急性リンパ性白血病
1.急性リンパ性白血病とは
1)急性リンパ性白血病
白血病は造血細胞の腫瘍化であり、またリンパ系悪性腫瘍のうち主として腫瘍細胞の増殖の場が骨髄を中心とするときが白血病であり、それ以外のリンパ節、脾臓などであるときリンパ腫とみなされる。
2)疫学
急性リンパ性白血病の発症率はヨーロッパ、北アメリカで多く、アジア、アフリカでやや少ないとされる。わが国では白血病全体としての死亡率が年間人口10万人あたり4-5人で、小児と60歳以降の高齢者に多く見られる。
3)急性リンパ性白血病の原因と予防
急性リンパ性白血病の発症にかかわる原因として、被ばく者での発症率が高いこと、電離放射線やベンゼンの暴露が関連することが報告されている。また化学療法や放射線療法後に発症することがまれにある。しかしほとんどの場合、明らかな原因は不明である。
2.症状
急性リンパ性白血病発症時の症状は様々であるが、無症状であることはほとんどなく、多くの場合診断がつくまでに症状が数週間持続している。症状の大半は造血不全によるものか白血病細胞の増殖に伴うものである。前者は、正常白血球減少による感染症の発熱や、貧血症状(全身倦怠、動悸・労作時息切れ、浮腫などの心不全症状)、血小板減少による出血症状(鼻出血、歯肉出血、皮膚点状出血、月経過多、まれに脳出血や消化管出血)である。後者として、白血病の進展に伴いリンパ節腫大、肝脾腫がみられる。さらに、白血病細胞の増加とともに毛細血管への閉塞が生じ、循環障害に基づく急性呼吸不全などが生じる、また腫瘍細胞の崩壊とともに逸脱物質による播種性血管内凝固症候群、急性尿細管閉塞による急性腎不全が生じる。
3.診断
来院時の患者の状態を把握し、診断し、予後を推定して、治療方針と治療プロトコールを決定する。
1)採血検査
多くの場合末梢血には白血病細胞が出現し白血球数は増加しているが、まれに芽球が出現せず軽度の貧血と血小板減少のみが見られることがある。末梢血から白血病細胞が得られれば、塗沫標本の作成、白血病細胞の表面マーカー、FISH法やPCR法による特定の染色体異常の有無について検索が可能である。同時に、血液型の確認と輸血の必要性、播種性血管内凝固症候群の発症の有無、尿酸値など腫瘍融解症候群の有無、さらに肝腎機能を調べる。発熱があれば、腫瘍熱だけでなく感染症も疑い、血液培養検査、真菌、ウイルス、結核を含む微生物関連の各種検査を行う。
2)画像検査
リンパ節腫大、肝脾腫、またT細胞性では縦隔腫瘤について、必要に応じてエコー、CT等で評価する。
3)骨髄穿刺
腫瘍細胞の増殖の場である骨髄の検索は必須である。成人の場合骨髄穿刺施行部位は腸骨を第一選択とする。有核細胞数の計算、メイーギムザ染色、ペルオキシダーゼ染色、エステラーゼ二重染色を含む各塗沫標本を作成する。さらに白血病細胞をCD45ゲーティングによる表面マーカー解析、またFISH法、PCR法による特定の染色体異常の検索、さらに染色体分析Gバンド法、について提出する。
4)その他
必要に応じて、腰椎穿刺を施行し白血病細胞の中枢神経浸潤を評価する。また心電図、心エコー、胸部レントゲンなどで心肺機能を評価する。
5)診断
従来FAB分類では骨髄での白血病芽球30%以上で診断する。芽球がPeroxydase染色陰性(陽性率3%未満)であればほとんどの場合急性リンパ性白血病であるが、急性骨髄性白血病M0, M5a, M7などでは陰性のことがある。形質細胞性白血病や固形腫瘍の骨髄浸潤でも陰性である。またリンパ性、骨髄性の両方の形質を有する急性混合性白血病などもまれにあるため、芽球の表面マーカーの結果を参考にする。前駆B細胞性ではCD79a, CD19, TdT (terminal deoxynucleotydil transferase), HLA-DRが陽性である。そのほかCD22, CD10などが陽性となる。前駆T細胞性ではcyCD3, CD2, CD7, TdTが陽性である。そのほかCD4, CD8, CD5が陽性になることがある。また骨髄系表面形質(MPO, CD117, CD13, CD33)は基本的に陰性であるが、CD13, CD33などが陽性となることがある。このような場合は混合性白血病の鑑別のため必要に応じて表面マーカーをさらに検索し表1の基準を用いて診断を確定する(文献1)。さらに慢性骨髄性白血病のリンパ芽球性急性転化を鑑別する。急性リンパ性白血病のうちB細胞性が約7割を占める。
4.分類
