型で小胞状のクロマチンを有し,明瞭な核小体を有する円形あるいは腎臓形の核をもった比較的大型の細胞からなり,PCNSLの浸潤にともなった反応性のリンパ球や組織球などの細胞とは識別可能である.しかし一部のPCNSLでは小型の正常リンパ球様あるいは形質細胞様に分化したものもあり,正常リンパ球との識別が困難なことがある.一般に低分化型で核分裂像も多く,腫瘍細胞は血管周囲に沿って浸潤し,血管炎に類似した形態を示す.しかし悪性神経膠腫や膠芽腫にみられるような血管増生 (vascular proliferation)を来すことは少ない.小さな壊死巣は認められるが,典型的なpseudopalisadingはほとんどみられない.gliomaと同様に脳実質に浸潤するが,小胞状のクロマチンを有する核をもった細胞は中枢神経内では異質でリンパ腫細胞と判別できる.PCNSLは大細胞性でびまん性に増殖することが多く,low gradeである小細胞型,濾胞型は少ない.放射線療法やステロイド投与によって腫瘍細胞が形態学的にも変化を来し,診断を難しくすることがあるので注意する.PCNSLの特殊型として,Epstein-Barrウイルス (EB virus)に関連したNK/T細胞リンパ腫,ATLV (またはHTLV-1)陽性のadult T cell lymphoma,PRAD1遺伝子またはサイクリンD1と関係するマントル細胞リンパ腫,Ki-1 (CD30)が陽性な未分化大細胞リンパ腫 (anaplastic large cell lymphoma, ALCL)がある.免疫染色によるLeukocyte common antigen (LCA)の有無が悪性リンパ腫とglioma,転移性腫瘍との鑑別に有用である.しかし,一部の悪性リンパ腫ではLCA陰性である.Ki-1 lymphomaはLCA陰性,EMAが陽性であり,癌の転移と間違わないように注意する.またLCA陽性だけでは腫瘍細胞か反応性リンパ球であるかの鑑別は不可能である.現在,便宜的にB cell type,T cell typeおよびNK cell typeに分けることが多いが,これらはそれぞれのマーカーを免疫組織化学的に検索することによって決定される.B cellマーカーとしてはCD20,CD5,CD10,T cellマーカーとしてCD2, CD3, CD4, CD5, CD8,NK cellマーカーとしてCD16, CD56, CD57,T cellおよびNK cellマーカーとしてCD45RO,CD43などが用いられている.
7.病理所見
1)肉眼所見
一般に軟らかく,灰色から黄褐色を呈し,周囲との境界は不明瞭で,悪性グリオーマ様の所見を呈する.なかには固く境界明瞭で転移性脳腫瘍に類似するものもあるが,肉眼的に腫瘍の広がりや血管周囲浸潤を評価することはほとんど不可能である.髄膜発生では乳白色で髄膜炎様に浸潤性に発育したり,あるいは髄膜腫様に塊状に発育するもの,時に肉眼的には正常にみえるものもある.
2)組織所見
PCNSLは脳実質や血管周囲 (Virchow-Robin腔)に浸潤してびまん性に増殖する.低倍率で腫瘍細胞は脳内に散在性に増殖し,境界は不明瞭で,血管周囲に細胞が集積する傾向がある.腫瘍細胞は大型で小胞状のクロマチンを有し,明瞭な核小体を有する円形あるいは腎臓形の核をもった比較的大型の細胞からなり,PCNSLの浸潤にともなった反応性のリンパ球や組織球などの細胞とは識別可能である.しかし一部のPCNSLでは小型の正常リンパ球様あるいは形質細胞様に分化したものもあり,正常リンパ球との識別が困難なことがある.一般に低分化型で核分裂像も多く,腫瘍細胞は血管周囲に沿って浸潤し,血管炎に類似した形態を示す.しかし悪性神経膠腫や膠芽腫にみられるような血管増生 (vascular proliferation)を来すことは少ない.小さな壊死巣は認められるが,典型的なpseudopalisadingはほとんどみられない.gliomaと同様に脳実質に浸潤するが,小胞状のクロマチンを有する核をもった細胞は中枢神経内では異質でリンパ腫細胞と判別できる.PCNSLは大細胞性でびまん性に増殖することが多く,low gradeである小細胞型,濾胞型は少ない.放射線療法やステロイド投与によって腫瘍細胞が形態学的にも変化を来し,診断を難しくすることがあるので注意する.PCNSLの特殊型として,Epstein-Barrウイルス (EB virus)に関連したNK/T細胞リンパ腫,ATLV (またはHTLV-1)陽性のadult T cell lymphoma,PRAD1遺伝子またはサイクリンD1と関係するマントル細胞リンパ腫,Ki-1 (CD30)が陽性な未分化大細胞リンパ腫 (anaplastic large cell lymphoma, ALCL)がある.免疫染色によるLeukocyte common antigen (LCA)の有無が悪性リンパ腫とglioma,転移性腫瘍との鑑別に有用である.しかし,一部の悪性リンパ腫ではLCA陰性である.Ki-1 lymphomaはLCA陰性,EMAが陽性であり,癌の転移と間違わないように注意する.またLCA陽性だけでは腫瘍細胞か反応性リンパ球であるかの鑑別は不可能である.現在,便宜的にB cell type,T cell typeおよびNK cell typeに分けることが多いが,これらはそれぞれのマーカーを免疫組織化学的に検索することによって決定される.B cellマーカーとしてはCD20,CD5,CD10,T cellマーカーとしてCD2, CD3, CD4, CD5, CD8,NK cellマーカーとしてCD16, CD56, CD57,T cellおよびNK cellマーカーとしてCD45RO,CD43などが用いられている.
8.分子生物学的所見
p14,CDKN2などの癌抑制遺伝子の不活化や,BCL-6の異常が指摘されている.BCL-6の発現が生存期間延長に関係しているとの報告もある.
9.治療,予後
放射線,ステロイドに感受性が高く,手術は部分摘出か生検にとどめ,化学療法または放射線療法 (全脳50Gy,脊髄20Gy程度)を行う.中枢神経以外のnon-Hodgkin lymphomaではCHOP療法(cyclophosphamide,doxorubicin,vincristin,predonisolone)が有効とされるが,PCNSLではこれらの薬剤は通常量では脳血液関門のために腫瘍内は有効濃度に達しないため,methotrexateの大量療法や髄腔内投与が一般的な治療法として確立してきている.全国集計によれば,1969~1980年には5年生存率が10.2%であったが,1981~1990年では20.7%,1991~1996年では26.1%と改善傾向にある.一般には大細胞型は小細胞型よりも予後が悪く,悪性度が高いと考えられている.