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膠芽腫

1.基本事項

膠芽腫はgliomaの中で最も未分化で臨床的にも最も悪性の腫瘍である.退形成性変化が高度であり,肉眼的にも組織学的にも多彩な形態を示す.Virchow (1863年)によりglia由来の腫瘍であるとの記載がなされ,Mallory (1914年)が初めてglioblastoma multiformeという名称を用いた.その後GlobusとStrauss (1925年)が,急速に増大した未分化な腫瘍をspongioblastoma multiformeと呼称して報告し,glia由来であるとした. この翌年,BaileyとCushing (1926年)が再びglioblastoma multiformeという名称を使用して以来,この用語が定着した.現在では単にglioblastomaと呼ばれることが多い.

初発時より膠芽腫 (WHO grade IV)の像を呈する場合はprimary glioblastoma (de novo glioblastoma),びまん性星細胞腫 (diffuse astrocytoma: grade II)あるいは退形成性星細胞腫 (anaplastic astrocytoma: grade III)が一定期間を経て悪性転化 (malignant progression)した場合secondary glioblastomaと呼ばれる.こうしたsubtypeはScherer (1940年)により既に提唱されていたが,光顕上鑑別できないこともあり,組織学的にも臨床的にも区別されることはほとんどなかった.しかし,遺伝子異常の相違が指摘されて以来注目されるようになった.

膠芽腫の細胞起源に関しては多くの議論がされてきた.以前は分化したastrocyte由来とされていたが,最近ではbipotential precursor cell あるいはneural stem cell由来説が有力視されている.

2.発生部位

成人の大脳半球 (前頭葉,側頭葉,頭頂葉の順に多い)に最も多く,白質深部より発生するとされる.しばしば脳梁を介して対側大脳へ進展する.視床,基底核,脳幹部 (小児に多い),脳梁など深部にも生じる.小脳,脊髄,脳室にもまれに発生する.病変が連続しない2カ所以上に生じることもある (multicentric gliomaまたはmultifocal glioma).

3.頻度,年齢,性別

脳腫瘍全国集計 (2003)によれば,原発性脳腫瘍の9%,全神経膠腫の35%,小児脳腫瘍の3.5%を占める.全年齢層に発生するが,45~70歳代に多い. primary glioblastomaは平均年齢55歳,secondary glioblastomaは30~40歳代に好発する.頻度は前者が80~90%を占めるとされる.男性に多く発生し,男女比は脳腫瘍全国集計で1.44:1,欧米の統計では1.27:1である.

4.神経放射線学的所見

1) CT

単純CTで境界が不鮮明な低吸収域を示し,不規則リング状の造影効果を認めることが多い.

2) MRI

T1強調像では通常低信号域を示し,不規則リング状に造影されることが多い.中心部は壊死または嚢胞であり,造影されない.T2強調像では腫瘍は不規則な高信号域,脳浮腫は高信号域を示す.

3) 血管撮影

しばしば腫瘍陰影を認める.arterio-venous shuntやearly venous fillingがみられることがある.

5.症状

primary glioblastomaでは,数週~数カ月の比較的短い経過で頭痛,嘔吐,人格の変化など頭蓋内圧亢進による症状が進行する.これに加え,運動・知覚障害,脳神経麻痺などの局所症状,けいれん,精神症状等を生じる.嚢胞の増大や腫瘍内出血により,症状の急激な増悪や意識障害をきたすこともまれではない.

6.病理所見

1) 肉眼所見

壊死,新旧の出血,嚢胞が混在した多彩な割面像を呈する.大きな壊死巣を伴うことが多く,時にこれが腫瘍の90%以上を占める.腫瘍は白質の線維に沿って浸潤する傾向にあり,脳梁を介した対側大脳への進展 (butterfly pattern)は特徴的所見である.クモ膜下腔や脳室壁への播種もまれではない.まれに結合組織反応 (膠原線維の増生)を伴い,硬膜に癒着していることもある.こうした反応が強いと,画像上も術中所見でも髄膜腫に類似することもある.

