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びまん性星細胞腫

1.基本事項

星細胞 (astrocyte)より発生し,比較的高い分化度 (well-differentiated)を示す.1997年のWHO分類では“low-grade diffuse astrocytoma”,2000年版からは“diffuse astrocytoma”という用語が使用され,2007年版でも踏襲されている.組織学的にfibrillary astrocytoma (原線維性星細胞腫),gemistocytic astrocytoma (肥胖細胞性星細胞腫),protoplasmic astrocytoma (原形質性星細胞腫)の3つの亜型に大別される.fibrillary astrocytomaが最も高頻度ではあるが,これらは多かれ少なかれ混在し,純粋な型はむしろ少ない.なお,正常の大脳においては,protoplasmic astrocyteは灰白質に,fibrillary astrocyteは白質に多く存在している.gemistocytic astrocyteは脳組織の損傷後一定期間を経て出現する場合が多く,正常脳には通常存在しない.

2.発生部位

大脳半球に多い (前頭葉,側頭葉,頭頂葉の順に多い).

1) fibrillary astrocytoma

成人大脳半球 (主に白質),小児の脳幹部に好発する.小脳発生は成人 (若年~中年)に多い.

2) gemistocytic astrocytoma

大脳半球にのみ発生する.純粋型はまれである.

3) protoplasmic astrocytoma

ほとんどは大脳半球 (主に灰白質)に生じるが,極めてまれに脊髄にも生ずる.若年成人に多い.

3.頻度,年齢,性別

脳腫瘍全国集計 (2003)によれば,原発性脳腫瘍の約7.5%,全神経膠腫の28%を占める (grade Iの毛様細胞性星細胞腫等も含む).欧米の統計ではastrocytic tumorの10~15%である.30~40歳代に好発し,やや男性に多い.小児原発性脳腫瘍の約19%である.

4.症状

てんかんが最も多い.しかし,病歴を詳細に聴取すると,軽度の言語障害や四肢の麻痺が先行している場合も多い.前頭葉発生では性格異常,行動異常が生じることがある.びまん性に脳に浸潤し,頭蓋内圧亢進症状が現れる前に局所症状を示すことが多い.

5.神経放射線学的所見

境界がやや不鮮明な局所的腫瘤を形成し,浮腫は比較的少ない.脳梁を介して対側の脳へ浸潤することもある.

1) CT

腫瘍は低吸収域を示し,造影効果はないことが多い.石灰化は約20%の症例に認める.

2) MRI

腫瘍はT1強調像で低信号域,T2強調像で高信号域を示すことが多い.軽度の造影効果を認めることもあるが,多くは造影されない.造影効果を認める場合はanaplastic astrocytomaも念頭におくべきである.画像所見のみで組織型を判定することは困難である.

6.病理所見

1)fibrillary astrocytoma

最も多い組織型である.glial fiberに富み,比較的硬い.割面は白色調で特に白質との境界は不鮮明である.中心部に嚢胞を認めることがある.腫瘍細胞密度は低~中等度であり,星芒状や毛様の多彩な形態を示して不規則または比較的均一に配列する.microcystもしばしば認める所見である.核の大小不同が目立つ場合も多いが核分裂像は非常に少なく,壊死巣は認めない.血管内皮細胞の肥厚は無いか,あっても軽度で,microvascular proliferationは認めない.腫瘍周辺の脳では神経細胞の周囲に円形細胞が集簇するperineuronal satellitosisがしばしばみられる.免疫染色では腫瘍細胞はGFAP強陽性である.S-100やvimentinにも陽性であるが診断的価値は低い.

2)gemistocytic astrocytoma

灰色調で軟らかい.嚢胞を認めることがある.光顕的にはgemistocytic astrocyteが主体をなすものであるが,純粋にgemistocyteだけから構成されることはなく,小型の腫瘍細胞が混在している.gemistocyteは通常GFAP強陽性である.

3)protoplasmic astrocytoma

diffuse astrocytomaの5%程度で,純粋型は少ない (fibrillary astrocytomaの中の一部分像としてはしばしばみられる).灰白色調で軟らかく,ゼラチン様で境界不鮮明である.光顕的にはmucoid変性や多数のmicrocyst形成が特徴的で,蜂巣状を呈する.核は円形・楕円形で,細胞質は小さく,突起は短く分枝も少ない.細胞密度は疎である.こうした所見は特に脳表に近い部分に多い.glial fiberが少なく,GFAPは陰性~弱陽性である.小児に発生した場合はpilocytic astrocytomaとの鑑別が難しい場合がある.

7.分子生物学的所見

p53のmutationの頻度は約60%であり,anaplastic astrocytomaやsecondary glioblastomaとほぼ同じである.mutationのある症例では悪性転化までの期間が短い,mutationのあるgemistocytic astrocytomaは特に悪性転化しやすい,codon 175にmutationのある症例では悪性転化しやすく予後が悪い,などの報告がある.glioblastomaに高率にみられるp16遺伝子の欠失,EGFR遺伝子の増幅,第10染色体のLOHはdiffuse astrocytomaではほとんどみられない.

8.治療,予後

まず可及的な摘出術が行われる.摘出率が75%以上では摘出率が高いほど生存率も高い(脳腫瘍全国集計).diffuse astrocytomaはlow gradeとされるが浸潤性の性格をもつ腫瘍であり,全摘出したと思われる場合でも恒久的な治癒を得ることは困難である.肉眼的全摘出の症例では後療法を行わずに経過観察することもある.術後に50~60 Gyの放射線照射,化学療法を行っても,平均生存は10年未満 (6~8年)である.脳腫瘍全国集計によれば,片側大脳半球のastrocytoma (乏突起膠腫,上衣腫も含む)の2年,5年生存率は,それぞれ約80%,65%である.再発や悪性転化が頻繁のため,anaplastic astrocytomaやglioblastomaに準じて治療を行われることも多い.diffuse astrocytoma の3亜型のうち,gemistocytic astrocytomaは再発傾向が強く,予後も他の組織型に比較して悪いとされる.予後良好因子として若年,手術での摘出率が高い,治療前の神経症状が軽い,などが挙げられる.腫瘍のサイズは大きいほど予後が悪い.Ki-67の陽性率は通常4%以下であり,5%を境に生存率が低下するとするもの,7.5%以上の場合は組織学的にgrade IIであっても予後が悪いとするものなどがある.VEGFの発現が高いものほど有意に予後が悪いとする報告もある.