上衣腫
1.基本事項
上衣腫(ependymoma)は脳室上衣細胞の特徴を持った腫瘍細胞で構成される腫瘍である.上衣細胞は,脳室面は繊毛(cilia)と微小絨毛(microvilli)をもち,それらの表面は平滑で気管支や消化管の上皮にみられる粘液状のcoating materialはない.上衣細胞の底面は主に星状膠細胞(astrocyte)の突起と接し,基底膜はない.血管壁に接する部分などには基底膜を認める.細胞内にはglial filamentやglycogen顆粒があり,GFAPに染まることがある.上衣腫は一般に脳室上衣あるいはその遺残組織より生じると考えられている.上衣腫の悪性度はWHO分類のGrade IIに相当する.anaplastic(malignant)ependymomaはgrade IIIである.
2.発生部位
脳室系のどの部位にも発生するが,第4脳室が最も多く(約30%),次いで側脳室(約20%),脊髄に好発する.成人ではテント下と脊髄にはほぼ同頻度に発生するが,小児では脊髄発生は少ない.必ずしも脳室に接しているとは限らず脳実質内に生じることもある.頭蓋内の上衣腫は小児期に多い.
3.発生頻度,年齢,性別
脳腫瘍全国集計では,原発性脳腫瘍の1.2%(ependymoma:0.8%, anaplastic ependymoma:0.3%)である.欧米では3~9%と報告されており,日本人よりも頻度が高い.80%以上は40歳以下で発症し,0~16歳(平均6歳)にピークがあり、次のピークは30-40歳である.小児脳腫瘍(15歳未満)の約7%を占め,星細胞腫,髄芽腫,頭蓋咽頭腫,胚細胞腫,に次いで第5位である.性差はない.
4.臨床症状
テント上の上衣腫では頭蓋内圧亢進症状および発生部位に一致した局所症状を呈する.テント下では第4脳室や中脳水道を圧排閉塞して水頭症を来し,急激な頭蓋内圧亢進症状を示すことがある.脊髄の上衣腫では病変の脊髄レベルに対応した運動麻痺や知覚障害を生じる.
5.神経放射線学所見
上衣腫は脳室および脳室周囲に好発する腫瘍で,テント上発生ではしばしば嚢胞を伴う.テント下の発生で石灰化があれば,髄芽腫と鑑別できる.
1)CT
単純CTで実質部分はやや高吸収域,嚢胞は低吸収域,出血,石灰化があれば高吸収域を示す.造影CTで実質部分や嚢胞壁は均一あるいは不均一に増強されることが多い.
2)MRI
一般にT1強調像で低~等信号域,T2強調像で高信号域を示すが,嚢胞,壊死,出血,石灰化などの病変を反映して不均一な信号強度を呈することも多い.造影剤で実質部分や嚢胞壁は境界明瞭に増強される.
6.病理所見
1)肉眼所見
テント上の上衣腫は脳室内方向だけでなく,脳実質側に向かっても増大し,比較的境界明瞭な腫瘍として認められる.テント下の上衣腫は一般に第4脳室内に存在し,脳室壁より生じ脳室全体を充填するように発育する.さらに増大するとlateral recessに進展し,Luschka孔より小脳橋角部に向かってクモ膜下腔に及ぶ.腫瘍がlateral medullary velumの後方から脳室外に進展することもある.腫瘍の表面は脳室側ではやや凹凸があり,桃黄~赤色で弾性硬あるいは桃灰色で軟らかい.脳実質内にあっても比較的境界鮮明で,嚢胞や石灰化を伴うことも多い.脊髄の上衣腫では境界は一見明瞭であるが,正常組織と癒着していることがある.腫瘍は灰色~灰白色で比較的軟らかく,時に出血性である.腫瘍内に嚢胞があり,近傍にはsyrinxを認めることが多い.頭蓋内発生例とは異なり石灰化は少ない.
2)組織所見
上衣腫には診断の決め手となるいくつかの組織学的特徴がある.
- (1)血管周囲偽ロゼット(perivascular pseudorosette)
- 血管周囲に幅の広い無核帯があり,その周りに花輪状に多数の腫瘍細胞が集簇している.血管周囲の無核帯はGFAP,vimentinともに陽性である.
- (2)真性ロゼットtrue rosette(ependymal rosette)
- 細胞が管腔を形成し,管腔の内面は線毛や微絨毛がみられる.その外側の細胞内に点状の構造物が多数見られ(PTHA染色で濃染される),blephaloplastと呼ばれるもので,電顕的には線毛の基底小体(basal body)に相当する.一層の腫瘍細胞で囲まれた核と内腔の間はGFAP,vimentinともに陰性でperivascular pseudorosetteとは異なる.
- (3)ependymal canal
- 正常の脳室上衣に似た,一層の繊毛上皮細胞で形成された管腔構造である.GFAP,vimentinともに陽性であるが上皮系細胞のマーカーであるcytokeratinには陰性であり,神経外胚葉由来であることが示唆される.
- (4)乳頭状配列(papillary pattern)
- 細胞が乳頭状に配列する.その中心は血管やグリア線維である.脈絡叢乳頭腫ほど血管周囲の結合組織は発達していない.
- (5)その他
- ependymomaには線維成分の多い部分もあり,部分的にはastrocytoma(fibrillary, pilocytic)と区別がつかないことがある.また骨,軟骨組織を形成,膠原線維,メラニンを産生する上衣腫も報告されている.
免疫染色では,腫瘍細胞はGFAP,S-100,vimentin陽性で,血管周囲偽ロゼットなどの線維もGFAPに陽性である.腫瘍細胞の中にリング状にEMA,cytokeratinに染まることがあるが,脈絡叢乳頭腫のように細胞体が一様に染まることはない.これは電顕的にintracytoplasmic luminaに相当すると考えられ,ependymomaに特徴的な所見である.EMAやcytokeratinに陽性の場合はastrocytomaと鑑別できる.
電顕では,数個の腫瘍細胞が腔を囲んでrosetteを形成し,その腔に接する細胞表面には微絨毛(microvilli)や線毛(cilia)の集簇が認められ,microrosetteと呼ばれる特徴的な所見を認める.
ependymomaの悪性度の指標としては細胞密度,核分裂像,血管増生が重要である.ependymomaでは細胞の異型性や壊死がよく認められ,これらは必ずしも悪性度の指標にはならない.GFAPの発現は悪性化に伴い低下する傾向にある。
7.分子生物学的所見
染色体の異常としては第17,22番染色体の異常が多く認められ,大部分がmonosomyで22qや17pのdeletionやtranslocationである.他にも6q, 9p, 13q, 19qなどに異常が指摘されている. Clear cell ependymomaでは,他のependymomaに比べて第9番染色体の欠失が多いという報告がある.EGFRの増幅が再発や悪性化に関与しているとの報告がある.
8.治療,予後
可及的に腫瘍を摘出する.全摘出されなかった場合には放射線療法(40~60Gy)を行うのが望ましい.悪性像を示す場合には化学療法等を追加する. 5年生存率は良性では73.7%,悪性では23.7%である(全国集計).