胚細胞腫
1.基本事項
原始(=始原)生殖細胞 (精祖細胞,卵祖細胞)に類似した細胞よりなり,精巣のseminoma (精上皮腫),あるいは卵巣のdysgerminoma (未分化胚細胞腫)と近縁の腫瘍である.以前は松果体部に発生した場合には two cell pattern pinealoma,また視交叉部などの場合はectopic pinealomaと呼ばれていた.しかし“pinealoma”という名称は松果体実質細胞由来の腫瘍にも使われたため混乱が生じた.現在では本来の松果体細胞から発生したいわゆる松果体実質細胞性腫瘍 (pineocytoma, pineoblastoma)とgerminomaとは厳密に区別されており,“pinealoma”なる名称は使われなくなった.
2.発生部位
脳腫瘍全国集計(2003)によれば57%が松果体部 (松果体部腫瘍の約60%),次いで26%が鞍上部 (神経下垂体部)に発生する.その他,基底核部,第3脳室,第4脳室,視床下部,脳幹,大脳半球,小脳,小脳橋角部,透明中隔,脊髄などに生じる.
3.頻度,年齢,性別
原発性脳腫瘍の約2%,小児脳腫瘍の約9.5%である (脳腫瘍全国集計).germinomaは頭蓋内のgerm cell tumorの70%以上を占め,10~20歳代に多い.松果体部の場合男女比は10:1であるが,他の部位では性差はない.
4.症状
松果体部の場合は中脳水道閉塞による水頭症により頭蓋内圧亢進症状,四丘体圧迫によるParinaud徴候,Argyll Robertson瞳孔などをきたす.鞍上部発生の場合は,尿崩症,視力・視野障害,下垂体機能不全などを生ずる.
5.神経放射線学的所見
1) CT
境界明瞭な等~やや高吸収域を示し,ほぼ均一に造影される.石灰化を認めることもある.松果体部では充実性のものが多く,鞍上部では嚢胞を形成しやすい傾向にある.
2) MRI
T1強調像で低~等信号,T2強調像で高信号~混合信号を示すことが多い.造影効果は著明である.10%以上の症例で診断時に松果体部と鞍上部など多発性の腫瘍を認める.
6.病理所見
1) 肉眼所見
軟らかく,やや粘稠.灰白色調で部分的に出血を伴うことがある.被膜はない.
2) 組織所見
seminoma (精上皮腫)と類似した形態をとる.明るい大型の円形または多角形細胞と,暗いリンパ球様の小型円形細胞より構成され,いわゆるtwo cell patternを示す.大型細胞では核は細胞のほぼ中心に位置し,核小体が明瞭である.細胞体はglycogenに富みPAS強陽性である.組織の固定,包埋の過程でglycogenが抜けると細胞体は空胞状になる.小型細胞は反応性の浸潤リンパ球で,T-cellが70~80%で,cytotoxic/suppressor T-cellおよびhelper/inducer T-cellが混在する.一方,B-cellは20~30%であり,神経膠腫や他臓器の癌などに比べてその割合が高い.リンパ球浸潤は通常線維性の間質部分に多いが大型細胞の間隙にも観察される.少量の形質細胞を混ずることもある.核分裂像はまれならずみられるが,壊死はまれである.石灰化を認めることもある.
germinomaの亜型にgerminoma with syncytiotrophoblastic giant cells (STGC) があり,syncytiotrophoblast様のgiant cellが出現する.germinomaの15%程度と推測されている.giant cellはbeta-HCG,human placental lactogen (HPL)陽性である.また髄液中のHCGも陽性となる.choriocarcinomaとは異なり,cytotrophoblastic cellは出現しない.
免疫染色にて,大型細胞の細胞膜,または細胞質がplacental alkaline phosphatase (PLAP) 陽性となる.これはgerminomaが原胚細胞 (primordial germ cell)由来であるとする有力な証拠となっている.最近,c-kitやOCT4がgerminomaのマーカーとしてPLAPよりも鋭敏であると報告されている.HCG,AFP,CEAは通常陰性である.一部の症例ではEMAやcytokeratinが陽性である.
7.分子生物学的所見
Klinefelter症候群 (47XXY)との合併,Down症候群との合併,NF1 との合併などの報告がある.こうした症例では全身性にgerm cell tumorが生じることがある.特定の遺伝子の異常の報告として,pure germinoma にp14 (ARF)のhomozygous deletionやmutationが頻繁にみられるとするもの,一部のgerminomaにc-kitのmutationがみられたとするものがある.
8.治療
通常,生検術後に放射線照射,化学療法が行なわれる.放射線の感受性は極めて高い.閉塞性水頭症が顕著な場合には脳室体外ドレナージ (または脳室腹腔短絡術)や,最近では神経内視鏡的な第3脳室底開窓術が行われる.後者では同時に松果体部腫瘍の生検が可能である.画像でgerminomaが強く疑われた場合,まず少量の診断的放射線照射を行い,短期間に縮小した場合に追加照射を行なうこともある.化学療法としてはcisplatin (またはcarboplatin),VP-16 (etoposide),ifosfamideが汎用されている.
9.予後
germinomaは無治療で放置すると急速に増大して致死的であるが,放射線・化学療法により予後は良好なため,臨床的にはgrade II相当となる.pure germinoma の5年,10年,20年生存率はそれぞれ90~100%,80~90%,80%程度である.予後は生検でも全摘出でもほとんど変わらない.germinoma with STGCは5年以内に40~50%が再発するとされ,10年生存率は75%前後と,生命予後はpure germinomaより悪い.germinomaでもmalignant germ cell tumor (embryonal carcinoma,yolk sac tumor,choriocarcinoma) の成分を含む症例では3年生存が9.3%と極端に予後が悪い.髄膜播種の頻度は7~12%である.頭蓋外転移 (肺が多い)もまれに報告されている.また脳室腹腔短絡術後に腹腔内播種を生じる危険性がある.