急性前骨髄球性白血病
1. 疾患概念
急性前骨髄球性白血病 (APL)は急性骨髄性白血病 (AML)の1種で、FAB分類ではM3、WHO分類ではAPL [t(15;17)(q22;q12)あるいはPML/RARαを有するAMLとその亜型]に分類される。白血病細胞のP糖蛋白発現量が低いため、anthracycline系抗腫瘍剤に高い感受性を示すが、白血病細胞の崩壊によるDICは重篤で致死的出血の合併のため早期死亡の危険性が高い疾患であった。しかしビタミンAのひとつである全トランス型レチノイン酸 (all-trans retinoic acid: ATRA)による分化誘導療法によりDIC増悪のリスクが軽減され、極めて高い寛解導入率が得られるようになった (1-3)。その後、t(15;17)(q22;q12)の結果PML/RARα融合遺伝子が形成され顆粒球系細胞の分化抑制が起こることがAPL発症機序であること、治療量のATRAはこの分化抑制を解除できることが基礎的研究から明らかになった。寛解後療法としてanthracycline系抗腫瘍剤による地固め療法、ATRAによる維持療法を行うことで再発のリスクも軽減できる。従ってAPLは成人AMLの中で最も治癒可能な疾患である。また、意見が分かれていたAra-Cの位置づけが明らかにされた (4)。白血球数などを参考に治療の層別化を行うことにより今後さらなる治療成績の向上が期待できる可能性がある。
2. 発症頻度
白血病全体の罹患率は人口10万人あたり男性 5.9人、女性 3.8人と報告されている。そのうち約40%がAMLで、さらにそのうち5-10%がAPLである。
3. 症状
最も重要な症状は出血であり、時に致命的となる。また、貧血もほぼ必発であり、正常顆粒球の減少による感染症を起こしやすい。
4. 主な検査所見
典型例では白血球数は減少していることが多いが、variant型では増加を示す。貧血はほぼ必発で大部分が正球性である。血小板減少は高度で、産生低下およびDICによる。DICは線溶優位で、PT, APTT延長、FDP高値、フィブリノーゲン低下、α2プラスミンインヒビター低下を示すが、AT-Ⅲは正常のことが多い。診断確定には骨髄検査が不可欠である。骨髄は白血病細胞が大部分を占め、そのため正常な造血は著しく抑制される。APLの白血病細胞は非常に特徴的で、アズール顆粒が充満し、アウエル小体が束状に存在する。ペルオキシダーゼは強く染まる。細胞表面マーカーはCD13, CD33が陽性、CD34, HLA-DR陰性である。染色体および遺伝子検査では90%以上にt(15;17)(q22;q12)が、約98%にPML/RARα融合遺伝子が証明される。

図1. APLの骨髄所見 (メイ・ギムザ染色)
5. 治療
1) 寛解導入療法
診断が確定したら、直ちにATRA 45 mg/m2/日の内服治療を開始する。ATRAは寛解到達日まで継続する。ATRA単独療法はATRA + anthracyclineを中心とした化学療法の併用療法に比べ、寛解率には差は無いが、再発のリスクが有意に高いとされる (5)。また、レチノイン酸症候群 (ATRA投与中に白血球数が増加するとともに発熱、呼吸不全、浮腫などを合併する。改善にはATRA中止とステロイドが有効)の発症リスクが高い。従って、可能な限りanthracyclineを中心とした化学療法を併するのが望ましい。併用するanthracyclineの種類、量に関するエビデンスは少ないが、通常idarubicin 12 mg/m2/日を2-3日間投与する。Ara-Cの有用性についてはAra-Cを用いないスペインのPETHEMAグループの成績とAra-Cを用いるフランス・ベルギー・スイス (FBS)グループの後方視的な比較より白血球数が1万以下の症例では十分なanthracyclineが投与されればAra-C併用の意義はなく、1万を超える症例の場合、寛解導入中の死亡 (死因は出血、ATRA症候群、感染など)がAra-Cを併用すると少なく寛解率が高いことが明らかにされた (4)。併用するara-Cの量は100-200 mg/m2/日を5-7日程度が適切と考えられる。
2) 寛解導入療法中の対症療法
DICのコントロールが重要である。血小板および新鮮凍結血漿の輸血、抗線溶作用を有する薬剤の投与を行う。Febrile neutropeniaに対しては抗生剤、抗真菌剤の投与を行う。
3) 地固め療法
idarubicin, daunorubicinなどのanthracycline系抗腫瘍剤や同様の作用機序を有するmitoxantroneの3-5日間点滴を約1ヶ月おきに2-4回繰り返す。anthracycline系薬剤でもaclarubicinの有用性は低いとされ、通常投与しない。vinca alkaloidやetoposideも同様で通常APLの治療には用いない。Ara-CについてはPETHEMAグループとFBSグループの後方視的な比較より、寛解導入療法と同様白血球数が1万以下の症例では十分なanthracyclineが投与されればAra-C併用の意義はなく、むしろ再発を高める可能性もある。逆に1万以上の症例ではAra-C併用、特に高容量Ara-C療法の施行が有用と考えられる (4)。
4) 維持療法
ATRAを中心とした維持療法は再発予防に有用である (3, 5)。通常、ATRA 45 mg/m2/日14日間の内服治療を地固め療法終了後約3ヶ月間隔で2年間繰り返す。6-mercaptopurineやmethotrexateの併用はさらに効果を高める可能性がある。
5) 再発・難治例に対する治療
亜ヒ酸(砒素)が第一選択薬である (6)。少数例での検討ではあるが、gemtuzumab ozogamicinも有望と考えられる (7)。
6) 造血幹細胞移植
APLは化学療法が有効であるため、通常第1寛解期には同種造血幹細胞移植は行わない。第2寛解期においては自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法が有効である (8)。
6. 治療成績
上記のような治療法で90%を越える完全寛解率とおおむね70%を越える無再発長期生存が期待できる。日本成人白血病治療共同研究グループ(Japan Adult Leukemia Study Group; JALSG)では1987年以後、現在までに6つの治療プロトコール (AML87, 89, 92, 95, APL97, APL APL204)が行われてきた。ATRAはAML92以後使用されている。APL97までの治療成績は既に公表されている。詳細は参考文献 (2, 9)およびJALSGホームページ (http://www.jalsg.jp/)を参照頂きたい。
参考文献
- 1. Huang ME et al: Blood 1988; 72: 567-562.
- 2. Kanamaru A et al: Blood 1995; 85: 1202-1206.
- 3. Tallman MS et al: N Engl J Med 1997; 337: 1021-1028.
- 4. Ades L et al: Blood 2008; 111: 1078-1084.
- 5. Fenaux P et al: Blood 1999; 94: 1192-1200.
- 6. Shen ZX et al: Blood 1997; 89: 3354-3360.
- 7. Aribi A et al: Cancer 2007; 109: 1355-1359.
- 8. de Botton S et al: J Clin Oncol 2005; 23: 120-126.
- 9. Asou N et al; Blood 2007; 110: 59-66.