従来のFAB分類では小児に多いL1、成人に多いL2、バーキットタイプL3に分かれる。一方WHO分類では悪性リンパ腫を中心とするリンパ系腫瘍の中に含まれ、L1、L2はB、T前駆細胞腫瘍に内包される。FAB分類は従来の形態診断に基づいた分類であるが、直接治療方針につながらないことが多い(表2)。一方、WHO分類は腫瘍細胞の起源に基づき、また遺伝子異常を組み合わせて、分類がなされ、治療反応性や予後、治療方針の決定に結びつけることを目指している(表3)。現時点ではFAB分類とWHO分類を併用するのが妥当と思われる。
5.治療
通常、診断がつきしだい速やかに治療を開始する。寛解導入療法、引き続き地固め療法、さらに治療を継続する維持療法に分かれる。予後因子に基づき状況に応じて骨髄移植療法を施行する。我が国、また欧米を含む各国でさまざまなプロトコールが施行されている。治療成績はいずれもほぼ同等であるものの未だ十分ではなく、標準治療といえるプロトコールは確立されていない。
1)寛解導入療法
白血病細胞寛解導入療法の目的は、診断時体内に約1012(1 Kg)存在する白血病細胞を十分減じ(109-10)、骨髄での正常造血を回復させることにある。治療後、骨髄で白血病細胞が5%未満、正常骨髄が回復、末梢血中の白血病細胞が消失、正常好中球と血小板が回復する状態を完全寛解といい、この状態を目指す。急性リンパ性白血病に用いられる最も重要な抗がん薬は副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、PSL)、ビンクリスチン(VCR)で、これにダウノルビシン(DNR)、アスパラギナーゼ(L-ASP)、シクロフォスファミド(CPA)を追加する。
2)地固め療法
寛解導入後にも未だ残存する白血病細胞をさらに減らし、再発を防ぎ治癒を目指す。初回寛解導入療法に用いた抗がん薬とは異なる薬剤を中心に治療を継続する。すなわち、上述の抗がん薬の他、メトトレキサート(MTX)、シタラビン(ara-C)などを使用する。
3)維持療法
上述の寛解導入療法と地固め療法が終了した時点で完全寛解が持続していればその後1-2年のあいだ維持治療を行う。この維持療法がなされないと再発率が上昇し生存期間の延長は望めない。通常、メルカプトプリン(6-MP)、MTXを用いる。
4)中枢神経の予防
急性リンパ性白血病細胞は中枢神経に浸潤しやすい。中枢神経系へは抗がん薬が到達しにくいため、薬剤を移行させるため上述のMTX , ara-Cの大量投与や腰椎穿刺による抗がん薬(PSL, MTX, ara-Cなど)の脊髄腔内投与を施行する。また初診時中枢神経病変が明らかな場合は放射線照射を追加する。
5)フィラデルフィア(Ph)染色体陽性急性リンパ性白血病
Ph染色体は慢性骨髄性白血病の疾患責任遺伝子異常であるが、成人急性リンパ性白血病の約3割に見出され、年齢とともに陽性率は上昇する。予後不良因子の最たるものであり、従来の化学療法では初回完全寛解率約6割、長期生存約1割とされる。積極的に骨髄移植療法が考慮される亜型であり、第一寛解期での移植による長期生存は報告により異なるが3-6割である。後述のように、わが国ではイマチニブ併用化学療法により寛解率の向上、生存の延長が認められている(文献2)。
6)思春期・若年成人の急性リンパ性白血病
思春期・若年成人(15歳から25歳)の患者は小児科を受診する場合と内科を受診する場合があるが、小児科医による治療成績は内科医による治療成績よりも良好であることがいくつか報告されている。その理由はいまだ明らかではないが、従来の成人用プロトコールではなく、小児用プロトコールを用いることで予後が改善される可能性がある。
7)骨髄移植療法
化学療法のみでは治療効果が不十分な予後不良亜型の第一寛解期に同胞HLA一致ドナーがいれば移植を積極的に行う。
8)日本成人白血病治療共同研究グループ(JALSG)の試み
JALSGは1987年に設立された多施設による白血病臨床研究グループでより良い診断・治療法を開発し、白血病の治癒率ならびに治療の質を向上させることを目指している。 2006年5月現在、国内173施設が参加しており、多くの医師、研究者、医療従事者らが参加・協力している。