2) 組織所見

腫瘍細胞の密度は高く,多形性を示す.細胞の大小不同や核の異型性が強く,巨細胞を頻繁に認め,核分裂像も多い.微小血管の増生 (microvascular proliferation)が顕著でしばしば腎糸球体様のいわゆるglomerular structureを呈する.pseudopalisadingは膠芽腫に最も特徴的な所見とされ,小壊死巣を取り囲むように細胞が柵状に配列する.また比較的大きな虚血性の壊死がしばしば観察され,凝固壊死 (coagulative necrosis)の像を呈する.この所見はprimary glioblastomaに多く,予後不良の所見とされる.血管周囲にはリンパ球浸潤 (perivascular lymphocytic cuffing)がしばしばみられる.astrocyteへの分化度により免疫染色におけるGFAP反応は様々である.gemistocyteでは強陽性であり,小型の未分化細胞ではGFAPは通常陰性である.クモ膜下腔や脳室に播種している細胞はこうした小型のものが多い.巨細胞のGFAP陽性率は症例により異なる.vimentinは通常陽性である.Ki-67の陽性率は15~20%程度である.

7.分子生物学的所見

膠芽腫は,他の多くの悪性腫瘍と同様,未知の遺伝子も含めて多種類の遺伝子異常の集積によって発生すると考えられている.primary glioblastomaとsecondary glioblastomaでは遺伝子異常のパターンに明らかな違いがある.例えば,primary glioblastoma ではp53のmutationが10~28%程度であるのに対し、secondary glioblastomaでは約70%,逆にEGFRの過剰発現は,primary glioblastomaでは63%,secondary glioblastomaでは10%にみられる。

8.治療

1) 手術療法

摘出率が高いほど生存期間は長くなるので,障害を残さない範囲で最大限の摘出を行なう.脳腫瘍全国集計によれば,生検と50%摘出では生存率の差はないが,それ以上では摘出率が高いほど生存率も有意に高い.しかし,画像による腫瘍の境界より腫瘍細胞はさらに数cmは周囲に浸潤しているとされ,真の意味で全摘出ができることはほとんどない.運動・言語野や脳幹などのeloquent areaの場合は生検や画像診断のみで放射線照射,化学療法がおこなわれることも多い.

2) 放射線療法

通常60Gy程度の全脳および拡大局所照射が行なわれる.組織内照射としては125Iや192Irが使用されている.定位的放射線照射(SRS)も試みられているが,膠芽腫のような浸潤性の高い腫瘍に対しては現在のところ適応症例は少ないと思われる.

3) 化学療法

anaplastic astrocytomaとほぼ同様の薬剤が使用される.特にニトロソウレア系の薬剤は血液脳関門を通過しやすく,また放射線照射との相乗効果も期待できる.投与法に関しては,選択的な動注療法,自家骨髄移植を併用した全身的大量療法なども試みられてきたが,有意な生存期間の延長は得られていない.本邦でも2006年に認可されたtemozolomide (アルキル化剤,内服製剤)は,治療成績向上の期待が高く,また副作用も比較的少ないとされる.

4) BRM療法

interferon-βが代表的なものであり,静脈内投与または局所注入が行なわれている.

5)その他

自殺遺伝子療法、免疫遺伝子療法、腫瘍ワクチン療法,抗体療法,血管新生抑制療法などが研究または臨床応用されつつあるが、その有効性はいまだ明らかでない.

9.予後

膠芽腫はヒトの悪性腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍の一つである.悪性度はWHOのgrade IVである.集学的治療をおこなっても生存期間は12~14カ月程度であり,治療成績はここ30年以上変化がない.予後良好因子としては,①若年者,②治療前の状態が良好,③手術摘出率が高い (特に95%以上の摘出),④放射線照射や化学療法に反応が良い,等が挙げられ,これらは再発例にもあてはまる.手術で95%以上摘出し,かつ放射線・化学療法を行った症例に限ると,1年,5年生存率はそれぞれ74%,13%である.膠芽腫の頭蓋外転移はまれであるが,肺,リンパ節,骨・骨髄,肝の順で頻度が高い.また,硬膜を貫通し,静脈洞や骨へ直接浸潤することもある.