JALSGによる急性リンパ性白血病に対する取り組みは1987年から始まった。ALL87プロコトールでは寛解導入療法(DOX, VCR, PSL, CPA, L-ASP)に、DOX (第15日), CPA (第15, 22日)の追加投与による治療反応性に基づく個別化療法と地固め3コース+維持・強化療法2年間を行った。121例(年齢中央値38歳)が登録され、完全寛解率は83.6%、6年の全生存率と無事故生存率はそれぞれ23.4%と20.0%であった。比較試験として、第8日目に髄注の有無を比較したがその差はなかった。
ALL90プロコトールでは寛解導入療法にミトザントロン(MIT)を追加、L-ASP減量し、中等量MTXを用いて地固め4コース+維持・強化療法1年間を行った。183例(年齢中央値43歳)が登録され、完全寛解率は69.4%、6年の全生存率、無事故生存率、無病生存率はそれぞれ15%、10%、14%であった。登録症例の年齢が高いためか成績はALL87プロコトールより不良であった。
ALL93プロコトールでは寛解導入療法強化のためにDOXの回数を増加し、CPA、L-ASPを後半に移したセット療法と地固め3コース+維持・強化療法13ヶ月を施行した。比較試験として維持・強化療法の連続法と間欠法を比較したが差はなかった。また、40歳未満の寛解症例を同種骨髄移植療法と化学療法に振り分け比較した。285例(年齢中央値31歳)が登録され、完全寛解率は78%で、6年の全生存率と無病生存率はそれぞれ33%と23%であった。移植群と化学療法群では全体として差はなかったが、Ph染色体陽性例で移植成績が勝っていた。
ALL97プロコトールでは寛解導入療法にDNRを使用し、地固め療法を強化し増量CHOPと中等量MTX、さらに維持・強化療法13ヶ月を行った。成績は未発表である。ALL202プロコトールではDNR増量による寛解導入療法の強化、ならびに地固め療法の強化のため高容量ara-Cと高容量MTXを組み入れ5コース、さらに維持・強化療法13ヶ月を行う治療で現在進行中である。
Ph染色体陽性急性リンパ性白血病に対してはイマチニブ併用化学療法がPh ALL202プロコトールとして行われた。80例が登録され、完全寛解率は96.2%で、PCR法によるBCR-ABL キメラmRNA定量では71.3%が陰性化した。1年の全生存率および無事故生存率はそれぞれ76.1%と60.0%であった。(JALSGホームページ、http://www.jalsg.jp/)
6.生存率・予後
初回寛解導入療法により70-80%が完全寛解に到達し、20-40%が長期生存する。しかし、多くの臨床研究から、年齢、初診時白血球数、特定の染色体異常、治療反応性が予後に深くかかわることが示されている(表4)(文献3)。またわが国ではJALSGにおける臨床研究の結果から同様に予後分類が提唱されている(表5)(文献4)。
7.文献
- 1)Matutes E et al. Ddefinition of acute biphenotypic leukemia. Haematolo-gica. 82:64-66, 1997.
- 2)Yanada et al. High complete remission rate and promising outcome by combination of imatinib and chemotherapy for newly diagnosed BCR-ABL-positive acute lymphoblastic leukemia: a phase II study by the Japan Adult Leukemia Study Group. J Clin Oncol. 24:460-466, 2006
- 3)Cao TM, et al. Acute lymphoblastic leukemia. Wintrobe’s Clinical Hema-tology (eds.Greer JP, et al.), pp2077-2096, 2004. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia
- 4)Takeuchi J, et al. Induction therapy by frequent administration of dox-orubicin with four other drugs, followed by intensive consolidation and maintenance therapy for adult acute lymphoblastic leukemia: the JALSG study. Leukemia. 161259-1266, 2002